実は市域の約68%が森林

豊田市の68%、62.621ヘクタールを森林が占めている(豊田市市勢ガイド2015より)豊田市の68%、62.621ヘクタールを森林が占めている(豊田市市勢ガイド2015より)

愛知県豊田市といえば、多くの方が“クルマのまち”というイメージを抱いていると思う。実際に全産業に占める自動車産業の割合は高く、豊田市のホームページ上でも

「工場数(従業者4人未満を含む)は市内に1,241あり、そのうち自動車関連工場は416で全体の33.5%。そこで働く従業者数は、86,343人です。これは、市内の工場で働く101,943人に対して84.6%にも達しています。(平成22年工業統計調査)」

と紹介されている。ところが、実は豊田市は“クルマのまち”であると同時に“森のまち”でもあるのだ。豊田市が森のまちになったのは平成17年4月以降のこと。いわゆる平成の大合併によって中山間地域(※)が編入したことで、市域の約68%を森林が占めるまちになった。ちなみに、豊田市は愛知県全体の面積の17%(918.47平方キロメートル)を占める、県内一の広さを誇るまちでもある。

そんな豊田市では、中山間地域を含むまち全体の活性化を図るため、2013年度から「豊田市共働によるまちづくりパートナーシップ協定」という制度を設けてまちづくりの取り組みを行っている。この協定には2つの大きな特徴がある。1つは、市とパートナーシップを結ぶ相手が企業であること、そしてもう1つは、協定を結んだ企業との連携が包括的であることだ。

まちづくりパートナーシップ協定についてさらに詳しく話を伺うため、豊田市役所を訪問した。

(※)中山間地域…農林統計の地域区分の1つで、都市や平地以外の中間農業地域と山間農業地域の総称。中間農業地域は林野率50%~80%、傾斜の耕地が多い市町村。山間農業地域は林野率80%以上、耕地率10%未満の市町村。

豊田市と企業が連携して多様な分野の事業を実施

まず始めに、豊田市共働によるまちづくりパートナーシップ協定の定義だが、資料には次のように記されている。

「一定の条件の元で、個別具体の事業実施ではなく、多様な分野・事業を包括する連携の枠組みについて取り決め、対等な関係性に立ち、双方の自由な発想の中で様々な取組を実施することができる」

一読しただけではわかりづらいので、この定義を前・後半にわけて具体的な内容を伺った。対応してくださったのは、豊田市社会部共働推進室 地域支援課の梅村美紀子さんと安藤真さん。おふたりが所属する地域支援課は、パートナーシップ協定の総合窓口でもある。

さて、定義前半の“一定の条件の元で、個別具体の事業実施ではなく、多様な分野・事業を包括する連携の枠組みについて取り決め”というのは、どういう意味なのだろうか。

「これはパートナーシップ協定が“包括協定”という意味です。1つの分野だけで企業と市が連携するのではなく、さまざまな分野にわたって連携するということですね。たとえば、豊田市では自動車学校の送迎用バスを高齢の方や障害のある方に無料で利用していただける制度があるのですが、この場合は自動車学校と市民福祉部が、福祉という“1つの分野”で協定を結んで取り組みを行っているので、パートナーシップ協定の対象にはなりません。これに対し、もし自動車学校が福祉以外の産業や環境などの事業でも市と連携したいという場合には、分野が多岐にわたるためパートナーシップ協定を結ぶ対象となります」

地域支援課が入っている豊田市役所南庁舎。</br>駐車場には太陽光発電システムを利用したプラグインハイブリッド車・電気自動車の充電施設が設置されている。</br>さすがクルマのまち!地域支援課が入っている豊田市役所南庁舎。
駐車場には太陽光発電システムを利用したプラグインハイブリッド車・電気自動車の充電施設が設置されている。
さすがクルマのまち!

企業が提案、豊田市が提案、どちらもOK

では、“対等な関係性に立ち、双方の自由な発想の中で様々な取組を実施することができる”というのは?

「企業と市が常に対等な立場にあるということです。協定を結ぶときはもちろん、実際に事業を行うときも立場は対等ですから、企業からも市からも自由に提案ができます。一番始めにこの協定を結んだ企業はポッカ(※)ですが、協定締結後の具体的な事業提案についてはポッカからよりも、市の各担当課のほうから『ポッカと一緒にこういう事業をやりたい』という提案が上がってくることが多いですね。アイデアは企業が出し、具体的な事業計画は市が提案するということもあります」

協定を結んだ企業と、市の担当課が、それぞれ自由に事業提案をするため、双方から寄せられる情報を集約したり発信したりする総合窓口が必要になる。その役割を担っているのが地域支援課というわけだ。

豊田市共働によるまちづくりパートナーシップ協定の全貌について、だいたいご理解いただけただろうか。

ところで、最初に協定を結んだ企業がポッカということだが、どんな経緯で、この制度を設けるに至ったのだろう。

(※)ポッカ…ポッカサッポロフード&ビバレッジ(株)及びサッポロホールディングス(株)

共働によるまちづくりパートナーシップ協定を縁の下で支える地域支援課の皆さん共働によるまちづくりパートナーシップ協定を縁の下で支える地域支援課の皆さん

市民ニーズの多様化に伴って生まれた制度

「豊田市では行政が中心となって公共サービスを提供していましたが、市民ニーズの多様化と増大によって、質的にも量的にも新たな公共サービスが必要とされるようになってきました。そんなとき、市内に工場のあるポッカからパートナーシップ協定のご提案をいただいたんです。ポッカは会社を挙げて地域の行政と連携して地域貢献活動を行っている実績があるので、行政にはない民間のノウハウを生かしたまちづくりの共働活動ができるのではないかという可能性に期待して、このご提案をベースにパートナーシップ協定の制度を設けました」

2013年度に豊田市共働によるまちづくりパートナーシップ協定の制度がスタートし、同年5月にポッカが第1号の協定締結企業となった。協定の有効期間は2年間で、自動更新される。

ポッカと豊田市の連携事業の実績は、2013年度は健康講座(健康政策課)、6次産業化勉強会(農政課)など10事業、2014年度は新・豊田市誕生10周年記念事業(企画課)、国際会議での協賛(環境モデル)など13事業にのぼり、市民のまちづくり参加意識向上や、まちの活性化に貢献している。

ちなみに、事業にかかる費用は市の予算のみで賄われるのではなく、事業ごとに市と企業の費用分担が決まるという。たとえば、2014年度に実施された「児童虐待防止キャンペーン」のイベントでは、来場者のメッセージ入りのオレンジリボンシールを貼る展示ボードの費用をポッカが負担したそうだ。

2015年度に実施した都市整備課とポッカの連携事業の1つ「ふれ愛フェスタ」の様子。</br>歩行者天国になった豊田市駅前にポッカがキッチンカーを出展した2015年度に実施した都市整備課とポッカの連携事業の1つ「ふれ愛フェスタ」の様子。
歩行者天国になった豊田市駅前にポッカがキッチンカーを出展した

2015年7月、新たにパートナーシップ協定締結

2015年7月には制度設立から2例目となる、豊田市、豊田商工会議所及び豊田信用金庫の3者による「共働によるまちづくりパートナーシップ協定」が締結された。

主な予定事業として
●創業支援ワンストップ窓口の設置
●とよた事業継承研究会(仮称)の設置
●小中学校などへの金融教育講師派遣

などが挙げられている。取材時(8月)には締結から1ヵ月ほどしか経っていないため、事業はまだ実施されていなかったが、今後の予定について、おふたりはこう話していた。

「たとえば“創業支援ワンストップ窓口の設置”事業では、支援を受ける事業者のカルテを作成する予定です。そのカルテを3者で使用することで、事業者はそれぞれの窓口で毎回同じ説明する手間がなくなるので支援もスムーズになります。また、豊田信用金庫がすでに地域の高校で金融教育を実施しているので、それを小中学校でも実施しようという提案も出ています。協定を結んだのは3者ですが、事業を実施するにあたっては2者だったり3者だったり、柔軟に対応していく考えです」

商工会議所が参加しているということもあり、産業分野では特にユニークな事業連携が行われそうだという印象を受けた。

多くの人が同じ条件のもとで1つの事を行う「共働」という理念を大切にしているという豊田市。今後はどんな企業とどんな協定を結んでいくのか、現在協定を結んでいる企業との連携の進展とともに注目していきたい。

【取材協力】
◆豊田市役所(社会部共働推進室 地域支援課)



【関連リンク】

◆豊田市共働によるまちづくりパートナーシップ協定



◆ポッカサッポロニュースリリース(豊田市、ポッカサッポロ、サッポロホールディングスの「共働によるまちづくりパートナーシップ協定」について)


2015年7月3日に豊田市、豊田商工会議所及び豊田信用金庫の3者による「共働によるまちづくりパートナーシップ協定」締結式が行われた。写真中央が豊田市の太田稔彦市長、市長の右側が豊田商工会議所の三宅英臣会頭、左側が豊田信用金庫の黒田連理事長2015年7月3日に豊田市、豊田商工会議所及び豊田信用金庫の3者による「共働によるまちづくりパートナーシップ協定」締結式が行われた。写真中央が豊田市の太田稔彦市長、市長の右側が豊田商工会議所の三宅英臣会頭、左側が豊田信用金庫の黒田連理事長

2015年 09月17日 11時05分