埼玉県宅建協会としては初の試み、中小不動産会社向けワークショップ

どこの街でも見かける“地元の不動産屋さん”の多くは、住まいをはじめとする土地・建物を売りたい人と買いたい人(もしくは貸したい人と借りたい人)を結びつけ、仲介手数料を得ることによって業が成り立っている。しかし、人口減少・空き家の増加・外国人の流入・AI&IoT住宅の登場など街や住まいをとりまく環境が大きく変化する中で、“地元の不動産屋さん”たちにもドラスティックな意識改革が求められる時代となった。

「何をどこからどう変えていけばいいのか?」。2代目・3代目と呼ばれる中小不動産会社の若き社長たちは漠然とした未来への危機感を感じており、「今のままだとやられる(会社を潰しかねない)」「従来のような既得権益を守るための保守的商売では、この先の時代に立ち向かっていくことができない」と異口同音に不安を語る。

そんな意識改革の機運が高まる中、埼玉県下の中小不動産会社が加盟する公益社団法人 埼玉県宅地建物取引業協会が『タウンマネジメントスクール』を開催した。宅建協会では定期的に会員向け勉強会を実施しているが、「タウンマネジメント=地域価値の向上」をテーマに有料ワークショップを開催したのは初の試みだという。

▲埼玉県宅地建物取引業協会初の取り組みとして『タウンマネジメントスクール』が開催されたのは2018年1月30日・31日の2日間。「有料の勉強会なので、参加者が集まるかどうか不安だった」という担当者の心配をよそに、定員数を大きく上回る約70社が参加した。通常の勉強会では60代の会員が多いそうだが、今回は40代前後の2代目・3代目経営者が多くを占めた▲埼玉県宅地建物取引業協会初の取り組みとして『タウンマネジメントスクール』が開催されたのは2018年1月30日・31日の2日間。「有料の勉強会なので、参加者が集まるかどうか不安だった」という担当者の心配をよそに、定員数を大きく上回る約70社が参加した。通常の勉強会では60代の会員が多いそうだが、今回は40代前後の2代目・3代目経営者が多くを占めた

“自ら真剣に考えてもらうこと”が今回のワークショップの目的

2日間のプログラムは実に濃密な内容だ。埼玉県宅建協会は管轄区域ごとに16の支部に分かれているが、参加者は支部の壁を越えて8つのグループに分かれ、現在抱えている課題についてチームディスカッションを実施。他にも、有識者ら5人による講演会や、空き家のリノベーション事例の現地見学会などを含む1日8時間のプログラムとなっており、「既存の建物をいかに地域資産として利活用するか」「リノベーションでいかに資金調達をするか」「不動産会社に求められるITスキルの習得」「地域活性化における不動産会社の役割」等のテーマで意見を交わしながら、互いに不安を分かち合ったり新たな方向性を思案した。

「ただ講演を聞くのではなく、何より“自分自身で真剣に考えてもらうこと”が今回のワークショップの最大の目的だった」と、基調講演を務めた清水千弘教授は話す。

▲チームディスカッションでは写真のような付箋を使い、現状の課題や改善点についてどんどん書き出していく。こうしてチームの中で考え意見を交わすことで、また新たな課題が見えてくる。付箋の内容にはネガティブなキーワードも多く、今後の不動産業界への不安も窺えたが、参加者の表情は楽しそうで皆活発に発言していたのが印象的だった▲チームディスカッションでは写真のような付箋を使い、現状の課題や改善点についてどんどん書き出していく。こうしてチームの中で考え意見を交わすことで、また新たな課題が見えてくる。付箋の内容にはネガティブなキーワードも多く、今後の不動産業界への不安も窺えたが、参加者の表情は楽しそうで皆活発に発言していたのが印象的だった

これからの“街づくりの主役”は中小宅建業者、ローカルスターを育てたい

▲「宅建士には“10年先の未来”を考える提案力が必要」と話す清水千弘教授(日本大学スポーツ科学部教授/マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員)▲「宅建士には“10年先の未来”を考える提案力が必要」と話す清水千弘教授(日本大学スポーツ科学部教授/マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員)

「今回のワークショップのポイントは、まず地域活性につながるような人材を宅建業者の中から育てたいということ。そして、健全に事業を続けるためにはもう一歩、資金調達の方法など金融知識についても身に着けてもらわなくてはいけないので、従来の勉強会よりも金融色を強めたいという想いがありました」(清水教授)

清水教授は「今後の街づくりの主役は宅建士」と断言する。

「これまでは“新しい建物を創って売る”時代でしたが、今後は“既存の建物を活かしていく”時代。しかし、リノベーション事業や再生事業には様々なリスクが伴うため、そのリスクを誰も取りたがらないのが現状です。だからといって何もせずに街を放置していたら、地域全体がうまくまわらなくなり、自分たちの業界がダメになってしまうということを、中小不動産会社の方たちにはぜひ考えてほしいんですね。

地域価値を高めるために必要なのは、地域と根付き、建物や法律・金融の知識があって、リスクもちゃんと取れるひと。その条件で人材を探してみると“宅建士”がぴったり当てはまります。今後、中小不動産会社が大手に立ち向かっていくための生き残りの道は“宅建士の地域力”にかかってくるのではないでしょうか」(清水教授)

街の活性化を考える際には、まず地元の名物や歴史的建造物をアピールして集客しようと考えがちだが、「実はそれは違う」と清水教授。

「最終的には人。地域のことを熱く真剣に考えている『ローカルスター』がいるかどうか?で街は大きく変わります。中には外から来た専門家に頼っている街もありますがそれでは長く続かない。地元の人で、派手なホームランではなく毎回確実にヒットを打ってくれるような『ローカルスター』が地元宅建士の中から育つと良いですね」(清水教授)

今後宅建士が生き残るためには“10年先の未来”を見据えた提案力が必要

▲「これまでの宅建士の仕事は、お客さんを紹介します、仲介手数料をいただきます、で終わっていましたが、今後はその先のスキルが求められます。次のアイデアをどうしたら良いか?という提案ができる不動産会社が一社でも増えるように、宅建協会としてもサポートしていきたいですね」と内山会長▲「これまでの宅建士の仕事は、お客さんを紹介します、仲介手数料をいただきます、で終わっていましたが、今後はその先のスキルが求められます。次のアイデアをどうしたら良いか?という提案ができる不動産会社が一社でも増えるように、宅建協会としてもサポートしていきたいですね」と内山会長

「実はこれまでの不動産会社は『将来どうなるか?』を考えるのではなく、『目の前の物件をどうするか?』だけを見て事業を行ってきました。10年後、20年後の将来の姿を考えずに乱開発を重ねた結果、間口が狭い家や道がない土地など難しい物件が残り、現在その後処理を強いられているのが、街の中小不動産会社なのです。

今回、『みなさん、10年後のことを考えてください』という清水先生からのアドバイスを聞いて、初めて将来に目を向けた参加者の方も多かったと思います。協会としてもこれを好機と捉え、今後は会員の皆さんの知識と経験を生かしながら、“負”動産から“富”動産へ切り替える作業をしていきたいと考えています」と語るのは、埼玉県宅地建物取引業協会会長の内山俊夫氏。

今回のワークショップ開催にあたり、当初は埼玉県全体の『エリアマネジメント』について考える企画もあったそうだが、プログラムを検討する上で「地域には地域ごとの悩みがあるため、広いエリアではなくもっと小さな単位で街を眺め、それぞれの課題に取り組んでいくことが大切」だと気づいたという。

「これまで、宅建士の基本スキルとして『安全・安心の不動産取引』を謳ってきましたが、これからは取引の先を見る力や、提案力・コンサル力も身に着けなくては生き残れない時代になるでしょう。今回のワークショップで学んだ知識を集約し、今後は行政・金融機関・建築士・大家さん・消費者とも連携して、地域活性につなげていきたいと考えています。

清水先生のお話にもありましたが、街づくりを進めるには“熱い人”の存在が欠かせません。宅建士の皆さんにはこれから“地域を育てる町の大家さん”として、熱い想いを持ってほしいですね」(内山会長)

協会が学びの場を提供することで、宅建士たちにとっても新たな刺激に

▲閉会の際には全員が起立してシュプレヒコール。会場の熱気や参加者の結束が感じられる瞬間だった▲閉会の際には全員が起立してシュプレヒコール。会場の熱気や参加者の結束が感じられる瞬間だった

2日間のプログラムを終えて、参加者からは「宅建協会の懇親会で顔を合わせることはあっても地域の同業者同士でこんな風に真剣にディスカッションをしたのは初めて。知識を深める意味でも、ネットワークを広げる意味でも、とても良い機会だったので今後も続けてほしい」「今回のワークショップに参加して様々な気づきがあった。早速会社へ持ち帰り社内でスタッフと共有したい」といった前向きな意見が聞かれた。

お互いに意見を交わし、自ら考える学びの場は、大きな刺激となったようだ。

今回の参加者の中から、地域活性に一石を投じる『ローカルスター』が誕生するかどうか?10年後の街の未来づくりに取り組む宅建士たちの新たな動きに期待したい。

■取材協力/公益社団法人 埼玉県宅地建物取引業協会
http://www.takuken.or.jp/

2018年 02月19日 11時04分