令和元年、出雲大社に8体のフォリーが出現

9月1日に開催された「建築学生ワークショップ出雲2019」公開プレゼンテーション9月1日に開催された「建築学生ワークショップ出雲2019」公開プレゼンテーション

国内外の建築や環境デザイン分野を専攻する学生約47名が参加した『建築学生ワークショップ出雲2019』の公開プレゼンテーションが、2019年9月1日に出雲大社社務所にて開催された。

このワークショップは、学生たちがキャンパスを離れ、建築家を中心とした錚々たる講師陣の指導の下、フォリーと呼ばれる小さな建築物をつくりあげる。

NPO法人アートアンドアーキテクトフェスタ(AAF)の主催で2001年から始まった取り組みだが、当初は主に過疎化地域を対象にした作品づくりが行われてきた。2010年からは、地元地域との共同開催として平城京跡、竹生島、高野山、キトラ古墳、比叡山、伊勢といった聖地に舞台に「神聖な場所を受け継ぐワークショップ」として継続している。

「地形や風の流れなどを読むことが建築であり、場所を読むことが建築には必須。だからこそ実地でしか学べないことがある」。今年は、平成の大遷宮 完遂の年の出雲大社がその舞台となった。

およそ100名の応募者から選考に残った学生たちは、6月の現地調査に始まり、コンセプトづくりから、エスキース、中間発表などに力を注いできた。そしていよいよ8月27日からの1週間、出雲大社の参道の神苑にフォリーをつくりあげたのだ。その有終の美を飾る公開プレゼンテーションの様子を紹介しよう。

神話伝承と建造物のかかわりとは?

今年、平成の大遷宮 が完遂する出雲大社今年、平成の大遷宮 が完遂する出雲大社

出雲大社は、大国主大神さまをお祀りする、国譲り・神譲り神話伝承の舞台でもある。大国主大神さまが天照大御神さまの御子にこの国を譲るわけだが、一方では天上の神々から神譲りをされる立場でもある。出雲大社 権宮司の千家 和比古氏によれば、建造物的にもこの神話伝承とのリンクが感じとれるという。

「伊勢神宮の神明造は平面長方形の平入りで水平方向の広がりが視覚的に看取される造形、出雲大社の大社造は平面方形の妻入りで御本殿本体は垂直方向の伸びが視覚的に看取される造形」(建築学生ワークショップ出雲2019 座談会“今、建築の、原初の、聖地から” 抜粋)つまりは、地上世界を譲られた神々が祀られる伊勢神宮は横に広がり、神事を譲られた側の出雲大社では、天地をつなぐ高層造形が見て取れるというわけだ。

このほかにも、古代では川が合流する「河合」が力を持つこと、さらには、境内正面の南端を砂丘が遮蔽し、まるで境内が「籠り」の空間であることも語られている。

学生たちは、こうした歴史的背景や現地で感じたことをもとに、コンセプトワークから計画地の読み取り方を講師陣に教わり、中間発表での講評を反映するほか、地元の建築士や施工者、大工や技術、職人の方々に伝統的な工法なども学んだ。材料支給や木材伐採には、地域の支援も大きい。それらすべての学びと恩恵を持って成果を出すのがこの公開プレゼンテーションの日なのだ。

神聖なる場を“読み”、テーマを託した8つのフォリー群

今回、フォリーが設置されたのは出雲大社の参道わきの神苑だ。8グループがそれぞれのコンセプトのもとつくりあげた。

「第四の鳥居」と名付けられたのは1班の作品。出雲大社のお社そのものだけでなく敷地の特長を活かそうと、鳥居の境界性と背後の山々を借景とする建築物が構想された。アーチで組まれた構造物は山を表現し、風に揺れるカーテンは出雲の霧をイメージした。カーテンの中に入れば「八雲山」が美しく見える。「八雲山」は禁足地だけに「立ち入れない山だからこそ体験してもらいたい」との狙いがある。カーテンは風でゆれる際の浮遊感と太陽の位置で変化する影の動きの妙も狙った。残念ながらこの日はいつ雨が降るか分からない曇天。太陽が出ていたらもっと異なる表情が見えたのだろう。

建築史家の講評からは、「外と中の切り分けがあり、垂直に伸びていく空間は狙い通り。構造物を足すことなくアーチとカーテンだけで構成できていなかったのが惜しいところ」との意見が出され、工学博士からは「計画段階から構造物としての工夫がもう少しできたはず。アーチのしなりに頼りすぎた」との指摘もあがった。

4班は西苑に「記憶で結ばれる」のタイトルで神聖な自然を感じる空間を提案した。かつてこの地には2つの河が流れ、そこで身を清めながら本殿へ向かったという。そこでフォリーの中を通りすぎることで、身が清められていくような場をつくった。角材のフレームで壁が斜めになっても倒れない骨組みをつくり、フレーム通しは木材に穴をあけ糸を通した。糸は数字の8の字を横にすることで角度を自由に変えられるように工夫。側面には草木染を施した異なる2色の布を用いて、さらに布を不規則に重ねることでグラデーションを出そうとしていた。

「解放感と狭小感が混在するなど、構成は面白い」など評価を集める一方で、中間発表で打ち出した神聖さの証「透かし」を捨てたことを疑問視する声もあがった。「頭で考えずに素材に向き合うべきだった」そんな指摘も加えられた。

5班は「結びを見上げて」というタイトルでまさに大国主大神の霊力「むすび」に焦点が当てられた。古代では2つの河が境内中央で合流し、今回の敷地となる神苑には水田が広がっていたという。「むすび」の力を水の流れに重ねあわせ、竹を編みこんで巨大ならせん状のフォリーをつくりこんだ。平面から巻き上げる際にねじるようにしたことで水の流れがよく感じとれる。内部は人が十分通れる空間があり、獣道からアプローチして、大社に向かって徐々に大きくなる開口部が広がる。

不思議なバランスで自立に成功している点を評価した上で、「中から見るときにボリューム感がない」など密度を変える工夫が求められた。

各班のフォーリー、1班「第四の鳥居」(左上)、4班「記憶で結ばれる」(右上)、5班「結びを見上げて」(左下)。7班「いと」(右下)各班のフォーリー、1班「第四の鳥居」(左上)、4班「記憶で結ばれる」(右上)、5班「結びを見上げて」(左下)。7班「いと」(右下)

藁、竹、木、布、瓦など多岐にわたった素材で表現

7班は「いと」をタイトルにフォリーにアプローチした。出雲は縁と縁がつながる関係性を紡いできた歴史を構造に取り入れた。60㎝にカットした3本の竹を1つのユニットにさらにそれを編みながら、らせんの空間をつくりあげたのだ。離れて見れば軽やかで柔らかな曲線が心地よいが、近寄れば本来直線の竹が絡み合う姿が迫る。竹を結ぶ作業はなんと3,000回にのぼったという。

「同じユニットを繰り返すことで、面白い形のフォリーが完成した」という講評のもと、さらに「紐を結ぶにしても、例えば水引など種類は多い。その点にまで追求できればもっと美しくなったのではないか」そんなアドバイスも聞こえてきた。

8班のタイトルは、「自然の客間」だ。一人がやっと座れるような客間を想定したスペースは木組みの木材が骨組みだけで存在する。そこに、壁の役割を果たすように山陰地方の石州瓦を何枚も細い竹のみで支えながら吊るした。この石州瓦は重さもあり、また竹で吊るすために真ん中にドリルで穴をあけたが、粉砕してしまうものが多く苦労をしたそうだ。

片側に瓦の比重を重くするなど、ディテールへの評価がある一方で、「木の加工が太すぎて、せっかくの瓦が効いてこない」「客間のスペースから見る石州瓦は裏側。裏は美しくないのでなんらかの処理が必要だったのでは」などの改善点も指摘された。

ここからは、入賞グループの作品になる。特別賞は3班の「キヅキー動静礼讃―」が受賞した。このフォリーは「藁の龍」だ。藁のみを使って建築を建ててみようという試みの作品だ。日本人が培ってきた感覚を建築に生かす。敷地には松の根っこが大蛇のように生え、そこに立ち上がる龍を表現した。学生たちを苦しめたのは何よりも藁の柔らかさ。どうしても立ち上がりがつかないものを力学などを駆使して高さ1.5mのアーチを形成した。

評価されたのは、藁というおよそ柔らかな素材であえて建築に挑戦した点。だが「せっかくある松の根や切り株をもっと積極的にフォリーの中に取り入れられたら表現が深まったはず」そんな講評も聞かれた。

8班「自然の客間」(左上)、3班の「キヅキー動静礼讃―」(右上)、2班の「重―おもみー」(左下)とその内部(右下)8班「自然の客間」(左上)、3班の「キヅキー動静礼讃―」(右上)、2班の「重―おもみー」(左下)とその内部(右下)

縦につながる出雲大社を表現した最優秀賞作品

優秀賞に輝いたのは2班の「重―おもみー」。このフォリーは緑の神苑の中で、異質感とそれだけに圧倒的な存在感を放っていた。2班が注目したのはこの地域の「たたら製鉄」の歴史だ。地域を支えた「鉄」を使って、かつて本殿があったと言われる杵耶築森(きなつきのもり)へ導くトンネルをつくりあげた。途中、鉄の素材をどのように使うか、あぶってみたり、叩いてみたりしたが、最終的には「反射」の性質に注目し、薄い鉄板を重ねることで、周辺環境を逆に映し出すトンネルが完成した。

「非常に目が行くし、参拝客も通りたくなる」「グラデーションを見事にコントロールしながら表現している」と高い評価を集め見事優秀賞を射止めた。一方で、中間発表ではさらに薄い鉄の素材を検討していたが、そこに挑戦しなかった点に言及する講評も。「薄い素材であっても婉曲を与えることで強度を出せるということに挑戦して欲しかった。こうした短い期間のインスタレーションでは可能性を示すことも重要」とさらなる挑戦が促された。

そしていよいよ、最優秀賞の作品が発表された。受賞したのは6班の「大輪 Tairin」だ。平成の大遷宮完遂のこの時期、最もパワーを持っているはずの出雲大社。その場に見合うフォリーを目指し「小さなものの集合から大きな力強さ」を表現しようと巨大な階段をイメージした建造物をつくりあげた。40角の角材をV字が2つ複雑に絡んだような形状で谷間と山型のトンネルを形成していた。屋根をのぼっていくような感覚で木材の階段を上っていけるし、逆にトンネルをくぐって杉の香りを楽しむことができる。参拝客の子どもたちが一目散にかけてきて、何の説明をしなくともはしゃぎながら階段を上り、そしてトンネルをくぐっていた。目線の上がった先にみえる本殿に、子どもたちは何を感じたのだろうか。

この班では、途中メンバーの人数が少なくなり、最後は3人でフォリーを仕上げたという。「一貫して、階段を上るという当初のデザインを残しながらブラッシュアップし、最終的に美しい形状に仕上げた」点が高く評価された。

3カ月の長きにわたり学生が様々な人の手を借りて切磋琢磨したワークショップ。最後に講評者からは、次のようなエールが贈られた。

「この3カ月、大変な思いをしてきたと思いますが、それはあたり前です。大小はあっても我々がやっていることと変わりません。世界の主要な建築をつくるほど日本の建築は発達しています。その国で建築を学ぶということは、どれだけ高い技術とコンセプチュアルな考えをしていかなければならないか。これから、挑戦し続けてほしい」

第一線で活躍する建築家や研究者、教授による評価・講評。厳しいコメントの中に愛情が感じられた。このワークショップに参加した学生の中から、次の世代を担う建築家が巣立って行ってほしいと思う。

最優秀賞を受賞した6班「大輪 Tairin」最優秀賞を受賞した6班「大輪 Tairin」

2019年 10月13日 11時00分