大正、昭和の風情ある長屋や建物が残る昭和町

昭和町にある大正14年の古長屋をリノベーションした「金魚カフェ」。一部の壁には江戸川乱歩の新刊広告など古い新聞が貼られていて独特の雰囲気が漂う。奥には中庭があり、まちなかにありながら緑を楽しめる昭和町にある大正14年の古長屋をリノベーションした「金魚カフェ」。一部の壁には江戸川乱歩の新刊広告など古い新聞が貼られていて独特の雰囲気が漂う。奥には中庭があり、まちなかにありながら緑を楽しめる

大阪市阿倍野区昭和町。大阪市営地下鉄御堂筋線で天王寺から一駅のこのまちは、今複数の雑誌やメディアに取り上げられつつある。雑誌やメディアが取り上げるのは、昭和町に点在して残る長屋や古い建物を利用したカフェやショップ。まちの見どころマップや各店舗を紹介したパンフレットなどもあり、下町の風情を残しながら若者も集う、“元気なまち”を思わせるエリアだ。

大阪市のまちは、昭和初めから10年ごろまでにめざましい躍進をとげている。大正時代に計画された大規模な都市整備が進展し、昭和12年に御堂筋が完成、昭和13年地下鉄が梅田から天王寺まで走るようになった。第2次大戦で大阪が受けた空襲は50回を数えたが、昭和町の被災は比較的少なく、奇跡的に大正時代や昭和初期の建物も残っている。大正時代から現在に至るまで、時代を反映した建物がある中、昭和町は古い建物を取り壊して一帯を商業施設や新築マンションを建てるという再開発の形式ではなく、一部の古い建物をいかして"元気なまち"を創り出すというひとつのモデルケースを生み出しつつあるのだ。

この"元気なまち"昭和町の仕掛け人のひとりに「まちの不動産屋さん」である丸順不動産株式会社がある。ずっと昭和町の変遷を見続けてきた不動産屋さんの“まちへの想い”と“不動産屋という職業への想い”を、自ら率先して“三代目”と名乗る丸順不動産の小山隆輝社長に伺ってきた。

きっかけは長屋再生から…まちの価値を高めることで、不動産の価値も高める

有形文化財に登録された昭和町駅の近くにある四軒長屋、寺西家阿倍野長屋有形文化財に登録された昭和町駅の近くにある四軒長屋、寺西家阿倍野長屋

そもそも何故、古い建物もまちの活性化に利用できる…と考えたのであろうか?
「きっかけは、昭和町駅の近くにある四軒長屋の寺西家阿倍野長屋が有形文化財に登録されたことでした。昔から在ることは知っていましたし、“風情があって取り壊すのはもったいないよね”という声も聞いたことがありましたが、そんなに価値のあるものだとは考えなかった(笑)。でも、リノベーションされた店舗に人が集まる様子を見て、まちに残る古い建物がまちの活性化につながることを感じたんです」と小山社長は話す。

「このあたりの長屋は大阪中央に働く人々のためにできたものが多く、正面の門から玄関までアプローチ空間があり奥に中庭があるなど、比較的ゆとりのあるつくりの長屋が多いんです。中庭のあるつくりは、長屋であっても陽の光も入りやすく、周辺のマンションなども見えづらい。落ち着いた店舗として利用するには、なかなか最適な物件です」。現在、寺西家阿倍野長屋には4軒の店舗があり、そのしっとりとした風情から外から撮影するなど観光目的の訪問者も多いという。

そのきっかけを機に長屋の再生を手がけ始めた。しかし、それだけではない。昭和町駅前にある、地元の人たちには通称「ピンクの建物」として通っている築50年の昭南ビルをレトロな雰囲気を残したリノベーションを施し、借りやすい賃貸条件を設定し、テナントを誘致した。今は女性が中心のアトリエやギャラリー、雑貨屋などがテナントで入っている。「リノベーションするときの職人さんとのやり取りが難しい…みんな新築のようにキレイにしようとするんですが、“あ、そこは、そのまま残してください”とお願いすることがたびたびです」と話す。

今や昭和町には、古い建物を活かしたレトロな店舗や住宅が点在し、外からの訪問者も多く訪れるようになっている。「建物には、そこに在る理由があると思うんです。昔、銭湯などがあって人々が集う場所だったところなど、人の行き来に最適な場所があったと思います。すべて古いものを残すということでなく、そういう場所や残したい風景のあるエリアで、古い建物を活用していきたい」と小山社長。

多くの相談があると思うが、古い建物をリノベーションし、まちの活性につなげることは大変なのでは?と尋ねると、「私は不動産屋ですから、建物を仲介することはできても、他は何もできない。店舗コンセプトや店舗デザイン、パンフレットデザイン、コミュニティのつくり方など、多くのまちに想いのある人達と共に動いていくことが必要です。人脈に恵まれています」と小山社長はいう。

小山社長はそういった人々と一緒に、『昭和のまちのバイローカル・マーケット』のようなイベントも手掛け、まちのプロデュースにも一役かっている。

何もしなければ、不動産業は必要がなくなる…
まちの価値をあげていく、という視点で不動産業を考える

丸順不動産はポジションを「地域密着×まちの価値重視」とおく丸順不動産はポジションを「地域密着×まちの価値重視」とおく

これまでの話を聞くとその仕事ぶりは、「不動産屋」という職業の枠を超えているように思う。
「いや、逆に不動産屋という職業はもっと地元に必要とされる仕事をしなくてはならないと感じています。私は、不動産屋の三代目ですが、祖父や父の時代の、物件が足りなくて出せば売れる時代とは全然違う…という危機感を持っています。少子高齢の時代、空き家が多くなる時代になると不動産そのものの価値自体が低下しつつある。情報が自由に無料で取れる時代でもありますし、それこそレインズが一般に公開されてしまえば、私たちの職業の価値はなくなってしまうんです。“何でご飯を食べていくか”を、もっと真剣に考えなければいけない、ということです」という。仲間と話していても“10年後、この職業でご飯が食べていけるかわからない”という話も出るという。「それでも、周囲はまだまだ危機感が足りないです。“丸順不動産さんの取り組みを、ぜひ聴かせてください”というオファーは、他の地方の不動産業の方が多い」と語る。

その姿勢は、丸順不動産のホームページの“丸順が目指す不動産屋さん像”のポジショニングマップに示されている。「私は“まちの不動産屋さん”ですから、まちに何が起こりつつあるのか、どんな人が住んでいるのか、どういった取り組みがされているのか、に詳しいのは当然だと思っています。そのうえで、昭和町に不動産を通じて、どんなことが必要なのかを考えるようにしています」。まずはまちの価値を不動産を通してあげていく…“まちの価値重視”がその姿勢なのである。

「まちの不動産屋さんは"現代版家守"である」

最後に小山社長に“まちの不動産屋さんはどういった存在であるべきか”を聞いてみた。
「私自身は、いろいろ悩みながらこれまでやってきていましたが、清水義次さん(建築・都市・地方再生プロデューサー/株式会社アフタヌーンソサエティ代表取締役)の“現代版家守”という話を聞いた時、これだ、と思いました」
家守とは、江戸時代、地主から長屋の差配を任された大家さんのこと。現代版家守とは、オーナーから空室を借り入れ、そこに新たな経済の担い手を呼び込むとともに、こうしたテナントと地域企業や住民などとの交流や連携をプロデュースしながら、地域経済の活性化やコミュニティの再生を目指す民間事業者のことを指す。

小山社長は、生まれも育ちも昭和町である。ただ、まちを歩くときはいつもスーツを着用しているという。「私はオーナーさんの代理でもあるわけですから、信頼されないと意味がないです。しかもまちのことを隅々まで知っておきたいので、まちを巡るときは、自転車か歩きで、車はほとんど使いません」と笑う。

取材時、小山社長にまちを案内されている時も、すれ違うまちの人々に“こんにちは”と声をかけられる。“明日、寄ります”“今度、あの話をしましょう”と情報交換も盛んである。小山社長のお話を伺ったカフェの、平日空席のある様子に「このお店のためにも、もうちょっと平日にも人を呼び込まないとね」とお店の方と談笑していた。

私たちがまちに住むとき…まちで商売を始めるとき…まちの様子を教えてくれたり、まちの人々とつながることをサポートしてくれる不動産屋さんがいればどんなに心強いだろう。
丸順不動産が誇りを持って謳う「まちの不動産屋さん」が、不動産のスペック情報のみが多い時代だからこそ、増えてほしいと願う。

取材協力:丸順不動産株式会社 http://www.marujun.com/

写真はお話をうかがった丸順不動産の三代目 小山 隆輝社長(昭和町エリアにある「月ノ輪」カフェ前で撮影)。</br>「次は、昭和町にゲストハウスを企画したい。宿泊が加わると、またまちが元気になると思います」と話してくれた写真はお話をうかがった丸順不動産の三代目 小山 隆輝社長(昭和町エリアにある「月ノ輪」カフェ前で撮影)。
「次は、昭和町にゲストハウスを企画したい。宿泊が加わると、またまちが元気になると思います」と話してくれた

2015年 03月26日 11時08分