「川崎モデル」から「川崎モラル」へ

通り沿いの植え込みの中に大量のゴミを発見、集める参加者たち通り沿いの植え込みの中に大量のゴミを発見、集める参加者たち

高度経済成長期、川崎の躍進ぶりは「川崎モデル」と称され、日本の多くの都市が目標としたものである。それをもじり、今後はポイ捨てのない、きれいな街を目指す心を「川崎モラル」として推進、美化から始めて、住みたい街川崎を築いていこうという活動『川崎モデルの次は「川崎モラル」でシビックプライドに溢れた街に』を始めた人たちがいる。彼らが2015年4月に主催した初めてのイベントに参加してきた。

今回のイベントは午前中に川崎駅近くでゴミ拾い、午後からはワークショップという2部構成である。ゴミ拾いは朝10時、川崎駅近くの銀柳街なる商店街から始まった。参加したのは大人、子どもを合わせて50人ほど。聞くと遠くは青森、新潟などからの参加者もいるとか。午前中の主催は2003年に「きれいな街は、人の心もきれいにする」をコンセプトに表参道から始まったゴミ拾いのNPOグリーンバードの川崎駅チーム。川崎駅チーム自体は1年ほど前にスタートし、毎月第2、第4土曜日に活動をしているという。

お揃いの緑色のビブスを着けて通りのゴミを拾って歩くのだが、アーケード内は商店街の人たちが掃除をしているのだろう、さして気になるほどではないのだが、商店街から少し外れた自販機の回りには空き缶がどっさり。さらにバス通りに出ると植え込みの中に驚くほどの量のゴミが捨てられている。中には明らかにわざわざ持ってきて捨てたと思われるような袋もあるほどで、植え込み内に放り込んでしまうと、外から見えないため、捨てても良いと思われているらしい。参加者によると、隔週掃除していても毎度、ここはゴミだらけになっているのだとか。捨てられない工夫も必要なのかもしれない。

ゴミ拾いで大人と交わり、子どもたちは成長する

ただ、「ごみ拾いそのものが目的ではないんですよ」とチームリーダーの田村寛之さん。「参加者の皆さんにはあんまり真剣に拾わなくていいですよと良く言います。それよりも参加者同士のコミュニケーションが大事。だから、友達を作りに来たという大学生もいれば、親、先生以外の大人と話す場が欲しいからと子どもを連れてくる親も。私自身、子どもが小さい時から社会に携われたり、大人から評価される機会は貴重だと思うので、本人に参加する意思がある限りは一緒に参加しようと考えています」。

とはいえ、1時間ちょっとで集まったゴミはかなりの量に及んだ。特に多かったのは吸殻の一部と見られる白い小さな紙。あいにくの雨で道路に貼りつき、取れにくい紙を子どもたちは熱心に拾っており、ゴミを見つけると嬉しそうでもある。本来、ゴミは落ちていて嬉しいものではないが、拾うことがイベント化されると楽しい作業になるのだろう。田村さんは「ゴミを捨てない子どもを増やしていけば、モラルが上がり、いずれゴミを捨てないことが当たり前の社会になる」とも。大人たちも何度か参加している人も多いようで、顔なじみ同志の会話が弾んでいた。

「2年前に川崎に引越してきて、ここで子どもを育てると決意した時、ここで子どもと一緒に何か、社会に貢献することをやり、繋がりを作ろうと思ったんです。いずれ川崎でビジネスを始めるつもりもありましたし。そこで、知り合いにグリーンバードのリーダーをやっている人がいたこともあり、川崎駅チームを作ることにしたのです。そこから始まり、今回は川崎を良くしたいという人たちと一緒にこのイベントを開催。活動範囲が広がっています」。

新しい街で知り合いを作りたいと考える人は少なくないが、そこでいきなり地域貢献のボランティアを始める人は多くはない。面白い展開である。

子どもたちはゴミが落ちていると声を上げて楽しそう。この経験を経てゴミを捨てない大人に育ってほしい子どもたちはゴミが落ちていると声を上げて楽しそう。この経験を経てゴミを捨てない大人に育ってほしい

ポイ捨て、路上喫煙対策費の約7割は人件費に使われている

午後の部の参加者は30人ほど。地元を変えたいという意識からか、皆、熱心だった午後の部の参加者は30人ほど。地元を変えたいという意識からか、皆、熱心だった

ゴミ拾い後は川崎駅西口にあるシェアオフィスNAGAYAかわさきへ。多摩川の見えるキッチンスタジオで各自おにぎりを作って食べた後はワークショップである。それに先立ち、前出の田村さん、そして川崎市議会議員の吉田史子さんの挨拶があったのだが、ここで吉田さんから明かされたポイ捨て、路上喫煙の現状に参加者からはどよめきの声が上がった。
吉田さんは長らくマーケティングの会社を経営しており、明日の暮らしをより良くするための提案を続けているうちに、それを突き詰めていくと政治に携わることが必要と市議選に出たという人。選挙の街頭演説時に中学生から「議員になったら路上喫煙をなんとかして」と声をかけられたことをきっかけに街の美化に積極的に取り組んできた。取り組みにあたり、市民3,000人以上を対象に市政に望むことをアンケート調査したそうだが、路上喫煙やポイ捨て防止強化は全38項目のうち、8番目という結果。道路整備や踏切立体化、待機児童解消よりも上位になっており、川崎市民が美しい街を望んでいることがよく分かる。

また、ポイ捨て、路上喫煙はそれぞれに担当が異なり、対策予算も別々だそうで、しかも予算のうちの約7割は人件費に使われているのだとか。例えば路上喫煙対策の予算は3,423万円で、そのうち、非常勤嘱託員8人の委託費は2,437万円強。掃除に充てられるのは525万円ちょっとである。行政が何か事業をしようとすると、どうしても事業そのものに必要な経費以上に人件費がかかるわけだが、ゴミ、吸殻が捨てられていなければその費用は必要なくなる。捨てる人が減れば、税金の無駄遣いも減るというわけである。

ゴミ問題はコミュニケーションの問題?

ワークショップは4~5人ずつのグループで主催者の一人、岡本克彦さんから次々に出されるお題について話し合い、テーブル上に置かれた模造紙にメモをしていくというもの。ゴミ拾いをやってみて感じたこと、田村さん、吉田さんの話を聞いて感じたことをそれぞれがメモし、それについて話し合い、さらにルールとマナーの違い、美しい街はどのようなものか、自分たちの街を美しくするために自分たちができることは何かを考える……。

最終的にはグループごとに自分たちができることをキャッチコピーとしてまとめ、自分自身でやることを宣言したのだが、印象的だったのはかなり多くの人がゴミ問題はコミュニケーションの問題であると考えていた点。途中で席を変わりつつ、いくつかのグループに参加、話を聞いていたのだが、何度か、「故郷の、自分の家の前だったらゴミは捨てないよね」といったような言葉が出た。

首都圏に居住する人の多くはもともと首都圏に住んでいた人ではなく、いずれは故郷に帰る、帰りたいと思っている人も少なくない。とすると、現在住んでいる場所は単なる通過点であり、仮の暮らし。しかも、周囲に知っている人がいるわけではないとしたら、無名の誰かとしてゴミを捨てても他人には分からない、だったら捨ててもいいやと思ってしまうのではというのである。

だとしたら、今住んでいるところに愛着を持ち、好きになってもらうことが大事だが、その一歩はその土地に顔見知り、知り合い、友人を作ることではないかと考えていた人が多かったのである。

そのため、最後の個人の宣言でも「もっと街に係ろう」「好きになろう」などという言葉が目立った。もうひとつ、多かったのはゴミを捨てるのはカッコ悪いということを伝えようというもの。子どもに伝えよう、子どものお手本になろうという宣言もあった。こうした宣言をした人がそれぞれの場で宣言を実行すれば、少しずつでも街は変わるはずだ。

川崎ではあちこちで地域の活動が生まれている

左から広瀬さん、田村さん、吉田さん、岡本さん。それぞれが異なるバックグラウンドを持っており、それが良い感じにかみ合っているそうだ左から広瀬さん、田村さん、吉田さん、岡本さん。それぞれが異なるバックグラウンドを持っており、それが良い感じにかみ合っているそうだ

最後に今回のイベントを企画した人たち及び参加者の何人かはそれぞれ地域に係る活動をしており、そうした活動が連携、川崎が動き始めていることを紹介したい。いろいろな街に出かけ、出会った人の話を聞いていると「街が動き始めている」と感じることがある。同時多発的に街を良くしようとする活動が起こり、それが緩く繋がり、街全体が活性化する、そんな感じである。首都圏ではいくつかの街でそうした動きが起こっており、川崎もそのひとつ。

たとえば、今回の主催者が関わる社団法人カワサキノサキは川崎市内の農地をステージと見立て、そこで食、アート、音楽を楽しむイベントを行う農園フェスを企画しており、初回は5月31日(日曜日)に開催される予定。都市というイメージの強い川崎にも広く農地が残されていることを知り、訪ねてみることは防災面でも役に立つだろう。

また、ワークショップでファシリテーターをした岡本さんは2013年から武蔵小杉で「こすぎの大学」というソーシャル系大学を毎月開いている。こうしたソーシャル系大学は若い人が中心になっていることが多いが、こすぎの大学では長く武蔵小杉に住んでいる参加者も多く、これによって新旧の住民が融合、仲良くなっているという。

ワークショップの舞台となったNAGAYAかわさきは地域で活動している人たちが繋がるための場となっており、経営する広瀬新朗さんはシェアオフィスという言葉がほぼ知られていなかった7年前に当時勤めていた会社を説得、事業化したという人。早くから人が繋がる意味を考えてきたそうで、それが今の川崎の変化に寄与しているといえる。

この他、武蔵小杉で朝活イベントをやっている人がいたり、女性の起業に係る活動をしている人がいたりと参加者も多士済々。こうした様々な活動が重なりあい、参加者を増やしていくことで、川崎がより住みやすく、楽しい街になっていくと面白いと思う。ついでに川崎市民の皆様にはぜひ、いずれかの活動に参加してみて欲しいとも思う。見ているより、やってみるほうが面白いのは何事も同じ。ゴミ拾いだけでもかなり楽しめるはずだ。

川崎モデルの次は「川崎モラル」でシビックプライドに溢れた街に
http://kawasakimoral.jimdo.com/

グリーンバード川崎駅チーム
http://www.greenbird.jp/team/kawasakieki/

農園フェス
http://www.nouenfes.com/

こすぎの大学
http://kosuginouniv.jimdo.com/

NAGAYAかわさき
http://www.nagayaoffice.com/kawasaki/


2015年 05月13日 11時21分