
借地権とは、建物を建てる目的で第三者が所有している土地を借りる権利のことです。
借地権付き建物の場合、土地の固定資産税などの税金が発生せず、所有権付きの建物よりも安く購入できる場合があります。しかし、建て替えやリフォームを自由にできない場合や、地代、更新料などを負担したりする必要があります。
借地権の知識を深めておくことで、不動産の購入・売却時にトラブルに巻き込まれるリスクを減らすことができるでしょう。この記事では、借地権のメリット・デメリットや、起こりうるトラブルなどを詳しく解説します。
この記事で分かること
- 借地権の概要
- 借地権のメリット
- 借地権のデメリット
- 借地権に関して起こりうるトラブル
もくじ
借地権とは?

借地権とは、法律上では「建物の所有を目的とした地上権または土地の賃借権」を指します。つまり、建物を建てるために、第三者が所有している土地を一定期間借りる権利のことです。
地代を支払って土地を借りる人を「借地人」や「借地権者」、土地を貸す人を「地主」や「借地権設定者」といいます。
建物には、地主から借りた土地に建物が建っている「借地権付きの建物」と、土地の所有権もセットになっている「所有権付きの建物」があるため、購入の際は注意しましょう。
- 借地権の種類
- 旧借地法・新借地借家法の違い
ここでは、借地権について上記の順に解説します。
借地権の種類
借地権には「地上権」と「賃借権」の2種類があります。
地上権とは、第三者の土地で建物などの工作物を所有するために、土地を使用する権利のことです。一方、賃借権とは、地主の承諾を得たうえで土地を間接的に支配する権利をいいます。
権利の強さは賃借権よりも地上権のほうが強く、具体的な違いは以下の通りです。
| 地上権 | 賃借権 | |
| 権利の種類 | 物権 | 債権 |
| 存続期間 | 半永久的 | 20年(更新可) |
| 地代 | 不要な契約も可能 | 必要 |
| 売買 | 地主の承諾が不要 | 地主の承諾が必要 |
| 登記 | 地主に登記義務なし | 地主に登記義務あり |
物権とは、物を直接的・排他的に支配する権利です。一方、債権とは、特定の人に特定の行為などを請求できる権利です。
地上権の存続期間は半永久的で、地主の承諾がなくても売買できる点が賃借権との大きな違いです。地上権は地主にとって不利な面が多いため、多くの場合は賃借権が採用されています。
【あわせて読みたい】
▶︎地上権とは?地上権の意味を調べる|不動産用語集(LIFULL HOME'S)
▶︎賃借権とは?賃借権の意味を調べる|不動産用語集(LIFULL HOME'S)
旧借地法・借地借家法の違い
旧借地法とは、1992年7月31日までに成立した借地権を指し、それ以降は借地借家法が適用されます。
旧借地法から借地借家法になったことで、借地権の存続期間が変更され、定期借地権制度が新設されました。旧借地法と借地借家法は、存続期間や更新後の期間が以下のように異なります。
| 旧借地法 | 借地借家法 | |
| 存続期間 | ● 木造:最低20年 ● 木造以外:最低30年 |
● 最低30年 |
| 更新後の期間 | ● 木造:最低20年 ● 木造以外:最低30年 |
● 初回:最低20年 ● 2回目以降:最低10年 |
旧借地法では、建物の構造によって存続期間が異なりましたが、借地借家法では最低30年に統一されました。
また、借地借家法では定期借地権制度が新設されました。定期借地権とは、契約満了後に更新がなく、土地が所有者に返還される制度です。更新できない代わりに、存続期間は最低50年となっています。ただし、事業用定期借地権の場合は、存続期間が最低10年となっています。
【あわせて読みたい】
▶︎定期借地権とは?定期借地権の意味を調べる|不動産用語集(LIFULL HOME'S)
▶︎旧法上の借地権とは?旧法上の借地権の意味を調べる|不動産用語集(LIFULL HOME'S)
▶︎借地借家法とは?借地借家法の意味を調べる|不動産用語集(LIFULL HOME'S)
借地権のメリット

ここでは、借地権のメリットを3つ紹介します。
- 固定資産税や都市計画税などの税金が発生しない
- 長期間にわたって借りられる場合がある
- 借地権付きの建物は所有権付きより安くなる
固定資産税や都市計画税などの税金が発生しない
土地の固定資産税や都市計画税などは、所有者である地主に課せられるため、借地人が負担する必要はありません。
ただし、建物を借地人が所有している場合は、建物の固定資産税や都市計画税を納める必要があります。
長期間にわたって借りられる場合がある
借地権には存続期間があり、期間が過ぎると地主に土地を返還する必要がありますが、契約を更新すれば地主に正当な理由がない限り、長期間にわたって土地を借りることができます。
ただし、定期借地権の場合は更新ができないため、契約期間が満了したら土地を地主に返還する必要があります。
借地権付きの建物は所有権付きより安くなる
借地権付きの建物の購入価格は、所有権付きの建物よりも6〜8割程度安くなります。
地価が高いエリアの土地であれば、費用負担を大きく抑えられるため、資金計画を立てやすくなるでしょう。
【あわせて読みたい】
▶︎借地権付き建物とは? メリット・デメリットと購入時の注意点
借地権のデメリット

続いて、借地権のデメリットを4つ紹介します。
- 借地人の資産にならない
- 地代や更新料を負担しなければならない
- 地代が上がるおそれがある
- 第三者に売却するのが困難になる
借地人の資産にならない
借地権の場合、土地は所有せずに借りているだけであるため、借地人の資産にはなりません。長期にわたって地代を支払っても、所有権は地主のままです。
また、借地権付きの建物で、建て替えや大規模なリフォームを行う場合は、地主の承諾が必要になるため注意しましょう。
地代や更新料を負担しなければならない
借地権付きの建物は、土地を地主に借りているため、毎月地代の支払いが必要です。
また、借地権の更新時には更新料が発生する可能性があります。借地権の更新料を支払う法的義務はありませんが、地主との契約内容などによっては、更新料を負担するケースがあります。
地代が上がるおそれがある
土地を借りている間に地価の上昇など、地主に正当な理由がある場合、更新の際に地代の値上げを求められるケースがあります。
地主と借地人双方の合意がなければ成立しないため、要求に応じなくても問題ありませんが、関係が悪化するおそれがあります。
第三者に売却するのが困難になる
借地権付きの建物は、地主の承諾がなければ第三者に売却するのが困難になります。
建物を所有していたとしても、売却やリフォームなどに制約があることが、借地権付きの建物のデメリットといえるでしょう。
借地権に関して起こりうるトラブル

借地権に関して起こりうるトラブルを、以下のケースに分けて解説します。
- 売買に関するトラブル
- 更新に関するトラブル
- 相続に関するトラブル
売買に関するトラブル
借地権の売買に関するトラブルとして、以下のような事例があります。
- 譲渡の承諾を得られない
- 土地を第三者に売却されてしまう
借地人が借地権を第三者に譲渡する場合は、地主の承諾が必要です。そのため、地主に承諾をもらえなかったことで、トラブルに発展するケースがあります。
地主が不利にならないにもかかわらず、承諾をもらえない場合は、裁判所から地主の承諾に代わる譲渡許可をもらうことが可能です。ただし、地主と新しい借地人との関係が悪化しやすくなるため、地主との話し合いで解決するように努めましょう。
また、地主が土地を第三者に売却するケースもあります。
新しい地主から高い地代や更新料を要求される可能性もゼロではないため、トラブルに巻き込まれたら弁護士などの専門家に相談することが重要です。
更新に関するトラブル
借地権の更新に関するトラブルとして、以下のような事例があります。
- 契約書に記載のない更新料を要求される
- 契約の更新を拒否される
借地権の契約を更新する際は、一般的に更新料を支払いますが、法的義務はありません。そのため、契約書に記載がなければ更新料を支払う必要はありません。
また、契約の更新を拒否されるトラブルも起こりやすいと言われています。地主に正当な理由がない限り、更新拒否は認められないでしょう。
ただし、定期借地権の場合は、期間を限定したうえで契約しているため、契約の更新ができないことを押さえておく必要があります。
相続に関するトラブル
相続時には、借地権で以下のようなトラブルが起こる可能性があります。
- 地主から名義変更料(譲渡承諾料)を求められる
- 地主から借地権の返還を求められる
名義変更料(譲渡承諾料)は、借地権を名義変更する際に地主から要求される費用です。相続は売買とは異なるため、名義変更料を支払う義務はありませんが、地主との良好な関係を維持するために支払うケースも存在します。
また、相続を機に、地主から借地権を返還してほしいと要求されるケースもあります。借地権は相続の対象になるため、返還を求められても応じる義務はありません。
【あわせて読みたい】
▶︎借地権は相続できる?評価方法や手続き・トラブル事例を解説
借地権に関するよくある質問

借地権に関するよくある質問を3つ紹介します。
- 借地権の存続期間はどのくらい?
- 借地権の売却相場は?
- 旧借地権を買ってはいけないって本当?
借地権の存続期間はどのくらい?
借地権の存続期間は、旧借地法と借地借家法によって以下の通り異なります。
| 旧借地法 | 借地借家法 | |
| 存続期間 | ● 木造:最低20年 ● 木造以外:最低30年 |
● 最低30年 |
| 更新後の期間 | ● 木造:最低20年 ● 木造以外:最低30年 |
● 初回:最低20年 ● 2回目以降:最低10年 |
旧借地法とは、1992年7月31日までに成立した借地権を指し、それ以降は借地借家法が適用されます。当事者同士によって、上記よりも長い期間を定めることも可能ですが、短い場合は無効になります。
なお、地主に正当な理由がなければ更新を拒否できないため、借地人は長期間にわたって土地を借り、建物を所有することが可能です。ただし、定期借地権の場合は定められた契約期間しか借りられず、更新はできません。
借地権の売却相場は?
借地権付き建物の売却相場は、所有権付き建物の売買価格の6〜8割程度が目安と言われています。
ただし、借地権を売却するには、地主の承諾が必要です。
旧借地権を買ってはいけないって本当?
一概には言えませんが、旧借地権を買ってはいけないと言われる理由として、以下が考えられます。
- 建物の大規模リフォームや建て替えは地主の承諾が必要になる
- 地代や更新料を支払わなければならない
- 融資を受けにくい
旧借地権を購入しても、当該不動産に関わる様々な活動に対して地主の承諾が必要になることが多いため、制約が多いといえます。また、借地権付きの建物は、所有権付きの建物よりも価値が低いため、融資も受けにくくなるでしょう。
借地権の売買は、地主と借地人がトラブルになるリスクがあることを押さえておきましょう。
借地権の概要をしっかりと押さえておこう

借地権とは、建物を建てる目的で第三者が所有している土地を借りる権利のことです。
借地権付きの建物は、所有権付きの建物よりも安く購入でき、土地の固定資産税がかからないメリットがあります。しかし、土地は借地人の資産にならず、地代や更新料が必要です。建物を建て替えたり売却したりする際は、地主の承諾を得なければなりません。
借地権を正しく理解しておかないと、地主とトラブルになる可能性が高くなるため、概要をしっかりと押さえておきましょう。
記事執筆・監修
矢野 秀一郎(やの しゅういちろう)
不動産会社で2社勤務。1社目では時間貸駐車場の開発営業を中心に携わり、2社目では不動産売買の仲介営業や、一戸建ての分譲工事のプロジェクト、および新築・リフォーム工事の現場監督など、幅広く業務を担当。現在はフリーのライターとして不動産や金融に関する内容を中心にライティング・記事監修を実施。