在留外国人が過去最高を記録
法務省の2016年3月の発表によると、2015年末時点での在留外国人数は、前年比5.2%増の223万2,189人で、統計を取り始めた1959年以降最も多かった。2009年から2012年にかけ、リーマン・ショックや東日本大震災の影響で一時的に減少したものの、概ね年2~3%程度で増加を続けている。
滞在目的でみると留学と技能実習がそれぞれ15%増えており、法務省はこの要因について、景気回復による全国的な求人増を受け、就労を目指して日本に滞在する外国人が増加した、としている。
また国内の不動産市場においては、2020年に予定されている東京五輪開催に伴う都心部の地価上昇の期待を背景に、海外個人投資家の不動産取引も増加している。2014年8月に国土交通省が発表した「海外投資家アンケート調査」によると、回答者の投資実態として、投資対象は「実物不動産」が62.7%と最も高く、ついで「私募ファンドへの投資」が27.5%、「不動産を裏付けとする債権」が23.5%、「J-REIT」が17.6%となっている。
さらなる外国人取引の増加が見込まれる中、国土交通省は、不動産の外国人取引に関連するトラブルや課題の実態等を把握することを目的に、一般社団法人不動産協会、一般社団法人不動産流通経営協会、公益社団法人全国宅地建物取引業連合会の3の団体の加盟企業を対象に「不動産売買・賃貸業務における外国人対応に関する調査」(※)を実施した。
(※)調査母数が極端に少ないため、調査結果については参考程度に留めてもらいたい。
10年前と比べて、売買・賃貸共に外国人の取引は増加
実際に外国人の売買、賃貸といった不動産取引の状況はどうなっているのだろうか。
アンケート結果によると、外国人客が取引に占める割合は、売買、賃貸ともに「0~5%未満」が80%以上を占めているが、外国人客の取引に占める割合は、年々増加する傾向にある。
2013年以降に外国人客と「売買」の取引実績があるとの回答は 67.2%、「賃貸」は 47.9%となっており、半数の会社が"外国人との取引経験がある"という状況である。
また、10年前と比べて外国人との売買取引が「増加した」と回答したのは84.9%を占めており、「減少している」は、わずか 1.1%とという結果になった。また、賃貸でも「増加している」が 60.8%と大半を占めており、「減少している」は売買よりは多いものの5.4%に留まる結果となっている。
つまり、売買、賃貸ともに外国人客が増加しており、特に売買でその傾向が強いことがわかる。
大きな割合を占める東アジア、物件の種別は住居が中心
では、取引実績がある国別の内訳はどうなっているだろうか。
売買では「中国」(本土)が70.6%で最多となっており、次いで「台湾」が53.8%、「香港」が37.8%、「シンガポール」が22.7%、「韓国」が19.3%となっている。賃貸では「中国(本土)」が45.4%、「韓国」が27.7%、「台湾」が 20.2%となるなど、売買、賃貸共にアジアの各国が上位に並んでおり、同じアジア圏でも中国(本土)、台湾、香港、韓国といった東アジアとその他アジアとの間に差が生じている。
また、売買取引で実績がある物件種別については、「区分所有マンション(住戸単位)」が59.7%で最も多く、次いで「賃貸マンション・アパート」が42.0%、以下、「一戸建て住宅」が 19.3%、「区分所有マンション(1棟単位)」が11.8%、「オフィスビル(1棟単位)」が11.8%となるなど、居住用の物件が大半を占める結果となった。
これらのことから、外国人による不動産取引は、投資だけでなく、住居としての購入、つまり実需も目的であることがわかる。
十分とはいえない外国人対応の整備状況
その一方で、外国人客向けの契約書、マニュアルといった整備状況を見ると、各事業者の対応は全体的に十分とはいえないようだ。
外国語の契約書については、「作成している」が売買で8.5%、賃貸で10.4%、外国人向けのマニュアルを「整備している」と回答したのは売買で3.8%、賃貸で1.1%にとどまっている。
また言語に関しては、「外国語(主に英語)に堪能なスタッフが在籍する」と答えた割合が32.8%(売買・賃貸の合計)を占めているものの、重要事項説明については、「社員が日本語で説明し、通訳を介して説明している」が40.3%、「仲介会社など外部スタッフに任せている」が29.4%の計69.7%が、第三者を介して行っているという状況である。
また、アウトソーシングの利用については、「外国語の書類作成」が15.1%、「外国人客が来日した際の通訳、接客応対、アテンド」が9.2%、「外国語のホームページの作成・情報更新・翻訳」が8.4%、「取引に関する日本の商習慣や法規制、費用などの説明」が8.4%となっている。「特にアウトソーシングは利用していない」との回答が68.1%と最も多くなっており、何らかのアウトソーシングを利用している企業は約3割程度にとどまっている。
さらに、「外国語のホームページを公開している」会社は18.4%、「まだ公開していないが、用意する予定」の企業が10.5%と、約3割の企業が外国語対応をしたホームページを公開している。しかし、残りの約7割は「公開しておらず、用意する予定はない」という結果となっており、事業者側の体制が未だ整っていない現状が見えてくる。
こうした理由一つが、外国人の不動産購入や賃貸契約のハードルの高さだ。商習慣が異なるのはもちろんだが、不動産や法律の専門用語が並ぶ重要事項説明書やマンション管理規約などの内容は、一般的な日本人でさえ一度にすべてを理解できるほど簡単なものではない。また、現在対応ができていない事業者にとって、日本人との取引と比較して圧倒的に少なく、これらを専門におこなう事業者が存在する外国人に向けた対応を新たに整備することは、コストや手間が見合わないというのが現実ではないだろうか。
今後、国交省では外国人客との取引を想定した実務マニュアルを作成し、媒介契約約款をはじめとする法的文書の外国語対応を進める予定だという。しかし、2016年に東京都大田区、大阪府の一部で始まった「民泊」では、騒音やゴミ出しといった外国人をめぐる生活トラブルが表面化するなど、近隣住民への理解や共存に向けたルール整備が追いついていない側面もある。旅行先での宿泊という"短期間"であってもこうした問題が起きている中、より長く住み続けることになるであろう外国人との共生は、日ごろからのコミュニケーションが必須であることは想像に難くない。
今後、外国人との不動産取引きにおいては、円滑な入居を促すだけでなく、生活習慣の違いによる住民トラブルをできる限り抑える点も同時に求められるように思う。
不動産売買・賃貸業務における外国人対応に関する調査の概要
1)調査対象
以下の団体の加盟企業に対してアンケート調査を実施した。
「不動産売買・賃貸業務における外国人対応に関する調査」
一般社団法人 不動産協会(会員数156 社、平成27年10月1日現在)
一般社団法人 不動産流通経営協会(会員数282社、平成27年11月8日現在)
公益社団法人 全国宅地建物取引業連合会※
※全国宅地建物取引業連合会の推薦した外国人取引に携わる企業(8社)に対してアン
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2)調査期間
平成27年10月~平成27年11月
3)回答状況
一般社団法人 不動産協会 回答29社(18.9%)
一般社団法人 不動産流通経営協会 回答85社(30.1%)
公益社団法人 全国宅地建物取引業連合会 回答5社
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