保育施設の定員を増やしているにも関わらず、5年ぶりに待機児童が増加

「保育園落ちた」と題した匿名のブログが国会で取り上げられるなど、いま待機児童の問題が改めて大きな注目を集めている。
こうした世相を反映するかのように、厚生労働省が平成28年3月28日に公表した「平成27年4月の保育園等の待機児童とその後(平成27年10月時点)の状況について」でも、平成27年4月の認可保育園に入ることができなかった待機児童は、平成26年4月より1,796人増えて2万3千人となり、5年ぶりに増加に転じた。

政府は、ここ数年大きく減少することがなかった待機児童問題の対策について、平成27年4月より、現状の認可保育施設に加えて、新たに地域型保育などを追加する「子ども・子育て支援新制度」を導入し、保育施設の定員も前年よりも約19万6千人増の253万人に拡大させていた。
保育施設の定員が大幅に拡大されたにも関わらず、なぜ待機児童は増えたのか。

厚生労働省 平成27年9月29日「待機児童の状況及び待機児童解消加速化プランの状況について」を基に作成</BR>
保育所等待機児童数の推移厚生労働省 平成27年9月29日「待機児童の状況及び待機児童解消加速化プランの状況について」を基に作成
保育所等待機児童数の推移

何らかの保育サービスを必要とする、潜在的な待機児童の存在

厚生労働省平成27年9月29日 「待機児童の状況及び待機児童解消加速化プランの状況について」を基に作成</BR>保育拡大量の推移と申込者数の対前年増加人数の推移厚生労働省平成27年9月29日 「待機児童の状況及び待機児童解消加速化プランの状況について」を基に作成
保育拡大量の推移と申込者数の対前年増加人数の推移

実は、保育施設の定員数と共に増加しているのが、保育施設への申込者数である。
平成23年から平成24年が6万2千人、平成24年から平成25年が4万2千人、平成25年から平成26年が5万2千人と推移していたが、平成27年4月の「子ども・子育て支援新制度」導入以降の平成26年から平成27年が13万1千人と前年比で249%と、2.5倍にまで急増している。

厚生労働省は、申込者数の急激な増加の理由として、「教育・保育サービスの提供に対し個人に対する給付化が行われ、また、サービスメニューが多様化するなどの理由から、保育サービスを受けやすくなったため」としている。
つまり、「子ども・子育て支援新制度」により保育サービスが受けやすくなったため保育施設を利用する、潜在的な需要を掘り起こしたことになる。これは渋滞緩和のために新しい幹線道路を敷いたものの、その利便性を求めて予想以上の通行量が集中した結果、新たな渋滞を招く「ストロー現象」とほぼ同様の現象が起こっているといえる。

待機児童の統計を見る上で、まず押さえておく必要があるのが「待機児童数」の定義である。なにをもって「待機児童」と言うのか、その条件によって、人数が大きく異なってしまう。
保育サービス利用者の立場であれば、希望する認可の保育所への入所ができていない児童を「待機児童」として定義したいところだが、厚生労働省が定義している「待機児童数」の要件は、「保育所の入所申込書が市区町村に提出されていること」、「入所要件に該当すること」、「実際には入所していないこと」としている。つまり、入所を諦めている場合や、やむなく無認可の保育所を利用している場合、自宅から近い施設の空きを待っている場合などは「待機児童」には含まれないのだ。
事実、厚生労働省が平成20年に全国103自治体の就学前児童のいる約12万2600世帯からの回答を集めた調査によると、0~2歳の認可保育所希望が約59万人、3~5歳では約26万人、合計85万人が存在していると発表している。
加えて、厚生労働省が発表した平成25年4月1日現在の待機児童数約2万3千人に対し、平成25年から平成29年度末までの5年間で合わせて約40万人分の保育の受け入れ枠を確保するという計画からも、保育定員が圧倒的に不足していたという状況が浮き彫りになる。

待機児童の7割が集中し、保育枠の不足が目立つ都市部

平成27年4月1日現在、日本全国の保育所の定員(保育所+幼保連携型認定こども園)が約247万5千人に対し、利用児童数が233万3千人(94.2%)と定員を割っているにも関わらず、待機児童を生んでしまう理由の一つが、待機児童の都市部への集中である。
保育サービス利用児童数を、首都圏(埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県)、近畿圏(京都府・大阪府・兵庫県)の7都府県(政令指定都市・中核市含む)の都市部と、その他道県を比較した場合、都市部では約131万8千人(55.5%)、その他の道県が約105万6千人(44.5%)と、都市圏が11ポイント上回っている。
都市部とその他の道県を待機児童数で比較した場合、その他の道県は約6千人(26.3%)に留まっているにも関わらず、都市部の待機児童は約1万7千人(73.7%)と、全待機児童の7割が都市圏に集中していることがわかる。
さらに、青森県、山形県、群馬県、新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、鳥取県、宮崎県の11県は、待機児童ゼロとなっており、待機児童数の都市部と地方都市における地域間格差が鮮明になる結果となった。

厚生労働省 平成27年9月29日「待機児童の状況及び待機児童解消加速化プランの状況について」を基に作成</BR>
都市部とそれ以外の地域の待機児童数の比較厚生労働省 平成27年9月29日「待機児童の状況及び待機児童解消加速化プランの状況について」を基に作成
都市部とそれ以外の地域の待機児童数の比較

待機児童数が最も多い東京都の状況は

東京都福祉保健局が2015年7月に発表した市区町村別の保育園の待機児童数の集計結果によると、東京都の待機児童は、7,814人(33.7%)と前年に比べて858人減少している。
東京都の各自治体の待機児童数を見ると、ワースト1位から順に、世田谷区(1,182人)、板橋区(378人)、府中市(352人)、江戸川区(347人)、足立区(322人)、調布市(296人)、目黒区(294人)、渋谷区(252人)、葛飾区(252人)、品川区(215人)となっており、これらのワースト10市区の待機児童の合計3,890人は、東京都全体の待機児童の49.8%と約半分の割合を占めている。
反対に、東京都内でも千代田区、羽村市、日の出町、大島町や御蔵島村などの15自治体は待機児童がゼロとなっており、東京都内でも市区町村によってその偏りが大きいことがわかる。

東京都福祉保健局 平成27年7月23日発表 </BR>「都内の保育サービスの状況について 区市町村別の状況」を基に作成東京都福祉保健局 平成27年7月23日発表 
「都内の保育サービスの状況について 区市町村別の状況」を基に作成

都市が抱える様々な課題を映し出す待機児童問題

政府は、1億総活躍社会の成長戦略として「女性の活躍推進」を重要な柱として位置づけており、 「待機児童解消加速化プラン」に基づき平成29年度までに約45.6万人分の保育の受け皿拡大を見込み、待機児童ゼロを目指している。

待機児童の問題解決は、女性の活躍推進を考える上で、大きな意味を持つ。
都市部を中心に女性の社会進出の増加や、夫婦の共働きが増えている状況で、保育サービスの充実によって働く環境が整うことは、少子高齢化社会において労働力の確保につながるためだ。
もちろん待機児童の増加は、申込者数の増加だけが問題ではない。保育士の慢性的な不足や、都市圏の高い地価や騒音問題を起因とした民間による保育所の新設が阻まれてしまう点など、都市が抱える課題が待機児童問題にあらわれている。

特に、保育士の不足は待機児童問題最大の課題といえる。厚生労働省によると、保育士資格を持っているにも関わらず保育現場で働かない「潜在保育士」が約70万人以上存在するとしている。この大きな理由の一つが、保育士の賃金の低さである。
同省が発表している「賃金構造基本統計調査」によると、女性保育士の賃金は全産業の女性の平均賃金と比較して、年収で50万円程度低い。また、フルタイムで働く親の増加に伴う子どもを預ける時間の長期化や、高い離職率などの悪循環が保育士の不足をより加速させている。
こうした中、保育士への待遇を改善するための対策として、政府は平成29年春から保育士の賃金を月額で約1万2,000円引き上げる方針を打ち出しているものの、他産業との賃金を比較した場合の月額1万2,000円の増額が、果たしてどれだけの効果があるのかは疑問が残る。

本格的な少子高齢化社会をむかえた今、年金や介護、医療問題といった高齢者向けの施策と共に、若年労働力の確保や、財源確保による保育士の賃金の大幅な引き上げなど、社会保障制度の改革が早急に求められている。

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2016年 05月16日 11時06分