インバウンド客の増加や、旅館・ホテルの価格高騰に伴い、各地で需要が高まる民泊。マンション・アパートのオーナーの中には、「空き部屋を有効活用するために、民泊として提供したい」と考える人も多いのではないか。しかし、民泊には騒音・ゴミ出しなどのトラブルも多く、場合によってはマンション・アパートの住民の退去など、長期的な価値の下落にもつながりかねない。
札幌市内で民泊事業を展開し、トラブル対策のための子会社も設立した株式会社エフエーの天内和幸代表に、トラブルを未然に防止するための対策や、今後の民泊をめぐる展望、国や自治体に求めることを聞いた。
宿泊者数はコロナ後、堅調に増加 米・韓・台湾からの利用者が目立つ
まずは、民泊をめぐる現状を確認したい。届出による民泊の営業は、2018年に施行された住宅宿泊事業法に基づき、全国で始まった。
観光庁の統計によると、コロナ禍の2020年度から回復を見せ、2025年度にかけて宿泊者数は堅調に増加し、2025年8月以降は1ヶ月あたりおおむね30万人前後の規模で推移している。
それと歩調を合わせるように、民泊の届出をしている住宅数(届出件数から事業廃止件数を引いた数)も増加している。2026年9月時点では、約4万3,000件となっている。
外国人宿泊者の国籍を見てみると、2026年6〜7月は米国が15%、韓国が15%、台湾が14%、中国が9%で、アジア圏からの利用者が半分程度を占めている。
外国人宿泊者の国籍を見てみると、2026年6〜7月は米国が15%、韓国が15%、台湾が14%、中国が9%で、アジア圏からの利用者が半分程度を占めている。
賃貸マンションでは実現できない“高利回り”が民泊で可能に
民泊はなぜここまで市場が拡大しているのか。そこには、インバウンド客の増加だけでは説明できない理由もあった。
賃貸マンションの一部で高級民泊施設を複数運営するエフエーの天内和幸代表は「地価の上昇に加え、建設費の高騰という社会情勢の変化に直面し、従来の賃貸マンションの枠組みでは高利回りを実現することが徐々に難しくなっていた」と、2019年に民泊に参入した経緯を語る。
天内氏によると、民泊が賃貸収入よりも高利回りを実現できる背景には、柔軟な価格変動が可能だというメリットがある。賃貸マンションの月額家賃は、景気やコストの上昇を反映しにくい。季節やイベントなどによって収入を左右されない安定感はあるものの、上昇した建築コストや地価を短期間でカバーできるほど、家賃を急に引き上げることは困難だ。
一方、住宅宿泊事業法の届出による民泊は、年間の営業日数が180日以内に制限される。月単位ではなく日単位で部屋を貸し出すため、同じ面積から生み出せる収益が高くなりやすい。さらに、内装の工夫、プロモーション、市場動向によっても柔軟な設定が可能だ。たとえば、実際に届出による民泊施設を運営しているエフエーは、周辺でコンサートやイベントが開催されて需要が一気に高まる時期には、宿泊料金を2〜3倍に引き上げることもできるという。
騒音、ゴミ出し、住民との摩擦…民泊をめぐるトラブル
ただ、民泊をめぐってはトラブルも相次いでいる。天内さんによると、一般的に以下のようなトラブルがよく発生しているという。
(1)騒音:室内での騒ぎのほか、屋外でのタバコ・移動・歓談時の声の大きさ。
(2)ゴミ出しルール違反:地域のゴミ分別・排出ルールの勘違いや指定外の場所への廃棄。
(3)チェックイン時の混乱:民泊は無人運営が多いため、「物件の場所が分からない」「解錠方法が分からない」などのトラブル。
(4)室内でのトラブル:備品の盗難、想定外の使用による汚損・破損、薬物所持などの違法行為。
(5)写真と実物のギャップ:集客のための写真加工が行き過ぎ、現地での落差を感じた客からのクレーム。
(6)賃貸・民泊併用物件での摩擦:同一建物内に定住する賃貸住民と、日替わりで訪れる宿泊客が混在することによる、日常的な騒音ストレスやトラブル。
“基本に忠実”が、業界全体の信頼向上につながる
こうしたトラブルを防ぐため、天内さんは“基本に忠実であること”の重要性を訴える。「民泊が無人運営であることを言い訳に、ゲストに野放しで自由に活動させ、問題が起きても対応を放置することがトラブル顕在化の主な原因となります。基本動作を徹底することが業界全体の信頼向上につながります」(天内さん)
具体的には、次のような方策が重要だという。
(1)事前ルールの周知徹底:チェックイン時や室内掲示などで、利用ルールをあらかじめ明確に伝えておく。
(2)迅速な連絡経路の確立:騒音などで困った近隣住民や賃貸住民が、ストレスを溜め込まず即座に連絡できる窓口・受付体制を整える。
(3)現地への駆けつけ体制の確保:無人運営であっても、トラブルや設備故障時にスタッフが現地へ急行できる体制を作る。
実際に、エフエーでは専門の子会社を設立し、それまでは外注していたクレームやトラブルへの対応、日常の見回りや設備点検、備品管理や在庫補充などに対応するようになった。ほかにも、建物の設計段階から賃貸で住む住民と民泊宿泊者の出入り口や動線を完全に分け、トラブルや住民のストレスを減らしているという。
相次ぐトラブルに規制強化の動きも、「健全な事業者を正当に評価して」
民泊をめぐるトラブルが相次いでいることを受け、観光庁などは2026年7月、全国の自治体に対し、住民の生活環境が損なわれるおそれがある場合、条例で新たな民泊営業を禁止できる旨の通知を発出した。実際に、新宿区は、住居系用途地域での民泊の新設を原則禁止する方針を示している。2027年2月の区議会に条例改正案を出して同年夏以降の施行を目指すという。
こうした動向について、天内さんは「国や自治体には、地域住民の声に耳を傾けつつも、一律に規制強化を図るだけの対応は避けてほしい」と望む。「民泊の急激な市場拡大に伴い、事業者側でも質の向上よりも量の拡大が先行してしまった側面は否定できない」としつつ、「ルールを守り健全かつ努力して運営している事業者と、そうでない事業者を見極め、健全な事業者が正当に評価され成長できる後押しをしてほしい」と語る。
そのうえで民泊をめぐる今後の見通しについて「政府の観光立国推進策やインバウンド需要の増加により、業界全体が今後も右肩上がりで成長していくことは確実」と分析し、「事業者側も儲けばかりを追求するだけでなく、地域住民の生活との折り合いをつけた物件開発や運営品質の向上に取り組んでいく必要がある」と呼び掛けている。
取材協力:株式会社エフエー








