2022年度より上昇に転じた鉄道の混雑率

国土交通省は2023年7月14日に2022年度の「都市鉄道の混雑率調査結果」を公表した国土交通省は2023年7月14日に2022年度の「都市鉄道の混雑率調査結果」を公表した

今年(2023年)5月8日より政府は、新型コロナウイルス感染症の位置づけを、2類相当から5類に引き下げた。これによって飲食店に対する営業時間短縮の要請や水際対策などがなくなり、私たちの自由度もコロナ前により近づいていくだろう。

しかしながら、脱コロナへの動きはその前から少しずつはじまっていた。その一つが鉄道の利用。2020年度から2021年度は行動制限やリモートワークの推進などで利用者が減少していたが、2022年度からは明らかに増加している。国土交通省が7月14日に公表した2022年度の「都市鉄道の混雑率調査結果」によると、コロナ前の2019年度から2020年度、2021年度、2022年度の三大都市圏の平均混雑率は以下のように推移している。

東京圏:163%→107%→108%→123%
大阪圏:126%→103%→104%→109%
名古屋圏:132%→104%→110%→118%

このように2019年度から2020年度にかけては大幅に下がっており、2021年度は同水準。ところが2022年度になると2019年度には及ばないがグンッと上昇している。

とはいえ、それぞれの区間の混雑率の推移を確認すると、元に戻りつつあるところもあれば、比較的そうでもないところもある。この違いには、ある共通した特徴が関係しているようだ。それは一体どのようなことなのか。

国土交通省は2023年7月14日に2022年度の「都市鉄道の混雑率調査結果」を公表した三大都市圏の平均混雑率の推移。コロナ禍によって減少した混雑率が、2022年度より三大都市圏とも増加に転じている

混雑率の定義

各区間の詳細を見ていく前に、混雑率とは何か、を説明しておこう。混雑率とは、ピーク時1時間の平均混雑度の割合だ。測定方法は各鉄道会社によって異なり、自動改札機や車両の重量センサーを利用する、目視するといったやり方がある。東京圏においては主要31区間、大阪圏においては主要20区間、名古屋圏においては主要8区間の平均混雑率を公表している。混雑率の目安は以下のようになっている。

100%:定員乗車(座席に着くか、吊革につかまるか、ドア付近の柱につかまることができる)
150%:新聞を広げて楽に読める
180%:折りたたむなど無理をすれば新聞を読める
200%:体が触れ合い相当圧迫感があるが、週刊誌程度なら何とか読める
250%:電車が揺れるたびに体が斜めになって身動きできず、手も動かせない

東京圏の2022年度混雑率トップ5

それでは各区間の状況を見ていこう。確認するのは各都市圏の2022年度混雑率トップ5。これらをコロナ前の2019年度と比較してみる。

まずは東京圏の2022年度混雑率トップ5と、それらの2019年度時の混雑率は次の図のようになっている。

東京圏の2022年度混雑率トップ5東京圏の2022年度混雑率トップ5

1位はJR京浜東北線の川口→赤羽間。混雑率は142%で31ポイント減少している。ここで注目したいのが4位の地下鉄東西線の木場→門前仲町間だ。同区間の2019年度の混雑率は全区間トップの199%。それが2022年度は138%と61ポイントも減少している。

大阪圏の2022年度混雑率トップ5

続いて大阪圏の混雑率は下記の通りだ。

大阪圏の2022年度混雑率トップ5大阪圏の2022年度混雑率トップ5

1位は阪急神戸本線の神崎川→十三間の134%。だが注目したいのはそこではない。3位のJR阪和(快速)の堺市→天王寺間の混雑率が2019年度と比べて14ポイントも上昇しているのだ。つまり、コロナ前よりも混んでいる。その理由は明白なので後述する。

名古屋圏の2022年度混雑率トップ5

そして名古屋圏の混雑率は以下のようになっている。

名古屋圏の2022年度混雑率トップ5名古屋圏の2022年度混雑率トップ5

1位は名鉄本線(東)の神宮前→金山間の132%。同区間の2019年度の混雑率と比較すると17ポイントも減っており、この数字でもトップ。一方で5位のJR中央線の新守山→大曽根間の減少は8ポイントでコロナ前に近づいている。

混雑しない区間を知りたいなら輸送力の増減にも注目

以上のように2019年度と2022年度の混雑率を見比べてみると、コロナ前の状態に戻りつつある区間と、そうでない区間の差が激しいことが分かる。その大きな理由の一つとして輸送力の増減がある。輸送力とは、一定の時間・区間内で何人の旅客を輸送できるかを示す能力だ。ほとんどの鉄道区間は、コロナ禍によって利用者が激減した。これにともない、1時間当たりの電車の本数を減らすなどで輸送力を削減している区間は少なくない。

例えば東京圏で1位のJR京浜東北線の川口→赤羽区間では1時間当たり25本が23本となり、輸送力も3万7,000人から3万4,040人に減らしている。その結果、混雑率の減少は31ポイントとなっている。一方で4位の地下鉄東西線の木場→門前仲町区間では本数は変わらないものの輸送力を3万8,448人から4万500人に増やしていて、混雑率は61ポイントも改善している。

輸送力の影響が非常に顕著なのが大阪圏だ。混雑率をもっとも減らしたのは4位の阪急宝塚本線の三国→十三区間で28ポイント減らしている。同区間の輸送力は2019年度、2022年度ともに2万4,768人と変化させていない。これに対しJR阪和(快速)線の堺市→天王寺区間の混雑率は、前述のように14ポイント増加。つまりコロナ前より混雑しているのだ。同区間の輸送力に着目すると、1万4,248人から8,507人と4割近くも減っている。1時間あたりの本数と1編成あたりの車両数がともに削減されたためで、この影響が大きいことは間違いないだろう。

名古屋圏については、混雑率を17ポイント減らした名鉄本線(東)の神宮前→金山区間は、車両数・本数ともに変化はなく、輸送力は2万1,996人から2万2,086人と若干増やしている。一方で混雑率が8ポイントしか減少していないJR中央線の新守山→大曽根区間では、本数は1本増えたものの車両数が2割近く減り、輸送力は1万8,045人から1万6,800人と約1割減らしている。

このように混雑率と輸送力の増減は、ある程度の比例関係がある。今後はより脱コロナが進んで都心部の混雑率は、さらに増加していくだろう。その中で住み替えを検討し、できるだけ混雑が増加しない区間を選びたいなら、「都市鉄道の混雑率調査結果」の輸送力欄も参考になるはずだ。

阪和線の列車阪和線の列車

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