自宅を売却してもそのまま住み続けることができるリースバック
2019年、金融庁のワーキンググループが作成した報告書の中に「老後は2,000万円の資金が不足する」という内容があり世間を大いに騒がせた。これらの情報をきっかけに老後資金に不安を募らせている人も多いだろう。その対策の一つがリースバックだ。リースバックとは、自宅を売却することでまとまった資金を入手でき、その後も自宅を買い取ったリースバック事業者と賃貸借契約を結ぶことで、住み慣れた家での生活を継続できるサービスである。リースバックで得られる現金に用途の制限はなく、老後資金を含めて自由に使うことが可能だ。例えばそれまで支払っていた住宅ローンを完済するという方法も考えられる。そうすれば毎月の返済のプレッシャーから解放され、生活に余裕が生まれるかもしれない。また、急に大病を患って医療費が必要になった場合などにも有用だ。
このように、将来に不安を覚える人の味方になり得るリースバックだが、さまざまなトラブル事例も報告されている。そこで2022年6月、国土交通省が「住宅のリースバックに関するガイドブック」を公表した。ガイドブックの内容を基に、リースバックの特徴やトラブル事例、利用する際の注意事項などを考えてみたい。
リースバックのメリット・デメリット
まず、リースバックのおもなメリット・デメリットを確認しよう。
リースバックのメリット
1. 自宅を売却してもそのまま住み続けられる
高齢者に限らず住み慣れた家から転居するのは心身ともに負担になるものだ。リースバックを利用すれば自宅を売却してもそのまま住み続けることができる。
2. 不動産所有にともなうコスト負担がなくなる
不動産を所有していれば毎年の固定資産税などのコスト負担が生じる。リースバックによって自宅を売却すれば、所有者は事業者になるのでそれらを負担する必要がなくなる。
3. 自宅の売却を周囲の人に知られずに済む
通常の売却は転居をともなうので、周囲の人に売却したことを知られてしまう。その際、理由を説明したり、しなければ根も葉もない噂を呼んだりと面倒なことになることもあり得る。その点、リースバックならば転居をする必要がないのでそれらを回避できる。
4. 引越し費用がかからない
転居をしないので引越しによる出費もない。
5. 自宅を買い戻せる可能性がある
愛着のある家を売却したことで後悔することもあり得る。そのようなケースに備えてリースバック契約の中には買い戻しの条件等を組み込んだものもある。
リースバックのデメリット
1. 売却価格が相場よりも安価になることが多い
そのまま住み続けられたり、買い戻しが可能など魅力的な条件がある分、売却価格は相場よりも安価になることが多い。
2. 家賃が相場よりも高くなることがある
リースバックで設定される家賃は、物件の買取価格を基準に決められることが多い。そのため、周辺の家賃相場よりも高くなることもある。
3. 設備や内外装を自由に変更できない可能性がある
所有者がリースバック事業者になるので、設備や内外装を変更する場合、その内容によっては事業者の承諾が必要になる。
4. ずっと住み続けられるとは限らない
リースバックでは定期借家契約を結ぶことも多く、契約期間が満了すればそれ以降住み続けることはできなくなる。再契約によって居住を継続させることも可能だが、事業者(貸主)がそれを拒めば退去しなければならない。
「多額の違約金を請求された」などのトラブル事例も
上記のようにメリット・デメリットがあるリースバックだが、それらをよく理解しないで契約したことによりさまざまなトラブルが発生している。「住宅のリースバックに関するガイドブック」では、次のようなトラブル事例を紹介している(要約)。
「しつこく勧誘されて約2,000万円で契約することになった。契約日に『やはりキャンセルしたい』と電話で伝えたが、『もう書類を作っているので』と押し切られた。後日、不安になり事業者へ再度解約を申し出ると『違約金が約400万円必要だ』と言われた」
「自身は高齢の一人暮らし。ある日リースバック事業者から営業の電話があり、『そちらのマンションは10年後には取り壊される』という虚偽の説明を信じて約2,000万円で契約してしまった。家賃は20万円だが、仮に10年居住すると売却代金を上回ることになる。そのため、後日キャンセルしたいと伝えたが、『キャンセルはできない』と説得されてしまった」
「年金が唯一の収入である高齢男性。ある日、事業者から勧誘を受けて自宅を700万円で売却し、家賃15万円で賃借するリースバック契約を結んだ。ところが後日、自宅の市場価値が1億2,000万円相当であることが判明した」
リースバックを利用する際の注意事項
もちろんすべてのリースバック事業者が、上記のような営業手法をしているわけではない。しかし、そのような事業者が存在することは紛れもない事実だ。そのため、事前に下記のようなある程度の基礎知識・対応策を身につけておくことが必要といえる。
リースバック以外の資金調達方法も視野に入れて検討する
自宅に住みながら資金を調達する方法は、リースバック以外にも「通常の売却をして引き渡し時期を事業者と調整する」「リバースモーゲージを利用する」などがある。後者は、自宅を担保にお金を借りるものだ。生前は利息のみを返済し、死亡後に自宅を売却または相続人によって一括返済する。それぞれメリット・デメリットがあるので、事業者や金融機関と相談しながら自分にとって最適な方法を選びたい。
キャンセルするには多額の違約金を支払う可能性があることを理解しておく
宅建業法に基づくクーリング・オフ(一定期間内の無条件解約)は、宅建業者(リースバック事業者含む)への売却時は適用されない。そのため契約をキャンセルするには、多額の違約金が必要な場合もある。契約前にしっかりと解約条件等を確認しておくことが重要だ。
家賃をいつまで払えるのか計算する
売却代金から毎月の家賃を支払う場合、いずれ底を突くことが考えられる。そのため契約前に家賃をいつまで払えるのか計算し、無理がないか確認する必要がある。
売却価格は妥当か、複数の事業者に意見を聞く
売却価格を提示された場合、事業者にその根拠や相場を聞いておきたい。また、相場から大きく外れていないか、他の事業者に意見を聞くなどして、売却価格が納得できるものか検討することが大切だ。
契約内容をしっかり確認する
希望する期間住み続けられるのか、契約書に記載された契約形態や契約期間を確認する。また、買い戻しも当然の権利ではない。買い戻しを望むなら、「いつまでに」「いくらで」買い戻せるのか、本当に買い戻せそうか、確認しておく。
その他、設備が壊れた際の修繕費を負担するのは入居者なのか事業者なのか、新たな設備の設置や改装は可能か、リースバック期間中に死亡した場合、家族や親族が相続によって原状回復等の契約上の責任を負うのかなどは、サービスによって異なる場合がある。
「住宅のリースバックに関するガイドブック」では、このほかにもさまざまな注意事項を紹介している。老後の資金に不安がある人は、契約後に後悔しないためにぜひ一読してほしい。
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