約3割の高齢者が、将来の住まいに不安を感じている

内閣府の調査によれば、高齢者のうち26.3%が将来の住まいに関して不安と感じている。特に賃貸住宅居住者ではその割合が高くなり、項目別では「高齢期の賃貸を断られる」という不安が最多だ。一方、持家居住者でも上位に「虚弱化したときの住居の構造」や「住宅の修繕費等必要な経費を払えなくなる」といった不安が挙げられており、決して不安と無縁というわけではなさそうだ(令和元年版高齢社会白書)。

高齢化が進む将来、ますます大きな社会課題となる可能性があるこの問題。高齢者自身や周囲の人がどう向き合えばよいのか、専門家への取材を通して具体的な対処法を考える記事を、シリーズ「高齢者の住まいを考える」としてお届けしたい。

1回目の本稿では、孤独死を防ぐために家族や社会ができることを考える。

孤独死が発生すると?

高齢者人口の20%近くが一人で暮らす日本の現実高齢者人口の20%近くが一人で暮らす日本の現実

秋も深まった平日のある朝、小さな不動産会社を経営するAさん夫妻は、店舖前の道路を箒で掃いた後、開店準備を終え熱いお茶を飲んでいた。
そこへ、顔なじみのBさんがバイクでとおりかかった。

「最近1階のCさんの顔を見ないの。それでね、けさ階段で1階に下りるとき、臭いがしたんです」とBさん。

不動産管理業を長らく営むAさんは、管理する賃貸マンションで何が起こったのか、すぐに状況を理解した。Aさんが所轄の警察に電話すると、「派出所から地域課の警察官を向かわせる」とのこと。そして「管理人さんは合鍵を持って、現場に来てくれ」とも加えた。

地域課の警察官はバイクですぐにやってきた。合鍵を使って室内に入った警察官はすぐに出てきた。どうやらCさんは、寝室の布団の中で亡くなっていたようだった。その後救急車が呼ばれて、死亡確認。警察から鑑識課員がやって来て、事件性の有無を調べる。室内の指紋採取など、警察の作業は夕方までかかり、Aさんはその日一日、対応に追われた。

これは、筆者が実際に遭遇した孤独死のリアルだ。
ひとりで暮らす高齢者が増え続ける今、孤独死や孤立死が大きな問題になってきている。

社会問題化する孤独死を防ぐためには、どんな方法があるのか。独居する高齢者を家族に持つ人ができることとは。高齢者の住宅問題に取組む株式会社R65 代表取締役 山本遼さんに話を伺った。

※孤独死:人が誰にも看取られずに死亡し、その後一定期間発見されないこと。行政では「孤立死」を使用することもあるが、本稿ではより一般的な「孤独死」を用いる

社会的背景と大家や家族にとってのリスク

65歳以上人口に占める一人暮らしの割合は男性13.3%、女性21.1%にのぼり、その数は増え続けている。山本さんの会社の調べでは、高齢者に部屋を貸す大家の63%が孤独死を賃貸する際のリスクと感じているという。

前出の不動産会社のAさんは、Cさんの事後処理に追われ、現場確認や人定確認のための心理的負担も大きかった。見つかるまで長く時間を要した場合には、「特殊清掃」と呼ばれる部屋の後始末や改装の費用などもかさみ、これらの費用は残された家族の負担となるケースもある。加えて、該当する部屋は「心理的瑕疵物件」となる可能性もあり、家賃を下げてもその後の入居者募集が難しくなることもある。
孤独死は結果として、家族や家主に大きな負担がかかることが多い。特に家族にとっては、身近な人が人知れず亡くなり、看取ることができなかったことで、大きな後悔を残してしまうこともある。

63%の貸主が高齢者の孤独死を賃貸経営上のリスクと考える63%の貸主が高齢者の孤独死を賃貸経営上のリスクと考える

孤独死を防ぐために、離れて暮らす家族ができること

日常のコミュニケーションが孤独死を防ぐ決め手日常のコミュニケーションが孤独死を防ぐ決め手

「人が亡くなることは避けて通れません。高齢者がひとりで暮らす限りどうしてもリスクはあります。そして、その時はいつやってくるか分かりません。そのため、日頃からの備えが必要です。民間企業や行政が提供する見守りサービスも数多く存在します」(山本さん)

山本さんの会社でも、見守りサービスを商品化している。これは、入居者の部屋の電気使用量を監視し、日常の使用量からAIが異常を感知しアラームを発信するというもの。
その他にも、室内の明かりの点灯や消灯を感知し異常を知らせるものや、電気ポットの使用状況の異常を感知しメールで知らせるものなど、高齢者を見守るさまざまなサービスがある。

身近な家電製品のIoTから、リアルな訪問確認による見守りまで、これらのサービスを利用するのも方策のひとつだ。

山本さんは言う。「なんといっても、家族ができる一番大切なことは日常からコミュニケーションを大切にすることです。毎日長く話す必要はありません。チャットアプリで一言でもいいのです。既読が付けばそれで生存がわかりますから」

孤独死にならないための地域社会とのつながりとは

高齢者問題に果たす不動産会社の役割は大きいと話す 株式会社R65 代表取締役 山本遼さん高齢者問題に果たす不動産会社の役割は大きいと話す 株式会社R65 代表取締役 山本遼さん

都市、地方を問わず高齢社会となった日本。介護福祉の現場だけでなく、高齢者が集まるふれあいの場も数多くある。

「独居する高齢者の方たちには、友達や知り合いを多く持ち、日常から人とのコミュニケーションを欠かさないライフスタイルを心がけてほしいですね。なんでも相談できる人が一人いれば、相手からも日頃から何かと気にかけてもらえるはずです」(山本さん)

高齢者の中には、他人と触れ合うことが苦手な人もいるだろう。実際、行政の見守り活動に対して「見守られたくない」と感じる人もいると聞く。不動産会社を経営する山本さんは、そのコミュニケーションは大家さんと不動産会社さんの間でもいいという。

「大家さんと店子の関係は、昔は親子に例えられていました。今はもうそういう時代ではないかもしれませんが、コミュニケーションが希薄化し、その結果として孤独死、孤立死が社会問題化する現状では、例えば、住宅をお世話する私たち不動産会社がその役割の一端を担えればと考えます。高齢者のことを理解し、日常の些細なことでも相談にのれる不動産会社をネットワークし、住宅問題を解決したいと考えます」(山本さん)

山本さんの会社が集めたデータによれば、賃借人(いわゆる大家)の70.2%が、独居高齢者の入居に拒否感を持つという。今では、行政など公的機関やNPOなど、高齢者の孤独死の防止に向けたさまざまな施策が動き出している。しかし、情報共有における行政機関間の連携の問題や、見守りに際するプライバシーの問題など、解決しなければならない課題も多いという。

「居宅で亡くなることは悪いことではありません。周りに過大な負担を及ぼす不幸な死をなくすことが大切です」と山本さんは語る。その実現には、1にも2にも生前の人間関係ではないだろうか。離れて暮らす家族による見守りや、地域社会とのつながりによって、少しでも不幸な死を減らせないだろうか。今の時代のライフスタイルがそれを難しくしているのであれば、賃借人と賃貸人というかつては人間関係に根差した関係性の中で大家や不動産会社が担っていた社会的役割も、その役に立つのではないかと、筆者は考える。

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