不動産の心理的瑕疵に関する初のガイドライン
2021年10月8日に、国交省より「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」が公表された。
ガイドライン作成の背景としては、不動産取引にあたり、取引対象の不動産で生じた人の死について適切な調査や告知に係る判断基準がないことが、特に高齢者に対する民間賃貸住宅の斡旋を阻害している一つの要因になっていることがあげられる。
具体的には、所有する物件で入居者が死亡した場合に、それが、たとえ自然死であったとしても、事故物件として扱われるのではないかと家主や管理会社が思うことで、単身高齢者の入居を拒絶するようなことが起こっている。
全国宅地建物取引業連合会が2018年に行った調査でも、単身高齢者の住宅斡旋について消極的な理由で、「大家の理解が得られない」ということが5割以上を占め、理解を得られない理由の9割近くが「孤独死の恐れがあるから」という回答だった。そのようなことから国交省は「不動産取引に係る心理的瑕疵に関する検討会」を開催し、宅建業者の判断基準を策定するための議論がなされた。
以下ガイドラインの内容を抜粋したい。
人の死が生じた不動産の取引に際する、宅建業者の調査の範囲
このガイドラインでは、人の死がその取引の判断に及ぼす影響度合いが高い”居住用不動産”を対象にし、その上で、過去に人の死が生じた不動産の取引に際して、宅建業者が宅建業法上負うべき義務の解釈について、現時点で一般的に妥当と思われるものを整理している。
ガイドラインのポイントとしては以下の点があげられる。
まず、物件調査について。宅建業者が媒介を行う際には、売主・貸主に対して、告知書(物件状況等報告書)などの書面に過去生じた事案についての記載を求めることで、通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとする。この場合、告知書等に記載がなかった事実が後日判明しても、宅建業者に重大な過失がない限り、人の死に関する事案に関する調査はされたものと解釈する。
したがって、取引の対象となる不動産における人の死に関する事案の有無に対し、宅建業者は原則として、売主・貸主・管理業者以外に自ら周辺住民に聞き込みを行ったり、インターネットサイトを調べるなど自発的な調査義務はないとしている。
自然死や日常生活の中での不慮の死は告げなくてもよい
次に告知についてである。
告げなくてもよい場合としての条件としては、以下のように示された。
①賃貸借及び売買取引の対象不動産において発生した自然死・日常生活の中での不慮の死(階段からの転倒事故、食事中の誤嚥、入浴中の溺死など)が発生した場合
老衰、持病による病死など、いわゆる自然死については、居住用不動産において当然発生することが予想されるし、裁判例においても、自然死について心理的瑕疵への該当を否定したものが存在することから、買主・借主の判断に重要な影響を及ぼす可能性は低いと考えられる。また、事故死に相当するものでも、転倒事故や誤嚥など、日常生活の中における不慮の事故は当然予測されるものでなので、自然死と同様原則として告げなくてもよいとした。
しかし、自然死や日常性の中での不慮の死が発生した場合でも、人が死亡し、長期間放置されたことに伴い、特殊清掃や大規模リフォーム等が行われた場合は、買主・借主の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられ、宅建業者は買主・借主に告げなくてはならない。
②賃貸借取引の対象不動において、①以外の死が発生または特殊清掃等が行われることとなった①の死が発覚して、その後概ね3年間が経過した場合。
①以外の死が発生している場合、または①の死が発生し特殊清掃等が行われた場合、いつまで事案の存在を告げるべきかについては、その事件性、周知性、社会に与えた影響等により変化すると考えられるが、賃貸借取引においては過去の判例等を踏まえ、概ね3年間を経過した後は、原則として借主に告げなくてもよいとした。
なお、借主が日常生活で通常使用する必要があり、借主の住み心地に影響を与える集合住宅の共用部分も、賃貸借取引の対象不動産と同様に扱う。
③賃貸借及び売買取引の対象不動産の隣接住戸または借主・買主が日常生活で通常使用しない集合住宅の共用部分で、①以外の死が発生した場合又は①の死が発生して特殊清掃が行われた場合。
買主・売主から問われた場合や把握しておくべき特段の事情がある場合の考え方
そして、上記①~③のケース以外の場合は、宅建業者は、取引の相手方に重要な影響を及ぼすと考えられる場合は、買主・借主に対してこれを告げなくてはならない。なお、告げる場合は、告知書等の調査を通じて判明した範囲で実施すればよく、事案の発生時期、場所、死因(不明の場合はその旨)及び特殊清掃が行われた場合はその旨を告げる。但し、その場合でも調査の時点で売主・貸主・管理会社に照会した内容をそのまま告げるべきであり、売主・貸主・管理会社から不明であるとの回答または無回答の場合は、その旨を告げれば足りるものとする。
但し、告げなくてもよいとした①~③の場合でも、事件性、周知性、社会性に与えた影響等が特に高い事案は告げる必要がある。また、人の死の発覚から経過した期間や死因にかかわらず、買主・借主から事案の有無について問われた場合や、社会的影響の大きさから買主・借主において把握しておくべき特殊の事情があると認識した場合は、取引の相手の判断に重要な影響を及ぼすと考えられるため、告げる必要がある。その場合も、告知書等の調査で判明した内容を告げればよい。
ただ、告げる場合は、亡くなった方やその遺族の名誉や生活の平穏に十分配慮し、不当に侵害することがないよう留意する必要があり、氏名、年齢、住所、家族構成や具体的な死の様態、発見状況は告げる必要がない。さらに、買主・借主に告げる場合は、後日のトラブル防止の観点から書面の交付等によることが望ましいとしている。
単身高齢者に対する民間賃貸住宅の斡旋がよりスムーズになるように
居住用不動産における人の死が、心理的瑕疵に該当するか否かは、事案の内容や状況によって異なり、その判断は時代や社会によって変化する。
また、その評価は買主・借主の内面で判断されるので、取引にどのような影響を及ぼすかは当事者ごとに異なる。そのため、不動産取引において人の死の存在が疑われる場合、それを買主・売主に告知すべきかどうかの判断基準が明確でなく、宅建業者によっては人の死に関する事案をすべて告げているケースもあり、その対応の負担が過大であるとの指摘もあった。
その意味で、単身高齢者に対する民間賃貸住宅の斡旋がよりスムーズになるように、人の死の告知に関するガイドラインが国交省から示されたことは大きいものがある。
■国土交通省
「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定しました
https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo16_hh_000001_00029.html
■ガイドラインの概要
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001427709.pdf
■宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001426603.pdf
公開日:





