課題の拡張、性能向上が最近の流れ

あらゆること、モノがコロナ一色だった2020年。当然ながら8回目を迎えるリノベーション・オブ・ザ・イヤーにもその影響は大きかった。だが、応募作品の紹介、結果発表、講評を聞いて思ったのはリノベーションには社会の変化にポジティブに対応する力があるということである。それを説明するために、ざっとこの数年間の変化、課題をおさらいしておきたい。

何年か続けて審査を見ているのだが、リノベーション・オブ・ザ・イヤーには大きく2つの変化、流れがある。ひとつはリノベーションの対象となるものの拡張である。当初は住戸単体、個人の暮らしのリノベーションが中心だった気がするが、それが徐々に広がり、地域の課題が対象となり、さらに今回は社会の課題、地域の将来、これからの働き方や家族の在り方までもが対象として考えられるようになってきている。

審査員のひとり、スーモ編集長の池本洋一氏は「今後のリノベーション・オブ・ザ・イヤーでは地域の活性化だけでは足らず、そこにもうひとつかふたつの要素を掛け算し、複数の課題解決が求められるようになるのでは」と感想を述べていたが、年々取り組む課題が大きく、複雑になっているのである。

もうひとつの流れはこの何年かで加速した住宅性能の向上。もともと古い建物をいじることが多いリノベーションではどこまで建物の性能を上げるかは常に課題だったはずだが、初期にはさほど気にされていないように見えた。だが、ここ3~4年、性能向上、特に温熱環境への配慮は必須と思われるようになってきている。社会の変化を受けたものであることはもちろん、リノベーションを広く認知、選択してもらうためには避けられない道である。加えて2020年は在宅時間が増えたことで多くの人がこれまで以上に住まいに目を向けるようになった。そこで快適であるかどうかは大きな意味を持つ。これまでの流れが今回、コロナ禍でよりクローズアップされることになったわけである。

以下の本文で取り上げられなかった作品を写真でご紹介。左上から時計回りに、地方創生リノベーション賞「旧藩医邸を癒しの温泉宿に再生城下町アルベルゴディフーゾへの挑戦」(paak design株式会社)、1000万円以上部門最優秀賞「Old & New 古くて新しい・古民家のカタチ」(株式会社ラーバン)、ニューノーマルライフスタイルデザイン賞「山と渓谷、エクストリーム賃貸暮らし。」(株式会社ブルースタジオ)、1000万円未満部門最優秀賞「日曜漁師」(株式会社オレンジハウス)以下の本文で取り上げられなかった作品を写真でご紹介。左上から時計回りに、地方創生リノベーション賞「旧藩医邸を癒しの温泉宿に再生城下町アルベルゴディフーゾへの挑戦」(paak design株式会社)、1000万円以上部門最優秀賞「Old & New 古くて新しい・古民家のカタチ」(株式会社ラーバン)、ニューノーマルライフスタイルデザイン賞「山と渓谷、エクストリーム賃貸暮らし。」(株式会社ブルースタジオ)、1000万円未満部門最優秀賞「日曜漁師」(株式会社オレンジハウス)

グランプリは在宅が苦にならないコンパクトで快適な住まい

そうした流れを踏まえた上で総合グランプリ作品「リモートワーカーの未来形。木立の中で働く。住まう。」(株式会社フレッシュハウス)を見てみると、60m2弱の木造平屋というコンパクトな住まいの中に過去からの課題と変化しつつある社会への対応がいずれもうまく盛り込まれていることが分かる。

立地するのは山梨県の別荘地。築50年ほどの、空き家になって久しい建物は雨漏りその他不具合も多数。その建物を親族間での話し合いで使うことになったのは当時四国在住で、駅までの近さや都心への利便性など住む場所に限定されない仕事をしているオーナーのお孫さん。室内で過ごす時間が長くなることから、傷んでいた部分を修復するだけではなく、建物をスケルトンにして耐震性能、断熱性能をアップして快適、安心な住まいに。

室内は広いリビングと趣味を楽しむアトリエ兼寝室である個室というシンプルな構成ながら、リビングには一段低くなったステップダウンフロアを設け、いる場所、座る位置によって見える風景が変わる仕掛けも。長時間、家に籠っていても、家の中だけで気分転換ができるというわけである。

限られた空間の中での在宅ワークでもオン、オフがうまく切り替えられる事例だったわけだが「今後、オン、オフの切り替えは課題になっていくのではないか」と審査員でRoomClip mag 編集長の徳島久輝氏。グランプリ作品はコンパクトとはいっても60m2弱あり、しかも豊かな自然環境に恵まれた立地である。だが、都心のワンルームで同様の住環境を手に入れるためにはどうすればよいか。来年以降、それに取り組む事例を見たいものだ。

総合グランプリの「リモートワーカーの未来形。木立の中で働く。住まう。」株式会社フレッシュハウス。小さな住まいの中にさまざまな課題解決が盛り込まれた総合グランプリの「リモートワーカーの未来形。木立の中で働く。住まう。」株式会社フレッシュハウス。小さな住まいの中にさまざまな課題解決が盛り込まれた

地域課題だけでなく、社会課題への取り組みも

課題の拡張という意味ではいくつか印象的な作品があった。ひとつはニューノーマルワークスタイルデザイン賞を受賞した株式会社LIFULLの「働く場所から、自由になろう。」。タイトルから分かる通り、この作品での課題は地域を超え、社会全体に及んでいる。私たちのこれまでの働き方という過去と言い換えてもよいだろう。ここまで大きなものもリノベーションできるのである。

具体的には全国各地の遊休不動産を利活用した多拠点Co-Living「LivingAnywhere Commons」という仕組みで、現在8拠点が稼働中。コロナによるテレワークの浸透で利用者は急増しており、9月度は1拠点400宿泊ほど利用があったという。利用者の中心は20~30代。各拠点にコミュニティマネジャーが滞在、利用者と地域を繋ぐことはもちろん、そこから共創型のプロジェクトが生まれ、参画できるのも特徴とも。遊休不動産、働き方に加え、地域の課題解決にも繋がる、トリプルで社会の変化をリードする仕組みというわけだ。

もうひとつ、無差別級部門最優秀賞の「SWEET AS_スポーツを中心に地域コミュニティが生まれる場所」(リノベる株式会社)のリノベーションに至るまでの背景と課題意識、目指す未来までへの長い展望にも驚かされた。

同作品は山口県長門市にある築45年の約3,100m2の元鉄工所をカフェレストラン、バー、バスケットボールを中心とした多目的スポーツコートを備えた複合施設へ用途変更したもので、外国人選手も多く所属する地元女子ラグビーチームが運営に当たっている。このチーム自体が多様性の無さ、男尊女卑などといった地方都市にありがちな地域課題への解決を目指したものであり、年齢、性別、国籍その他を問わない人たちが集まる施設は地域のコミュニティを育む場として計画された。さらに地元高校生の通学路に立地することから、進学のために地元を離れる高校生たちが将来地元に帰ってきたくなるような、誇れるコミュニティ、場を作ることも意図している。すぐには成果の出ない課題ではあるが、長い目で期待したいものである。

左の2点はニューノーマルワークスタイルデザイン賞の「働く場所から、自由になろう。」(株式会社LIFULL)、右の2点は無差別級部門最優秀賞の「SWEET AS_スポーツを中心に地域コミュニティが生まれる場所」(リノベる株式会社)左の2点はニューノーマルワークスタイルデザイン賞の「働く場所から、自由になろう。」(株式会社LIFULL)、右の2点は無差別級部門最優秀賞の「SWEET AS_スポーツを中心に地域コミュニティが生まれる場所」(リノベる株式会社)

常識をひっくり返す作品も多数

「常識をひっくり返す」ことがテーマになった2作品にも共鳴した。ひとつはシェアリングリノベーション賞の「賃貸(RENT)の常識をひっくり返す!TNER(エコラ+リビタ)」(株式会社エコラ)。これまでの賃貸市場では借りた空間は借りた人だけが使えるものとされてきたが、同物件では借りた空間を他の人に又貸しすることができる。ひとつの空間を無駄なく複数人で利用することで各人の負担が軽減できるという仕組みなのである。この仕組みが面白いのは借りる人、又貸しする人にとってお得なだけでなく、貸せることを前提にすることで家賃を高く設定でき、建物所有者にもうれしいという点。誰もが得できるのである。

「マーケティングリノベーション賞」の「完成度90%で販売する『未完成住宅』」(9株式会社)は商品とは完成されているものであるという常識をさらりと裏切る作品。審査員でLIMIA編集長の藤島由希氏は「この状態で売ってしまうんだと衝撃を受けた」とそのインパクトの大きさを2度口にした。同時に未完成とは可能性を残すということであり、過程こそがリノベーションと考えれば、そこに楽しさがあるとも。分譲のみならず、賃貸でもこうした物件が増えてくるとリノベーションを楽しむ層も増えそうである。

ちなみに9株式会社はもうひとつ、「予約殺到のトレーラーホテル。PFIによるビーチリノベーション。」で公共空間リノベーション賞も受賞している。都市近郊立地、移動可能で各戸が独立したトレーラー・コンテナハウス利用などが三密回避、マイクロツーリズムといった最近の潮流にうまくマッチしたことが成功の理由というが、トレーラーハウスはこのところ人気のキーワード。今後、もっと利用される契機となるかもしれない。

左の2点はシェアリングリノベーション賞の「賃貸(RENT)の常識をひっくり返す!TNER(エコラ+リビタ)」(株式会社エコラ)、右上はマーケティングリノベーション賞の「完成度90%で販売する『未完成住宅』」(9株式会社)、右下は公共空間リノベーション賞の「予約殺到のトレーラーホテル。PFIによるビーチリノベーション。」左の2点はシェアリングリノベーション賞の「賃貸(RENT)の常識をひっくり返す!TNER(エコラ+リビタ)」(株式会社エコラ)、右上はマーケティングリノベーション賞の「完成度90%で販売する『未完成住宅』」(9株式会社)、右下は公共空間リノベーション賞の「予約殺到のトレーラーホテル。PFIによるビーチリノベーション。」

個人的に気になったのは「立地性能」

最後に恒例(?)の個人的に気になった作品、キーワードなどをご紹介したい。まず、物件としては500万円未満部門最優秀賞の「サスティナブルにスマートハウス」(株式会社シンプルハウス)。面白いと思ったのは残置物のうち、価値のあるアンティーク家具をお金に換える、使える建材を再利用するなどで廃材を減らし、コストも削減するというやり方。中小事業者がこまめに作業するリノベーションでこそできることであり、今後、このやり方が普及していってほしいと思う。

また、総合グランプリ以外にもコンパクトプランニング賞の「団地育ちの原風景」、ユーザビリティリノベーション賞の「この先もつづく日常に根ざした家」(いずれも株式会社grooveagent)その他、限られた空間の上手な使い方を提案した作品が目についた。審査員のLIVES編集長の坂本二郎氏のコロナ禍で「家族がみんな一緒にいることでのストレスもあった」という指摘を考えると、それを軽減できる住まいが必要とされているのだと実感した。

キーワードとしては審査委員長の島原万丈氏が口にした「立地性能」という言葉を挙げたい。今回候補として残っていた作品のうちに地域の防災拠点があったそうだが、ハザードマップでみると安全とは言い難い立地。それを賞していいかということになり、取り上げないことになったというが、「今後は立地も性能のひとつとして大事になっていくのではなかろうか」と島原氏。

幸いにして2020年はコロナには見舞われたものの、激甚災害の比較的少ない年だった。だが、しばらく続くと思われるコロナ禍でこれからも災害が起こらないとは考えにくい。同時に襲われたときに大事なのは在宅避難を可能にすることだろう。そう考えると上物だけでなく、地べたをも見る意味は大きい。性能向上がここ何年かで一般化したと同様に立地への意識も一般化していくことを望みたい。

リノベーション・オブ・ザ・イヤー2020 受賞作品一覧
https://www.renovation.or.jp/oftheyear/award.html

左上は500万円未満部門最優秀賞の「サスティナブルにスマートハウス」(株式会社シンプルハウス)、左下と間取り図はユーザビリティリノベーション賞の「この先もつづく日常に根ざした家」(株式会社grooveagent)。左下のデスクが間取り図の上部、玄関近くにあるもので、バルコニー側にもうひとつのデスクが用意されている左上は500万円未満部門最優秀賞の「サスティナブルにスマートハウス」(株式会社シンプルハウス)、左下と間取り図はユーザビリティリノベーション賞の「この先もつづく日常に根ざした家」(株式会社grooveagent)。左下のデスクが間取り図の上部、玄関近くにあるもので、バルコニー側にもうひとつのデスクが用意されている