地元住民と移住者が交流できる、町の中の「村」

北海道・十勝地方の林業が盛んな足寄町の中心部。町役場から歩いて5分ほどの場所に、新しい〝村〟ができた。手に職を持ち、ものづくりでの起業を目指す移住者を呼び込み、地域の人とかかわりながら暮らしてもらう新しい拠点「はたらくものづくり村」。若手の地元工務店社長が地元の仲間と構想を練り上げ、地域住民と移住者が多目的に使えるコミュニティスペースと、単身で使いやすい移住者向けシェアハウスの平屋2棟を新築した。今後は家族向けの生活棟や広場も整備される。

はたらくものづくり村の敷地面積は1,921m2。コミュニティスペース「かってば」(約66m2)とシェアハウス「ながや」(約89m2)の2棟があり、2019年6月にオープンした。

「かってば」という名前には地域に開かれ、自由気ままに使ってもらおうという思いを込めた。カウンターキッチンや大きなテーブル、キッズスペースを備え、料理教室やものづくりワークショップ、イベントや会議などの利用を想定している。普段はカフェ・パブとしても稼働。はたらくものづくり村の運営を手がける佐野健士さんは「好き勝手に皆で集まって楽しめる場所って、意外にありません。一般的な飲食店なら決まったメニューを頼まないといけないし、誰かの家では気軽に楽しめないこともあるので、その中間を埋めるコミュニティを繋ぐ場所にしたいです」と言う。

スタイリッシュな「かってば」の外観(左上)。ミーティングに便利な大きなテーブル(右上)や、古材を再利用した梁(左下)、カフェ・パブ(右下)などがあるスタイリッシュな「かってば」の外観(左上)。ミーティングに便利な大きなテーブル(右上)や、古材を再利用した梁(左下)、カフェ・パブ(右下)などがある

手仕事が詰まった建築へのこだわり

「ながや」は、移住者や短期・中期で滞在するための施設。3部屋あり、家財道具は一式そろい、居間や浴室、トイレは共用となっている。「かってば」と同様に木材をふんだんに使い、温かみのある雰囲気が特徴だ。ホームページやイベント、町内外の十勝地方の人脈を生かし、入居者を募集している。「かってば」に隣接しているため、今後はそこに集う地元住民と交流することも想定されている。

費用を負担して建物を施工し、施設を管理している株式会社木村建設の木村祥悟社長は「地域の人が入りやすい『かってば』と居住棟の『ながや』が互いを補い合い、中と外の人が交ざりあうことで、地域に根を張ったものづくりのインスピレーションを生むことを狙っています」と話す。2020年度内を目標にファミリータイプの居住施設「おもや」と、多目的に使える「ひろば」も完成させる予定という。

木村建設は、地元足寄町で1966(昭和41)年に創業。大工である木村さんは3代目で、北海道の気候風土に合った日本の伝統的な家づくりを提案している。得意とするのは釘や金物にできるだけ頼らず、木と木を組んで接合させる「木組みの家」。伝統的な工法と、現代の断熱技術やデザインを融合させた。

はたらくものづくり村では、大黒柱や梁には同社がかつて造った作業小屋で使われていた古材を再利用し、構造材には近郊の十勝産のカラマツ材を使った。「古いものと新しいものを組み合わせることや、地元の素材を使うこと、職人による手仕事を通じて、起業を目指す作り手にとって刺激になれば、という思いもあります」と木村さん。町外のデザイナーとタッグを組み、はたらくものづくり村は、2019年度グッドデザイン賞に輝いた。

かってばに隣接する「ながや」(左上)。窓の大きなリビング(右上)や共有キッチン(左下)、寝室(右下)と必要な機能がすべてそろうかってばに隣接する「ながや」(左上)。窓の大きなリビング(右上)や共有キッチン(左下)、寝室(右下)と必要な機能がすべてそろう

プレイヤーを増やすために、呼び込もう

手仕事や伝統工法にこだわることで「作り手にとって刺激になれば」と言う木村さん手仕事や伝統工法にこだわることで「作り手にとって刺激になれば」と言う木村さん

木村さんは京都で宮大工として5年間、経験を積んだ。代々受け継がれる技術を身に付けたことで、地元で若手に技術をつないでいく大切さを痛感。家業を継ぐため、2009年に足寄に帰郷した。

これまでの経験から、効率重視で規格品のみ使い、作っては壊すを繰り返すような「消費型の家づくり」に疑問を抱くようになった。仕事で心がけているのは、職人の技術でメンテナンスをしながら100年以上の長きにわたり使えるような家づくり。技術を次世代に残さないと建物が残らないため、地域での仕事を長く残すことにもつながる。

木村さんは、公共事業の先細りを見越して事業のやり方を変え、民間工事の受注に特化した。その一環で、2017年に自らの技術の粋を集めたモデルハウス兼自宅を建て、関心を寄せる人を招いていた。ただ、より心置きなく公開できる場をほしいと思っていたこともあり、2017年夏ごろから土地を探すようになった。

「せっかく建てるなら、まちの課題と絡めたものを」と考え始めた木村さん。どんな場にするべきかを佐野さんをはじめとする仲間と話し合う中で、「足寄にはプレイヤーが少ない」という問題意識を共有した。「デザイナーやクリエイティブ系の人、家具職人、木材加工職人など、手に職を持った人がいない。地域を元気にする担い手になるような、補助金に頼らず自力でチャレンジできる現役世代に来てもらおう」と考え、「移住」と「働く」というキーワードが浮かんだ。

やがて、移住者と地域が交流する場をつくり、1ヶ月からお試しで気軽に住むことができて起業の足がかりとなる役割も持たせようと「はたらくものづくり村」の構想が具体化。働く移住「者」と「物」づくりを掛け合わせた。

ハブとしての「緩やかな革命」を

はたらくものづくり村を「まちのハブに」と話す佐野さんはたらくものづくり村を「まちのハブに」と話す佐野さん

プレイヤーや後継者不足など、足寄の抱える問題は多いが、木村さんや佐野さんには、「地域を変える」という力のこもった使命感をまとっているわけではなさそうだ。

佐野さんは、2017年3月に移住し、町内で狩猟体験のできるゲストハウス「ぎまんち」を開業した儀間雅真さん、芙沙⼦さん夫妻のスタンスを例に挙げる。「法改正で民泊を開きやすくなったのに、足寄にはありませんでした。阿寒地域など道東へ向かう観光客が多く、ハンターは多いのに鹿肉の商品化には成功していない。誰もやっていないから、『じゃあやろうかな』という儀間さんのような感覚が、やがて地域を変えていくと思います」と佐野さん。

その上で、「足寄にどんな素材やどんな人がいるのかという情報を集め、移住者や訪れた人に紹介したり、外にも届くように発信したりするハブにしたいと思っています」と展望を語る。

プレイヤーが少ないならば、地域に直接つながれる緩やかなコミュニティーをつくることで、外から引き寄せよう。行政とは違った、独自の〝村おこし〟が始まった。

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