市場ニーズに応え、設備水準を向上するためのリノベーション
大阪府住宅供給公社は、大阪府下の公社賃貸住宅約21,000戸を管理・運営する会社だ。管理する物件は、北は箕面、南は熊取と幅広いが、昭和40~50年代に建設された団地のストックを多く抱えており、特に郊外の空き室が多いという。少しでもコストをおさえた団地再生を大きな課題とするなか、今年の6月に「ストック活用実施計画」と銘打ち、積極的に活用を開始した。
その一端として、タカラスタンダード株式会社と共同で設備の全面リニューアルを検討、今回高槻市の下田部団地にリノベーションを施し、「女性が暮らしやすい家」を実現したという。
10月11日、12日に現地内覧会が開催されたので、お邪魔させていただいた。
お話を聞いたのは、広報担当の片山眞規さんと尾崎寧彦さん、そして設計担当の善家美紀さんの三人。コンセプトは「女性が暮らしやすい家」としているが、実質としては若い人が住みたい部屋を目指したそうだ。
団地に若い住人の呼び込みは不可欠
「近年、団地コミュニティの弱体化が心配されています。団地の多くでは、自治会でさまざまな決めごとをしたり、イベントを開催したりしているのですが、一般的な賃貸住宅に比べると長く住んでいただいている方が多く、高齢化が目立っています。だからこそ、若い人の力が不可欠なのです」と尾崎さん。
しかし少子化の影響や、そもそも既存の団地が若い人に受け入れられる仕様ではないため、若い世帯の入居はなかなか伸びないのだという。たとえば、団地の間取りは和室の3DKが多いが、家族数の少ない若い世帯には、部屋数より広さが求められており、1LDKや2LDKの部屋が好まれるそうだ。
そこでこの内覧会では2LDKと1LDK+フリールームの2タイプを用意したところ、子供のいる家庭にはフリールームのあるタイプが人気で、夫婦だけの家庭は和室のある2LDKタイプが人気だったそうだ。
住人から不満の出やすいのは浴室だ。じめじめしていてカビが発生しやすく、寒いという意見もあるとか。これまでは改修で対応していたが、コンクリートの上に塗装しただけでは、湿気で塗装はがれやカビがはえて見栄えが悪かった。そこでこのモデルルームにはユニットバスを導入、タカラスタンダードの高品位ホーロー製品のためカビが発生しづらく、傷もつきにくい。さらに壁には保温材が入っているので冬でも暖かいという。また、お風呂・洗面・キッチンの三点給湯と、システムキッチンを標準装備した。
ただ若い世帯が入居しても、高齢層とのコミュニケーションがうまくとれるかと課題もありそうだが、尾崎さんに聞いてみると、
「『きずなづくり応援プロジェクト』を立ち上げて、多世代交流の後押しをしています。このプロジェクトは、公社と自治会が協力し、NPOや社会福祉協議会を通じてイベントを作り上げるもの。イベントでは高齢者が子供におもちゃづくりを教えたりして、古くからの住民と若い世帯が交流できたと思います」という。
団地の入居者向けに発行される『賃貸住宅だより』でプロジェクトを広報して希望を募っており、去年は計4回開催。今後も年に4回を目標としている。これをきっかけに新しいイベントが生まれているかどうかはまだ未調査だそうだが、どの世代にもおおむね好評で、「また開催してほしい」という感想が届いているそうだ。
女性目線の間取りと設備
今回のリノベーションのこだわりは、なんといっても女性目線だろう。善家さんによれば、
「女性は家にいる時間が長いですから、1.家事を楽しく、2.エコロジー、3.デザイン性の三点に、特にこだわりました」とのこと。
たとえば、サッとひとふきできれいになるシステムキッチンを導入して清掃性の良さを追求、さらに間取りに工夫をして、家事動線の良さを考えた。
そしてタカラスタンダードのユニットバスを標準装備してエコロジーに考慮。天井24ミリ、壁16ミリもの厚さの断熱材が入っており、暖房がなくても暖かい。団地の特性上太陽光パネルの導入は難しいそうだが、その代わり節水にもこだわったそうだ。節水型水洗トイレは、便器の形状やこびりつきにくい材質などの工夫で、従来品の58%を節水。さらに気泡を入れることで、従来通りの使用感ながら節水できる水栓(蛇口)を設備しており、キッチンは17%の節水、浴室は15%の節水となる。もちろん、浴室の明かりはLEDだ。
「デザインは流行を意識し、壁なども明るいナチュラル色を使いました。誰にでも受け入れられやすいように、清潔感のある明るさを目指しています」と、善家さん。
洋室の床はフローリング風のクッションフロアーなので、おしゃれな雰囲気なのがうれしい。
今後もさまざまな設定で「女性が暮らしやすい家」を展開
来場者は子ども連れの家族が多く、「住みやすそう」という評価が多かった。今後も市場のニーズをとりいれながら、さまざまなタイプ、さまざまなグレードの「女性が暮らしやすい家」を提供していく予定だそうだ。
団地は家賃の手頃さが魅力だが、ゆとりある敷地設計と緑の多い環境、また風通しが良いなどの住み心地は大きな長所だろう。
「マンションやアパートは、隣室に接しない面の片側には廊下が設置されていることが多く、大きな開口部を設けにくいのです。その点団地は、複数の階段を部屋と部屋の間に配置しているため、隣室と接しない両サイドに窓を設置でき、プライベートを確保しつつ光を採り入れられ、風通しも良いのです」と、尾崎さんは教えてくれた。確かにどの部屋も明るく、開放的な雰囲気だ。
今後も女性が住みやすい家をコンセプトに住人の反応を丁寧にすくい上げ、反応の良かった部分を重点的にリノベートしつつグレードに変化を持たせ、さまざまな家賃需要にも対応していく予定だという。
「住みやすい家」にはさまざまな切り口があり、いろいろな工夫がされているなか、昔ながらの雰囲気を残す団地でも、使い勝手だけでなくデザインまで考えられた住宅が生み出されている。今後、ますます選択肢の広がりを期待できそうだ。
公開日:





