移住に新たなジャンル登場か?

20~30代のゆるい移住希望者が参加した東京説明会。冒頭、鯖江市の地方創生戦略室 室長 齋藤邦彦氏が挨拶20~30代のゆるい移住希望者が参加した東京説明会。冒頭、鯖江市の地方創生戦略室 室長 齋藤邦彦氏が挨拶

最近「移住」という言葉を耳にする機会が多いと思う。地方創生の中で、Iターン、Uターン、Jターンなど「移住」が推し進められているが、その中で“ゆるい移住”という方法も登場したのはご存じだろうか?

ゆるい移住を実施するのは、福井県鯖江市。昨年、女子高生からなるJK課を立ち上げた地方自治体だ。今回、福井県在住・出身者を除いた35歳くらいまでの男女を募集。東京会場では15名(男性9名:女性6名)、大阪会場は6名(男性3名:女性3名)が8月9日、10日おこなわれた説明会に参加した。

今回、東京会場でおこなわれた説明会に参加。ゆるい移住の概要を知りつつ、地方への移住について考えてみたい。

ゆるい移住プロジェクトとは?

鯖江市西部に位置する三床山山頂から鯖江市内の眺望鯖江市西部に位置する三床山山頂から鯖江市内の眺望

今回のゆるい移住の移住先である福井県鯖江市は、メガネ、繊維、漆器の三大地場産業に特化したものづくり産業のまち。特にメガネフレームのシェアが全国の約95%というメガネ産業が有名だ。

今回の鯖江市が募集する移住プロジェクトは、コーディネーター役として関わる福井大学 産学官連携本部客員准教授の若新雄純氏と、鯖江市市長の牧野百男氏との対談がきっかけで企画されたという。若新氏はもともと鯖江市で昨年女子高生がまちづくりに係るJK課を企画。JK課の活動は高校の副読本の表紙に検討されるほどで、まち活性化に一役買った結果になった。JK課は地域内の人たちに焦点を当てたものだが、今回は地域外の人たちに焦点を当てたものになる。

ゆるい移住のコンセプトは「とりあえず住んでみる」。2015年10月から2016年3月までの最大半年間家賃無料で住むことが可能。実際に住んでもらい、鯖江市の何となくいい魅力を感じてもらうのが企画趣旨だ。応募者の中には「数週間なら…」という理由で応募してきた人もいる。最近、行政主導で移住プロジェクトが推進されるケースがよく見られるようになってきたが、そうした移住は仕事を斡旋したり地域との行事参加を進めたりと、しっかりとしたサポート体制がある。今回の移住プロジェクトは、そうした中では異質で名前通り“ゆるい”お試し移住だといえる。

鯖江市の魅力とは?

コーディネーター役として関わる福井大学 産学官連携本部客員准教授の若新雄純氏コーディネーター役として関わる福井大学 産学官連携本部客員准教授の若新雄純氏

説明会では“ゆるい移住”について企画をした若新氏から企画背景と鯖江市の魅力について説明があった。

「いまどこの地方もうちにはこんな特産がある、こんな産業がある、こういう歴史があるなど色々とアピールされていることがあると思います。鯖江市も同じように確かにメガネフレームシェア95%とかありますがそういうところではなく、若者の提案を柔軟に受け入れてくれながら、だからといって勝手にやれという方針ではなく始めたことに対して真摯に協力してくれるのが鯖江市です。昨年のJK課企画の際、とても感じました。このように充実した活動ができるように本気でサポートしてくれるのが鯖江市の魅力ですね」と語る。

またお試し移住については「そうした魅力のある鯖江市ですので、まずは実際に住んでもらって感じてほしいと思いました。その中で、このまちがどう面白くなっていくか一緒に考えてほしいと思い、“ゆるい移住”という名前をつけました」とのことだ。

今回の移住は仕事の斡旋などはなく、あくまで移住参加者に実際住んでもらいながら、どうすれば暮らしやまちが楽しくなるか考えてもらうというものだという。

この後、実際に半年間住む物件について鯖江市 地方創生戦略室の室長補佐 法水直樹氏から説明があった。鯖江市が用意している物件は市営団地の3LDKの2室。物件の賃料は無料なものの、生活に必要な家電やコンロなどは一切ついていない。また2室ということでおそらく男女別に1室ずつで住むことになるというが、何人がそこに住むのかはまだ決まっていない。説明会後、9月に行われる現地での事前合宿を経て、最終的に9月半ばに参加者が決定する。

ほぼ0からのスタートなので、住む段階で一緒に住むことになる人たちと、まずは備品の調達や部屋決めから始まるという仕組みだ。だからといって若新氏の説明にもあったが、勝手にやってくださいというスタンスではなく、例えば市職員が使わなくなった家具や家電を紹介したり、お試し移住者がこういう事をしたいという提案があれば真摯にサポートしてくれる体制をとるという。

地方活性化はどうなるか?

説明会では鯖江市の魅力や物件スペックの説明以外にも、参加者全員が“ゆるい”魅力についてその場でワークショップする場面もあった。また、質問コーナーでは今回の移住について熱心に質問する人が多かった。

今回の参加者は「仕事があれば移住したいかも」と思うような人ではなく、「IT関連で地方でも仕事ができるから体験したい」「地方創生に興味がある」など熱心な想いの人が見受けられた。ただの移住ではなく、“ゆるい”移住だからこそ魅力的に思えた参加者が集まったためか、参加者全員初対面ながらワークショップも盛り上がった結果になった。

日本の今後の人口減、空き家増加…

鯖江市は平成25年住宅・土地統計調査集計によると店舗なども含み住宅総数は20,730。その内、空き家は約570件(平成25年の鯖江・丹生消防組合の空き家調査。空き店舗・工場・会社も含む)と、割合的には空き家率は約3%と全国平均から比べてもはるかに低い。

県内では有数のベッドタウンであり県内移住は盛んだというが、県外からの移住は少ないという。今回のような実験的な取り組みを経て、県外からの移住増加も促すのが狙いのようだ。まだ、人口減や空き家増加に直面しているとは現状では言いにくい鯖江市だが、それでも今の段階から将来の日本を見越して柔軟に様々な施策を打つ姿勢は良い意味で異質な行政とも言える。“ゆるい移住”について今後も追っていきたいが、新しいアイデアを生み出す鯖江市についても注目していきたいと思った。

日本歴史公園100選「西山公園」展望台から鯖江中心市街地の眺望日本歴史公園100選「西山公園」展望台から鯖江中心市街地の眺望

公開日: