コミュニティ重視の有料老人ホーム設立はまちづくりから始まった

世界でも類を見ない超高齢社会に突入している日本。内閣府が出した「平成26年版高齢社会白書」によると高齢化率は今後も上昇、2025年には約30%、2060年には約40%に達すると見られている。そんななか、6月1日にグランドオープンした有料老人ホーム「グッドタイム リビング なかもず」では、少子高齢化に対応した新しい発想のコミュニティ創設プロジェクトが始まっている。

「グッドタイム リビング なかもず」は、南海高野線白鷺駅前にあるUR都市機構の団地跡地の街づくりで、UR側の要望である少子高齢化対策を盛り込み、企画した建物内に学生マンションを併設するオリックス・リビング運営の有料老人ホームである。近隣にある大阪府立大学の学生を中心に、オリックス・リビングの職員、学生マンションを管理する株式会社コープリビングサービスの職員で構成する「なかもずクロスエイジプロジェクト」を今年2月に発足。施設内のコミュニティラウンジを拠点に、高齢者と学生による新しいコミュニティサークルを形成している。

同社が学生マンション併設の有料老人ホームを企画した背景には、グループ企業であるオリックス不動産株式会社がかつて手掛けた「日本で初めてのサスティナブル・コミュニティ」と謳われる横浜北部・南町田にある「マークスプリングス」における世代ミックスの街づくり成功事例があるという。
「かつてマークスプリングスではファミリー向けの住宅開発地に高齢者住宅を併設し、世代ミックスのコミュニティがうまく機能する街が誕生しました。2世帯同居では少し負担に感じるけれど、スープの冷めないちょうどいい距離感で暮らしたいという潜在的な親子ニーズにマッチしたこの街づくりを参考に、多世代交流というコンセプトのもと、地域に開かれた産学協同の新たなコミュニティ形成に取り組んでいます」とオリックス・リビング株式会社 企画部 広報課の廣田朋也氏は話す。

併設する学生マンションは将来、高齢者向けマンションへの転換も視野に

共用廊下に設置された表札代わりのギャラリースペース。思い出の品が入居者同士の話のきっかけにもなっている共用廊下に設置された表札代わりのギャラリースペース。思い出の品が入居者同士の話のきっかけにもなっている

コミュニティというソフトサービスの充実を目指す同施設であるが、ハード面も充実していることが特筆すべき点だろう。有料老人ホームは高級ホテルさながらの内装に驚かされた。現時点では入居者の8割が要介護者、2割が要支援者とのことだが、介護施設としての機能ばかりを重視するのではなく、できるだけこれまでの生活水準を保てるように、自然と生活に馴染むユニバーサルデザインが取り入れられている。たとえば、洗面台。車いすでも利用しやすいよう高さが調整できるようになっていたり、見守り用のセンサーカメラも壁の中に埋め込むなど、最新技術で万全の介護体制を取り入れつつ、違和感のなく快適な生活が送れる内装となっている。

また、学生マンションも全室にカラーモニタ付きインターホン機能やマンション内情報の閲覧機能付きタブレットが取り付けられていて、付近の学生向けマンションに比べかなり充実した設備が整っている。少子高齢化の時代背景を踏まえ、将来的には自立度の高い高齢者向け賃貸マンションとして転換できるようナースコール機能が後々取り付けられるように準備もされている。家賃は26m2で6万5,000円〜と近隣相場と比較すると少し高めの設定ではあるものの、府立大学内での話題性も高く、募集から約2週間で満室となる人気だったそう。

「充実した設備とともに、管理は違えども24時間スタッフが常駐している有料老人ホームとの併設ということが安心材料となり、ご両親が気に入られて入居を決めたという学生さんも多いです」と廣田氏。

いつでも誰かがいる安心感、ここでもやはり「コミュニティ」が重視されたというわけだ。

横の繋がりが多い学生生活の中で、幅広い関係性を築きたい

浴室内の最新介護機器を体験。「介護を受ける側の気持ちが少し理解できた」と学生浴室内の最新介護機器を体験。「介護を受ける側の気持ちが少し理解できた」と学生

先日、はじめての学生向け施設見学会が行われるということで同行させていただいた。

併設する学生マンションの入居者でクロスエイジプロジェクトにも参加している鈴木円香さんらの呼びかけで集まったのは、総合リハビリテーションや教育福祉を学ぶ学生たちだ。それぞれ、福祉や介護に携わる仕事に就きたいと考え、ホームヘルパーや作業療法士などの資格取得を目指しているという。実際の介護現場や最新設備に興味があり今回の見学会に参加したというが、見学後には同施設のコンセプトであるコミュニティづくりにも興味を持った様子だった。

「祖父母と一緒に暮らしていない学生も多いなか、大げさな感じではなく、世代の違う人たちと気軽に交流が図れる場があるのはいいことだと思います。経験豊富な高齢者と麻雀をやってみたいという友人もいますし、自分たちの知らないことをたくさん知っている大人との交流を望んでいる学生は意外と多くいるんです」と鈴木さん。

クロスエイジプロジェクトの学生リーダーを務める岡野大毅さんも、「学生生活の中ではどうしても横の繋がりが中心になりがちですが、このプロジェクトに参加することで、さまざまな立場の大人と関わり合えることに魅力を感じています。高齢者のみなさんとお話するなかで、もっと私たち学生のことを知りたいと考えてくれていることがわかったので、いま大学内を案内するツアーを企画しているところなんです」と話す。

昨今はコミュニケーションの苦手な学生が多いと言われるが、案外そうでもないのだなと新しい発見があった。どうやら私たちが考えるほど、学生たちに多世代との交流に対して変な気負いはないようだ。はじめての学生見学会を終え、オリックス・リビングの廣田氏も「介護や福祉、高齢者に直接興味がなくても、コミュニティ形成の可能性を感じた」と手応えがあったようだ。

双方にとってメリットがある産学連携の取り組み。今後の課題は企画力

オリックス・リビング株式会社 大阪運営事業部 運営課の樋口忠晴氏(左)と同企画部 広報課の廣田朋也氏(右)オリックス・リビング株式会社 大阪運営事業部 運営課の樋口忠晴氏(左)と同企画部 広報課の廣田朋也氏(右)

大人はどうしてもリスクを先に考えがちだが、若い人たちの発想は柔軟で刺激的。今日の見学会でも学生たちの素朴な疑問、素直な感想は新鮮だった。

「自分たちの凝り固まった思考に若い人たちの発想が良い刺激となり、新しいことをはじめるきっかけをもらっています。私たち職員にも気軽に頼ってもらえる関係性を築き、介護職員に帯同していただいての介護補助業務の習得、就職活動時のインターンシップの受け入れなども積極的に行っていきたいと考えています。双方にとってよい連携を図り、入居者のみなさんにも喜んでいただけることを目指しています。時代のニーズに合う新しいイノベーションをどんどん発信していきたいです」と、クロスエイジプロジェクトの担当者でもあるオリックス・リビング株式会社 大阪運営事業部 運営課の樋口忠晴氏は意気込みを語る。

また、学生の岡野さんも「まだまだプロジェクトは始まったばかりで手探りで進めている状況ですが、今後は多くの学生が気兼ねなく遊びに来られる環境をつくり、周辺地域の方にも範囲を広げて活動していければいいなと思っています。学生と高齢者、そして職員の方々とも互いに影響をもたらせる関係性を築いていきたいです」と頼もしい。

高齢者となってからの人生が非常に長くなりつつある今。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題だ。人生の最期まで個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むこと。その思いに応えるためにも、若い世代との積極的な交流、コミュニティ形成は非常に大切だ。
同施設での学生と企業の連携によるコミュニティ形成のプロジェクトは始まったばかりで、今後どのようなイベントが開催されるかは未定だが、持続するコミュニティ形成のためには参加する学生・入居者、双方のモチベーションが高まるようなイベントの企画発信がポイントとなるだろう。産学協同の今後のイベント企画力に注目したい。

2015年 08月13日 11時05分