日本の農山漁村に伝えられてきた先人の知恵や技を聞き書きする

夏といえば「甲子園」こと、全国高等学校野球選手権大会の季節である。だがしかし、高校生が参加し、熱く取り組んでいるものは他にもたくさんある。そのひとつ、「聞き書き甲子園」を紹介したい。

「聞き書き甲子園」とは、自然に関わる仕事に従事する人たちを高校生が訪ね、1対1で聞き書きをする活動である。高校生への環境教育活動のようなものを連想されるかもしれないが、それだけにとどまらず、日本の林業や農業、漁業が抱える問題や、地域再生などの現状を高校生が知り、自分なりに考えるという取り組みにもなっていることに筆者は興味を感じた。

この活動は2002年、林野庁と文部科学省が地域活性化施策の一環として開催したのが始まり。現在は農林水産省、文部科学省、環境省、公益社団法人国土緑化推進機構、公益社団法人全国漁港漁場協会、全国内水面漁業協同組合連合会、認定NPO法人共存の森ネットワークの7団体からなる実行委員会が主催している。毎年全国から100人の高校生が参加し、今年で14回目を迎える。

高校生が聞き書きをする相手は、森、海、川の自然とともに生き、自然を守り、自然の恵みを生かしてきた先人たちで、この「聞き書き甲子園」では敬意を込めて「名人」と呼んでいる。名人の選定は、森に関しては国土緑化推進機構、海・川分野に関しては全国漁港漁場協会と全国内水面漁業協同組合連合会が中心となって行なっている。その職種は林業家や炭焼き職人、木こり、山菜生産者、漁師、海女などさまざま。そうした名人の知恵や技術、人となりを高校生が聞き書き取材をしてレポートにまとめ、その成果は公開フォーラムで発表されるほか、作品集、インターネットなどを通じて公表される。

こうした活動は日本の農山漁村に伝えられてきた暮らし方や技を次世代に残す取り組みとして意義のあることだと思うし、参加した高校生にとっても貴重な体験になるだろう。では、参加高校生はどんな気づきを得ているのだろう? 「聞き書き甲子園」参加経験者に話を聞いてみた。




毎年、全国から高校生100人が参加する「聞き書き甲子園」。写真は前回の聞き書き事前研修最終日に撮影した集合写真(2014年8月、東京都八王子市「高尾の森わくわくビレッジ」にて)。ちなみに「聞き書き甲子園」は参加費無料、聞き書き事前研修や名人への訪問、フォーラムに関わる旅費・交通費も主催者の負担となっている毎年、全国から高校生100人が参加する「聞き書き甲子園」。写真は前回の聞き書き事前研修最終日に撮影した集合写真(2014年8月、東京都八王子市「高尾の森わくわくビレッジ」にて)。ちなみに「聞き書き甲子園」は参加費無料、聞き書き事前研修や名人への訪問、フォーラムに関わる旅費・交通費も主催者の負担となっている

参加しただけでは終わらず、「聞き書き甲子園」の運営を支える側に

取材に応じてくれた峯川大さん。現在、都内の私立大学経営学部経営学科4年生。卒論のテーマは「集落の部外者による地域活性化の可能性」という取材に応じてくれた峯川大さん。現在、都内の私立大学経営学部経営学科4年生。卒論のテーマは「集落の部外者による地域活性化の可能性」という

取材に応じてくれたのは、第9回「聞き書き甲子園」(2010)に参加した峯川大さん。現在、東京都内の私立大学経営学部4年生だ。学生生活を送る一方で、前出の認定NPO法人共存の森ネットワーク(以下、「共存の森」と記述)に参加し、副理事長を務めている。

「共存の森」は前述のように、7団体からなる「聞き書き甲子園」実行委員会のなかの一団体で、「聞き書き甲子園」の第1回、第2回に参加した高校生有志によって2003年に結成されたNPO。現在、「聞き書き甲子園」経験者のほか、参加経験のない高校生や大学生、20代の社会人もメンバーに加わっているという。主な活動は、全国6地区の農山漁村を拠点にした森・海の保全や地域コミュニティづくり。そして、この「聞き書き甲子園」の運営である。

ここで「聞き書き甲子園」の実施の流れについて説明させていただきたい。参加高校生はまず例年8月中旬に3泊4日で行なわれる事前研修を受講し、聞き書きの基本や心がまえなどを学ぶ。その後、9月中旬から12月に名人を訪問して聞き書き取材を行ない、レポートを作成。そして、翌年の3月下旬に公開フォーラムでの成果発表となる。

これらすべての運営を支える「共存の森」の中心メンバーの一人が峯川さんである。高校卒業後もずっと「聞き書き甲子園」に関わり続け、大学2年・3年のときには学生ボランティアを統率する学生スタッフリーダーを務めた。

「名人は、僕に伝えたいことがあるんだ」と強く感じた

峯川さんが「聞き書き甲子園」に参加したのは、東京都内の私立高校2年生のときだった。「校内でたまたま募集ポスターを目にして”甲子園“の言葉に惹かれました。全国からすごい高校生が参加するだろうし、面白い体験ができそうだなと思いました。それと、木や自然への興味もありました。僕の親は一般会社員ですが、祖父が植木屋を営んでいて、木を育てている畑にしょっちゅう連れていってもらっていたのです」と、きっかけをふり返る。

参加高校生と「名人」との組み合わせは主催者側が決めるのだが、峯川さんが聞き書きをすることになったのは群馬県甘楽郡甘楽町で林業のかたわら、山ワサビ栽培に従事する浅香征夫さん(当時66歳)だった。
「それまでは林業は未知の世界でした。名人を取材する前に、林業について調べてみても興味が湧いてこなくて、むしろ大変そうだなとか、儲からない産業なのかなとか、経済重視でネガティブな目で見ていた自分がいました」と、峯川さん。

ところが名人・浅香さんと出会い、峯川さんは変わっていく。
「今でもはっきり覚えていますが、名人と初めて顔を合わせたときのことです。待ち合わせをした駅から浅香さんの車でご自宅へ向かう車内でのこと。初対面でまだ会ったばかりなのに、ご自分の仕事のことなど、熱く語ってくださいました。その語り口から、“この人は僕に何か伝えたいことがあるんだ”と、強く感じました」

日本の林業が直面している厳しい現実を知る

峯川さんが聞き書き取材のために浅香さんを訪ねたのは日帰りで2日間。浅香さんへの聞き書き取材で、山ワサビ作りやこんにゃく作りを始めた経緯、栽培で気をつけていることや工夫などが語られ、さらには日本の林業が直面している問題についても話が及んだ。

浅香さんは中学卒業後、家業である林業に就いたのだが、貿易自由化で値段の安い外国産木材が入ってきて、林業だけで生計を成り立たせることが難しくなってしまったという。安い外国産木材の影響を受け、国産木材の価格が下がってしまったからだ。スギやヒノキなどを住宅の建材として出荷できるようになるまでには、50年以上の歳月をかけて育てる必要があるのだが、手塩にかけて育てた木が安く売られてしまうという状況になってしまった。

生計を維持するために父親の代からこんにゃく栽培を始め、さらに1987年から始めたのが山ワサビ栽培だった。山ワサビは川の近くのスギの木の根元に植えるのだが、連作ができないため、38町(1町:約9,900m2)の土地を交代で休ませながら栽培していると、苦労話も語られた。

「でも、浅香さん、苦労話をするときでもいつも笑顔でした。山の仕事とご自分が生まれ育った地域が好きなんだなと僕は感じました」

こうした「聞き書き取材」は、峯川さんの心を揺れ動かす体験となり、“その後”にも大きな影響を与えることにもなった。稿をあらためて、次回記事でお伝えしたいと思う。


【取材協力】
聞き書き甲子園実行委員会
http://www.foxfire-japan.com/

認定NPO法人共存の森ネットワーク
http://www.kyouzon.org/

☆これまでの「聞き書き甲子園」の作品は、下記の「聞き書き電子図書館」ホームページから見ることができる。
http://lib.ruralnet.or.jp/mori/

森で名人に聞き書き取材をする高校生(撮影:奥田高文)

森で名人に聞き書き取材をする高校生(撮影:奥田高文)

2015年 07月21日 11時06分