減少する人口と増加する賃貸住宅数。日本の空室率は上昇する?

平成20年の住宅・土地統計調査報告を基にしたHOME’Sの調査によると、全国の賃貸用住宅の空室率は19.0%。東京都内については14.5%となっている。全国での賃貸住宅のうち、5件に1件は空室という結果になる。

少子高齢化とともに人口減少も進む日本では、国立社会保障・人口問題研究所のデータによると、平成22(2010)年の国勢調査による人口1億2,806万人から徐々に減少すると見込まれており、平成42年(2030)年の人口は1億727万人、平成62(2050)年には1億人を下回る9,700万人と、減少の一途をたどる。
一方、賃貸住宅の着工数は平成22(2010)年の29万1,840戸から平成25(2013)年の36万9,993戸と増加となっている。住む人は減少しているのに住宅だけ増えている状態だ。この推移を見ると、何の対策もせずにこの先空室率が下がることは考えにくい。

しかしながら、そうした市場動向の中でも実際に低い空室率を維持している例もある。
HOME’S PRESSでも取り上げた、ペット飼育可能な賃貸物件とNPO法人が連携し、保護された猫の里親として一緒に暮らすことができる猫付きマンションが即日満室となったケースや、“空室待ち”が何組もいるという、入居者が自由に壁紙を選べたり、間取りなどを入居者のオーダーメイドにできる東京都豊島区の物件などがそれだ。いずれも共通しているのは、入居者に対して物件にプラスαの付加価値をつけているということ。
その一つの例として今回、東京都を中心に自社で管理する約800戸の物件を、空室率約4~5%で運営している会社にお話を聞いた。空室率の低い物件の秘密を探る。

リゾートホテルのような賃貸住宅

東京都の株式会社ランドビジネスは、昭和60年の創業時からオーナー向けに賃貸住宅の提案・総合管理を行ってきた。同社が企画設計の段階からオーナーに提案し、竣工後も管理を担う物件が東京都を中心に約800戸。そして一昨年から中古の賃貸物件を棟単位で購入しリノベーションを施して自社物件として賃貸する事業も開始したという。

今回、実際に物件も見学することができた。訪問したのは、同社の自社物件である「ラナイグレース国立」「ソサエティ柿の木坂」と、オーナーが別におり同社がオペレーションを担当する「ラナイヘリテイジ」の3件だ。いずれも築10年以上、駅からの距離も10分前後から20分弱と、条件としては決して満室となる物件ではない。

3つの物件を見て共通して驚いたのは、エントランスを抜けると広がるパティオ(中庭)だ。白を貴重とした建物に周囲を囲まれ、石を配した床に水盤と植栽が設けられている。水が流れる音がさりげなく聞こえ、リゾートホテルのような雰囲気を醸していた。特に、同社の理想とするイメージに最も近い物件だという「ラナイヘリテイジ」に至ってはエントランスに重厚感のあるソファを置いた応接スペースまで設けている。3物件とも築10年以上が経過しているが古さは全く感じず、清潔でメンテナンスが行き届いている印象だ。

古い賃貸住宅は、仕様を最低限にして居室をできるだけ多く確保するといった、収益性を優先する物件も多くあり、共用部分にゆとりを感じられる物件というのは少なかった。最近、分譲マンションは共有部分を充実させた物件も多いが、それに近いつくりだと感じた。実際、共用部分だけでなく居室内の設備も分譲マンションと同程度の仕様となっている。

「建物は、長く愛されるヨーロッパの住宅をイメージしています。古くなって廃れるのではなく、古いからこそ歴史や風合いを感じられる住宅です。住む人が快適に豊かに過ごせる建物にするため、光と風を取り入れて共用部分のゆとりの確保に力を入れています」とは、お話を聞いた、同社都市開発部 開発・リーシングチーム副部長の安藤満氏の言葉。

(左上)ラナイグレース国立のパティオ。疲れて帰宅しても安らげるような空間だ <br />(左下)館内に設定したカメラの映像を映すモニターをオートロック操作盤に設置し、セキュリティ性も重視している<br />(右)ソサエティ柿の木坂のパティオ。タイル貼りの床と白い建物に水盤が映え、築27年と思えないリゾートのような雰囲気を演出する(左上)ラナイグレース国立のパティオ。疲れて帰宅しても安らげるような空間だ 
(左下)館内に設定したカメラの映像を映すモニターをオートロック操作盤に設置し、セキュリティ性も重視している
(右)ソサエティ柿の木坂のパティオ。タイル貼りの床と白い建物に水盤が映え、築27年と思えないリゾートのような雰囲気を演出する

相反する“収益性”と“ゆとりの共用部”

お話を伺った、株式会社ランドビジネスの安藤氏(右)と井出氏(左)。「愛される建物をつくり、快適な暮らしを提供する」ことに重きを置く理念は、社員全体に浸透しているというお話を伺った、株式会社ランドビジネスの安藤氏(右)と井出氏(左)。「愛される建物をつくり、快適な暮らしを提供する」ことに重きを置く理念は、社員全体に浸透しているという

設備や部屋・共用部の仕様の充実ゆえ、賃料は周辺相場よりも高めだという。例えば、東京都国立市では築10年~15年、専有面積50m2~60m2の家賃相場が10.54万円(HOME’S調べ)なのに対し、「ラナイグレース国立」の家賃は約13万円~15万円弱。それでも同社が管理する物件は低い空室率を保持している。しかし、これだけ共用部にゆとりをもたせると、事業としての利益とは相反しそうなものだ。収益性や採算の面はどのようになっているのだろうか、質問してみた。

「工事を自社で請け負っているため、適正なコストで工事できるという点が大きいです。天然石を使用するなど建材にもこだわっていますが、価格を細部までチェックしたり、自社開発した建材を使用したりと、コスト管理を徹底しています」(安藤氏)
また、昨年開始した中古物件を買い取りリノベーションして自社物件として賃貸する事業は、新築を建てるより時間もコストも効率が良く収益性が高く、これも要因の一つになっている。

「空室が目立ち始めると、普通は照明を落とすとか、清掃の頻度を落とすとか、管理費を抑えようとします。しかし、逆にそれをきちんとやらないと建物の清潔感などといった印象が悪くなり、さらに空室が増える悪循環になりがちです」(安藤氏)
ランドビジネスの物件では、建物の汚れが目立ち始めた時に空室が多く出る傾向にあるという。そうした時は、清掃を請け負う会社に特殊な建材の清掃方法などを改めてレクチャーしたりという動きをするそうだ。

同社の物件にはファンも多く、いくつかの物件は“予約待ち”の入居希望者もいるという。快適な住環境を提供し続けることで住まい手に受け入れられ、高い稼働率を保つ。こうして、長期的に見て採算を取るという点も重要なポイントだ。

物件飽和時代に、入居者に求められる賃貸住宅とは

入居者だけに価値を提供するのではない。きれいな建物をつくることで街の雰囲気も良くし、街の人も喜ぶというかたちで街づくりにも貢献したいという思いも込められている。

冒頭でお伝えした通り、現状のままでは今後、賃貸物件の空室は増える一方と予想される。供給側は、建てれば満室になる時代はとうの昔に終わり“これからの賃貸住宅”を考えていかなければならないだろう。それでは、”これからの賃貸住宅”とは何か?

入居者同士や街との関わりといったコミュニティを活性化させる機能をもったり、原状回復なしで自由なDIYを可能にしたりと、ソフト面・ハード面様々ある“付加価値”のついた賃貸マンションは、同様に高い稼働率を誇っているケースが多い。要は、入居者にとって駅近、築浅以外にも高い付加価値のある物件でなくてはならないと思う。ランドビジネスの物件のような、部材や設備仕様の充実と共用部のゆとりを確保するという付加価値も、住まい手から受け入れられ、求められていることをその空室率の低さが示している。

空室率の低い理由とは?人によって様々なニーズが存在するが、敢えて一言で表現するとしたら、“愛される賃貸住宅”と置き換えられるのかもしれない。

2014年 11月10日 11時06分