今年で14回目を迎えた大阪・梅田のうめきたSHIPホールで開催されている「U-35」

才能あふれる若手建築家に発表の場を提供しようと、若手建築家たちの登竜門として、2010年から開催されている「Under 35 Architects exhibition 35歳以下の若手建築家による建築の展覧会」。なんと2023年の今年で、14回目を迎えた。2023年は、10月20日(金)から30日(月)まで、JR大阪駅前のうめきたSHIPホールで展示が行われている。

エントリーや推薦作品の中から選ばれた出展者と作品は、以下の7組(敬称略)。
大島碧+小松大祐 風景研究所《二重らせんのビル》、大野宏 Studio on_site《Poiesis -3つの素材と技術-》、小田切駿+瀬尾憲司+渡辺瑞帆 ガラージュ《建築の再演》、Aleksandra Kovaleva+佐藤敬 KASA / KOVALEVA AND SATO ARCHITECTS《ふるさとの家》、佐々木慧 axonometric《非建築をめざして》、福留愛 iii architects《南城の家》、桝永絵理子 AATISMO《ハニヤスの家》。Aleksandra Kovaleva+佐藤敬と佐々木慧は、昨年の実績からシード参加となった。

ゲスト審査員の建築家・建築史家は以下の10人。
五十嵐 太郎、倉方 俊輔(前述2人は建築史家、以下は建築家 ※50音順 敬称略)、芦澤 竜一、五十嵐 淳、谷尻 誠、永山 祐子、平田 晃久、平沼 孝啓(2023年審査委員長)、藤本 壮介、吉村 靖孝。現在、建築の世界の各方面で、活躍するメンバーが集合した。

「U-35」の今年の展示作品の紹介と公開プレゼンテーションを含めたシンポジウムの様子をお伝えしたい。

JR大阪駅前のうめきたSHIPホールで行われている「Under 35 Architects exhibition 35歳以下の若手建築家による建築の展覧会」
JR大阪駅前のうめきたSHIPホールで行われている「Under 35 Architects exhibition 35歳以下の若手建築家による建築の展覧会」
JR大阪駅前のうめきたSHIPホールで行われている「Under 35 Architects exhibition 35歳以下の若手建築家による建築の展覧会」
ゲスト審査員の建築家・建築史家。写真左から、五十嵐 太郎、谷尻 誠、平田 晃久、芦澤 竜一、永山 祐子、平沼 孝啓(2023年審査委員長)、藤本 壮介、吉村 靖孝、五十嵐 淳、倉方 俊輔(※敬称略)

2023年はゲスト審査員も認める力作ぞろい。まずは、出展された7作品のうち3作品を紹介

のちのシンポジウムで、平沼氏から「今年の展示作品はどれもいいでしょう?」と紹介があり、倉方氏から「とにかく楽しく建築をつくっていることがどの展示からも感じる」と評価されたように、今年は力作がそろった展覧会となった。
簡単だが、7作品の概要と展示の様子をお伝えする。まずは3作品の紹介。

Aleksandra Kovaleva+佐藤敬《ふるさとの家》
2022年の「U-35」で伊東賞を受賞し、シードで参加した2人。今回は建築家自身のふるさとの両親の家と友人の商店併設の改修の2つの計画中のスタディを展示。駅前に計画中の両親の家は細長い形状ではあるが、「家」と「里」、離れ離れになりがちな2つの言葉を「纏う」という概念でつなげていく試み。この建築が完成したのちの世界観を上手にイラストで展示したほか、実際の建築を体感できる空間を利用した展示も工夫されている。

佐々木慧《非建築をめざして》
「U-35」での2022年Gold Medalを受賞した佐々木氏もシード参加。前回からの「非建築」をより追究して具現化したプロジェクトを展示。すでにいくつかのプロジェクトをかかえる同氏の、"より自由で寛容な何か"の建築然としない建築へのチャレンジがみてとれる展示。そのひとつとして、廃棄されてしまう細い丸太を活用し、さらにその後の活用の循環を考えたプロジェクト展示を行っている。

大野宏 《Poiesis -3つの素材と技術-》
土地の「もの」と「ひと」で暮らしの中から、建築をつくりだす大野氏。現地の「素材」と「技術」を再構成し、人とともに歳をとる「いきもの」のような建築を目指しているという。今回は3つの素材、竹・葦・石をつかい、技術については伝統的な職人技法から新たなデジタル技術までを駆使したプロジェクトを紹介している。

写真左上から時計回りに、Aleksandra Kovaleva+佐藤敬《ふるさとの家》、佐々木慧《非建築をめざして》、大野宏 《Poiesis -3つの素材と技術-》写真左上から時計回りに、Aleksandra Kovaleva+佐藤敬《ふるさとの家》、佐々木慧《非建築をめざして》、大野宏 《Poiesis -3つの素材と技術-》

ユニークなアプローチで建築の可能性を模索。次に出展された7作品のうち4作品を紹介

続いて、展示作品の残り4作品を紹介。

小田切駿+瀬尾憲司+渡辺瑞帆 ガラージュ《建築の再演》
分野の異なる3名がつくりだした出展作品《建築の再演》は、今回最もユニークだと感じたプロジェクト。建築をただつくるだけでなく、空間性や関係性をその場に合わせて再編集する、という。展示のひとつ「演劇学生のための芝居小屋シェアハウス」では、実際にシェアハウスに住むダンサーが展示空間で踊るパフォーマンスも。建築がもたらす身体性との関係も模索したという。面白かったのはダンサーが柱ひとつひとつに名前を付けて呼んでいること。変化を感じさせる建築と住まい方との関係がみえた。

福留愛《南城の家》
iii architectsで活動する福留愛の展示。プロジェクトを進めるうえで、様々な条件からズレが起こりがちであることに気が付いた彼女が建築でたいせつにしたいことを18の項目にまとめ、実践的なスタディとプロジェクトを展示した。

桝永絵理子《ハニヤスの家》
鎌倉に住む建築家の陶芸家の父、アーティストの母、そして建築家夫婦。生活と創作が共存する"原初の住処"をつくる自邸の増改築のプロジェクト。ちなみに「ハニヤス」とは、日本神話に登場する土や陶芸の神だという。建築家は、そこに生きる人々や生業がつくりあげた文化や歴史から生まれる建築をプレゼンした。土と釉薬から生まれる不思議な、陶芸の釜のような、鎌倉の谷戸のような展示はぜひ、展覧会場でみてほしい。

大島碧+小松大祐《二重らせんのビル》
事務所の名前を「風景研究所」と名付けた2人。今回は江東区大島につくる事務所ビル。大島の街を歩いて感じる"どこにいるかわからなくなる"不思議な感覚を採り入れ、建築の中に人の拠り所となる「小さな風景」をつくろうと試みたという。建築をつくりあげる際に同じ言葉で会話をしていても見ているものが違うところに気が付いた2人が、プロセスとしてそのズレを埋めるための膨大なスタディが展示されている。

写真左上から時計回りに、小田切駿+瀬尾憲司+渡辺瑞帆 ガラージュ《建築の再演》、福留愛《南城の家》、大島碧+小松大祐《二重らせんのビル》、桝永絵理子《ハニヤスの家》写真左上から時計回りに、小田切駿+瀬尾憲司+渡辺瑞帆 ガラージュ《建築の再演》、福留愛《南城の家》、大島碧+小松大祐《二重らせんのビル》、桝永絵理子《ハニヤスの家》

記念シンポジウムでは、展示作品を通した白熱のディスカッションが行われた

15時からの記念シンポジウムでは、まずは、出展者から5分間のプレゼンテーションと10分間の質疑応答がそれぞれ行われた。すべての展示紹介が終了したのちに、ゲスト審査員と出展者たちとのディスカッションとなる。
例年も様々な建築への考え方やアプローチが議題となるこのディスカッションパート。白熱した意見が交換される。残念ながらすべてはお伝えできないが、話し合われた要素を伝える。

「今回の出展者たちの作品は完成度が高い」という前提はあったものの、ディスカッションでは、プレゼンされたそれぞれの建築家の目指す意図と実際の建築の差分に対する質問や指摘が多かった。平田氏からは風景研究所に対して"風景"としているものへの質問やその意図が建築に現れているのか、など。また同じく平田氏から《ハニヤスの家》に対して、自身も古代の神話などからまた見方が変わる可能性を感じながらも、本当にその方法でよかったのか、などの質問と指摘。それぞれの出展者からは、「方向性を信じて、自らのプロジェクトで、突き詰めていきたい」との回答があった。
五十嵐 淳氏からは、「コンセプトやアプローチはわかるが、できたものを見ると、いつかどこかで見たようなものになっている気がする。情報や教育・育成が充実してしまった今の時代にありがちになっているのかもしれない」と厳しい意見も。谷尻氏からも「みなさん、上手なプレゼンテーションだったと思う。展覧会では、そういったプレゼンが良いのかもしれないが、誰のための何のための建築であり、実際に使う人や暮らす人、街がどう豊かになるのかの視点を入れたプレゼンを期待したい」という意見。一方で、藤本氏からは「それでも時代は変化している。そのことはみなさんのプレゼンからも感じる」というコメント。
また、来年の審査委員長である永山氏からは、「一度掴んだものを手放さない。実現できなかったので"ダメだった"とあきらめたり、評価をされなかったということで積み上げてきたものやアイディアを捨てることはない。持ち続けていれば、いつかそれが形になる。自身の感覚を大切にして、掴んだものを昇華させることを私も大切にしているし、みなさんも心掛けてほしい」とエールが送られた。

活発なディスカッションが繰り広げられた記念シンポジウムの様子活発なディスカッションが繰り広げられた記念シンポジウムの様子

今年の審査委員長 平沼 孝啓氏が選ぶ2023年のGold Medal授賞作品は?

2023年「U-35」の審査委員長をつとめる平沼 孝啓氏2023年「U-35」の審査委員長をつとめる平沼 孝啓氏

最後は今年の審査委員長である平沼 孝啓氏により、優秀な展示作品中から「Under 35 Architects exhibition 2023Gold Medal 賞 」が選出された。

平沼氏は「今年は、非常に良い展示作品が並んだと思う。どの展示作品もアプローチが違い、同じ軸では比べられない。そういう意味では、かつてGold Medal賞を出さなかった年がありましたが、可能であればすべての出展者たちに賞をあげたいほどです」とコメント。ひとつひとつの作品に対して、批評をしたあと
「とはいえ、難しいけれども、選ばなくてはいけない。今回は、作品もプレゼンテーションも秀逸であり、また初めて展示会場を活用したスケールを体感できる展示を試みた。建築の展示でも工夫をした点も評価したい」と授賞の理由をコメントし、Aleksandra Kovaleva+佐藤敬《ふるさとの家》へGold Medal賞を授与した。

平沼氏は続けて「2人は何度か悔しい思いをしている。昨年はGold Medal賞を逃し、また、伊東賞を受賞したものの、伊東豊雄氏からは、"誰にもあげなくてもいいのでは"といわれた年の悔いの残る受賞であった。今回は本当によかった、おめでとうございます」と受賞を讃えた。

Aleksandra Kovaleva+佐藤敬の2人からは「昨年は悔しい思いをしながら、その想いを胸に建築に向き合ってきました。今回、他の出展者と展示会の準備前に行った座談会もとても刺激になった。今後とも研鑽を続けていきたいです。受賞はとても嬉しい。ありがとうございました」とコメントした。

さて、2023年の「U-35」。サブタイトルは「時代より先に変われ」であった。
例年に比べても見ても楽しく、考えるほど深い、またそれぞれのアプローチの違いが際立つ展覧会であったと思う。2023年の展覧会は大阪・梅田のうめきたSHIPホールで10月30日(月)まで開催されている。出展者たちも会場にいるので、ぜひ足を運んで若手建築家たちの挑戦をみてほしい。

2023年「U-35」の審査委員長をつとめる平沼 孝啓氏2023年のGold Medal 賞 に選ばれたAleksandra Kovaleva+佐藤敬への授賞式の様子(写真提供:AAF)

■Under 35 Architects exhibition 2023 35歳以下の若手建築家による建築の展覧会(2023)
会期:2023年10月20日(金)~30日(月) 12:00~20:00 期間中無休 最終入場19:30※最終日は16:30最終入場、 17:00閉館
入館料:1,000円
会場:うめきたシップホール(大阪市北区大深町4-1うめきた広場)
公式サイト:https://u35.aaf.ac/

■取材協力
特定非営利活動法人(NPO法人)アートアンドアーキテクトフェスタ
http://www.aaf.ac/

公開日: