薄い窓フィルム1枚でどの程度の効果が期待できる?

ガラスに貼ることで室内の環境を向上させることができる窓フィルム。安全性を基本として、種類によっては快適性や目隠し、虫よけ効果があるタイプもある(写真提供:サンゲツ)ガラスに貼ることで室内の環境を向上させることができる窓フィルム。安全性を基本として、種類によっては快適性や目隠し、虫よけ効果があるタイプもある(写真提供:サンゲツ)

窓の性能を向上すれば暮らしは格段に快適になる。

災害時の「安全性」、夏の暑さや冬の寒さを防ぐ「快適性」や「省エネ性」、視線コントロールなどで心安らぐ家にする「居住性」も窓次第だ。

しかし窓のリフォームとなるとそれなりに手間と費用が掛かる。そんなとき、手軽に窓の性能向上をしてくれるのが窓フィルムの貼り付けだ。

サイズや使用するフィルムにもよるが工事費用は1万円程度/枚からと窓のリフォームと比べると格段に安く済み、災害時のガラスの飛散防止やUVカット、防犯、冷暖房効率をアップさせる省エネ、目隠し、防虫、デザイン性の向上など、選ぶフィルムによってさまざまな機能を付加することができる。

現在、窓フィルムはホームセンターでも取り扱われるほど一般的なものとなっているが、その存在が日本中に大きく広がったキッカケはテロ事件にあったようだ。

しかし薄いフィルム1枚でどの程度の効果が期待できるのか、疑問に感じる人もいることだろう。また窓フィルムにはたくさんの種類があり、選び方や貼り方によっては思うように効果が出ないこともある。熱割れと呼ばれる窓ガラスへの影響や、キレイに剥がせるかといった不安もある。

そこで、今回はガラスフィルムのメーカーである株式会社サンゲツに、住宅用の窓フィルムのメリットや注意点、15%の省エネを実現した実験の様子、わが家に合った上手な選び方を聞いた。

テロ事件から広まった窓フィルム。電気代高騰の対抗策にも

窓ガラスが割れて破片が散乱してしまえば命を奪うこともある窓ガラスが割れて破片が散乱してしまえば命を奪うこともある

建築用ガラスフィルムが現在のように大きく広がったのは、1974年に起きた丸の内三菱重工爆破事件がキッカケとされる。

爆風で飛び散ったガラスの破片で多くの死傷者が出たこの事件は、筆者の記憶に鮮明に残っている。当時のニュースによると、爆発の瞬間に周囲の窓ガラスが一斉に割れ、まるで滝が流れるように破片が落ちたという。ガラスの破片の恐ろしさを日本中の人々が知った出来事だった。

株式会社サンゲツ 市場開拓部フィルム営業課の朝比奈啓祐氏によると、「1995年の兵庫県南部地震でもガラスの割れによる大きな被害が出ました。そして2004年には防犯性能の高い建物部品目録にガラスフィルムが加えられたのです。窓フィルムの一丁目一番地の機能はガラスの飛散防止機能です」とのこと。

「省エネ効果がある日射調整フィルムは2011年の東日本大震災の節電対策をきっかけに拡大をしました。窓フィルムを貼ることは冷暖房費の削減にもなります。省エネ効果があり施工費が安いので、電気代の高騰に対抗できる大きな手段になると思います」

窓フィルムは災害などで得た教訓から必要に応じて進化し、広まっていったというわけだ。

この先には更なる電気代の値上げの話も聞く。1枚のフィルムで安全性や省エネ性など複数の効果が期待できるのであれば、消費者にとって大きなメリットとなる。

窓フィルムの種類。安全、UVカット、省エネ、目隠し、防虫効果も

ひとくちに窓フィルムといっても種類は多岐にわたり、その効果もグレードによってさまざまである。

共通する基本性能は2つ。
1つめは災害時のガラスの破片の飛散防止である。地震などで窓ガラスが割れて破片が散乱してしまえば避難をするにも危険が伴う。また台風時の飛来物で窓ガラスが割れた場合も、ガラスが飛散しなければケガを防ぐことができる。

2つめは日焼け防止のための紫外線を防ぐUVカットである。これはほとんどのフィルムに備わっている機能だ。紫外線は熱さは感じないが、肌の日焼けやカーテンやフローリング、ソファなどの色あせ、劣化を促進する。

日当たりのいい窓際だけ床の色が変わる、カーテンの色が茶色っぽくなっていくのは紫外線の影響によるものだ。大事なコレクションなど日焼けをしてほしくないものもある。こういった悩みも窓ガラスにUVカットのフィルムを貼れば解消しやすい。

ただしフィルムの種類によって効果が異なることに注意が必要となる。

朝比奈氏によると「UVカットはJIS規格で透過率が3%以下であることが定められています。しかし実はJIS規格で規定されている紫外線の波長域の範囲の外にも紫外線が含まれているんです。より高いUVカット機能を求めるなら、その部分までカットするフィルムがお勧めです」とのことだった。

一般的なLow-E複層ガラスの紫外線のカット率は50~70%程度。クレアスのUVカット機能付き窓フィルムは99%以上カットする(サンゲツ)一般的なLow-E複層ガラスの紫外線のカット率は50~70%程度。クレアスのUVカット機能付き窓フィルムは99%以上カットする(サンゲツ)
一般的なLow-E複層ガラスの紫外線のカット率は50~70%程度。クレアスのUVカット機能付き窓フィルムは99%以上カットする(サンゲツ)紫外線によるカーテンの色あせの比較。高領域UVカット機能を持つ「アンフェイド90」を貼った場合が左から2番目の画像だ。高領域UVカットとは、JIS規格規定範囲外に含まれる紫外線も99%カットする機能のこと(サンゲツ)

窓フィルムのベーシックな機能はこの飛散防止とUVカットの2つである。そしてそこから先は必要に応じて機能が枝分かれをしていく。

例えばガラス切りによる空き巣を防ぐ防犯効果を持つフィルムがある。ただし効果を発揮させるためには、「防犯建物部品」である旨のCPマークがついた製品を使用する必要がある。

遮熱フィルムは日射に対して高い遮蔽性を持ち、夏の室内の温度上昇を抑える効果がある。低放射フィルムは、冬の室内の暖気を逃しにくくする効果があり、室内の暖かさを保ちやすくなる。共に省エネや節電、光熱費削減の効果が期待できる窓フィルムだ。

目隠しフィルムはその名の通り外からの視線を遮る機能で、室内からは外が見えても外からは鏡のように見えるミラータイプや、乳白なマットなデザインで両方から見えなくするタイプなどがある。

防虫フィルムは、窓ガラスに集まる虫を減らす効果がある。他にもガラスの映り込みを軽減する低反射フィルムやくもり止め、抗ウイルス、電気で不透明と透明を切り替える調光など、窓にフィルムを貼るだけでさまざまな機能を付加することができる。

窓フィルムの省エネ効果を学校で実験。15%の省エネに

しかしフィルム1枚で省エネになるといわれてもイメージしにくい人もいることだろう。

飛散防止やUVカット、目隠し効果は分かりやすい。夏の暑さを防ぐ遮熱もLow-E複層ガラスと同じように日射熱を跳ね返す機能なので理解がしやすい。しかし寒さを防ぐには断熱層が必要になるというのが一般的な理解である。低放射フィルムでなぜ冬の寒さが防げるのだろうか。

「日射は赤外線、紫外線、可視光線で構成されています。赤外線も紫外線も目には見えず、紫外線は熱を感じません。しかし赤外線は熱を感じます。そして赤外線は暖房の熱にも含まれています」と朝比奈氏。

「低放射フィルムは1枚で外からも中からも赤外線を跳ね返す機能があります。つまり夏は外からの日射熱を防ぎ、冬は暖房の赤外線を跳ね返して外に出さない、熱を逃がしにくい仕組みになっているんです」

シーズンに応じて夏は外から、冬は中から、それぞれ赤外線を反射する機能で室内を快適に保つ、そんな驚くべき機能を持つフィルムもあるというわけだ。

低放射フィルムのイメージ図(サンゲツ)低放射フィルムのイメージ図(サンゲツ)

低放射フィルムは実際にどの程度の省エネ効果があるのだろうか。サンゲツは三重県の公立高校で教室を借り、1年間にわたりデータの実測を行っている。

日射や広さなどの条件が同様の隣り合う2つの教室で、1クラスは低放射フィルムを貼り付け、もう1クラスは何も貼らない状態で比較したところ、フィルム有りのほうが空調の消費電力量が年間で15%(冷房マイナス27.5%、暖房マイナス7.1%)少ないという結果になった。

もちろんフィルムだけでは、遮熱と断熱の性能を併せ持つLow-E複層ガラスの断熱性能には及ばない。しかし遮熱に関しては同等レベルの性能を持つフィルムがある。また低放射フィルムも一般的な透明板ガラスに貼るのであれば、冬にもその効果が期待できるだろう。

朝比奈氏は「実は学校施設の開口部対策ではフィルムを使うことが多いんです」とも話してくれた。ガラスの破片から子どもたちを守りつつ、窓際の生徒だけがつらい思いをすることなく、どこに座っていても同じような環境を作るためにフィルムが多いに役立っているそうだ。

低放射フィルムのイメージ図(サンゲツ)フィルムを貼った場合の窓ガラスの表面温度の差。フィルムを貼ったほうは高い温度を保っている。窓ガラスの表面温度が下がると、結露や室内に「コールドドラフト現象」と呼ばれる冷気の流れができやすくなる(サンゲツによる実験の試験値)

窓フィルムの上手な選び方。ガラスに合わせてバランスよく

窓フィルムをわが家に取り入れる際の上手な選び方について朝比奈氏に教えてもらった。

「まず飛散防止とUVカットの2つの機能が基本です」

飛散防止の効果は、JIS規格に沿っているフィルムを選べば大丈夫とのこと。UVカットもJIS規格に沿っていれば安心だ。ただし前述のように規定された波長域の範囲外にも紫外線が含まれていることは押さえておきたい。

「実はこのUVカットはフィルムならではの優れた機能です。ガラス自体にはUVカットの機能はありません。どんなに高価なガラスでもです。一部シートが挟んである合わせガラスにはそういった機能を持つものがありますが、高価なためあまり使われていません」

「その先は今使っているガラスの種類が、一般的な透明板ガラス、複層ガラス、Low-E複層ガラスかによって選び方が変わります」

例えば一般的な透明板ガラスや複層ガラスは遮熱機能が無いので、そこに遮熱フィルムを貼れば夏を涼しくできる。一般的な透明板ガラスの場合は断熱性もほとんどないため、低放射フィルムを貼れば夏だけでなく冬も快適になる。

フィルムはガラスの苦手分野をカバーする存在というわけだ。どのフィルムを選ぶにしても、今ついている窓ガラスの基本性能に、新たに機能を付加するというのが考え方の基本となる。

ちなみに遮熱効果とガラスの透明性は反比例をする。例えばサンゲツの透明遮熱フィルム3兄弟といわれる、高透明遮熱「ルーセント90」、透明遮熱「コア70」、透明遮熱「ビスト65」の場合、以下の画像のような関係になっているそうだ。つまり何を重視するかで選び方が変わる。ちなみに人気はバランスのいいコア70とのことだった。

サンゲツの透明遮熱フィルム3兄弟。何を求めるかで選び方が変わる(サンゲツより資料提供)サンゲツの透明遮熱フィルム3兄弟。何を求めるかで選び方が変わる(サンゲツより資料提供)

目隠しフィルムを選ぶ際に注意をしたいのは、可視光線透過率(光を通す割合)と実際の見え方、つまり遮蔽性が異なる点だ。

カタログの数値で光の透過率が高くても、表面にちょっとしたエンボスを付けることで外から見えにくくなっているフィルムもある。「見え方はカタログに写真で掲載されていますので、よく見て選んでいただければと思います」とのことだった。

サンゲツの透明遮熱フィルム3兄弟。何を求めるかで選び方が変わる(サンゲツより資料提供)可視光線透過率が88%と高いにもかかわらず、表面にエンボスを付けることで目隠し効果を高めたフィルム(クレアスガラスフィルム リバー/サンゲツ)

窓フィルムによる熱割れの危険は?

窓ガラスの熱割れのイメージ写真。縁から這うようにひびが入ることが多い窓ガラスの熱割れのイメージ写真。縁から這うようにひびが入ることが多い

窓フィルムを貼る際には、熱割れについても知っておきたい。熱割れとは、強い太陽光でガラスの表面温度が上がり、ガラス内部の温度差によって割れが起きる現象のことをいう。

ガラスにフィルムを貼ると熱割れリスクが上がるのではという不安を持つ人もいる。そのあたりについても聞いてみた。

「熱割れの仕組みは、ガラスに日射が当たると熱くなって膨張しますが、サッシの中に隠れている部分は冷えたまま。その膨張の差によって割れが起きます。これはガラス単体でも起きる現象で、特に網入りガラスで多く見られます」

「サンゲツのホームぺージでは、ガラスの条件によって割れる可能性をシミュレーションする熱割れ判定ができるようになっています。フィルムを貼ることで若干リスクは上がりますが、熱割れ判定を行った上で選んでいただければ、安心して貼っていただけることと思います」

ガラスの構成や方位、室温設定、施工条件などをしっかりシミュレーションし、判定をして選べば、それほど心配はなさそうである。ちなみにフィルムには熱線吸収タイプと反射タイプがあり、反射タイプのほうが熱割れリスクは小さいとのことだった。

DIYで貼ることは可能?

窓リフォームは以前に比べると格段にラクにできるようになっているが、その手間と費用に躊躇をしている人も少なくない。窓フィルムなら安く手軽に室内環境の改善が可能だ窓リフォームは以前に比べると格段にラクにできるようになっているが、その手間と費用に躊躇をしている人も少なくない。窓フィルムなら安く手軽に室内環境の改善が可能だ

最近はDIYブームもあり自分で窓フィルムを貼るケースも見受けられる。

フィルムの基材はペットボトルと同様の素材で裏にノリがついている。これを中性洗剤などの界面活性剤を少し混ぜた水で濡らしてガラス面に貼っていく。

筆者も仕事柄、窓フィルムを取り扱うことがあるが、熱割れのリスクを回避しつつ正しく性能を発揮させ、またガラスを守るためにも専門家による施工を推奨してきた。

その点について聞いてみたところ、「スマホのフィルムを貼るだけでも、すぐにゴミや空気が入ってしまうなど苦労します。ましてや窓は面積も広く、自分で貼るのはかなり難しいと思います」とのこと。

剥がす場合はどうだろうか。窓フィルムは賃貸住宅やマンションの室内環境の改善に大いに役立つ。もちろん賃貸物件の場合は大家さんの、マンションに居住している場合は管理組合の許可が必要だが、問題はキレイに剥がせるかという部分だ。

「剥がす場合も専門家に依頼することをお勧めします。実はフィルムは貼るより剥がすほうが手間が掛かります。専門家であればキレイに剥がすことができます」とのことだった。

朝比奈氏は賃貸住宅にもフィルムを使ってほしいと考えているとのこと。「ローコストに紫外線をカットしたり室内を快適にしたりすることができます。入居者も喜びますし、フローリングの日焼けを防ぐなど部屋を守ってくれるので、大家さんも助かることでしょう」

透明な窓フィルムは目にはあまり見えないが、部屋を快適にして電気代を節約してくれたり、日焼けを防いでくれたり、そっと私たちの暮らしを支えてくれる。窓フィルムの最大のメリットは安く手軽に室内環境を改善できるところにある。上手に取り入れて毎日を心地よく暮らしていただければと思う。

窓リフォームは以前に比べると格段にラクにできるようになっているが、その手間と費用に躊躇をしている人も少なくない。窓フィルムなら安く手軽に室内環境の改善が可能だインテリア性を高めるフィルムもある。これまで室内用のガラスフィルムはオフィスや店舗を中心に使用されてきたが、住宅のインテリアにも使用することで、安全性を高めながら、透明感のある美しい空間づくりができる(シャイニーオニキス/サンゲツ)

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