空き家問題の主役となっている一戸建て住宅
総務省の「住宅・土地統計調査」によると、2018年現在の日本の空き家は約846万戸で、空き家率は約13.6%に達している。空き家は一貫して増えていて、1998年から2018年の20年間で約1.5倍になっている。
空き家問題を懸念する声が大きくなっている中で、中古住宅再生事業の株式会社カチタス(群馬県桐生市)が、2021年7月に「第1回空き家所有者に関する全国動向調査」を実施した。調査では、全国の空き家所有者を対象に「空き家の建物の形態」「相続登記義務化法案の認知度」「空き家所有者が売却先に求めること」などを聞いていて、その結果からは、空き家問題のさまざまな側面が見えてくる。
「空き家になっている建物の形態」は一戸建てが78.1%、マンションが17.0%、アパートが5.4%、その他2.2%となっている。やはり圧倒的に一戸建てが多く、空き家問題は一戸建て住宅の問題と改めてわかる結果だ。一戸建ては新築が好まれるために、中古物件の売買が少なく、価値を評価するシステムが未成熟であることや、建物を取り壊して更地にすると固定資産税が増えるために放置されていることなどが、よくいわれるように空き家を生む原因になっているのだろう。放置すれば、当然のことながら空き家の老朽化は進み、ますます売却できなくなってしまう。カチタスの調査の前に行われた国土交通省の「令和元年空き家所有者実態調査」によると、空き家の50%以上に腐朽や破損があるそうだ。
空き家問題の解決に向けた不動産登記法の改正
放置されている空き家や土地の解消に向けた対策の一環として、2021年4月21日に「不動産登記法の改正」が成立し、2024年4月1日より「相続登記」が義務化されることになった。これまで相続登記は義務ではなかったために、登記されないまま所有者が不明になってしまった空き家や土地も少なくない。そうした管理もされない空き家や土地の発生の抑制を目的にした法改正だ。2024年4月1日以降は、土地所有者が亡くなると、相続人は不動産の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務づけられ、正当な理由なく申請を怠ると、10万円以下の過料が科されることになる。
なお、不動産登記法の改正とともに、所有者が不明の土地を円滑に利用するために民法の一部が改正されたほか、相続や遺贈によって取得した土地を手放して、国庫に帰属させることを可能とする相続土地国庫帰属法も創設された。
この「不動産登記法の改正」を、知っていると回答した空き家所有者はわずか23.2%で、知らないとの回答は76.8%もあった。カチタスも調査報告で、2024年4月の義務化開始までに時間はあるものの、低い認知度は課題だとしている。今後は、認知の向上を図る取組みが活発に行われるだろうが、はたして義務化が始まるまでに空き家所有者の間で認知が十分に広がるのだろうか。気がかりな調査結果といえる。
また、「相続登記義務化が施行される際、現時点における対策検討状況」についての設問では、まだわからないとの回答が44.8%と約半数を占め、次いで、25.5%の人が売却すると答えている。一方で「空き家の相続について家族との対話の有無」については、話し合っていないとの回答が66.7%に達している。4人に1人が空き家の売却を希望しているにもかかわらず、家族の間で相続に関する話し合いはあまり行われていない。ちぐはぐな印象のある回答に対して、カチタスは、空き家になると劣化が進むので、放置されて価値が下がる前に利活用を家族や親族と相談することを提案している。
不動産登記法の改正について知ることは大切だが、住まいの相続や住まいの始末といった根本的なことを考えるのは、さらに重要とわかるふたつの設問だ。
空き家の売却で意外に関心が高い「残置物の処理」
「相続した空き家を売却する際に、売却先に求めるもの」という設問では、信用・信頼が圧倒的な1位で68.3%、高く買ってくれることが41.0%で2位となった。順当な結果といえるが、興味深いのは、残置物処理が28.0%で3番目になっていることだ。いくら身の回りの整理や終活をしても、家財道具をゼロにはできないし、親などの思い出のつまったものも多いので、相続した家族で丁寧に処理したいという思いもあるだろう。その一方で、高齢化が進んで、相続する側も高齢になり、自力での処理は物理的にも、肉体的にも難しいということも少なくない。
また、住まいを相続しなくても、残置物の処理が発生することがある。たとえば、高齢者が介護つき老人ホームなどに入居すると、残された家財道具の大半は不要となり、その処理が必要だ。このように残置物の処理は身近な問題であり、さらには費用も手間も発生することから、関心が高くなるのは当然といえる。
空き家の売却先にあるメリット・デメリットとは
空き家の売却を検討している人に「売却先の意向」を聞いた設問では、不動産仲介会社が45.1%、買い取り再販会社が16.2%となった。
カチタスによると、不動産仲介会社を利用するメリットは、買い取り再販会社よりも高額で売却できる可能性が高いこと。デメリットは、購入希望者がいつ現われるかわからないので、売却まで時間がかかることや、居住中に内覧が発生すること、所有中は庭の手入れや建物の維持管理費、固定資産税などが必要になることをあげている。
一方、買い取り再販会社のメリットは、すぐに現金化できることや、内覧が発生しないこと、売却後の売主責任が基本的には発生しないこと、仲介手数料がかからないことだという。デメリットには、不動産仲介会社よりも査定額が低い可能性があることをあげている。
売却の金額を重視すれば不動産仲介会社、売却のスピードや手間を優先すれば買い取り再販会社ということになるだろうか。
カチタスでは、買い取り再販という事業形態の認知が低いために、不動産仲介会社の半分程度の意向になっていると分析している。空き家の買い取り再販という選択肢の認知を広げることも、空き家問題解決に向けた有効な手立てとなるだろう。空き家相続時の選択肢が広がることは、空き家バンクや空き家販売マッチングサイトの利用も含めて、空き家の流通活性化に寄与するはずだ。
空き家を資産として有効に活用するために、さらなる知恵と取組みが求められている。
■国土交通省「令和元年空き家所有者実態調査報告書」
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001377049.pdf
■法務省「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」
https://www.moj.go.jp/content/001360808.pdf
■法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し【民法等一部改正法・相続土地国庫帰属法の概要】」
https://www.moj.go.jp/content/001362336.pdf
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