人造大理石は製造方法により、デザイン性や質感、お手入れ方法が異なる
「人造大理石」は各メーカーがそれぞれに定義をしている業界用語であり、素材の分量バランスや製造工程、構造によっても、性能やデザイン性、質感、お手入れ方法が異なる。
今回は、国産で初めて人造大理石カウンターキッチンの製造販売を開始したトクラス株式会社に、その製造工程を見せてもらい、上手なキッチンカウンターや浴槽の選び方、人造大理石シンクのメリット、気になるお手入れ方法を聞いた。
人造大理石とは何か、人工大理石との違い、その定義や特性、開発の歴史や最新事情については、「人造大理石とはそもそも何? 人工大理石・FRPとの違い、キッチン・浴槽の開発の歴史と最新事情を聞いた」で詳しくご紹介しているのでご覧頂ければと思う。
引き続きお話を伺ったのは、トクラス株式会社企画開発部技術開発室の佐藤宏氏と松本康弘氏。まずは性能やデザインに大きく関わってくる、人造大理石の製造方法の違いからご紹介しよう。
キッチンの人造大理石カウンターには、合板の裏打ちと無垢の製品がある
今回、見学をしたのは人造大理石のキッチンカウンターとシンクの生産工場である。
まずは原料の調合現場である。主原料は、アクリル樹脂、水酸化アルミニウム、樹脂粉砕物、硬化剤。樹脂粉砕物とは美しい模様を作るためのもので、配合方法などは社外秘である。
これらの調合は、その日の気温によっても変わるとてもデリケートなものだそう。調合の後、泡を抜いて成型する。そしてこの成型方法によって、カウンターの性能やデザインも変わるという。
汎用グレードで多いのが「プレス成型」と呼ばれる熱と圧力をかける製法で作られたもので、厚みは6mm程度、合板で裏打ちをして使用する。これは大量生産はしやすいが、熱いフライパンなどを置くと、熱による伸縮で接着剤が剥がれてしまう可能性があるという。
高級グレードのキッチンの一部やトクラスのキッチンは「注型成型」と呼ばれる製法で作られていて、材料を型に流し込んで温水などでゆっくりと少しずつ温めて固めることで、割れにくく厚みのある人造大理石カウンターを作ることができるという。
トクラスの人造大理石カウンターは厚み10mm以上で、合板の裏打ちはしていない。つまり無垢のカウンターである。「強度に自信があったことから無垢にこだわりました」と佐藤氏。
「無垢にすることでのメリットは数多くあります。透明感があるので光が透過してキャビネット内が明るくなり、エッジ処理が不要になるので目隠しがなく、シンクシームレス接合部のカウンターに厚みがあるので重厚感が出ます。また前垂れからバックガードまで一体形状で製造できるので入隅(いりずみ)がなく汚れにくくなります」とのことだった。
人造大理石シンクの普及、カウンターとは配合も工程も異なる
最近見ることが増えた、人造大理石のシンクについても聞いてみた。人造大理石シンクが登場したのは2002年、トクラスが業界初だという。
「人造大理石シンクのメリットは、デザイン性の高さにあり、部屋が明るくなりキッチンに高級感が出ます。性能面でも素材の特性から、ステンレスより静音性が高く、カウンターとシームレス接合のような加工ができるのもメリットです」と松本氏。
キッチンはよりオープンになりキッチンにもインテリア性が求められる時代である。カラフルな人造大理石シンクは、明るく美しいキッチン空間を生み出してくれる。またカウンターが人造大理石なら、シンクも人造大理石にすればシームレス接合ができるので、つなぎ目の汚れの心配もない。
しかし人造大理石シンクは傷がつきやすいのではという不安もある。その点については、「トクラスの人造大理石は無垢材なので下地が変わることなく、傷がついてもリニューアルができるので、いつまでも新品同様の見た目で使えます」とのこと。また一般的な洗剤や塩素系漂白剤も問題なく使用できる。
シンク用人造大理石の開発には苦労があったそうだ。
「カウンターで蓄積したノウハウはありましたが、シンクはそれ以上に使われ方が過酷。ドライアイスから熱湯までの急激な温度変化、鍋などの落下による強い衝撃、洗剤をはじめとする薬品の付着。世の中にない初めての商品だったため、どうすればその使用に耐えうるのか評価基準を定めるのが難しかったです」
不具合があってはいけないので、要求品質をかなり高いレベルで設定し、構成材料から製造手法まで根本から見直したそうだ。結果、20年近くに及ぶ販売実績につながり、現在トクラスでは、すべてのキッチンシンクが人造大理石製になっている。
人造大理石のプロに聞く、カウンターや浴槽を見極めるポイント
次に新築やリフォームなどで人造大理石のキッチンや浴槽を選ぶ際、どのような点に注意して選べばいいかを聞いた。
前出の「人造大理石とはそもそも何? 人工大理石・FRPとの違い、キッチン・浴槽の開発の歴史と最新事情を聞いた」でご紹介したように、ひと口に人造大理石といっても明確な定義はないため、単純に比較をするのはなかなか難しいそうだ。
しかしよく見ると、粒の奥行き感、透明性、厚み、裏補強材、シンクの場合は耐熱冷水性などの性能が異なるので、まずはショールームで実物をよく見て触って確認をしてほしいとのこと。
ほかに見ておきたい点は、「キッチンなら前垂れからバックガードまで一体形状になっていれば、汚れにくく、お手入れがしやすくなります。平板で接着していると、入隅ができて汚れやすくなり、お手入れに手間がかかります」と松本氏。
「注型成型」で継ぎ目なく一体成型されていれば、コーナー部分もなめらかでお手入れが楽にできるというわけだ。美しいエッジの処理やトクラスで人気のハイバックカウンターなども無垢だからできるデザインだという。
ここまでくるとちょっとマニアックな世界にも感じられるが、本当に使いやすく美しいキッチン選びをしたいなら、製造方法や構造、細部のデザインにもこだわることで、より満足のいく設備選びができることだろう。
また「熱や傷に対するリスクが高いと、カウンター上に注意書きシールが貼ってあったりします」とのことなので、そこもチェックポイントのひとつになりそうだ。
浴室に関しては、「耐傷性やお手入れ性はどうかをよく確認して頂ければと思います。例えば当社のエクランは表面をゲルコート層で保護しているため、熱に強く、劣化も少なく、長年使用しても汚れの落としやすさは変わりません。さらに傷もつきにくく、細かい傷がついても磨いてリニューアルすることができます」とのこと。
肌触りの違いは実際に触れてみると分かるとのこと。現物をしっかり見て触って比較してみるといいだろう。
人造大理石のキッチンカウンターやシンク、浴槽のお手入れ方法
人造大理石のカウンターやシンク、浴槽のお手入れ方法については、水回りをキレイに保つための「お手入れガイド」を頂いたので、その中身を少しご紹介しよう。
基本のお手入れは、中性洗剤とスポンジで軽くこすり洗いをする。また洗剤を使ったら、しっかり洗い流す。ほとんどの汚れはこれで落ちる。
またついた汚れは時間がたつほど落としにくくなるので、ついたらすぐに落とすようにすることが大切だ。
キッチンの人造大理石部分の汚れは、基本は中性の台所用洗剤を使用、汚れ落としの力を強めたい場合は弱アルカリ性のクリームクレンザーなど、ひどい汚れにはアルカリ性の塩素系漂白剤が使用できる。
こびりついたガンコな汚れやすり傷は、トクラスの人造大理石カウンターやシンクの場合は、スポンジたわしのナイロン面に水を含ませ軽くこする、またはクリームクレンザーを少量たらしてスポンジや丸めたラップでこすり落とす。傷がついてしまった場合は市販の耐水サンドペーパーでこすってきれいにすることができる。
人造大理石浴槽の場合は、中性洗剤と浴室用スポンジを使用。酸性・アルカリ性などの強い洗剤や、キッチン用のクレンザー・たわしなどは材質を傷つける恐れがあるので使用しないようにとの注意書きがある。
またクリームクレンザーには研磨剤が入っているため、こする強さによっては傷がついたり、ツヤがなくなったりするとのこと。浴槽とキッチンの人造大理石カウンターとはお手入れ方法が異なるので注意が必要だ。
ただしこれらはトクラスの人造大理石製品の場合のみであり、メーカーによってお手入れ方法は異なる。サンドペーパーで磨くと、表面のコーティングが取れてまだらになってしまうものもあるので、製品ごとにお手入れ方法をよく確認しておこう。
また洗剤は使用上の注意をよく読み守ることが肝心だ。洗剤による手荒れやケガの防止にゴム手袋をしておくといいだろう。
人造大理石の寿命は?
人造大理石の寿命は、品質や製造方法によって異なる。
トクラスのキッチンカウンターの場合は、35年前のヤマハ製の人造大理石のキッチンカウンターを再生してリフォームする人もいるほど長寿命であるとのこと。表面を磨きながら自分自身で補修をし続け、美しさを維持しながら長く使うことも可能だそうだ。
人造大理石は、住宅設備にもはや欠かせない素材となっている。いつまでも美しく、そして愛用し続けることができるキッチンや浴槽を選んで頂ければと思う。
取材協力 トクラス株式会社
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