人造大理石とは?人工大理石とはどう違う?
人造大理石とはそもそも何でできていて、どんな特徴があるのか、実はその定義はあいまいである。人工大理石という呼び名もあり、その違いもはっきりしていない。
人造大理石は今や住宅設備に欠かせない素材である。システムキッチンの白いワークトップの多くは人造大理石製で、浴槽や洗面化粧台にもよく使われている。
そこで今回は、1976年に国産で初めて人造大理石カウンターキッチンの製造販売を開始、45周年を迎えたトクラス株式会社に製造工程を見せてもらい、人造大理石とは何なのか、その定義や特性、開発の歴史、そして最新事情を聞いた。
日本語訳の違いで表記が分かれた「人造大理石」と「人工大理石」
お話を伺ったのは、トクラス株式会社企画開発部技術開発室の佐藤宏氏と松本康弘氏。重箱の隅をつつくような細かい質問にも、すべてに丁寧に回答を頂いた。
まずは「人造大理石」という名称についてである。日本の住宅設備メーカーのLIXIL、タカラスタンダード、そしてトクラスは「人造大理石」、TOTO、クリナップ、そしてアメリカデュポン社のコーリアンは「人工大理石」と呼んでいる。筆者のような建築に携わる者はまとめて「人大」と呼ぶことが多い。
「人造大理石」と「人工大理石」の違いは、各所でさまざまな定義付けがなされているのだが、統一された見解を見つけるのは難しい。この2つにはどんな違いがあるのだろうか。
「トクラスも含め大手住設メーカーで『人造大理石』と表記している素材は、『人工大理石』と同じアクリル樹脂やポリエステル樹脂に無機物を混ぜた人工素材です。Artificial Marbleの日本語訳をする際に、各メーカーが『人造大理石』『人工大理石』どちらも採用しており、統一されていませんでした」と佐藤氏。
「人造大理石」と「人工大理石」は、選んだ日本語訳の違いで表記が分かれた同じものというわけである。一時期は統一するような動きもあったそうだが、結果的に統一されないまま今に至るという。
「『人造大理石』と『人工大理石』は広辞苑には掲載されておりません。これらは業界用語です。『人造石』は広辞苑に明記されています」とも。
つまり「人造大理石」や「人工大理石」には今のところ統一された定義はなく、各メーカーがそれぞれに定義付けをして呼んでいる業界用語とのこと。「人工大理石」と呼んでいるコーリアンのメーカー説明にも、天然の大理石を含む「人造石」とは異なるという注意書きがある。
ちなみに手元にある広辞苑第四版で「人造石」をひくと、「セメントに花崗岩・石灰岩の砕石などを加えて種々に成型し、天然石の外観を持たせたもの。模造石」とある。そしてこの「人造石」の中の一種に、大理石などの砕石を使って美しい模様を作り出した「テラゾ」がある。
「人造大理石とは天然の大理石が含まれているもので、樹脂である人工大理石とは異なる」と記載されていることもあるが、これも各々独自の定義であり、「人造大理石」と「人造石」、「テラゾ」が混じって広まったもののようである。
キッチンはアクリル系人造大理石、浴槽はポリエステル系、それぞれ特性が異なる
ひと口に人造大理石、人工大理石といっても、メーカーごとに独自の技術と定義があり、それぞれに特性がある。
日本の人造大理石メーカーの老舗であるトクラスの場合は、「樹脂と無機物を混ぜた素材で、意匠性が優れ、特に衝撃、熱変色、光変色、熱湯などへの耐久性やメンテナンス性に優れた材料を『人造大理石』と定義しています」とのこと。
また以前は、キッチンの人造大理石カウンターにはアクリル系とポリエステル系があり、アクリル系は高価ではあるが熱や太陽光による変色が少なく、ポリエステル系は安価だが熱に弱く傷がつきやすいといわれていた。
筆者が10年ほど前に執筆したキッチンのカウンターの選び方の記事でも、アクリル系を選ぶことを勧めている。
しかし現在では、ポリエステル系のキッチンカウンターを見ることはほとんど無くなっている。ポリエステル系の人造大理石はもう使われていないのだろうか。
アクリル系とポリエステル系人造大理石の最新事情を聞いてみたところ、「キッチンカウンターで100%ポリエステル系の人造大理石はほとんどなくなり、多くはアクリル系の樹脂になっております。バスタブ素材にはポリエステル系が多く使われています」と佐藤氏。
これはアクリル系、ポリエステル系、それぞれの特性に合わせて選ばれているとのこと。ポリエステル系だから品質が低いというわけではない。
「キッチンは火を使う場所ですし、天ぷら油が跳ねるなど高温にさらされる可能性が高いため、特に熱に強いアクリル系が適しています」と松本氏。
「浴槽はキッチンのように何百度という温度下におかれることはほとんどないので、キッチンほどの耐熱性は必要ありません。それよりもお湯を長時間入れることに耐える必要があるため、より耐熱水性が高いポリエステル系を使用しています」とのことだった。
人造大理石とFRP浴槽の違いは?
人造大理石と人工大理石、アクリル系とポリエステル系の違いは、だいたい整理がついたが、浴槽にはFRPが使われることも多い。
FRPとはFiber Reinforced Plastics、樹脂にガラス繊維などを混ぜた強化プラスチックのことで、ポリ浴槽、ポリバスなどと呼ばれている。
実はこのFRPと人造大理石の違いも、あいまいになりつつあるそうだ。「以前は、人造大理石は樹脂と無機物を混合したもの、FRPは繊維で補強したものと区別していましたが、最近ではその境界があいまいになってきています」と佐藤氏。
「FRPでも意匠性が優れ、耐久性やメンテナンス性に優れた材料が開発されてきており、人造大理石と呼ぶ素材もあります」とのこと。確かにメーカーによっては、FRPをベースにして表面をアクリルウレタン系樹脂などでコーティングした浴槽を人造大理石浴槽と呼んでいるケースもある。
つまりは、人造大理石だから、人工大理石だから、FRPだからという名称頼りに選んでも、実際の素材までは分からないというわけだ。
加えて人造大理石製品は、製造工程や構造によってもその性能が異なるとのこと。どのような違いがあるのか、生産現場である静岡県浜松市のトクラス本社工場を見学させてもらい、詳しく話を聞いてきた。
トクラスの人造大理石やピアノ塗装はヤマハのものづくりの技術開発から生まれた
人造大理石の工場へ向かう前に立ち寄ったのは、アップライトピアノやラケットなどのスポーツ用品、ボートなどが飾ってあるブースである。
それもそのはず、トクラスの起源はヤマハ株式会社にある。ヤマハはものづくりと新素材の開発に邁進してきた会社である。
ここで少しヤマハそしてトクラスの、FRPや人造大理石などの素材開発の歴史をご紹介しよう。
ヤマハ創業者の山葉寅楠氏は、時計や医療器具の修理などを行っていたそうだが、ある日、浜松の小学校にあった貴重な輸入オルガンの修理を請け負うことになった。その修理には相当の苦労があったそうだが、その後日本で初めて本格的な国産オルガンの製造に成功。後のピアノ製造の礎になったという。
このものづくりの精神やピアノ塗装の技術は、ヤマハから分かれた現在のトクラスの製造現場にも受け継がれている。工場内には「匠道場」と呼ばれる研修制度があり、塗装職場から技術に優れた選りすぐりのメンバーが、塗装技術の研鑽や新たな商材開発に励んでいる。
トクラスの最大の特徴ともいえるピアノ塗装技術を応用した美しい塗装のキッチン扉も、このような社内風土から生まれたものだ。トクラスでこの高度な塗装ができるのは、「匠道場」を卒業したなかでも精鋭の9人だけだそうだ。
ボートから生まれたFRP浴槽、さらなる心地よさを求め浴槽専用の人造大理石を開発
ヤマハ、トクラスはこれまでスポーツ用品やボート、キッチンカウンター、浴槽などさまざまな新素材の開発を行ってきた。
4代目社長の川上源一氏は、戦後復興の真っただ中に欧米を視察。そこで見た豊かな暮らしに衝撃を受け、日本でもそんな暮らしを根付かせたいという思いから新素材FRPを開発。アーチェリー、スキー、ボートなどの製品を次々と世の中に送り出した。
そしてそのFRP製のボートから生まれたのが、FRP浴槽である。「水に浮かぶボートをひっくり返せば浴槽になる。水が容器の外か内かだけの差だ」という発想から、バスタブの製造を開始。1964年にFRP製の「ヤマハバス」が登場した。
しかしFRPは強度には優れてはいるが、質感や耐熱性に課題があったという。そこで1976年に既に人造大理石カウンターキッチンを製造・発売していたヤマハは、改めて浴槽用の人造大理石 を開発。1984年には自社で開発した人造大理石の浴槽が誕生した。
「現在のトクラスの人造大理石浴槽は、実際に入浴した際の肌触りのよさを重視し、肌にしっとりと吸いつくようなツヤのある仕上げとしています」と松本氏。
ちなみにトクラスの浴槽には、エプロン(浴槽の前板部分)にも人造大理石が使われている製品がある。とてもスタイリッシュなデザインの浴槽だが、実はこのような作りは珍しいそうで、「エプロンまで人造大理石にすることで、意匠性が格段に上がり、特に衝撃、熱変色、光変色、熱湯などへの耐久性やメンテナンス性に優れています」とのことだった。
次世代の人造大理石カウンターも登場
人造大理石はさらに進化を遂げ、その特性メリットはそのままに、これまでにはないデザインの次世代人造大理石カウンターも登場している。
トクラスは、基材の人造大理石に特殊な塗装を施し、深みのある表情を生み出したキッチンカウンター「テノール」を発表。2020年のグッドデザイン賞を受賞した。
「基材となる人造大理石カウンターに、特殊な配合の樹脂を幾層にも積み重ね塗布し、加熱により硬化させることで「タフエンボスコート層」を形成。耐傷性・耐汚染性が向上し、深みのある濃色やグラデーション表現、エンボス調仕上げなど、高品位な美しさを表現することができます」と松本氏。
テノールは一体成型の人造大理石なので入隅(いりずみ)がなくお手入れは簡単、現場でのカットが可能で、豊かな表情を持ちながら、セラミック製と比較するとコスト面でも有利であるという。これはヤマハ時代から培った先進の人造大理石技術とピアノで磨かれた優れた塗装技術に絶対の自信を持つトクラスだからこそ生まれた製品だろう。
さてこの後の工場見学により、人造大理石は製造方法や構造によって、耐久性やデザイン、お手入れの手間も異なることが分かった。
その違いや人造大理石のキッチンカウンターや浴槽の上手な選び方、人気の人造大理石シンク、お手入れ方法などについては、次の「人造大理石キッチンカウンターや浴槽の上手な選び方、お手入れ方法を聞いた」でご紹介しよう。
今回、人造大理石と人工大理石の名前の由来など、筆者も初めて知ることが少なくなかった。何より日本のものづくりの現場に触れると、その情熱や心意気、前進する努力と優れた技術にいつも感動させられる。
人造大理石、人工大理石、FRP、さまざまな呼び名があるが、名称にこだわり過ぎることなく、皆さまにとって本当に満足のいくキッチンや浴槽に出合っていただければと思う。
取材協力 トクラス株式会社
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