2021年4月開校、株式会社立の私立小学校「瀬戸SOLAN小学校」
古くから陶磁器の産地として名高いせともの発祥の地・愛知県瀬戸市。現在も多くの窯元や工房が集まるやきもののまちに、2021年4月「瀬戸SOLAN小学校」が開校した。
同校は、内閣府から「瀬戸市国際未来教育特区」の認定を受けた私立小学校。
廃校した中学校の校舎を一年かけてリノベーションした学校で、校内の造りも教育方針にも特色があり、その学習環境デザインが何かと話題になっている。
瀬戸市では、複数の市立小・中学校を廃統合して小中一貫校の「瀬戸市立にじの丘学園」を2020年に開校。それに伴って閉校した瀬戸市立本山中学校の校舎跡地を活用するため、公募型プロポーザル方式で事業者を募集した。
その結果、特色ある教育で”未来を生きる子どもたちの人づくり・そして瀬戸市のまちづくりにつながる学校づくり”を提案した教育関連会社が運営事業者に決定。市の施策の一つとして、国の構造改革特区制度を活用した「瀬戸市国際未来教育特区」計画を内閣府に提出し、認定を受けて株式会社立の「瀬戸SOLAN小学校」が誕生する運びとなった。
株式会社運営の学校ではあるが、他の市立小学校などと同じく学校教育法における一条校(※)の私立小学校であることも特徴だ。
※国が認めた幼稚園・小学校・中学校・義務教育学校・高等学校・中等教育学校・特別支援学校・大学(短期大学および大学院を含む)および高等専門学校のこと
”廊下側に壁がない”教室も特徴的。英語教育やICT環境に力を入れる
校舎の北館と南館は大胆にリノベーションし、以前の中学校建物の面影を残しながらも大きく生まれ変わっている。
教室が連なるフロアは一面が鮮やかなオレンジ色のカーペット敷きで、従来の教室の姿とはかなり違う印象。
特筆すべきは、”教室と廊下の間に壁がない”ことで、吊下げ式の可動ホワイトボードと防音性の高いカーテンが備えられ、それで仕切ることはできるものの基本的には常に開かれていることに驚く。
学習机も一般的なものとは異なり、キャスター付きの可動式で形状もユニーク。授業に合わせて、1台ずつ使う・並べて一列にする・2台を向かい合わせて対面にする・丸くして皆で話し合う…とさまざまなレイアウトが可能。そもそも席が決まっていない”フリーアドレス制”なことも斬新だ。
配管がむき出しになった天井は高く開放的で、洒落た雰囲気がこれまで抱いていた「教室」のイメージを覆した。
教室には先生の席が前後に2つ。これは、日本人教師と外国人教師がペアを組んで各クラスを担任しているからだ。
同校は「英語教育」を教育方針の柱の一つとしており、授業全体の約4割を英語で実施。英語・音楽・体育・図工は英語で学び、算数・生活・理科は日本語で行う授業と並行して英語でも行うスタイルだという。
ただ、英語教育に力を入れているとはいっても、自国基準のインターナショナルの考えではなく、言語をツールとして活用することが目的で、教科書は瀬戸市が採用しているものと同じものを使用。学習指導要領に則った教育を行っている。
そんな英語教育と並んで重視されているのが「ICT環境」。
同校の運営会社である株式会社教育システムはGIGAスクール構想の保守を引き受けていることもあり、教育面でのICT利活用に長けている。
児童は自分専用のタブレット端末を使って校内外で学べるほか、オリジナルアプリの開発や、通知表ではなく日々の学びの記録をデータ配信するなどのシステムも導入。また、玄関を通過した際の保護者への通知や各児童の検温結果を蓄積するなど、安全面や感染症対策でもICTを活かす。このような先進性も同校が注目されるところなのだろう。
木のぬくもりと学習環境デザインの「ラーニングコモンズ」。こだわりのオープンスペースで探究心を育む
各教室や職員室・事務室はリノベーションした南館と北館に配置し、その2棟の間にあった中庭には「ラーニングコモンズ」を新築。
子どもたちが自由に遊び・学ぶ広いスペース「ラーニングセントラル」を中央にレイアウトし、そこを中心に、同校が一番の重きを置く「探究学習」をサポートする空間が設けられている。
■アレキサンドリア
いわゆる図書館のここにも壁がない。7,000冊の所蔵図書を校内に分散配下しているのも特徴。英語・ICT・探究心を育てるための本も多く、貸出手続きなどは児童各自がタブレット端末で行う。電子書籍もあり管理や検索もスムーズ。
■ソクラテスラボ
ゆったりと思索するための場所。ビーズクッションに包まれながら、自身と向き合ったり友達とのんびり寛げる空間もある。
■ダヴィンチ・ラボ
ものづくりのための場所。工作はもちろん、3Dプリンタを使った造形や、YouTubeの撮影や映像編集まで行えるようにスタジオも併設。なお、同校はパナソニック教育財団の実践研究助成校(2021年度)に選ばれた。
■コルドンブルー
調理を通した学びと交流の場で、一般的な学校でいう家庭科室。給水できるスポットでもある。
そして音楽室は、児童が座る椅子が打楽器の「カホン」なのが面白い。各教室と同じく、吸音ボードを採用して音に配慮。音の反射をなるべく無くすために、一般的な正長方形の空間ではなく、壁の角度を調整して面を増やして壁からの反響が少なくなるように設計したそうだ。
特色ある学習環境に惹かれ、瀬戸市に”教育移住”する家族も
長尾理事長曰く、”グローバルシチズンシップ”の育成を掲げる「瀬戸SOLAN小学校」は「主体的に学ぶ学校」とのことだが、筆者も子を持つ親として、自主性を育めそうな学習環境は、好ましい学び体験を得られそうな期待感を持った。
未来を担う人材に必要とされる探究心や英語力、ICTの順応を柱とする教育理念に惹かれる親御さんも少なくないようで、わが子の教育環境として瀬戸市への移住を決めるケースもあるという。
開校前には、東京をはじめ地方移住と教育に関する東京説明会を瀬戸市と連携して実施。
教育目的での地方移住を促すプロモーションは全国的にも珍しいことだが、積極的な情報発信もあり、実際に、関東や関西、市外から同校への入学を目的に瀬戸市に移住を決めた家族が何組かあったそうだ。
市や地域と連携し、開かれた小学校としてもまちの活性化に貢献
また、運動場もかなり特徴的かつ個性的。
広々としたグラウンドは緑が鮮やかな全面人工芝で、照明やバックスタンドも設置されている。それだけでも珍しいが、実は、地元のフットボールクラブ・瀬戸FCのホームグラウンドも兼ねている。グラウンドを貸す代わりに整地を任せるスタイルを取っているというから興味深い。
同校は、地域の広域避難場所として防災備蓄倉庫機能も備えるほか、以前の建物に冷暖房とボルダリングウォールを増設した体育館を貸し出したり、地域のアフタースクールとして同校児童だけでなく他校の子どもたちが元気に利用していたり、土曜教室を開講して英語漬けの時間を楽しんでもらったり…と地域にも広く開かれている。
開校前に実施した地域住民向けの内覧会では「とても良い」「子どもの声が戻ってきてくれて嬉しい」など好意的な声が相次いだそうだ。地域の人々にとっても、新たな”まちの自慢”になっているのではないだろうか。
第一期生を迎えた今年度は、小学1年生~3年生までの40人弱でスタート。
今の在校生たちが中学に上がるタイミングに合わせた3年後に中学校も開校し、小中一貫校になる予定だとか。
”教育移住”の先駆けとしても人の流入を後押ししそうな同校の誕生。
せとものや藤井聡太二冠を輩出したまちとしても知られる瀬戸市が「教育のまち」として加速するのか楽しみだ。
取材協力/瀬戸SOLAN小学校 ttps://www.seto-solan.ed.jp/
※校内の様子は、学校ホームページ内の バーチャル見学 でも確認できる
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