空き家活用のハードルの一つは、大きな改修費用

アキサポを活用した築115年の京町家再生事例アキサポを活用した築115年の京町家再生事例

「空き家問題」は全国どこでも身近になりつつある。総務省の調査によると、2018年時点での全国の空き家数は846万戸、空き家率は13.6%と過去最高を記録している。空き家数・空き家率ともに右肩上がりを続けており、空き家率が低い一都三県でも10軒に1軒は空き家となっている。(※1)
今後ますます空き家は増えていくことが予想されるが、その活用にはさまざまな課題が存在する。その一つが、所有者にのしかかる改修費用の負担だ。維持管理だけでも大変なのに、改修には数十万円、数百万円、場合によってはそれ以上の費用がかかることもある。やむなく放置される空き家が多いのが現状であろう。

そんな空き家の課題を解決する一助となりそうなのが、株式会社ジェクトワンが手がける空き家活用サービス「アキサポ」(以下、アキサポ)だ。広報の竹内麻実さんにアキサポの仕組みと事例を伺った。

「アキサポの特徴は、空き家所有者様の自己負担なく空き家を再生・活用できる点です。初期費用の懸念が解消されることは、『本当は空き家を放置したくない』と考える所有者様が一歩を踏み出すきっかけになります。」(竹内さん:以下「」内は竹内さん)

所有者の自己負担なく始められる、「アキサポ」の仕組みとは

アキサポの仕組みはこうだ。まず、空き家の所有者とアキサポが定期借家契約を結び、リノベーションを行った後に活用物件として一定期間利用者や転貸者を募集する。

アキサポの仕組みアキサポの仕組み

契約には以下の内容が含まれている。
・改修費用はアキサポが負担する。
・利用者の募集から管理まで一貫してアキサポが行う。
・定期借家契約期間中は固定賃料を所有者に支払う。
・定期借家契約終了後は施設利用者からの収入(利用料・賃料など)全額が所有者の収入になる。
・定期借家契約終了後も、アキサポが管理運営を継続することもできる。

初期費用の負担がないだけでなく、家賃保証もついているため空室や利用者がいない場合でも安心だ。空き家所有者にとって魅力的な契約内容であるが、アキサポ側の収益性は担保されるのだろうか。この点は、物件の目利き力と空き家をどう活用するかで大きく左右されるだろう。

「今までに空き家の活用を数十件と手がけていますが、どのケースも数年で黒字化する仕組みです。確かに最初の数年は厳しいですが、事業として成り立つよう物件選びや活用方法にも一定の基準を設けています。この物件、この街なら、どのような活用プランがベストなのか、一件一件条件が違うからこそ、そこがアキサポの腕の見せどころであり面白さですね。」

京都白川、築115年を超える京町家の活用事例

アキサポの空き家活用事例を見ていこう。2020年11月、京都市東山区にオープンした一棟貸し宿泊施設「ANJIN GION SHIRAKAWA(あんじん ぎおん しらかわ)」は、築115年を超える京町家の古民家であった。京都市の空き家率は、2018年時点で12.9%(※2)。京都市は都市部を中心に約4万8,000軒あった京町家が約4万軒まで減っており、京都の伝統的な街並み景観を形作る京町家が年々失われつつある一方、京町家の空き家の数は増加傾向にあるとのこと。この物件も居住用の賃貸物件であったが、2019年に賃借人が退去した後、そのまま空き家としておくのか、リフォームして次の入居者を探すのか、所有者は判断に迷っていたそうだ。

「伝統ある京町家を壊さずに、地域のために役立てられる方法はないか。そんな所有者様の意向を汲み、国内外の人に向けて京町家の魅力を伝えられるような一棟貸し宿泊施設へリノベーションすることになりました。」

左上:京町家らしく奥行を感じる玄関、非接触で開錠が可能 右上:白川を一望できる2階居間 左下:伝統工芸品「西陣織」のアートパネル 右下:羽毛布団や座布団、カトラリーなど京都ゆかりの備品がそろう左上:京町家らしく奥行を感じる玄関、非接触で開錠が可能 右上:白川を一望できる2階居間 左下:伝統工芸品「西陣織」のアートパネル 右下:羽毛布団や座布団、カトラリーなど京都ゆかりの備品がそろう

この物件の見どころは、2階の居間の「借景」だ。白川に面する壁一面に設えた開口幅約4mの窓いっぱいに、風情ある白川の柳並木の景色が広がる。床面積の限られた中での設計には苦労したそうだが、ゆとりを感じられる空間となっている。こうした空間デザインのほか、京都にゆかりのある事業者と連携し京都の魅力を伝える仕掛けも、宿泊者に京都の伝統を感じてもらいたいとこだわったプランナーの想いである。例えば、壁に飾られた西陣織のアートパネルをはじめ、羽毛布団や座布団、カトラリーなどにも京都の作家や企業の備品が使用されている。
今後は施設内で伝統工芸を体験できたり、近隣の料亭の味を楽しめるようにしたりと、新しい地域事業者との企画を進めているという。

「このANJIN GION SHIRAKAWAには『京都で脈々と受け継ぎ、育んできた深い歴史と文化によって「安心」や「幸福」を感じる時間を過ごしていただきたい』というコンセプトがあります。改修工事会社や宿泊施設運営会社などできるかぎり地元京都の企業に委託し、地域に寄り添う事業となるよう進めてきました。地域の事業者と協働することで、ただ宿泊するだけでなく、京都の伝統や文化を身近に感じられる空間を目指しました。」

地域に合った活用プランを練り、改修費用をアキサポが負担することで物件の可能性が広がった事例といえるだろう。所有者からは「自身の資金力ではとてもここまで改修できなかった。京町家の魅力を多くの人に感じてもらえてうれしい」という声があったそうだ。

徹底して地域の声を聞く、アキサポのこだわり

「飲食店が増えてほしい」という近隣の声から生まれたシェアキッチンの事例(東京都豊島区)「飲食店が増えてほしい」という近隣の声から生まれたシェアキッチンの事例(東京都豊島区)

空き家再生の肝となる、活用プランはどのように決めているのか。ここが空き家活用の難しさであると同時に、空き家の可能性を広げるポイントになる。

「アキサポでは活用プランを立てる際に、所有者へどのような活用をしたいのかをお伺いします。『ずっとお店にしてみたかった』『地域性に合わせた活用をしたい』などのご意向を基に、必要に応じて周辺マーケティングを行い活用プランをいくつか立てます。そこから、地域貢献性を軸にプランを確定させて、いよいよ空き家活用スタートとなります。実際に地元の方々にヒアリングさせていただくこともありますが、空き家活用を面白がってくれる方は意外と多く、活用に対するご意見や、空き家にまつわるさまざまな思いを生の声で聴いているからこそ、弊社の空き家活用は地域貢献性の高いサービス展開ができていると思います。」

広報に携わる前は空き家活用プランナーとして活躍していたという竹内さん。どの案件も思い入れがあるのだろう、懐かしそうに話す表情が印象的だった。

「新しくできる場所に自分の意見が反映されていたら、やはり親近感がわきますよね。地域の意見を集めて進めることで、周辺の方にとって『自分ごと化』されていきます。プランナーも顔を覚えてもらえたり、工事中も応援してくれる人がいたり、そうして地域に受け入れられた状態でオープンできると運営も軌道に乗りやすいです。」

景観や治安の悪化、不動産価値の低下などマイナスに捉えられやすい空き家が、地域にポジティブに受け入れられる事例が広がっているようだ。

行政とも連携し空き家活用のモデルケースを増やしていく

2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」を機に、空き家問題が話題になることは増えた。アキサポのビジネスモデルに興味を持つ不動産事業者も多いようだが、プレーヤーが増えるには課題もある。

「私たちは、自社に限らずアキサポの仕組みがもっと広がってほしいと思っています。最近では東京都墨田区と協定を結ばせていただいたり、不動産会社からの問合せも増えてきたりと、空き家問題への関心が高まっているのは間違いありません。ただ、改修費用を先行投資していくアキサポのビジネスモデルは、企業体力がないと参入が難しい仕組みです。行政の支援策は空き家所有者を対象にしたものが大半なので、事業者側が継続的に利用できる制度がもっと増えてほしいですね。」

「空き家解体補助金制度」や「家賃低廉化補助制度」など、空き家所有者向けの補助金制度は整備されているものの、事業者を対象とした制度は少ない。今後事業者向けの制度が拡充すれば、空き家活用に積極的に取り組む事業者が増え、所有者にとって有益な選択肢が増えていくだろう。

「物件それぞれの特性や周辺のニーズに合った活用をすることで、空き家の可能性は広がります。やむをえず放置されている空き家も、きっかけさえあれば『せっかくなら地域貢献できる場に』と望まれる所有者様も多いです。その希望を実現し、地域を活性化させるモデルケースを行政とも連携しながら増やしていければと思います。」

「ANJIN GION SHIRAKAWA」 近隣の事業者と連携し、京都の伝統を発信する場に「ANJIN GION SHIRAKAWA」 近隣の事業者と連携し、京都の伝統を発信する場に

※1:平成30年住宅・土地統計調査住宅数概数集計 結果の概要
https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2018/pdf/g_gaiyou.pdf
※2:京都市総合企画局情報化推進室 平成30年住宅・土地統計調査「住宅及び世帯に関する基本集計」より
https://www2.city.kyoto.lg.jp/sogo/toukei/Others/HouseLand/

【取材協力】ANJIN GION SHIRAKAWA
所在地:〒605-0069 京都府京都市東山区唐戸鼻町559-4
交通:京都市営地下鉄東⻄線「東⼭」駅より徒歩3分
客室:2階建ての1棟貸し(面積:1階・2階合わせて約53m2、収容人数:最大5名)
http://bit.ly/anjinbooking
公式Instagram:https://www.instagram.com/anjinkyoto/
運営:株式会社ジェクトワン

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