2007年に施行された「新景観政策」を整備

京都市都市計画局都市計画部の門川信一郎さん京都市都市計画局都市計画部の門川信一郎さん

京都市のまちなかを歩くと、大都市に比べて高い建物や派手な看板が少ないことに気付く人もいるかもしれない。

こうしたまちづくりのきっかけになったのは、2007年に京都市でスタートした「新景観政策」である。長い歴史を持つ寺社や京町家などが多く残る町並みを50年後、100年後に引き継いでいくことを目的に、建物の高さ・デザイン、屋外広告物にさまざまな規制を設けた政策だ。

政策開始から10年以上がたつ今、「新景観政策」の高さ規制が整備されようとしている。「特例許可制度」、つまり規定されている高さ以上であっても特例として建設が許可される制度に新たな建築物を追加しようという動きがあるのだ。2021年3月に開かれる審議会で案が通れば、春以降には実現することとなる。

新たな案の内容や追加が検討された理由とは何だったのだろう。京都市都市計画局都市計画部の門川信一郎さんに話を聞いた。

これまでに特例を認められた建築物は、洋館の移築や病院など8件

まずは現行の「新景観政策」で規定されている高さ制限について紹介しよう。
一番高いのは、都心部の幹線道路沿道などにある建物で、最高限度は31m。そこから周辺部に向かうに従って、25m、20m、15m、12m、10mと低くなっていく。

「まちなかは商業施設や高いオフィスビルなどが集まるため、どうしても高さが必要です。では、なぜ周辺部は低いのか。それには、東、北、西の3方をなだらかな山々に囲まれた地形が関わっています。京都の人にとって、どこにいても山が目に入る景色は、京都らしさを感じられる大切な要素。京都らしい景観を守るためにも、山のそばに高い建物を建てないことになっているのです」(門川さん)

京都市の東側にある大文字山からの景色。三方が山に囲まれた盆地という市内の様子がよくわかる(提供:京都市都市計画局都市計画部)京都市の東側にある大文字山からの景色。三方が山に囲まれた盆地という市内の様子がよくわかる(提供:京都市都市計画局都市計画部)

だが、この高さ制限には例外が設けられている。それが前述の「特例許可制度」である。良好な市街地の環境や街並み景観に寄与していたり、都市機能の整備を図る建築物は、高さの規定を超えてもよいとされているのだ。具体的には次の二つの建物が対象となっている。

1.優れたデザインの建築物
優れたデザインを有し、規模・高さなどについて総合的に配慮がなされている建築物

2.公共・公益施設
学校、病院などの公共、公益上必要な施設で、景観に配慮し、機能の確保を図るうえで必要な建築物

1の「優れたデザインの建築物」として許可されたのは、これまでに1件。戦前に建てられた建築家・片岡安さん設計の洋館である。伏見区に建てられていたこの洋館は、1998年に解体。2011年に保管されていた建材や建具などを使用し、右京区に移築・再建された。
「移築先は高さ制限が10mでしたが、洋館は11mあったため特例許可制度が適用されました」
2の「公共・公益施設」はこれまでに7件。京都大学吉田キャンパス病院、京都第一赤十字病院などである。

京都市の東側にある大文字山からの景色。三方が山に囲まれた盆地という市内の様子がよくわかる(提供:京都市都市計画局都市計画部)片岡安さん設計の洋館(提供:京都市都市計画局都市計画部)
京都市の東側にある大文字山からの景色。三方が山に囲まれた盆地という市内の様子がよくわかる(提供:京都市都市計画局都市計画部)京都大学吉田キャンパス病院(提供:京都市都市計画局都市計画部)

許可の条件は、地域にとって必要な都市機能の確保、住民が集まれるまちづくり活動の実施など

「2007年に設けた特例許可制度ですが、10余年で適⽤されたのは8件だけでした。景観を規制により保全するだけではなく、まち全体を活き活きとした場所にし、新たな景観を創造していくため、対象の追加を検討することになったのです」

今回、三つめの特例許可制度として提案されたのが「まちづくりに貢献する建築物」である。

「京都市のまちづくりの⽅針と建築される地域のまちづくりのビジョンに適合し、景観にも配慮されたまちづくりに貢献する建築物が新たに特例許可の対象となります。許可の際の高さの上限等は設けず、一件一件を丁寧に審査します」

許可に際しては、事業者から住⺠への説明の機会を設けたり、住⺠からの意⾒を計画に反映させることが条件となる。さらに、緑地などのオープンスペースや地域にとって必要な都市機能の確保といったまちづくりに貢献する要素も求められる。こうした段階を経て建物が完成しても、それで終わりではない。

「事業者には、建築物を適切に維持・管理することが求められます。また、地域社会の一員として、地域の⼈が集まれるまちづくり活動を⾏うなど、積極的にまちづくりに参加していただく必要があります」

50年後、100年後に向けて、京都市で生活をする人を増やしたい

「まちづくりに貢献する建築物」が新たな許可対象となれば、京都市の⼈⼝減少にも⻭⽌めがかかるのではと⾨川さんは話す。2016年1⽉1⽇現在で147万5520⼈だった⼈⼝は、2021年1⽉1⽇現在で145万6711⼈に減少しているのだ(出典︓京都市統計ポータル)。

「地域のまちづくりにも貢献する魅力的な施設ができることで、その地域の魅力も高まり、その地域に住みたい、働きたいという⽅が増えることを期待しています」

そして、このコロナ禍。こうした状況だからこそ、まちづくりに貢献する施設ができることには意味があると⾨川さん。

「住んでいる身近な地域でスーパー等の商業施設が充実していれば、遠くまで買い物に⾏く必要はありません。また診療所や薬局等があれば、不安なときに診察に⾏きやすくなるでしょう。公共・公益施設でなくても地域にとって必要な都市機能は多くあり、特例許可制度の対象を追加することの意義はあると思っています」

これからの京都市の景観形成に必要とされる、まちづくりという要素。それぞれの地域が発展し続けることが、京都の景観を50年後、100年後に引き継ぐためには不可⽋なのだ。

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