看板だらけだった四条通の風景

2009年7月に撮影された伝統の祇園祭、四条通の様子(写真提供:京都市)2009年7月に撮影された伝統の祇園祭、四条通の様子(写真提供:京都市)

2014年9月1日に完全施行された「京都市屋外広告物条例」

上の写真は、2009年7月に撮影された四条通での祇園祭の様子である。

中京・下京の各町に伝わる山鉾が四条通から河原町通を巡行する「山鉾巡行」は祇園祭の最大の見どころのひとつであるが、「長刀鉾」の勇壮たるその姿にもまして、色とりどりに賑やかなのが通りに面した店舗の看板である。

「屋外広告物」とは、屋外で公衆に表示されるものをいい、看板も屋外広告物のひとつであるが、京都市では、屋外広告物を都市の景観をかたちづくる重要な要素として、昭和31年から屋外広告物条例を制定、屋外広告物等の規制と誘導を進めてきた。古都の景観を守るため看板の大きさや色を規制する京都市屋外広告物条例は2007年に大幅改正され、市内全域で屋上広告や点滅式照明のついた広告が禁止になった。
21の規制区域ごとに屋外広告物の面積や高さ、色を細かく規定し制限しており、実際の対応に際しては、2007年の条例改正から7年間の経過措置期間を設け、2014年9月1日から完全施行された。

全国で最も厳しいとも言われる規制内容であるが、条例に沿った看板の改修や撤去の費用は全額自己負担である。実際に大きな看板等の撤去には数百万円かかる事例もあり、対応に苦慮した店舗や会社もあったようだ。

“古都京都の景観を守る”という条例と事業者のそれぞれの困惑…今回、その内容と実際の対応について京都市都市計画局屋外広告物適正化推進室に取材した。

進まない看板の適正化に続けられる努力

京都市都市計画局屋外広告物適正化推進室 下久保さん。「京都というまちは、景観に対する意識が高い都市だと思います。日本の観光都市はそれぞれいろいろなまちの想いをかかえながら、景観について住民と共に試行錯誤していると感じています」京都市都市計画局屋外広告物適正化推進室 下久保さん。「京都というまちは、景観に対する意識が高い都市だと思います。日本の観光都市はそれぞれいろいろなまちの想いをかかえながら、景観について住民と共に試行錯誤していると感じています」

2007年9月に施行され、2014年9月1日に完全施行された条例であるが、2012年6月時点では、まだ多くが違反の状態にあった。
そもそも"全国でもっとも厳しい"とされるその条例の基準はどのように決められたのだろうか?

今回、京都市都市計画局屋外広告物適正化推進室の下久保さんにお話を伺った。
「屋外広告物条例は、もともとは国の事務だった屋外広告物の規制が、昭和31年の地方自治法の改正により政令指定都市の事務として移行されたものです。2007年の条例の改正内容としては、市民から寄せられたご意見も参考にしながら、景観づくり審議会の答申にしたがって作成されました。景観づくり審議会には景観・デザイン・建築・法律・歴史等の学識経験者をはじめ、経済界・芸術文化の各分野から広く委員としてお集まりいただきました。屋上広告の全面禁止はこの答申にもうたわれており、現在の屋外広告物条例の基礎となっています」

厳しい条例基準に撤去費用の自己負担などもあり、7年間の経過措置期間があったが、是正はなかなか進まなかったという。
「私が担当となった2012年には、まだ7割が新条例に違反した広告物でした。条例の完全施行まであと2年半、どうしようか…という感じでした。"看板に許可がいるなんて、聞いてない、知らない"といった声もあり、どうしたら周知を徹底できるのかを考え、一つ一つ対応する、といった形でしたね」と苦労を振り返る。

「京都で商売をする」ことを捉えなおす

パンフレットやリーフレットの作成、すべての看板設置者に対するチラシのポスティングやホームページでの告知など行政側でも努力が続けられた。そんな中、少しづつ条例を前向きにとらえなおす人々が増えてきたという。

「たとえば娯楽施設であるパチンコ店などでも、ある社長さんなどは"これを機に京都らしい店舗づくりを考えたい"と前向きにとらえてくださり、積極的に条例に沿った店づくりに取り組んでくれました。

また、仕事が減るのでは?と思われがちな看板屋さん(広告業者)なども自らのビジネスチャンスとして捉えなおし、"条例に沿った看板づくりを"と、屋外広告物の条例を守りながら商売がうまくいくように顧客に提案して、積極的に役割をになっていただいています。この条例を機にブランドに磨きをかけるというか、京都というまちで商売をする…ということを再認識しながらみなさんが試行錯誤をしてくださったと感じています。
2年前は7割が条例に違反をしている状況だったのですが、今では約8割が条例の趣旨に沿った適正な屋外広告物を表示いただいております。」

この取り組みには明らかな景観の変化だけでなく、海外からの評価もあったという。
「世界的に強い影響力を持つアメリカの旅行雑誌【トラベル・アンド・レジャー】が今年行った人気都市ランキングで、イスタンブールやフィレンツェを抜いて日本の都市で初めて京都が世界一に選ばれたんです。」
さまざまな観光への施策も効を奏しているが、景観の美しさも海外から訪れた人に好印象を与えるひとつであろう。

京都という歴史のあるまちと商業…京都らしいまちづくりへ

違反看板の撤去だけでなく、京都市では「京都らしい景観」を促進する努力を続けている。2012年から行っている京都景観賞屋外広告物部門の表彰もそのひとつだ。"未来に継承すべき優れた都市景観の形成に資するものや市民による景観づくり活動を称える"ことを目的に創設されたこの賞は、1)広告物自体の形態、意匠、材料等が優れているもの 2)広告物が定着する建築物と調和しているもの 3)独自の工夫や景観への配慮等がなされているもの の観点から有識者・専門家・市民公募の委員により審査され、2013年度は応募総数1277件と、たくさんの応募があった。

加えて、京都市は良好な都市景観の形成に寄与する屋外広告物を誘導することを目的として、優良なデザインの屋外広告物を新たに設置する場合に設置や設計等にかかる費用の一部を補助する補助金制度を設けている。(※事前審査有。補助額は設置費用の1/3~2/3の金額で上限50万円)

「景観については、"京都"というまちをどう考えていくかということを皆で考えていかなくてはならないと感じています。京都は昔から"まち"を愛する人々が多く、新しいものと古いものをうまく取り入れて発展してきました。同時に、新しいものを取り入れる際に京都らしさをいかに守るかを考えてき続けてきたまちでもあります。規制が商売の阻害要因と捉えるのではなく、逆にビジネスチャンスになるよう、市としても取り組んでいきたい。

屋外広告物については一定の成果が出てきました。本当に市民・事業者の方々の努力と協力がなければできなかったことです。今後は、屋内から外に向いて表示されている広告物にも意識が反映され、これまで以上に自律が働き、もっと京都らしい景観を創り上げていくことを望んでいます。」

下の写真は、2014年9月に撮影された四条通の写真である。明らかに前出の写真と比べるとすっきりとしているのがわかる。2015年の祇園祭は山鉾の姿が一層際立つに違いない。
京都のまちづくりが唯一の"京都らしさ"を創り上げていくのに、住民と行政の努力は続くようである。

2014年9月に撮影された四条通の様子。2015年の祇園祭は山鉾の姿が一層際立つに違いない2014年9月に撮影された四条通の様子。2015年の祇園祭は山鉾の姿が一層際立つに違いない

2015年 01月09日 11時11分