名古屋市が主催する商店街の再生事業

ナゴヤ商店街オープンを告知するチラシナゴヤ商店街オープンを告知するチラシ

人々の生活に寄り添う商店街。しかし、近年は廃業などでシャッターを下ろした店が目立つ“シャッター商店街”化しているところも多いとのニュースを耳にする。

三大都市のひとつとされる名古屋も例外ではなく、商店街の数は減っているという。そんななかで、名古屋市は2018年から商店街の活性化を目的とした取組み「名古屋市商店街商業機能再生モデル事業」を実施している。商店街の中にある1つの空き店舗を魅力ある店舗として実際にオープンさせることを目指し、「ナゴヤ商店街オープン」と題したセミナー、ワークショップのほか、事業化支援などを行う。舞台となる商店街は応募制だ。

この事業を担当する名古屋市役所 地域商業課の竹本圭吾さんに、取組みのきっかけを聞いた。

「今、名古屋市内の商店街は100を切ってしまっています。そのなかで円頓寺(えんどうじ)商店街は優れた取組みで全国的にも知られており、同じような流れがほかの商店街でもつくれたらと、始めました」

円頓寺商店街の取組みは当サイトで過去に紹介しているので、併せてお読みいただきたい(「那古野ハモニカ荘」誕生。名古屋駅近くのレトロな円頓寺商店街が、なぜ今アツイのか?)。

取組みとしては、最初にキックオフとして全国の商店街やまちづくりに関わる人を呼び、成功事例などを聞くセミナーを開催。その後、参加者を集い、舞台となる商店街でそれぞれ実際の店をオープンさせることを目指したワークショップを数回行う。そして、ワークショップで出たアイデアをまとめた公開プレゼンテーションを経て、実際の開業へと進む。開業にあたっては、名古屋市が工事などにかかる経費の支援として最大200万円の補助金を用意している。

各商店街の土地柄も考慮して店をつくる

今回、名古屋市役所の竹本さんほか、商店街オープン運営事務局の浅野健さん(株式会社都市研究所スペーシア代表)、円頓寺商店街活性化の仕掛け人であり、本事業にアドバイザーとして初年度から関わるナゴノダナバンクの市原正人さん、藤田まやさん、齋藤正吉さんに、この取組みについて話を伺った。

初年度の2018年には名古屋駅西銀座通商店街、笠寺観音商店街、西山商店街の3つが選ばれた。続く2019年は堀田本町商店街と柴田商店街、2020年は新大門商店街と初年度と同じ西山商店街が再び選ばれ、取組みの舞台になっている。

ワークショップの進め方については、「できるだけ、その土地の特徴を活かすように、アイデアを出してもらうというのを基本に進めています」と市原さん。具体的な例としては、「名古屋駅西銀座通商店街であれば、今は消えかかっている名古屋駅の西側という下町イメージも考えていったほうがいいのではという意見がありました。柴田商店街の場合は、歓楽街もあって、昼と夜の文化があることを他地域の人に知ってもらえるような施設をつくるのはどうかといった感じで」とのこと。

そして、浅野さんが補足してくださった。
「2019年からワークショップの前に、まち歩きをする機会を設けています。オープンさせる店のことだけじゃなくて、その周辺や商店街全体を見て、まちの特徴をみんなで話し合うところから始めるようにしました」

初年度の3商店街は、2019年に各店が相次いでオープンした。名古屋駅西銀座通商店街でオープンに至った「喫茶モーニング」は、当サイトで紹介しているので、ご参照を(名古屋から“モーニング”を軸にまちの多様性と魅力を発信。空き商店をリノベした「喫茶モーニング」)。笠寺観音商店街では何人かのシェフが日替わりで担当するシェア食堂「かさでらのまち食堂」、西山商店街では焼き菓子店、生花店、建築設計事務所などが“長屋スタイル”で集まった複合施設「ニシヤマナガヤ」が誕生。2019年の2商店街も開業準備が進められており、2020年の取組みはラストスパートの段階だ。

西山商店街にオープンした「ニシヤマナガヤ」(写真提供:商店街オープン運営事務局)西山商店街にオープンした「ニシヤマナガヤ」(写真提供:商店街オープン運営事務局)

難しいのは実際に店舗を運営する事業者決め

ワークショップの参加者は、舞台となる商店街関係の人々のほか、商店街がある地区でまちづくりの活動を行っている人、建築家、学生など、さまざまだという。

「地元の主婦の方、近くの会社で働いていて気になっていたという方もいます。まちづくりのワークショップというと、そういうものに関心が高く、よく参加しているベテランのような方が集まりがちという面もありますが、初めて参加するという方が比較的多くいらっしゃって、すごくうれしいことだなと思っているんです」と竹本さんは言う。

そして、自分の店を開きたいという夢を持っている人が、プロセスを知るために参加することも。そういった場合、過去の事例などを話し、「いい意味で僕らは背中を押す」(市原さん)と、実際に一歩踏み出してみようとなったそうだ。

しかし、物件が希望と違っていたり、ワークショップの進行により希望の業種ではなくなったりといったことで断念した人もいる。また、工事費用などで名古屋市の補助金があるとはいえ、出資金は必要で、「どれぐらいの覚悟を持ってきているのかということもありますね」と浅野さん。出店希望者がいない場合は、ワークショップ参加者やそのほかで探すことに。皆さん、「事業者決めには難しさがある」と口をそろえた。

そんななかで藤田さんが本事業のよい点を教えてくれた。「2つあります。1つは、ワークショップで終わりではなく、お店をオープンするところまでいったら補助金がもらえるとゴールの設定が明確になっていること。話し合いだけでは、何もつながらないことが多い気がします。もうひとつは、商店街の中の人だけでなく、外の人も集まってくれてチームになることです。円頓寺商店街の場合は、地元でお店をやっている人、1度は外へ出たけれど戻って店を継いだ人や、商店街出身ではなく、市原や齋藤のような建築家など専門的な知識のある人…と、地元の人と外の人が集まり、アイデアや経験を教えてもらうことができました。ただ、そのように自然に集まることはなかなか難しいとも思っていて、このナゴヤ商店街オープンでは、それができるのだと思いました」

藤田さんがおっしゃったように“チーム”ができることは、店の開業後にもいい影響があるという。「店がオープンした後も、一緒につくりあげた人たちは、飲食であれば顧客になりうる。ファンやサポーターがそういう形で多少なりともついているイメージがあるから、心強いと思いますね」と市原さん。藤田さんも「参加者は、きっと愛着が湧くはず。そして、自分が関わったお店を周りにも広めてくれる気がするんです」と語る。

名古屋駅西銀座通商店街(左上)と堀田本町商店街(左下)のワークショップの様子。参加者の建築家が模型(右上)を作り、具現化していく。右下は柴田商店街の公開プレゼンテーション。流れとしては、まちの分析や事業のアイデア出しをする「アイデア・ステージ」から、運営体制(事業者)決めと事業プランを完成させる「スタディ・ステージ」、そして成果を発表する「プレゼンテーション」へと進む。その後、改修工事、運営体制の構築を経て、開業となる(写真提供:商店街オープン運営事務局)名古屋駅西銀座通商店街(左上)と堀田本町商店街(左下)のワークショップの様子。参加者の建築家が模型(右上)を作り、具現化していく。右下は柴田商店街の公開プレゼンテーション。流れとしては、まちの分析や事業のアイデア出しをする「アイデア・ステージ」から、運営体制(事業者)決めと事業プランを完成させる「スタディ・ステージ」、そして成果を発表する「プレゼンテーション」へと進む。その後、改修工事、運営体制の構築を経て、開業となる(写真提供:商店街オープン運営事務局)

商店街の魅力とは

さて、ここで、本事業をはじめとする商店街支援の活動をたくさん行ってきた皆さんに「商店街の魅力とは何ですか?」と聞いた。

竹本さん「若い人を中心に大きなビジネスではなく小さなビジネスを副業も含めてやりたいと思っている人が増えていると感じていて、ひとつは、そんな人が店を出しやすい場所が商店街なのではと。商店街は閉鎖的な部分もあると言われますが、入りやすい場所になってくれるといいなと思っています。もうひとつは、単にお客さんと店主の関係だけではない付き合いもできるのが、商店街の存在意義というか、必要なところなのだと思います」

齋藤さん「円頓寺商店街の人たちがよく言っていたのは、その地域に暮らす人たちの日常生活の場所であること。商店街オープンで今まで6つの商店街に関わり、ほかにも全国の商店街を見に行ったりしていますが、見た目で寂れているなと思っても、実際に行って話しを聞くと、すごく面白い所ばかりなんです。写真だけでは分からない、行けば必ず魅力に気づくはずと感じています」

浅野さん「これから20代、30代の若い世代が、まちのいわば主役になっていきますが、そういう方たちはつながりなどを欲している世代でもあると思うんです。そのときの装置として、商店街は機能してくれます。つながりを再構築するのは結構難しいと思うので、商店街が少なくなってきて、そのよさにあらためて気づきました」

市原さん「商店街で商売をされている方に話しを聞くと、時代の変化に合わせて少しずつ変えているところが生き残っているなと思います。その地域地域に合った形で工夫しているというのが商売の基本なんだろうなと。それが、齋藤さんが言われたように、どの商店街にも特色があり、それぞれの魅力ということにつながっていくのではないでしょうか」

最後に、藤田さんは円頓寺商店街で生まれ育ち、その後に再生させた経験を踏まえて語ってくれた。「円頓寺商店街のまちづくり活動を始めた当時、円頓寺以外の商店街に対しては思い入れは正直ありませんでした。けれど、商店街オープンにアドバイザーとして加わり、それぞれの商店街の魅力以外に、とにかく人が愛おしいと思ったんです。どのまちに行っても一生懸命活動している人がいて、頑張っている。商店街オープンで関わったまちがちょっとずつ楽しいところになり、それが名古屋市内はもちろん、広がっていくともっと楽しくなると思うんです。今週末はあそこ、来週はあっちに、となると、地元の魅力を再発見するマイクロツーリズムのように、きっと楽しくなるのではないでしょうか」

今回取材にご対応いただいた皆さん。前列左が商店街オープン運営事務局の西田龍人さん(株式会社都市研究所スペーシアの研究員) 、右が藤田まやさん。後列左から名古屋市役所の竹本圭吾さん、浅野健さん、齋藤正吉さん、市原正人さん今回取材にご対応いただいた皆さん。前列左が商店街オープン運営事務局の西田龍人さん(株式会社都市研究所スペーシアの研究員) 、右が藤田まやさん。後列左から名古屋市役所の竹本圭吾さん、浅野健さん、齋藤正吉さん、市原正人さん

名古屋市中の商店街を手がけたい

ナゴヤ商店街オープン2020が進められている、新大門商店街(上)と西山商店街(下)。新大門商店街はかつて遊郭のあったエリア。西山商店街はすぐ近くに名古屋市内では最大で、全国でも有数の生徒数を誇る小学校があり、若い世代の家族も多く暮らすまちと、2つがまったく異なる雰囲気を持っている。両商店街の活性化につながる新店の誕生が楽しみだナゴヤ商店街オープン2020が進められている、新大門商店街(上)と西山商店街(下)。新大門商店街はかつて遊郭のあったエリア。西山商店街はすぐ近くに名古屋市内では最大で、全国でも有数の生徒数を誇る小学校があり、若い世代の家族も多く暮らすまちと、2つがまったく異なる雰囲気を持っている。両商店街の活性化につながる新店の誕生が楽しみだ

本事業を通して実際に店がオープンしてからの変化について聞いてみた。「西山商店街が最も分かりやすくて、この事業で『ニシヤマナガヤ』が誕生した後、隣にパン店ができたり、今まではお店を住宅に変えてしまうパターンだったのが、流れが変わってきています」と齋藤さん。

続けて、竹本さんは「商店街にお店が増えるには、貸してくれる空き店舗が必要ですが、ニシヤマナガヤのにぎわいを見た空き店舗のオーナーさんが、それまで貸さずに売りたいと思っていたところ、こういう空間ができていくんだったら自分のところも貸してもいいよ、と言ってくださって、うれしかったです」と明かした。

1店舗をきっかけに広がりがみられているわけだが、齋藤さんは「ニシヤマナガヤを運営している方は建築家で、その方が今のナゴヤ商店街オープン2020のアドバイザーになってくれました。西山商店街に拠点を構えていますので、そのまちにずっと関わってくださる方が現われてくれたのは心強い」とも。

今後の展望について、「名古屋市中の商店街をやりきる!」と、力強く答えてくださった市原さん。

竹本さんは「3年目になり、いろんな商店街でいろんな方が携わるようになり、いい循環が生まれてきたと感じるので、より加速させていきたいです。人が人を呼んでくれるというサイクルがもっともっとできてくると、わたしたちの知らないところでも巻き起こるくらい、この展開が広がり、市原さんが言うように、名古屋市中の思いのある人がいる商店街で広がっていくといいなと思っています。そのために、まだこの取組み自体の認知度がそれほど高くないので、PRを強化していきたいです」と結んだ。

2021年2月28日(日)には、2020年度の新大門商店街と西山商店街の公開プレゼンテーションが開催される予定だ。新型コロナウイルスの影響によりオンラインになるかもしれないが、詳細は商店街オープンのFacebookで発表される。アツく進められている取組みを、ぜひ知ってほしい。

取材協力:商店街オープン運営事務局
https://www.facebook.com/shotengaiopen/

公開日: