新型コロナウイルス感染対策のマスクにハッカ油をつけることが話題に

夏場のマスク着用は熱中症のリスクを高める可能性が。厚生労働省のホームページでも「『新しい生活様式』における熱中症予防行動のポイント」として、屋外で人と十分な距離(少なくとも2m以上)が確保できる場合にはマスクをはずすようになどとある。気を付けながら着用していきたい夏場のマスク着用は熱中症のリスクを高める可能性が。厚生労働省のホームページでも「『新しい生活様式』における熱中症予防行動のポイント」として、屋外で人と十分な距離(少なくとも2m以上)が確保できる場合にはマスクをはずすようになどとある。気を付けながら着用していきたい

2020年、新型コロナウイルスは、あっという間に世界中に広がり、終息の兆しはなかなかみえない。わたしたちの日常生活は、感染防止を図りながら暮らす“新しい生活様式”が求められている。日本政府が新しい生活様式の実践例として挙げているなかで、一人ひとりができる基本的感染対策は、①身体的距離の確保②マスクの着用③手洗いの3つ。

町なかを見渡せば、マスクを着用している人が多く、スーパーをはじめとする商業施設ではレジ待ちの際に人との距離をとる目安として目印が付けられていたり、飲食店では座席数を減らしたり。施設や店舗の入り口には、手指の消毒のためのアルコール消毒液が置かれている。

しかし、夏の訪れとともに、マスク着用でストレスを感じるようになってきた人も多いのではないだろうか。そんなとき、SNSなどで話題になっていたことの一つが、マスクにハッカ油のスプレーを吹き付けるという対策。気分がすっきりするというのだ。

ハッカというと、昔から飴など食品の香料として親しまれており、スーッと清涼感のある味が特徴。また英語ではMint=ミントというが、近年ではミントを加えたチョコレート菓子が人気で、ファンのことを“チョコミン党(とう)”と呼んだりもする。ほかにも、歯磨き粉などの生活用品や医薬品にも活用されてきた。

ハッカ油とは、ハッカ草という植物から水蒸気蒸留により抽出した天然のオイルのこと。ハッカ油について調べてみると、暮らしのなかでさまざまに活用されていることが分かった。

昭和初期にハッカの一大生産地になった北海道

ハーブの一種として世界中で親しまれているハッカ。写真は北見ハッカ通商が栽培している和種ハッカの“ほくと”(写真提供=北見ハッカ通商)ハーブの一種として世界中で親しまれているハッカ。写真は北見ハッカ通商が栽培している和種ハッカの“ほくと”(写真提供=北見ハッカ通商)

ハッカは今から3,500年前の古代ギリシャで栽培が始まり、歴史上最も古い栽培植物の一つといわれている。日本には2,000年以上前に中国から伝わったとされる。

日本で初の本格的なハッカ栽培は岡山県だったそうだが、かつて北海道の北見地方が世界における一大生産地になったという。今回、北海道北見市に本社を置き、ハッカ油の製造販売をする株式会社北見ハッカ通商の井家春一さんに取材にご協力いただいた。

北見地方では1896(明治29)年に1人の男性が種根を植え付けたのが始まりとされ、1901(明治34)年から一気に栽培が活発になった。気候風土が栽培に適していたことに加え、大豆や小豆などに比べて収入面などを含めて効率の良い作物だったことも理由として考えられるそうだ。1933(昭和8)年にハッカ製油工場であるホクレン北見ハッカ工場が建設され、翌年に輸出が始まると、1938(昭和13)年には世界一の生産量に。

その後、戦争による栽培中止があり、戦後には海外産の安価なハッカの輸入、さらに科学的に作り出す合成ハッカの台頭で栽培は衰退してしまったが、今でも北海道土産として親しまれている。

数多くの品種があるハッカだが、大きくは和種ハッカ、洋種ハッカ、スペアミントに分けられる。ハッカの葉はもむだけでスーッとするような独特の清涼感があり、それはハッカ草から抽出されるハッカ油の主成分であるメントール(ハッカ脳)によるもの。

ただ、「実際に体温を下げるわけではありません」と井家さん。マスクへの活用で熱中症対策として体温を下げる対策とはならないが、スキッとした香りとともにリフレッシュはできる。

使用方法は「スプレータイプのハッカ油であればマスクの顎にあたる部分の外側にワンプッシュ。ボトルタイプであれば、つまようじなどで数滴つける。これで十分です」とのこと。目の付近に直接つけると刺激があるので注意を。

北見ハッカ通商のハッカ油は、お茶やお菓子などに香りづけするといった食品添加物として販売しているが、上記のマスクをはじめ、さまざまな活用をしているという声が購入者から寄せられるそうだ。次の項では、その活用方法についてご紹介したい。

夏を快適に過ごせる一つの方法に。床掃除や虫よけ対策

床掃除の水拭きにハッカ油をプラスすると、部屋がさわやかな香りに床掃除の水拭きにハッカ油をプラスすると、部屋がさわやかな香りに

清涼感のある香りを持つハッカ油は、部屋やトイレの芳香、あるいは疲れた気分を癒すためにお風呂に数滴、暑さで寝苦しい時に枕に数滴など、アロマオイルのように利用する人も多いという。

「例えば、バケツの水にハッカ油を数滴入れ、床を水拭きすると香りが良いです」と井家さん。掃除後の部屋がさわやかな香りになるが、掃除中の気分もよいと思う。ハッカ油の主成分であるメントールには抗菌作用もあるとされるので、この点でもいいだろう。

また、この方法で床掃除をして「ムカデなどがこなくなった」という感想があったほか、「カメムシが来そうなところにハッカ油のスプレーをしてみたら、カメムシが寄り付きにくくなったとのお客様もいます」とのことで、ハッカの香りによって虫を寄せ付けない効果が期待できるということも。夏はたくさんの虫たちが活発になる季節。虫が苦手な人は利用してみては。

ほかにも、キッチンや生ごみの臭い消しにしたり、ハッカ油入りの水に浸して作ったおしぼりで気分をすっきりしたり…と、まだまだたくさんの活用ができそうだ。

井家さんからは「コップの水にハッカ油1滴をなじませ、うがいをしても」という使い方も。ただし、この場合は口の中に入れることになるので、食品添加物として販売され、飲用可能なハッカ油であることを確認しよう。

猫には危険! ハッカ油利用の際の注意点

さまざまな利用がされているハッカ油だが、使用の際には注意も必要だ。

刺激が強いため、原液や高濃度のハッカ油は直接皮膚に付けないこと。マスクのところでも触れたが、薄めたものであっても目の付近への使用は厳禁。万が一、目に入ってしまったときはすぐに水で洗い流し、場合によっては病院へ。

使用量、濃度によっては、香りや刺激で体調が悪化することがあるかもしれないので、そのときは部屋の換気をするなどして体を休めよう。

また、虫よけにもなるということは、それだけ刺激があるということ。ペットを飼っている場合も気をつけたい。虫よけでハーブが使われている製品が売られているのをみるが、犬は嗅覚が鋭い動物でもあるので、個体差によってハッカの香りが苦手なことがあるかもしれない。原液を直接犬の皮膚につけることは人間同様避けるべきだが、一緒にいる部屋で虫よけ対策や床掃除などに使用した場合は体調をチェックしよう。

猫はハッカ油に限らず、精油(アロマ)に含まれる成分を代謝できずに中毒を引き起こす可能性があるとされる。何らかの症状がすぐに出ず、体内に蓄積されてしまうことも。正確な解明はまだされていないようだが、心配なときはかかりつけの獣医師に相談するのがいいだろう。ほか、小動物、小鳥、昆虫がいるところでも使用しないほうがいい。

商品には使用上の注意が記入あるいは同封されているので、しっかりと読んでから使うこと。

スプレータイプの商品を購入した場合は、使用上の注意に沿ったうえで、そのまま虫よけや、マスクなどに使える。北見ハッカ通商のハッカ油スプレーの場合、虫よけでは「薄めずにそのまま衣服などにスプレーする」とのこと。だが、網戸に直接スプレーする場合は、網戸が腐食する場合があるので注意が必要だそうだ。

原液のハッカ油を、持ち歩きもできる虫よけスプレーなどに使う際は薄めるのが基本。自分で作れるハッカ油のアイテムを紹介した本「はっか油で楽しむ暮らしのアイデア」から引用させてもらうと、50mlのスプレー容器にミネラルウォーター45mlを入れてから、無水エタノール5mlを加えて混ぜ、10%のアルコール水を作る(アルコールに敏感な人は無水エタノール分をミネラルウォーターに代える)。そこにハッカ油を1滴たらしてよく混ぜて完成。

井家さんが教えてくださった「ハッカ油はプラスチックなどを溶かす場合がある」ということと、アルコール水を作るということで、用意するスプレー容器はアルコール液対応のものか、ガラス製のものを。

ハッカ油の原液自体は、「通常保温保管で2年以上大丈夫」とのことだが、自分で作ったもの、例えば上記で紹介した作り方では1週間で使い切るのがいいとされている。

今回取材にご協力いただいた北見ハッカ通商のハッカ油商品。ただ、マスクへの需要の高まりもあってか、生産が間に合わず、自社オンラインショップでの販売を6月から休止中。ハッカ油商品の販売は秋ごろになってしまうそうだ(写真提供=北見ハッカ通商)今回取材にご協力いただいた北見ハッカ通商のハッカ油商品。ただ、マスクへの需要の高まりもあってか、生産が間に合わず、自社オンラインショップでの販売を6月から休止中。ハッカ油商品の販売は秋ごろになってしまうそうだ(写真提供=北見ハッカ通商)

ハッカという地域資源の再生を目指して

上/北見ハッカ通商の和種ハッカ栽培畑。和種ハッカは、ハッカのなかでも主成分であるハッカ脳(ℓ-メントール)が最も多く、ハッカ脳を析出するには最適な品種とされる。一般的なハッカ油は、この製造過程の中で抽出される。ハッカの結晶であるハッカ脳は、食品、医薬品など加工品に利用される。下/乾燥させたハッカ草を蒸留釜で蒸留し、油をとる。取りおろし油と呼ばれるこの油は、ハッカ工場で再精製される(写真提供=北見ハッカ通商)上/北見ハッカ通商の和種ハッカ栽培畑。和種ハッカは、ハッカのなかでも主成分であるハッカ脳(ℓ-メントール)が最も多く、ハッカ脳を析出するには最適な品種とされる。一般的なハッカ油は、この製造過程の中で抽出される。ハッカの結晶であるハッカ脳は、食品、医薬品など加工品に利用される。下/乾燥させたハッカ草を蒸留釜で蒸留し、油をとる。取りおろし油と呼ばれるこの油は、ハッカ工場で再精製される(写真提供=北見ハッカ通商)

今回協力してくださった北見ハッカ通商は、北見地方を世界一のハッカの生産地とした要因の一つであるホクレン北見ハッカ工場が1983(昭和58)年に閉鎖してしまい、その歴史を絶やさないようにとの願いとともに1985(昭和60)年に設立された会社。

「かつて世界のハッカ市場の70%以上を、ホクレン北見ハッカ工場からのハッカ油、ハッカ脳(ℓ-メントール)と呼ばれるハッカの結晶が占めていた時代もございました。当社はハッカ王国の再現を夢見ている会社です」と井家さん。

現在では和種ハッカの品種のひとつ、“ほくと”の栽培を2ヘクタールほど行っているそうで、地域資源の再生を目指している。

さまざまに活用できる便利なハッカ油だが、日本での歴史は正直、よく知らなかった。ハッカ油が注目されているこの機会に、現在の取組みも教えてもらうことができた。地域活性のためにも期待したい。


取材協力:株式会社北見ハッカ通商 https://hakka.be/
参考文献:「はっか油で楽しむ暮らしのアイデア」(玄光社)

2020年 07月24日 11時00分