100年超の歴史を持つ旧那古野小学校を引き継ぎ、「次の100年を育てる学校」に

リニア開通に向けて開発が加速する名古屋駅界隈。勢いの続く名古屋の玄関口から徒歩8分ほどの場所に名古屋市立那古野小学校があった。
100年以上の歴史を持つ同校は2015年3月に廃校。市は名古屋駅至近の貴重な公有財産を利活用すべく「旧那古野小学校施設活用事業」を進めた。既存施設をリノベーションしてまちの魅力や個性を高める拠点へと変える事業者を公募し、複数のプロポーザルの中から選ばれたのが、東和不動産株式会社を中心事業者とするインキュベーション施設「なごのキャンパス」だ。

なごのキャンパスのコンセプトは「次の100年を育てる学校」。
100年を超える那古野小学校の歴史を紡ぎながら、次の100年に向けて新しい価値の創造を目指す、起業家やベンチャーの育成拠点として2019年10月にスタートした。

懐かしい学び舎の姿はそのままに、旧那古野小学校をリノベーションして利活用したインキュベーション施設「なごのキャンパス」懐かしい学び舎の姿はそのままに、旧那古野小学校をリノベーションして利活用したインキュベーション施設「なごのキャンパス」

コワーキングスペースやシェアオフィス、会議室やカフェを併設する名古屋ベンチャーの育成拠点

「次の100年を育てる学校」へと生まれ変わった施設は、3階建ての旧校舎に3形態のオフィスとレンタルスペースを擁している。
かつて子どもたちが日々学び友情を深めた一般教室は個室の「プライベートオフィス」に変わり18社が入居(満室)。旧図工室と旧多目的室は計40席の固定席を設けた24時間利用可能な「シェアオフィス」に。そして、職員室と校長室だった場所は、開放的なフリーアドレスゾーンの「コワーキングスペース」に変わった。それらのオフィスに加えて、旧音楽室のセミナー室や複数の会議室、舞台やバスケットゴールがそのまま残る体育館や広い運動場は各種イベントなどで利用できるレンタルスペースになり、旧給食室は誰でも利用可能なカフェとして広く開かれている。

ハード面に注目して紹介すると、単に「名古屋駅近くの廃校小学校をリノベーションしたオフィス」に感じてしまうかもしれないが、なごのキャンパスはあくまで起業家やベンチャーの育成拠点となるインキュベーション施設。

前述のとおり、運営の中心は東和不動産で施設全体のマネジメントは同社が行っているが、ほかにパソナJOB HUB(クラウドソーシング)、R-pro(デザイン・まちづくり)、Tongaliプロジェクト(東海地区5大学による起業家育成プロジェクト)、そしてさまざまな支援を行う名古屋商工会議所が共同運営として関わっており、各企業・団体が連携して施設に常駐。コミュニティマネージャーとして利用者からの起業相談や、起業に必要な手続きなどのアドバイス、ビジネスアイデアのブラッシュアップやビジネスのヒントになるセミナーの開催、利用者のマッチングを促すなどのサービスを行っている。入居者・利用者はここを法人登記住所にもできるため、「起業までワンストップで支援してくれる」のも同施設の特徴だろう。
また、なごのキャンパスには施設に入居・利用しているスタートアップ企業や起業家、新しいアイデアを持つベンチャー企業や学生と“交流したい”と考える地元企業も多数参画。
つまり、「ベンチャー企業」「地元企業」「大学」「名古屋商工会議所」のネットワークがここでつくられていることになり、新しい出会いを得てつながり、それぞれが持つ強みを掛け合わせることで、新たな“何か”を生み出すベースづくりの場にもなっているのだ。

1階はフリー席の「コワーキングスペース」、2.3階には、固定席の「シェアオフィス」と、小学校の教室らしさを生かした個室の「プライベートオフィス」を擁するなごのキャンパス</br>旧給食室を活用したカフェ「yoake」(右上写真2枚)には、給食運搬用エレベーターも残っていて懐かしさが漂う。あんこのせ放題の小倉トーストが人気のモーニングやランチ、近隣の円頓寺商店街のメニューを集めた那古野弁当も好評。夜は多国籍バルになる“まちの給食室”だ1階はフリー席の「コワーキングスペース」、2.3階には、固定席の「シェアオフィス」と、小学校の教室らしさを生かした個室の「プライベートオフィス」を擁するなごのキャンパス
旧給食室を活用したカフェ「yoake」(右上写真2枚)には、給食運搬用エレベーターも残っていて懐かしさが漂う。あんこのせ放題の小倉トーストが人気のモーニングやランチ、近隣の円頓寺商店街のメニューを集めた那古野弁当も好評。夜は多国籍バルになる“まちの給食室”だ

地域の歴史や思い出を消さず、皆に愛された旧那古野小学校“らしさ”を残してリノベーション。半年かけてビジネスを育て上げるキャンパスに再生

旧職員室をリノベーションしたコワーキングスペースでも小学校の名残がたくさん。</br>跳び箱のテーブルとイスや、ライン引きを活用したグリーン、ドラムの照明など…</br>建物自体もそうだが、必要以上に変えない利活用に、歴史ある学び舎への愛情が感じられて温かな気持ちになる旧職員室をリノベーションしたコワーキングスペースでも小学校の名残がたくさん。
跳び箱のテーブルとイスや、ライン引きを活用したグリーン、ドラムの照明など…
建物自体もそうだが、必要以上に変えない利活用に、歴史ある学び舎への愛情が感じられて温かな気持ちになる

リモートワークや一人起業、支店登記など…柔軟に応援。利用者交流を促して「ひと」「もの」「こと」を育てる

では、どのような人や企業が利用しているかというと、創業予定者やリモートワーカー、主婦起業家などの個人から、スタートアップ企業や新規事業を検討する企業など実にさまざま。業種も、デザインやIT、医療、人材支援やコンサル、イベント企画や一級建築事務所などなど多種多様で年代も幅広い。コワーキング・シェア・プライベートのオフィス利用、そしてオフィス不要の無記名会員といった使い方のバリエーションも富んでいるため、他拠点の企業が名古屋での支店登記に利用するケースもあるという。

そのように形態や業種は違えど、なごのキャンパスに関わる人や企業は、新しい価値を創造するという志は同じ。
常日頃からコワーキングスペースで利用者同士の自然な交流を図れるほかにも、会員専用ビジネスLINEで情報を共有したり、施設内で入居者を紹介するビデオを流していたり、どんな業種のどんな人たちが関わっているのかを広報。また、コミュニティマネージャーがマッチングを行ったり、月に1度は交流会を開催するなどして利用者のネットワークを広げる手伝いを行っている。入居者が講師を務めるイベントや勉強会、各種セミナーも積極的に行われ、各々の得意分野を持ち寄ってつながり合える環境がつくられている。

交流は利用者同士に限った話ではなく、長くこの地で親しまれた小学校らしい、地域との繋がりも大切にされている。
旧給食室のカフェは誰でも利用できることをはじめ、コワーキングスペースはドロップイン(1日利用)も可能で会員に限らず施設を利用できる。施設のレンタルスペースを地域の集まりやスポーツイベントなどで使うこともあり、例えば、この地域の成人式も体育館で行われた。

ベンチャーやスタートアップ、学生、地元企業、そして、地域住民をも含めた交流拠点でもあるなごのキャンパスは、「ひらく、まぜる、うまれる 次の100年を育てる学校」という施設コンセプトどおりに、歴史や思い出を継ぐ地域の小学校を利活用し、多彩な人々が交流することで新たな“何か”が生まれ、人材やビジネスが育っていく学校と言えそうだ。

作業スペースもさまざまなコワーキングスペースは、打ち合わせや商談などにも利用でき、89m²の開放的な空間は最大100名収容可能な交流会やイベント会場としても使われている。中央にあるオープンキッチンも自由に利用OK。利用者同士で食事を作ったり、その後グラウンドで運動したり。「バレーボール部」など部活動もあるそうで、自然に、積極的に交流が行われているそうだ作業スペースもさまざまなコワーキングスペースは、打ち合わせや商談などにも利用でき、89m²の開放的な空間は最大100名収容可能な交流会やイベント会場としても使われている。中央にあるオープンキッチンも自由に利用OK。利用者同士で食事を作ったり、その後グラウンドで運動したり。「バレーボール部」など部活動もあるそうで、自然に、積極的に交流が行われているそうだ

“つながり”を大切に他拠点との展開も

トヨタグループの不動産会社である東和不動産が主体事業者のなごのキャンパス。コワーキングスペースで、東和不動産株式会社オフィス営業部・北原陽子さんに話を伺ったトヨタグループの不動産会社である東和不動産が主体事業者のなごのキャンパス。コワーキングスペースで、東和不動産株式会社オフィス営業部・北原陽子さんに話を伺った

人や企業、地域との交流拠点にもなることで、実際にビジネスのコラボレーションも発生。
例えば、入居している会社の広告物を同じく入居しているデザイン会社が手がけたり、イベントの企画や司会役のタレント依頼を同じ入居会社に任せたり、利用者ネットワークでインフルエンサーを集めたり、自社PRや啓発活動を手伝い合ったり点コワーキングをきっかけに生まれた案件も多数あるそう。

今回話を伺った東和不動産の北原さんによると、同社では2020年度に東京・御茶ノ水で同様の施設をオープン予定。相互利用が可能になったり、さらに他社が手がける同様の拠点との連携も進めて、起業家やベンチャーの「交流」「つながり」を全国に広げるビジョンを持っているのだとか。

100年以上、数えきれないほど多くの人が学び・出会い・成長を遂げた思い出の小学校が、まちや未来のための学びの場として新たに歩み出した。
地域に根差しリスタートした学び舎から、今後どんな起業家が巣立ち、どんなビジネスが生み出されていくのか楽しみだ。

■なごのキャンパス https://nagono-campus.jp/

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