知多市・UR都市機構・日本福祉大学が連携

知多半島の北西部に位置する知多市にある朝倉団地。日本福祉大学の留学生も2019年から入居している知多半島の北西部に位置する知多市にある朝倉団地。日本福祉大学の留学生も2019年から入居している

近年、各地の団地でコミュニティスペースが作られている。少子高齢化などで希薄になっているといわれる住民間のコミュニケーションを活性化する場として注目されている。今回は、2019年5月にオープンした愛知県知多市にある朝倉団地のコミュニティスペース「朝倉団地センタープレイス」の取り組みをご紹介したい。

朝倉団地は、独立行政法人都市再生機構(※以下、UR都市機構)が管理する賃貸住宅団地で、1973(昭和48)年に誕生。現在は31棟で、約1,190戸ある。

この朝倉団地を擁する知多市、UR都市機構、そして同じ知多半島の美浜町に本部があり、知多市の隣の東海市にもキャンパスを置く日本福祉大学がそれぞれ連携協定を締結。地域の住民や関係者と連携し、地域の活性化を目指している。その取り組みの一つとして生まれたのが朝倉団地センタープレイスだ。

団地内にある商店街の空き店舗を活用し、多様なパートナーとともに、朝倉団地自治会が運営を担っている。

団地内にある商店街の空き店舗を活用し、コミュニティの拠点に

朝倉団地センタープレイスのマネージャー、森川敞介さん。朝倉団地自治会の会長を務めていたが、センタープレイスの運営との両立は難しいと感じ、マネージャーとして専任になった朝倉団地センタープレイスのマネージャー、森川敞介さん。朝倉団地自治会の会長を務めていたが、センタープレイスの運営との両立は難しいと感じ、マネージャーとして専任になった

商店街は、団地の19号棟の1階に計12店舗と、隣接した建物にスーパーや郵便局、診療所などがあった。しかし朝倉団地の誕生を契機に、周辺が住宅街として栄えていくに従い、大型スーパーができ、その影響を受けて利用客が減少してしまったという。

「駐車場が少なかったということもあると思います。愛知県は車社会ですから。団地の住人だけの利用では経営が難しく、まずはスーパーが閉鎖になり、そのほかの店舗も続きました」と教えてくださったのは、長く朝倉団地の自治会会長を務め、現在は朝倉団地センタープレイスのマネージャーである森川敞介さん。

そうして半分近くが閉鎖してしまい、シャッター街のような感じになっていたある日のこと。「UR都市機構から地域のためにできることはないかという相談が自治会にありました」と森川さん。その後、自治会、UR都市機構、知多市、日本福祉大学、地域の関係者らが話し合いを重ね、空き店舗を活用した朝倉団地センタープレイスをオープンした。

UR都市機構では、団地を含む地域一帯で、”多彩な世代が生き生きと暮らし続けられる住まい、まち”「ミクストコミュニティ」の実現に向けた取り組みを全国で行っている。朝倉団地センタープレイスも、誰もが気軽に立ち寄ることができる場所として、コミュニティの拠点という役割を持つ。

団地の住民や地域の若い世代らがDIY

コミュニティスペースへと生まれ変わった場所は、もとは電器店。退出時に内装などは撤去されたため、コンクリートむき出しのままだった。天井部分の修繕や電気工事、キッチンの設置などはUR都市機構が実施したが、壁の一部や備品などは住民や地域の若い世代らが手がけた。

西側の壁一面には漆喰を塗り、反対側には黒板を設置して、訪れた子どもたちにお絵かきなどを楽しんでもらえるようにしたという。また、イスには絵を描き、天井には国旗や布を使った飾り付けがされ、手作りならではの温もりある雰囲気になっている。

そのほか、冷蔵庫や電子レンジなどは住民から不要になったものを寄付してもらい、テレビやホワイトボードも市内の企業からもらい受けた。立ち寄ってくれた人にお茶やコーヒーをサービスできたり、さまざまな活動にも使えるものがそろえられている。

左上/住民らが漆喰を塗る様子。左下/文字やイラストを描いたイス。座り心地がよくなるようにと、住民の女性から手作りの座布団の提供もあったそう。(以上、写真提供:知多市役所 市民協働課) 右上/子どもたちが落書きできる黒板。右下/かわいらしい飾りもポイントに左上/住民らが漆喰を塗る様子。左下/文字やイラストを描いたイス。座り心地がよくなるようにと、住民の女性から手作りの座布団の提供もあったそう。(以上、写真提供:知多市役所 市民協働課) 右上/子どもたちが落書きできる黒板。右下/かわいらしい飾りもポイントに

地域の人が集まる場、そして高齢者の買い物支援も

活動内容をカレンダーに記した「朝倉団地センタープレイス通信」を毎月作成し、団地のある“つつじヶ丘”の7町内の世帯に配布している活動内容をカレンダーに記した「朝倉団地センタープレイス通信」を毎月作成し、団地のある“つつじヶ丘”の7町内の世帯に配布している

活動内容は、地域の住民が企画する教室のほか、日本福祉大学による、”ふだんのくらしのしあわせ”を求めて人々がゆるやかにつながり、何かを始めるきっかけとなる場を目指す「お福の部屋」、誰でもふらっと立ち寄ってもらえるようにと企画した「ふらっと」など、多彩な利用を受け付けている。

また、地域活性化とともに森川さんが力を入れているのが、高齢者の買い物の悩みに対応することだという。朝倉団地もほかの地区と同様に住民の高齢化が進んでいる。「この朝倉団地は丘の上に位置し、スーパーのほとんどは丘の下なんです。高齢者にとって買った荷物を持って戻ってくるのは難しい。そこで買い物支援もこの場所でできないかと思いました。企画の段階で生鮮食品の販売をしたいと業者さんが手を挙げてくださって、さっそくお願いしました。

そして、日用品もなんとかできないかと思っていました。実は、3年ほど前にドラッグストアの『スギ薬局』さんから地域のお手伝いをしたいというお話しがありました。近隣に3店舗でき、そこに団地からマイクロバスで住民を送り迎えする話が出たのですが、実現には至りませんでした。その時、私は停留所の代わりになるような、人が集まる拠点となる場所がないことがネックだとも考えていたので、今回の朝倉団地センタープレイスが拠点になるということで、もう一度相談しました。

それで賛同をいただき、朝倉団地センタープレイスに商品を持ってくる移動販売を行うことは難しいが、商品カタログをもとに注文を受けて朝倉団地センタープレイスおよびご自宅まで商品を配達することは可能であると。現在では、朝倉団地センタープレイスの前に専用の注文用紙を投函するポストを設置して、その注文用紙をもとに商品の配達をしてもらっています」

生鮮食品を販売するマルシェは週2回、スギ薬局の商品配達は週1回。買い物に頻繁に出ることが難しい高齢者世帯に喜ばれているという。

外国人住民との多文化共生も視野に

知多市は、隣の東海市とともに、沿岸部が臨海工業地帯で、そこにある工場で働く外国人住民も多い。知多市役所市民協働課の杉浦理恵さんによると、知多市の人口約8万5,000人に対し、外国人住民は約2,000人。そのうち650人ほどが朝倉団地のあるつつじヶ丘コミュニティに暮らし、知多市では最も多く外国人が住むエリア。その8割となる500人ほどが朝倉団地の住人とのこと。

知多市では多文化共生の取り組みを進めており、朝倉団地センタープレイスも多文化交流の拠点の一つとなることが期待されている。先に紹介したDIY作業では、ベトナム出身の方が仕事で経験しているからと率先して手伝ってくれたそうだ。また、「月に1回開かれている『おにぎり交流会』は、外国人と日本人の子どもが交流することも目的の一つです」と杉浦さん。手作りのおにぎりを子どもたちが食べながら仲良くなる試みだ。

交流会や買い物支援を含め、月の半分以上のスケジュールが埋まっているが、まだスタートしたばかりで、「朝倉団地センタープレイスの存在を、団地の住民の方だけでなく周辺地域のもっとたくさんの方にも知っていただきたい。周知が行き届いていないことが課題です」と話してくださった森川さん。

朝倉団地自治会の主催で、流しそうめん、クリスマスケーキ作りといったイベントも実施し、多世代、多文化の人々が交流できる工夫をしながら、地域活性化に向け日々取り組んでいる。

“商店街”店舗の入り口は道路に面しておらず、住人以外には存在が気付いてもらいにくいのが難点だった。コミュニティスペースをきっかけに商店街利用も期待できそうだ。取材当日に利用していた方は、つつじヶ丘エリアで育ち、センタープレイスの目的に共感して月1回利用するように。「もっとこの場所を知ってもらって、いろんな方が出入りする場所になったらいいですよね。私が子どものころはすごく賑わっていたので」とお話しくださった“商店街”店舗の入り口は道路に面しておらず、住人以外には存在が気付いてもらいにくいのが難点だった。コミュニティスペースをきっかけに商店街利用も期待できそうだ。取材当日に利用していた方は、つつじヶ丘エリアで育ち、センタープレイスの目的に共感して月1回利用するように。「もっとこの場所を知ってもらって、いろんな方が出入りする場所になったらいいですよね。私が子どものころはすごく賑わっていたので」とお話しくださった

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