全長300mの商店街。営業している店舗は、最盛期の1/4に
ある暑い日の昼前。JR「福知山」駅から東、福知山城方向へと歩いていた。目指すのは、城からもほど近い新町商店街。毎月第4日曜日に「福知山ワンダーマーケット」が開かれる場所だ。
「今日は商店街全体が休みなのだろうか」。商店街に到着しての第一印象である。軒並みシャッターが下り、人通りもない。ここでマーケットが行われているとは……。
「私がお店を始めたのは2008年。既にシャッター通りでした」
そう話すのは、商店街で雑貨店「まいまい堂」を営む地元出身の横川知子さん。マーケットの実行委員会の一人である。全長約300mの商店街で現在、営業をしているのは25軒ほど。最盛期の1/4程度だという。自身が店をオープンさせることで、少しでもにぎやかになればという思いがあったそうだが、状況は変わらず。変化のきっかけはそれから2年後の2010年。後々、マーケットの共同代表となる庄田健助さんと美作(みまさか)歩さんによる活動だった。
当時、地元のまちづくり会社で同僚だった庄田さんと美作さんは、新町商店街を含む市街地の空き店舗問題に取り組んでいた。
「何とか改修して残す方法はないか。そう考えたときに、起業家を育てるというアイデアが出てきました」(庄田さん)
商売を始めるときは店を構える。その時は投資をするから古い店舗であっても改修に積極的になるだろう。つまり、起業家が増えれば空き店舗が活用できる。だが既存の店と同じような商売をしても後発だと成功はしづらい……。そこで彼らが導き出した答えが、マーケットだった。
マーケットは、独立に向けた“ファン作りの場”
なぜマーケットだったのか。
「それはファンづくりのためです。マーケットでファンがつけば、独立後に成功しやすいと考えました」(庄田さん)
店選びは美作さんが担当している。「自分がお客さんの立場なら楽しく買い物ができるだろうか。流行りすたりではなく、マーケットから巣立って独立をしたときに長く愛される店だろうか。それが選考の視点。今は応募していただいた中から選んでいますが、最初はこちらから『出店してください』とスカウトに行っていました(笑)」
ここで一つ疑問が生じたので、庄田さんに質問をしてみた。出店者の顔ぶれを見ていると、福知山市外から来る人のほうが多い。そうした人がわざわざ福知山で店を始めるのだろうか。
「起業をしてほしいのは、基本的には福知山の人。では、福知山の人ばかりを集めてマーケットをすればいいのかというと、そうでもないんです。地元の人ばかりだと、単に地域のお祭りになってしまう恐れがある。私たちが目指すのは、“作り手の意図が感じられる質の良いものを、おしゃれをして買いにいける場”なんです。そういったものが好きな感度の高い人が集まる場に1軒でも2軒でも地元のお店が入ると、その店に注目する人が出てくる。地元の出店者も、周りの店から刺激をもらえてブラッシュアップができる。この場でファンを獲得し、独立を目指してほしいんです」
空き店舗対策のために起業家を増やす、そんな目的を担った「福知山ワンダーマーケット」は、2016年に幕を開けた。
自分たちでシャッターを開ける!「アーキテンポ」が誕生
スタートして3年がたった今、当初の目的は達成できたのだろうか。
「月に一度のマーケットはにぎわって周知もされてきていますが、空き店舗が埋まることはないですし、商店街に人通りが増えたわけでもありません。そこで、待っていても仕方ない、自分たちでシャッターを開けようと、この4月から新しい取り組みを始めました」(庄田さん)
その新たなステップが「アーキテンポ」。30年ほど空き店舗だった店をキッチン付きのレンタルスペースに改装したのだ。
「昼は飲食店になったり、夜はバーになったり。お母さんたちが集まれる場として使う人もいれば、バザー会場になることもあります」と庄田さん。
新たなファンづくりの場にもなるうえ、美作さんは、「将来的にお店を始めるときの練習の場になっています」と話す。
福知山に足を運ぶ人を増やしたい
マーケットのサポーターの一人、商店街で化粧品店を営む公庄 祥(くじょう さが)さん。幅広い人脈を駆使して、委員会と商店街をつなぐ調整役を買って出ている。「月に1度、以前の常連さんが来て、楽しそうに買い物をしている顔を見ることができるのは嬉しいものです。『懐かしいわ』とかつてのなじみの店に立ち寄る人も。そんな人がもっと増えるのが理想です」庄田さんと美作さんを中心とする実行委員会は、現在15人ほど。委員会には入らず、活動をサポートする地元の大学生や商店街の人たちもいるそうだ。そんな新しい仲間たちとともに、次に力を注ごうとしているのがメディアの活用。現在はマーケットの集客のための情報発信が中心だが、ファンのコミュニティーづくりの場としてフェイスブックやインスタグラムを活用していこうと構想を練っている段階である。
「加えて、私たちの目線でセレクトした街の情報を市内外のファンに送り、福知山の魅力を届けたいとも考えています。新町商店街に限らず、福知山に足を運んでくれる人を増やしたいんです」
空き店舗対策からスタートした月に1度のマーケットは、福知山全体の “にぎわい”づくりを見据えて進化し始めている。
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