1914年に竣工。「辰野・片岡建築事務所」設計の登録有形文化財をリノベ

京都には昔ながらの日本建築だけではなく、貴重な洋風の近代建築も数多く存在する。
今回「TSUGU 京都三条 -THE SHARE HOTELS-」として2019年5月31日にオープンし、新たな命を吹き込まれた「旧日本生命京都三条ビル」もそんな洋風の近代建築の一つだ。

この「旧日本生命京都三条ビル」は、1914年に竣工。
東京駅や日本銀行の設計で知られる辰野金吾が率いた「辰野・片岡建築事務所」による設計だ。石貼りのタイルの壁面に、特徴的な尖塔を備えた屋根。今では〝レトロ〟と表現されるその姿は、105年前はまぎれもなくモダンで、現在とは違った注目を集める存在だったであろう。一部が1983年に建て替えられているが、もとからある建物部分は「登録有形文化財」として、歴史を伝えている。

三条通と柳馬場通が交わる場所に立ち、通りの角の部分に入り口が設けられ、呉服店が営業をしているのだが、今回、ホテル(簡易宿所)になったのは、その奥や階上。以前は、事務所として使われていた空間が、ホテルとしてリノベーションされ、49室の客室ができた。

企画・運営しているのは、株式会社リビタ。これまでにも古い建物をリノベーションで再生させ、ホテルだけでなく、住宅、シェアハウスなどさまざまな活用を提案してきた。同社の展開する「THE SHARE HOTELS」は、2016年に金沢からスタートし、このTSUGU 京都三条で、6棟目となる。

上:一部は建て替えられているが、歴史を感じるたたずまいだ 下:ホテル入り口は柳馬場通側に新たにできた(写真提供:株式会社リビタ)上:一部は建て替えられているが、歴史を感じるたたずまいだ 下:ホテル入り口は柳馬場通側に新たにできた(写真提供:株式会社リビタ)

ローカルを発信する「LOCAL SHOWCASE」が旅人を迎える

TSUGU 京都三条には、「ローカルへ旅を継ぐ」というコンセプトがある。ホテルの近くにある三条大橋は、東海道五十三次の起点/終点だ。全国各地からたくさんのひとやものが集まり、新しい文化を生み出してきた場所だった。そこで、現代にその役割を継ごうというのだ。

具体的にはホテル内で、日本各地のローカルプレイヤーと協同し、さまざまなコンテンツを展開していく。その一つが、フロントロビーにある「LOCAL SHOWCASE」。壁面がガラス製のショーケースになっており、地方を拠点にした作家たちの作品が並ぶポップアップショップとして運営される。
この日ディスプレイされていたのは、北陸・上出長右衛門窯、上出惠悟さんの九谷焼と、瀬戸内・一陽窯の木村肇さんの備前焼。京都にいながらローカルの力を感じられる、新しい試みだ。

さらにこのショーケースの奥には、店舗があり、営業しているのは、以前からこの建物に店を構えていたセレクトショップ「Johnbull Private labo」(株式会社ジョンブル)と、今回新たに出店した「coffee and wine ushiro」(株式会社キノシタショウテン)。このプロジェクトにパートナーとして参加している。この2店も岡山に拠点を置くローカル発のブランドだ。

なぜ、ローカルに注目するのか。株式会社リビタ代表取締役の川島純一さんは「日本の未来は地域にこそ宿る」という。
「日本各地域で、持続的に新たな価値が生まれること、その地域、まちの文化が育まれること、新たな日常が生まれること。地域における起点・架け橋となり地域価値が向上するための活動の原動力となる」。これが同社が目指す地域・日本の姿だ。

フロントロビーにある「LOCAL SHOWCASE」では、さまざまな作品が旅人を迎える(写真提供:株式会社リビタ)フロントロビーにある「LOCAL SHOWCASE」では、さまざまな作品が旅人を迎える(写真提供:株式会社リビタ)

グループでも、一人旅でも。和の要素を織り交ぜたシンプルな客室

続いて宿泊部分についても見ていこう。
客室は全11パターンある。家族やグループで京都を旅するニーズをとらえて、3・4名でリーズナブルに宿泊できる部屋が多い。

ベッドが2台置かれているほか、ソファがベッドになったり、畳スペースに布団を敷くことができたりと、フレキシブルに対応できる。二段ベッドを設置したドミトリータイプもあり、気軽な一人旅ももちろんウェルカムだ。

どの部屋も、既存のコンクリートを生かしたシンプルモダンなデザインのなかに、和紙をはった折れ戸を窓にあしらうなど、和テイストを調和させて、京都らしさも感じさせるのも魅力。

また、館内には、登録有形文化財の部分に宿泊できる部屋が一室あり、アーチ形の大きな窓から通りを眺めることができる。歴史ある京都ならではの特別感だ。

歴史を感じる登録有形文化財部分の客室(左上)のほか、3~4人で利用できる和・洋の客室(右上・左下)、ドミトリー(右下)などのバリエーションがある。(写真提供:株式会社リビタ)歴史を感じる登録有形文化財部分の客室(左上)のほか、3~4人で利用できる和・洋の客室(右上・左下)、ドミトリー(右下)などのバリエーションがある。(写真提供:株式会社リビタ)

尖塔部分を間近に見られる、宿泊者専用のラウンジ兼シェアキッチン

そしてさらに注目したいのは、この建物の象徴ともいえる尖塔部分を間近に見ることができる4階の共用部分と客室。

共用スペースは、専用ラウンジ兼シェアキッチンとして設けられており、宿泊者が自由に利用することができる。大きなテーブルを置いたリビングスペース側の壁には、横長に切り取られた窓があり、そこから尖塔がのぞめる。また、その隣の客室の窓からも尖塔が見えるという趣向だ。

とにかく客室の眺めからは近いので、文化財である尖塔の細部まで見える。朝、昼、夜と趣を変えるであろうし、道路から見る姿とはまったく違う感動を見るものに与えるだろう。文化財に、こんな体感のしかたがあったのかと、興味深く感じた。

文化財とローカル、そして京都の歴史。どれもこの場所にしかない出会いと体験だ。そのすべてを感じることができれば、旅はいっそう特別なものになる。「TSUGU 京都三条 -THE SHARE HOTELS-」は、そんな期待を抱かせるホテルだった。

この建物を特徴づけている尖塔を望む共用スペース(写真提供:株式会社リビタ)この建物を特徴づけている尖塔を望む共用スペース(写真提供:株式会社リビタ)

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