強力なシロアリが温暖化で北上中。築25年~29年では5棟に1棟がシロアリ被害に
最新の住宅に、思いもよらないシロアリの侵入経路が見つかり、問題となっている。今回は、シロアリの専門家に、その被害の様子と実態、シロアリの対策方法を聞いた。
シロアリは実に貪欲である。セルロース、つまり植物繊維を栄養源にしているため、木材だけでなくダンボールや紙もよく食べる。以前、横浜市内の分譲地で土中に打たれた木製の杭を見たことがあるが、3ヶ月も経たないうちに蟻害によって朽ち果てていた。
現在、日本の住宅は、一戸建てに限って言えば新築着工棟数の約9割が木造(※1)であるため、住宅を維持するためにはシロアリ対策が必須となっている。しかしながら、その徹底は難しく、築年数ごとのシロアリ被害発生率を見ると、築25年~29年の住宅においては5棟に1棟の割合で被害が発生しているというデータ(※2)がある。
というのも、新築時には建築会社が主導で薬剤処理などのシロアリ対策を行うが、その後は施主任せとなるため、結局放置され、薬剤の効果が切れて被害にあうケースが少なくないからだ。筆者もリフォームの現場で数えきれないほど、シロアリの被害に遭遇してきた。シロアリに喰われた木はまるでスポンジのようにスカスカになる。浴室解体時に、窓台や土台にちょっと手をついた瞬間に、ずぼりと手が入り崩れ落ちたこともあった。
日本で建物に被害を及ぼすのは、ほとんどがヤマトシロアリとイエシロアリである。ヤマトシロアリは北海道の一部を除く日本のほとんどの地域に生息し、イエシロアリは西日本から南の地域に生息している。基本的に南へ行くほど強力度が増すと言われるが、昨今の温暖化によりその生息域に変化が見られると言う。
長年シロアリ工事を手掛け、ハウスメーカーや工務店向けにシロアリの知識やケア方法、新入社員研修なども手掛けている株式会社テオリアハウスクリニックの平一暁氏によると、近年イエシロアリの北上傾向が見られ、10年ほど前から関東でもイエシロアリが見られるようになっているそうだ。
ヤマトシロアリとイエシロアリの大きな違いは、水の持ち運びができるかどうかにある。イエシロアリは自分で水が運べるので、2階や屋根裏にも巣を作ることができ、被害が拡大しやすい。またイエシロアリは巣が巨大で女王蟻を駆除しない限りまた広がるため、巣の特定をしての駆除が必要となる。巣は床下、壁の中、天井裏はもとより、庭の切り株に作るケースもあり、彼らには隣地境界線など関係ないため、隣の庭に巣がある可能性もある。
加えて外来種のシロアリがじわじわと増えていると言う。平氏によると、アメリカカンザイシロアリは輸入木材の中に潜んで日本に入り、1970年代に江戸川で発見されたのが始まりと言われているそうだ。羽蟻の飛行範囲は狭いが、人間が家具などと共に持ち運び、被害範囲が広がったケースもあるようだ。このように温暖化や外来種の到来で、強力なシロアリが広範囲に増えている傾向が見てとれる。
シロアリはどこから侵入するのか?最新の住宅に潜む意外な経路とは
一戸建て住宅でシロアリの被害の多い場所は、浴室、洗面、玄関のドア枠である。シロアリは、暖かく湿気が多く、暗い場所を好むが、実はその性質にもう一つスキマが大好きというものがある。シロアリの生態に詳しいシロアリ防除剤や炭素繊維などの製造販売を行っている大阪ガスケミカル株式会社の澤田健児氏によると、基礎とポーチのスキマはまさにシロアリが好みやすい環境にあり、特に木製のドア枠が狙われやすいという。
床下にコンクリートを敷き詰めるベタ基礎だから大丈夫と油断して被害にあうケースも少なくない。地面をコンクリートで覆っても、シロアリは配管まわりやつなぎ目のスキマに蟻道と呼ばれる道を自分で作って床下まで侵入する。鉄骨や鉄筋コンクリート造の家でもフローリングのすぐ下の根太と呼ばれる床下地組にシロアリ被害が見られることもある。
シロアリはコンクリートも突破することがあると平氏は言う。食べるのではなく、コンクリートの粒をひとつずつ外しながら穴を開けて侵入するのだそうだ。0.6ミリのクラック(ひび割れ)があれば突破できるというのだから驚きだ。
そして平氏と澤田氏が共に指摘していたのが、高気密高断熱の住宅で、基礎と断熱材の接触面からシロアリが侵入するケースが増えていることだ。
平氏が実際に遭遇した現場では、フローリングがふわふわしておかしいということで、床下を調査したところ、確かにシロアリの被害を受けているのだが、侵入経路が見つからない。そこで外断熱の基礎の断熱材を剥がしてみたところ、断熱材と基礎の接触面に多くの蟻道が発見された。
シロアリは光や空気の対流、乾燥などを嫌うため、断熱材の接触面はシロアリにとって天国のような場所だと平氏は言う。基礎の外断熱はシロアリの通り道を家の四方に作っている状態というわけだ。このような被害は、高気密高断熱の住宅が増えた10年ほど前から見られ、下の写真のように断熱材を剥がしてみないことには侵入経路と被害の全容が掴めないため、シロアリ業界で大きな問題になっているという。
現在は、薬剤を浸透させた断熱材を使用したり、ステンレスのメッシュで通り道をふさいだりなどの対策が取られているが、これも施工精度が肝心で、スキマを作ってしまうと、そこがシロアリの侵入口になるので、注意が必要だ。
空き家、そして賃貸住宅の蟻害問題。財産を喰い命をおびやかす可能性も
昨今増加している空き家もシロアリの発生源になりやすいと平氏は指摘する。空き家のメンテナンスをしている人はそう多くない。放置されている家ならなおさらで、シロアリの巣になっているケースも少なくない。今後、手入れをしない空き家が増えれば、そこがシロアリの巣窟となり、近隣へ被害が拡大するケースも考えられる。
また賃貸住宅もシロアリの対策がしにくい状況が少なくないと言う。床がギシギシするなど、住人が異変に気付いても、申告までにはなかなか至らず、被害がかなり進行してから発見されるケースが多いそうだ。加えて住人が点検を拒否し、駆除が部分残しになり、被害が繰り返されるケースもあると言う。
シロアリの被害を受けると、構造部分に影響を及ぼすため、補修費用が高額になりがちだ。筆者が以前に手掛けた築25年の木造一戸建て住宅でも、シロアリ被害が相当進んでいたため、補修費用だけで700万円ほど掛かったケースがある。ちなみにその家は、5年おきに当時18万円の再防蟻工事を行っていれば、ここまで被害が拡大することはなかった。見えないところで進行するため危機感が生まれにくく、後回しにされやすいのもシロアリ被害を拡大させる大きな原因となっている。
日本の住宅は地震対策が優れていることで世界的に有名だが、それも健全な状態であることが前提だ。阪神淡路大震災で、神戸市東灘区にある築30年未満の木造住宅の被害状況の調査(※3)では、シロアリ被害・腐朽のある家は9割以上が全壊したという結果が出た。
シロアリは財産を喰い、命もおびやかす害虫である。我が家だけは大丈夫と油断せず、しっかり対策をすることが肝心だろう。
シロアリの予防と駆除方法、安全性が高い薬剤への進化、毒餌を使用するベイト工法も
それではシロアリの被害を防ぐための、予防と対策方法をご紹介しよう。新築のシロアリ予防対策は大きく3つある。1つめはシロアリに食べられにくい材料を土台に使用する、2つめは土台に基礎パッキンなどを用いて物理的に侵入を防ぐ、そして3つめは薬剤施工で侵入したシロアリを撃退することだ。
基本的に新築住宅の防蟻工事は5年~10年間の保証があるが、問題はその後で、基本的には5年おきに住宅の持ち主が再防蟻工事を行い続けることが肝心だ。
澤田氏に使用する薬剤について聞いたところ、1980年代までは強力な有機塩素系の薬剤が使用されていたそうだ。しかし難分解性で長期にわたって毒性を維持するため使用禁止になっている。また昔はヒ素を使っていたケースもあると言うから驚きだ。その後は、有機リン系の薬剤が使われていたが、安全性が問題視され、2003年には代表的な有機リン系薬剤クロルピリホスが使用禁止となった。
現在は、シックハウス対策はもちろん、環境意識の高まりから、安全性が高い薬剤が使われるようになっている。大阪ガスケミカル株式会社の薬剤「タケロック」も、安全性が高く、かつ防蟻効果が高い薬剤のひとつで、マイクロカプセル状になっていることで安全性と効果を担保しているそうだ。シロアリは身体をなめあう性質があるため、薬剤を散布すると身体に付着した薬をお互いになめて広がり、またカプセル状になっていることで雨による成分の流出を低減、環境にも優しいと言う。
大阪ガスケミカル株式会社というと一般には馴染みが薄いかもしれないが、木材の保護塗料である「キシラデコール」の会社と言えば、ご存知の方も多いことだろう。もともと京都御所や出雲大社など国宝や重要文化財をシロアリや腐れから守るキシラモンという薬剤を製造しているメーカーで、それを一般住宅用に開発したのがタケロックだ。
薬剤メーカーである澤田氏に、自分で薬剤を購入してシロアリ対策をすることについて伺ってみたところ、薬剤をしっかり効かせるためには、床下にバリアを作り、木部にも薬剤を塗布させるなど、シロアリの生態をよく理解した専門家による適切な処理が必要のため、一般の人にはなかなか難しいとのことだった。
さて、シロアリの再防蟻工事を行う際は、床下に入れるかどうかが最初の関門となる。平氏によると、以前は和室の下地板を剥がしたり、床下収納庫を外したりして床下に潜るのが一般的であったが、現在はそのような出入り口が無い家が増え、新たに点検口を作ることが少なくないと言う。
また床下が狭く入れない場合は、家の周りに毒餌を埋め込むベイト工法というシロアリ対策もあるそうだ。これは敷地中の所定の場所にシロアリを誘き寄せ、家に近付けないよう管理するシステムで、建物の周囲に薬剤の入った餌入り容器を設置、定期的にチェック管理することで対策を行う。少し手間は掛かるが、家の中に薬剤を使わなくてよいため、化学物質過敏症の方にも取り入れやすい工法だ。
羽蟻が出たら要注意、自分でできるシロアリ予防対策
さて、春から夏のシーズンに家で羽蟻を見かけたら要注意だ。シロアリは飛んでくることはまれで、見えない地下から侵入してくるのが基本だが、シロアリが外に姿を見せる期間がある。それが羽蟻となるこの時期だ。
関東ではヤマトシロアリの羽蟻は4月下旬から5月にかけて、ゴールデンウィーク前後によく見られる。暑い地域はもう少し早い時期に見られ、イエシロアリはもう少し後の時期に出てくる。
シロアリは、巣がいっぱいになると他にコロニーを作るために巣から飛び出してくると言う。つまりシロアリの羽蟻を見つけたら、巨大なコロニーが近くにあり、外に新天地を見つけに出てきたということなので、注意が必要となる。
しかし普通の黒蟻も羽蟻になるため、見間違えているケースもある。平氏にシロアリと黒蟻の羽蟻の見分け方を聞いてみたところ、シロアリは寸胴であること、また羽に特徴があり、黒い色をしていて、4枚ともに同じ長さであると言う。一番の違いは、軽く触れるだけで、シロアリは羽が取れてしまうとのこと。飛び出した後、周囲の土の中に潜って新たな巣を作るため、すぐ羽が取れるようになっているのだそうだ。
シロアリと黒蟻は似ているようで全く違う。シロアリは昆虫綱ゴキブリ目シロアリ科、つまりゴキブリの仲間で、黒蟻はハチ目・スズメバチ上科・アリ科、つまりハチの仲間である。黒蟻はくびれがあり、どちらかというとハチに似ているため、よく見れば見分けがつく。
シロアリを見つけたら、早い段階で信頼のおけるシロアリ駆除会社へ連絡するといいだろう。会社を見極めるポイントを平氏に聞いたところ、社団法人日本しろあり対策協会に所属しているかどうかが目安のひとつになるとのことだった。
また適正価格を知っておくことも肝心だ。平米2,000円~3,000円を目安にするといいだろう。安すぎる場合は、薬剤を適正以上に薄めたり、全面処理を行わなかったり、シロアリを足掛かりに必要の無い商品をしつこく勧誘される恐れもある。安すぎず高すぎず適正価格であることが肝心だろう。
自分でできるシロアリの予防対策は、とにかく餌を家の周囲にまかないことにある。段ボール、ウッドデッキ、枕木、ラティスなどを未処理のまま置くのは、シロアリの巣を提供するようなものだ。そこから家の中に入り込まれれば被害は拡大する。心配な時は専門会社に床下点検を依頼するといいだろう。シロアリだけでなく、配管からの水漏れや基礎のクラック、断熱材の剥がれ等もチェックしてくれるので安心だ。
最後に平氏は、シロアリは土の中に普通にいるもの、家にとっては害虫だが、山林にとっては倒木や枯れ葉を土に返す大切な役割を持つ虫でもあると言っていた。シロアリは3億年前に発生したと言われている。日本はシロアリの巣窟でその上に木造住宅を建てているのだから、むやみに恐れるのではなく、しっかりとした対策をして我が家を守るという意識を持ち続けることが必要だろう。
(※1:平成25年都道府県別新設住宅着工戸数/国土交通省資料:構造別、建て方別、利用関係別―新設住宅の戸数、床面積の合計抜粋より)
(※2:日本長期住宅メンテナンス有限責任事業者調べ(平成24年度国交省補助事業 全国5,000戸調査より)
(※3:兵庫県南部地震による木造家屋被害に対する蟻害・腐朽の影響/宮野道雄、土井正より)
<取材協力>
株式会社テオリアハウスクリニック
大阪ガスケミカル株式会社
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