臨江閣、1年にわたる別館の大改修工事を経て国指定の重要文化財に
2018年8月、国指定の重要文化財となった群馬県前橋市の「臨江閣」。前回の記事では、有志の尽力により建築された臨江閣の歴史を振り返った。今回は、本館・別館・茶室からなる臨江閣の改修と活用について、前橋市教育委員会事務局文化財保護課専門員の小島純一さんに伺った。
「よくぞここまで残ってくれた」と、小島さんは言う。最大の危機は、1981(昭和56)年。臨江閣の解体案が論議されたが、「残すべし」との市民の意見も根強く、日本大学による調査が行われ、残すことが決まった。1986年には本館と茶室が県重要文化財、別館は市重要文化財に指定された。1987年から1989年にかけて本館・茶室の修理が行われた。2011年には、国指定重要文化財を目指し整備することが決まった。
そして、本館に続き、2016年3月から翌年8月まで別館の大改修工事が行われた。築後100年以上が経過していたが、これまで建物の改修を行ってこなかった。地元のNPO法人「景観建築研究機構」が設計と報告書作成を担当し、工事は竹中工務店と地元の吉田鉄工所とのJVにより行われた。
主な改修内容は、屋根瓦の葺き替え、耐震補強、冷暖房設備の設置など。耐震補強は壁の中に補強を施し、外見上は分からない。改修の中で最も重要だったのは、西洋室の上階に当たる180畳の大広間の西側部分だ。1階が小分けされた日本間には柱が多くあるので問題ないが、西洋室は柱が少ないためその上部に当たる部分は強度が十分ではなかった。耐震補強は壁で耐震するという方針に基づき、土壁を除去し耐震ボードを入れ、その上から漆喰を塗った。随所に金物を追加し固定し、見た目は変わらない。また、大広間には建設時にあった豪華なシャンデリアを再現した。
従来は冬期の寒さが大きな課題だったが、冷暖房設備を設置し、年間通して快適な環境が確保された。冷暖房設備はあえて壁などにはめ込まず、独立して設置。将来的に設備交換も容易で、しかも壁などの一部を壊す必要もないという。
国の重要文化財指定後は、来場者数は3倍に
臨江閣に使われている柱や壁を見ると、至るところに無数の小さな穴が空いている。鋲や釘を刺した跡だ。展覧会などをはじめ、さまざまなことに使われてきた証左であろう。市民に利用され続けてきた臨江閣の歴史を物語るものとして、今回の改修ではそのままにしてある。
「使ってもらってなんぼです」と小島さんは語る。国の重要文化財に指定されたが、もちろん「保護」に重点は置きつつも、市民に積極的に利用してもらいたいという基本方針は変わらないそうだ。保護だけでなく、活用についても文化財保護課が担う。
現在、館内の時間貸し利用に加え、観光客の来場も多い。観光ツアーに組み込まれ観光バスが訪れることも少なくない。国の重要文化財に指定される前は年間2万人ほどの来場者数だったが、指定後は年間6万人ペースと増加した。
自主企画から貸館業務まで多彩な活用
現在、臨江閣は実に多彩な用途に利用されている。
一例を挙げると、別館の改修が終わって再オープンした2017年には別館2階大広間で記念講演会「臨江閣の建築」(臨江閣整備委員の村田敬一氏)。同年11月には、将棋のタイトル戦である「竜王戦」が開催された。さらに2018年11月には国指定を記念して「活用」をテーマにしたシンポジウムが開かれ、建築や文化財保護の関係者らに加え臨江閣建設に尽力した下村善太郎の曾孫にあたる下村洋之助氏も登壇。講演者の一人である村田氏は「有志で臨江閣活用検討委員会をつくろう」と提案した。180畳の大広間は最大360人ほど収容でき、講演会やシンポジウムにも最適な空間と言える。
再オープン後、貸館利用は有料となったものの、茶会、生け花展などをはじめとする各種展覧会、演奏会にと盛んに利用されている。コスプレイベントの会場やプロモーションビデオ、映画のロケ撮影が行われたこともある。成人式や結婚式の前撮りなどにも利用される。
改修後は、別館1階に「かふぇ あんきな」ができ、前橋のお土産品のほか、コーヒーなどを販売。まさに前橋の文化の拠点といった利用法がなされているようだが、やはり、冷暖房設備など環境面の充実が寄与しているのだろう。
文化財建造物の保存と活用のモデルに
今後の課題について小島さんに伺った。
「火災報知器や放水機の設置といった安全・防災対策が必要になってくると思います。国の重要文化財に指定されましたので、補助金を活用しながら充実させていかなければなりません」
改修工事のJVに参加した地元企業に文化財改修のノウハウができつつあることも文化財の保護という観点からは大きいという。今後は、小さな改修等、きめ細やかな保全対応が可能になる。
こうした文化財保護を着実に進めつつ、臨江閣の歴史を踏まえ、活用にも重点を置いていく。
「国の重要文化財だからといってかしこまらないで、気軽に使っていただき、その雰囲気に触れてほしい。古く価値のある建造物を活用しながら残していくモデルとしたい」
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