バリアフリーからユニバーサルな社会へ
人生100年時代。「アクティブシニア」と呼ばれる元気なシニア層が増え、人々のライフスタイルは多様化している。
平成30年版の高齢社会白書によると、来る2065年には日本人の2.6人に1人が65歳以上となり、高齢化率は加速すると予測されている。年齢や障がいの有無にかかわらず、だれもが生涯を通じて自分らしく生きていくためにはどうすればいいのだろうか?
そのためには、住まいや建築物のバリアフリー化を進め、お互いを尊重し支え合う社会をつくっていく必要がある。
大阪の南港にユニバーサル社会の実現をめざす日本最大級の介護・福祉・健康に関する体験型の常設展示場があると知り、行ってきた。
最先端の福祉用具にふれる「ATCエイジレスセンター」
ATCエイジレスセンターは、暮らしの総合提案館として1996年4月にオープンした。運営は大阪市とATC(アジア太平洋トレードセンター株式会社)からなる実行委員会で、入館は無料。
会場面積およそ5,000m2の館内は、「生活改善などのご提案ゾーン」「バリアフリーな理想の家づくりのシミュレーションゾーン」「お出かけの際の安心をご提案するゾーン」「車いす体験コースと各種車いすの展示ゾーン」などで構成。ユニバーサルデザインの家具をはじめ介護用ベッドやリフト、トイレ、バリアフリーの住宅設備、最先端の見守りシステムなど数百点もの福祉用具が展示されている。
そもそも、どんな目的で訪れる人が多いのだろうか?
「当館にはさまざまな福祉用具があるので、よりフイットするものはないかと探しに来られるケースが多いですね。どこかのメーカーのショールームだと、商品が限られてしまう。ここでは数あるもののなかから実際に手にとり、スタッフに相談してじっくり選ぶことができます」。こう語るのは、アジア太平洋トレードセンター株式会社・公共サービス事業部エイジレスセンター課の目黒武司さん。
例えば、「手押し車」と呼ばれるシルバーカーひとつをとっても、歩行を補助するためか?買い物の際にモノを運ぶ用途が優先なのか?はたまた、おしゃれな見た目にもこだわりたいのか? 目的によって、選ぶ基準も異なる。
訪れるのは一般客ほか、地域の高齢者を見守る民生委員や介護従事者、アジア諸国や全国からの視察など幅広い。平成29年度は総計でおよそ13万6千人の来館があった。
「車いす体験」や「高齢者体験」でこれからを考える
世の中には、生活するうえでの障壁(バリア)を感じ、生きづらさを抱えている人は少なくない。突然の事故や、年齢を重ねることで車いす生活になることは誰にでも起こりうる。センターでは、車いすに乗ったり、高齢者になってみる体験などを通じてさまざまな視点を養うコーナーを設けている。
筆者も実際に車いすに乗って障害物のあるコースをたどってみたが、歩いている時には気にならないわずか1、2cmの段差もさまたげになることがわかった。一方、ゆるやかなスロープだと他者の手を借りなくても進める。いずれもフロアスタッフによる説明がわかりやすい。
ここは若い世代がよく訪れる体験スポットで、小中学校の校外学習や専門学校・大学の課外授業などでも多く利用されている。
誰もがその人らしく暮らせる社会をめざして
超高齢社会を迎え、福祉機器の進歩はめざましい。現在、ブースの出展社は一般企業やNPO団体などの68社。歩行支援型ロボットや高齢者の徘徊感知機器、さらには災害時にもっとも弱者となる「要援護者」の命をまもる防災コーナーまである。
「人は誰もが歳をとっていきます。だけど、できないことが増えるより、できることが増えれば意欲もわいてくる。福祉用具を活用することで、これまで外出できなかった人が自分の意志で外に出られるようになったり、介護する側の負担を軽くすることもできる。こんなに便利なものがたくさんあるのに、よく知られておらずモッタイナイと思うことがあるんですよ」と、入職3年目の目黒さん。見るもの・触れるものに感動した目黒さんは、これまで福祉関係の経験はなかったものの、イチから勉強し福祉住環境コーディネーター2級の資格を取得した。「必要な人に必要な情報が届けられるように、施設の認知度をもっと高めていきたい」と、熱く展望を語る。
ATCエイジレスセンターは、新しい福祉用具との出会いの宝庫である。そればかりでなく、個人の状態や意欲に応じて生き生きと暮らすにはどうすればいいのか?を探るヒントも詰まっているようだ。大切な誰かを誘って、ぜひ訪れてほしい。
取材協力:ATCエイジレスセンター
http://www.ageless.gr.jp/
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