香港で一番注目のエリアに「大館」という新名所が誕生した

香港観光といえば、ビクトリア・ハーバーやビクトリアピークからの夜景や、高層ビル群が代表的なコンテンツであるものの、現在、香港政府が力を入れているのは、中環(セントラル)界隈。歴史を感じさせる町並みやアート関連施設など街歩きに適した素材がある。メディア露出も増えてきて、日本人観光客の認知度が向上しつつあると香港政府観光局の担当者はいう。実際に、この界隈を歩いてみると、英国統治時代の建築等、「オールド」と「アート」が融合しているのが垣間見ることができる。

例えば、かつて氷や乳製品の冷蔵保存庫として使われていたレンガ造りの「フリンジクラブ」は、視覚芸術、展示会、ステージパーフォーマンスや音楽ライブなど、様々な芸術の拠点になっている。また皇仁書院という学校だったとろが、その後、警察官の家族用宿舎になり、そして「PMQ」というデザイナーやクリエイターの集まる複合施設に5年前に変わり、デザイナーズショップが、建物内に100店近く軒を連ねている。

そしてこの今年の5月下旬には、「大館」がオープンした。警察署と刑務所等だった建物をリニューアルして、歴史建造物とアートを楽しめる空間に生まれ変わったのだ。中環界隈には、大館オープンの宣伝ポスターが多く貼られている。

ハリウッドロード沿いの大館はライトアップされ、建物が美しいハリウッドロード沿いの大館はライトアップされ、建物が美しい

巨大なコロニアル建築と世界的な現代建築家の作品が共存

大館の外観は、英国統治時代のコロニアル建築で、白く塗られていて真新しい。大きな門をくぐって中に入ると、広い中庭があり、点在した椅子に腰かけた香港人が、しばしの憩いの時間を過ごしている。おしゃれなレストランやオープンカフェ、お土産屋さんもあり、土日になると、事前にインターネット予約をしないと入れないほど地元では盛況になっている。入場は無料だ。

大館は、旧中央警察署、中央裁判所、ビクトリア刑務所の3つの史跡の総称のことで、1万3600平方メートルの敷地に建物と野外スペースからなり、全部で16の古い建物と新しく建てた2つモダン建築がある。また建物を含め、広い野外スペースでは、アーティストによる共同プログラム、展示会、イベント、公演が予定されていて、史跡見学とアートを楽しめるコンセプトになっている。

ところで、2つの新たな建造物は、1つはコンテンポラリーなアート空間を持つギャラリーになっていて、もう1つは、舞台芸術、映画上映、教育的イベントのための講堂になっている。設計は、世界的に著名なスイス人建築家ヘルツォーク&ド・ムーロンが担当。青山にあるプラダのガラスのショップや北京のオリンピックメイン競技場「鳥の巣」などの作品で有名だ。

左上:旧警察署内の壁に描かれている大館の全体図のイラスト
左下:真ん中の黒い建物が新しく加わったギャラリー
右上:旧警察署の建物
右下:旧監獄の建物左上:旧警察署内の壁に描かれている大館の全体図のイラスト 左下:真ん中の黒い建物が新しく加わったギャラリー 右上:旧警察署の建物 右下:旧監獄の建物

かつてホー・チ・ミンも大館の獄舎に。10年の歳月を経てリニューアル

監獄の見学コースで、上の写真は当時の雰囲気を残しているが、下はギャラリーの雰囲気だ監獄の見学コースで、上の写真は当時の雰囲気を残しているが、下はギャラリーの雰囲気だ

大館の古いコロニアル建築は、1841年に裁判の関係部署の建物と刑務所のために建設された。その後、香港政庁は治安対策として警察本部を作ることを決定し、全館が1864年に完成。1930年代にはベトナムの革命指導者ホー・チ・ミンも収容されたことで知られている。そして年月を経て、1995年には旧中央警察署、中央裁判所、ビクトリア刑務所の3つが香港の歴史的建造物(法定古蹟)に登録された。

その後、2006年に警察署等の役割を完全に終え、同年、香港ジョッキーズ・クラブによって旧中央警察署の活性化のための設計提案に取り組む任命を香港政府から受け、コンセプトデザイン作業が始まった。翌年の2007年は、同クラブと香港政府が、施設の活性化に資金を提供することが決定した。その後、香港内外の専門家の助言、地域コミュニティーからの意見を参考に、史跡とアートの共存というコンセプトになった。

約10年かけた史跡を保存するための工事は、幾度も工期が延び、途中、築150年の煉瓦造の壁が崩壊するというアクシデントに見舞われつつも、2018年5月29日にオープンに至った。

歴史的遺産とアートの融合で、建物に新しい価値を生む

刑務所の建物をのぞいてみると、独房の構造が残されている。白いペンキがしっかり塗られていて、明るい室内だ。ライティングにもこだわりを感じる配列で、今後、何かの展示スペースにも活かせそうだ。日本で、歴史建造物として残すならば、かなり当時の雰囲気を再現しようと、リアルにディスプレイするだろう。あえて汚れた塗装にして、マネキンを配置するなど…。ところが、大館は、アートの展示会場を前提にしたつくりに徹しているのが特徴だ。

警察署の跡地の建物地下1階と地下2階では、「大館の100人の顔」という現代アートのオープニング展示をしていた。会期は、5月29日から同年9月2日までで、フライングピッグというアーティストの現代作品が並んでいる。
フライングピッグは、中央警察署の歴史を探るために、過去2年間、近隣100人から収集し、それを題材とした作品ををつくった。この中環界隈で「大館」とはどういった存在だったのか、彼らの物語によって、明らかにしようと挑んだ作品だ。5つのゾーンに分かれ、見学者も作品に参加できるようになっていて、触ったり、腰かけたり、覗いたりすることができる。

一方、新しく建てられた建物では、ワークショップが開催されている。香港のキュレーターであるクリスティーナ・リー氏によって企画され、最初の展覧会「解体解体展」では、地域社会や国際的なアーティストや団体の作品を集め、社会・市民と結びついた作品が並んでいる。

アートを絡めることで、古い建築がより魅力的な空間に変貌している。また中環エリアでは、全体がアートの街になりつつあるようだ。

オープニングの作品展示でフラインピッグさんの「大館の100人の顔」が開催されているオープニングの作品展示でフラインピッグさんの「大館の100人の顔」が開催されている

香港はアジア最大規模のアート市場に変貌していた

では、なぜ、これほど香港はアートが盛んなのだろうか。
それを象徴するのが、香港では3月を「香港アートマンス」と言って、アート・イベントが多く開催される。その一つ、「アート・バーゼル香港」が2014年から開かれていて、これは、アジア最大級のアートの見本市で、今年の3月は、世界32ヵ国から248のギャラリーが参加した。アジア・太平洋地域で活動しているギャラリーが半数を占め、アート・バーゼル香港は、地域アーティストの登竜門として国際芸術界において重要な役割を担うようになってきた。

香港のアートフェアは作品が多く売れ、だから世界中から注目の作品、いい作品が集まり、それを目的に中国本土や近隣からコレクターも集まり、さらに盛り上がるという好循環が生まれている。中環ではその結果、ギャラリーが増えているのだ。またストリートアートも盛んになり、フォトジェニックさを求める観光客が増えている。今年の3月(アートマンス)には中環のSOHO地区で、香取慎吾さんが龍のストリートアートを描き話題になった。

日本人旅行者にとって、かつて「香港」は人気観光地だったが、ここ長らく低迷の一途をたどっていた。ところが、ついにV字回復が始まったのだ。香港政府観光局によると、2017年の日本人訪問者数が前年比12.6%増の123万人となった。120万人を超えるのは2012年以来のことで、さらに伸び代がまだ大きいと同局の担当者は意欲的だ。同局は、「アート」と「オールド」を訴求ポイントに据え、今年は「大館」効果で対前年比8%の伸びを目標に掲げている。

香港の中環が、まだまだ熱くなりそうだ。

中環のSOHO地区にあるストリートアートは、そのフォトジェニックさに可愛い写真を投稿しようとする観光客が多い中環のSOHO地区にあるストリートアートは、そのフォトジェニックさに可愛い写真を投稿しようとする観光客が多い

2018年 08月30日 11時05分