完成!常滑ガウディ
『常滑ガウディ』なるものがお披露目されていると聞いた。
ガウディは、言わずもがなスペインが生んだ鬼才アントニオ・ガウディ。建築物に詳しくない人でも、その名と世界的に有名な作品は知っているであろう近代を代表する建築家の一人だが、それがなぜ愛知県常滑市に?
つい先日、日本遺産に認定された六古窯の一つ「常滑焼」の産地として、また日本一の招き猫の産地としても知られる常滑市は、街の至る所で窯業関連の施設や風景を見ることができる「やきものの街」。そんな同市には、土とやきもの魅力や“ものづくりの心”を伝える体験・体感型の文化施設【INAXライブミュージアム】(運営:株式会社LIXIL)がある。
今回注目した『常滑ガウディ』は、ミュージアム内に幾つかある文化施設の一つ「土・どろんこ館」で展示されているもの。大きさも色も表情も違う縦長ドーム状の室が連なる建築物は、ガウディ建築から着想を得て、建築家、タイル、左官の職人たちが半年をかけ協働で制作を進め、試行錯誤の後ついに完成したものだという。
土とやきものの魅力に触れる体験・体感型のミュージアム【INAXライブミュージアム】の開館10周年記念特別展
ガウディをテーマにしたこの企画は、同ミュージアムの開館10周年を記念した特別展『つくるガウディ』として昨年11月に始まった。常滑でガウディを制作するに至った理由を学芸員の水野さんに訊いた。
「ガウディは、図面を作らずに構造実験を行い、職人と話し合いながら作る建築家でした。
その独特のものづくりを、ものづくりの心を伝えるミュージアムとして学びたいという想い、また、土・石・タイルなど伝統的な素材を大切にしたガウディと、土とやきものがテーマのミュージアムという共通点から、ガウディ建築を常滑の地で読み解く試みを行いました。」
この企画、既に存在しているガウディ建築を常滑風に模す、のではない。
ガウディは未完成のままの建築物でも有名だが、半地階の礼拝堂部分しか完成していない世界遺産「コロニア・グエル教会」の未完部分である上部を想像し、3名の制作者が対話を重ねながら4分の1のスケールで表現することになった。
制作者3名のガウディへのオマージュ“完成”ではなく、「ものづくり」の現場と「工程」を見せる試み
「何なら完成しなくても良かったのです。制作者にも期日は伝えませんでした」と水野さん。
同展の目的は、建築物を完成させて見せることではなく、あくまで、「つくる」ことと「土とやきものの表現」を見せること。どんな素材をどう使って、どんな技でどう作っていくのか。ものづくりの現場と工程を見せる“公開制作”がいわば展示物なのだ。
図面が残っていない未完の建築を、自分たちの表現で、公開制作によってつくりあげる。
そんな試みにチャレンジしたのは、構造設計を行った建築家の日置拓人氏と、制作を担当した左官職人の久住有生氏とタイル職人の白石普氏。
3名は企画のはじまりにスペインに赴いて実際のガウディ建築に触れた。そこで得たインスピレーションを元に、これを常滑で作るならば…を各々が考え、職人同士の技のコラボレーションが進んでいったのである。
青図のない中、試行錯誤で半年間の職人仕事
「ガウディはスペインに合う明るいカラーを使いましたが、常滑には落ち着いた色味が似合うだろうと、ブルー系・グリーン系の7色を3種類のタイルに塗りました」と水野さん。釉薬の塗り方でも色合いが変わるもので、その表情を魅せながら外壁や室内の天井を彩るタイルがとても美しいまずは、市内工場での躯体づくり。
日置氏が原寸で書いた図面に合わせて鉄筋を曲げ、放物線型の構造体を作成し、組み立てた大きな各室を公開制作の会場に運び込む。
そして、会場の天井に届きそうなほど高い躯体の周りには丸太の足場が組まれ、モルタル下地の上にタイル張りと左官仕上げが行われていった。
内外装に使われたのは愛知県豊田市と兵庫県淡路の土で、色は現場で考えて調合。滑らかであったり粗さを魅せたりと実に表情豊かに仕上げられている。
一方、立体的なフォルムのタイル3種は、白石氏がデザインした形をミュージアム内の『ものづくり工房』で制作したもので、一つ一つ型に土を入れて手づくりされたオリジナル。裏を丸くして同じタイルでも表裏で見え方が大きく変わるものなど、ユニークな形状を活かした様々な張り方で表現しているのも印象的だ。
「ガウディは破砕タイルを使いましたが、白石さんは『タイルを割らずに曲面に張りたい』と」(水野さん)
タイルへの愛情あふれるエピソードにも職人の心意気を感じた。
「土とやきもの」「ものづくり」の可能性
【INAXライブミュージアム】企画担当・学芸員の水野慶子さん/美しい照明演出に映える『常滑ガウディ』は同ミュージアム内の『土・どろんこ館』で展覧中。土をふんだんに使ったこの建物の中では、「光るどろだんごづくり」などいろいろな体験教室も行われている。そんな体験を通して土の魅力に触れてみるのも楽しそう! 完成図のないガウディ式のつくり方で、タイル→左官→タイル→左官…と交互に作業を行い、職人たちと相談しながら“その場で”仕上げていった『常滑ガウディ』。
タイルと左官の同時進行ではないため、現場に来てはじめて建築の進行が分かることになる。
「会場に入って、2時間ただじーっと作品を眺めていらっしゃった時もありました」という水野さんの言葉からも察するに、前者が表現したものを現場で読み解き、そこに自分の解釈を重ねていく作業の難しさは相当だったと思う。しかも、つくるプロセスを見せる展覧会ゆえに、ヘルメットを被った一般観覧者が出入りし、見守る中での公開制作。かなりの集中力も求められたはずだ。
半年間に渡る特別展『つくるガウディ』を経てお披露目となった『完成!常滑ガウディ』。
3人の制作者がガウディへのオマージュとしてつくった建築は、2017年5月30日の会期終了後に壊されるという。
試行錯誤の末にせっかく完成したものを無くしてしまうのは何ともモッタイナイ気がするが、見方を変えれば、これも未完のガウディ建築に対する敬意になるのかもしれない。
作品は残らずとも、「土とやきもの」「ものづくり」の視点でのアプローチは、建築や伝統素材のいろいろな可能性を示した試みとして残っていくだろう。
■INAXライブミュージアム
http://www1.lixil.co.jp/ilm/
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