多くの人命が奪われるのは、「地震が来るから」ではなく「地震で建物が倒壊するから」

「耐震補強は、家を守るためではなく命を守るためです」と語る、木耐協事務局次長の関 励介さん。「地震に強い家にすることで、万が一の際にも家の外に逃げる時間を確保することができます」「耐震補強は、家を守るためではなく命を守るためです」と語る、木耐協事務局次長の関 励介さん。「地震に強い家にすることで、万が一の際にも家の外に逃げる時間を確保することができます」

日本木造住宅耐震補強事業者協同組合(以下:木耐協)は、1998年7月に民間の任意団体「木造住宅耐震補強推進協議会」として発足。翌年3月に建設省(現国土交通省)を主務官庁とする協同組合に組織変更。「地震災害から人命と財産を守る」ことを目的として、丁寧な耐震診断と依頼者の状況に合わせた補強設計、先進的で低価格な施工の実現に努める専門企業の全国組織だ。

「木耐協は、1995年1月に発生した阪神・淡路大震災がきっかけでできた組織です。この震災で亡くなった方の多くは、『自分が住んでいる家に押しつぶされた』ことが原因でした。
大切な家族を守ってくれるはずの我が家が凶器になってしまうことはあってはならないことで、このような状況を少しでも改善したいという思いから発足しました」と、木耐協事務局次長の関 励介さん。

木造住宅の耐震の専門家として、木耐協ではこれまでに全国47都道府県の約1100社の組合員と共に16万棟以上の耐震診断と、4万5000棟以上の耐震補強を実施。記憶に新しい東日本大震災や熊本地震など、いつ起こるかわからない大地震から一人でも多くの命を守るために、耐震性向上の必要性を訴え、活動を続けている。
【※木耐協が耐震診断を行うのは在来工法(木造軸組工法)のみ】

無料で耐震診断を行う木耐協。自治体の耐震診断との違いは?

一棟でも多くの木造住宅の耐震性を向上させるために、耐震診断・耐震補強の普及・啓蒙活動を続けている木耐協。組合員一人ひとりの技術力と意識の向上を図るため、年に100回ほど行われる勉強会のほか、技術向上委員会や耐震技術認定者講習会、年1回の全国大会などを行い、木造住宅の耐震技術者集団として役立てるように技術の向上に努めている。

「組合員が配布したチラシや当協会のホームページなどから耐震診断の依頼を受け、それを組合員に依頼し、診断を行っています。現在は年間4500件ほどですが、2005年1月だけで6700件ほどの依頼がありました。2004年10月の中越地震、また1995年1月の阪神・淡路大震災からちょうど10年ということで、地震に関する報道が多かったためでしょう。マスコミ報道の影響の大きさを痛感しています。継続して地震へ備えることの大切さを報道して欲しいですね」

木耐協では無料で耐震診断を行っているが、自治体で行っている耐震診断と違いはあるのだろうか?
「診断内容は基本的に同じです。ただ、自治体の耐震診断は一部費用負担がある場合が多いのですが、木耐協の耐震診断は基本的に無料です。組合員も多く、対応も比較的早いと思います。また、自治体の耐震診断は年間の件数制限が多々あるほか、1981年(昭和56年)の建築基準法改正前につくられた家に限定していることが多いようです」

木耐協では「倫理向上委員会」を発足させるなど、悪質な業者を排除するための取り組みも行っている。「利用者からクレームがあった場合、木耐協で調べてきちんと対処しています。安心してご依頼ください」

耐震診断は約2時間で終了。補強工事を行った場合の平均費用は約163万円

耐震診断から2~3週間後に発行される耐震診断結果報告書(写真はサンプル)。診断書の見方なども丁寧に解説されている。この結果を受けて、必要性を感じたら組合に耐震補強工事を依頼できる耐震診断から2~3週間後に発行される耐震診断結果報告書(写真はサンプル)。診断書の見方なども丁寧に解説されている。この結果を受けて、必要性を感じたら組合に耐震補強工事を依頼できる

耐震診断では、床下・屋内・天井裏・外観等のチェックを行い、「地盤・基礎・壁のバランス(建物の形・壁の配置)・壁の量(筋交い・壁の割合)・劣化度」を調べる。その結果から家のどの部分が弱く、どのように補強すればよいかを判定し、1.0以上の点数があればデータ上は震度6強まで耐えられる家と判断される。時間は2時間程度で、診断から2~3週間で耐震診断結果の報告が行われる。

利用者の評価を聞いてみた。
「点数の良し悪しは別として、『家のどこか弱いかがわかったことで安心しました』というお声が多いですね。まず現状を知ることが安心につながるのだと思います。補強工事を行うかどうかはご家族の判断です」
ちなみに、耐震補強工事を行った場合の平均費用は約163万円とのことだ。
「耐震診断の結果から補強や改善が必要な箇所を割り出し、的確な工事を行います。補強工事でよく使われる耐震ボードは、1ヵ所に付き約20万円で設置できます。皆様が想像しているよりもリーズナブルではないでしょうか」

「大地震に耐えたから次も大丈夫」ではなく「大地震に耐えたから傷んでいる」

お話を聞いていてドキッとさせられた言葉があった。
「例えば東日本大震災で、住んでいる家が震度5強の地震に耐えたとします。だから次に震度5強の地震が来ても大丈夫と考えるのは誤りで、1回強い地震に耐えたことでダメージが蓄積されている可能性があります。次に同じ大きさの地震が起きた場合に、どうなるかわからないと考えるのが正しい捉え方です」と関さん。まずは耐震診断で家の状況を把握したいところだ。

地震への備えについてアドバイスもいただいた。
「地震の際、1階が押しつぶされることが多々あります。寝ている時間の安全確保のために、寝室は2階に配置することが望ましいでしょう。また、部屋の物や割れたガラスが散乱することが考えられますので、寝室に靴を置いておくことをおすすめします。耐震補強を行わなくても、まずはできることから地震へ備えていただきたいですね」

国土交通省は、住宅リフォーム事業の健全な発達および消費者が安心してリフォームを行う事ができる環境の整備を図るため、一定要件を満たす住宅リフォーム事業者を登録する「住宅リフォーム事業者団体登録制度」を2014年9月にスタート。木耐協は必要要件を満たし、2015年3月に登録された。
「リフォームでは、500万円未満の工事に関して資格が特に不要なため、悪徳な業者による工事が問題になっています。このような登録制度もありますので、リフォームを行う際の業者選定の参考にされてはいかがでしょうか」

国や自治体からの補助金が出ることが多い耐震補強工事。いつ発生するかわからない大地震に備え、まずは木耐協が行う無料の耐震診断に申し込み、家の安全性を確かめてみてはいかがだろうか。

木耐協が作成している「木造住宅耐震百科」の中面。地震や耐震診断、耐震補強などに関するQ&A、「壁量の充足」「偏心率の改善」「接合部の補強」ほか、様々な耐震補強事例などが掲載されている。地震への備えの参考となる1冊木耐協が作成している「木造住宅耐震百科」の中面。地震や耐震診断、耐震補強などに関するQ&A、「壁量の充足」「偏心率の改善」「接合部の補強」ほか、様々な耐震補強事例などが掲載されている。地震への備えの参考となる1冊

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