182人の園児が手遊びや紙芝居で非常時の動きを訓練

歌やジェスチャーゲームで基本的な動作を覚えた園児たち。地震のカードを掲げ「地震がきたよ!」と声をかけられると、保護者も参加して頭を抱えるポーズ! 園児らは元気に普段の練習の成果を披露していた。3/3の防災訓練にて歌やジェスチャーゲームで基本的な動作を覚えた園児たち。地震のカードを掲げ「地震がきたよ!」と声をかけられると、保護者も参加して頭を抱えるポーズ! 園児らは元気に普段の練習の成果を披露していた。3/3の防災訓練にて

地域の防災活動において課題となるのは、どのように人を巻き込んでいくか、どうやって続けていくかという点にあると思う。
それらの課題に積極的に取り組んでいるのが、名古屋市港区にある港まちづくり協議会(以下まち協)だ。前回、まち協が開催した勉強会「アートが社会にもたらす新たな可能性―クリエイティブ×防災―」についてはお伝えしたが、この港まちを舞台に広がっている「みなとまちBOSAIプロジェクト」について、引き続きお伝えしようと思う。

去る3月3日、区内にある私立慶和幼稚園では、まち協と協働した園児の防災訓練が開催された。
この日は、園児182人が参加。地震で津波発生を想定し屋上に避難訓練をした後、もしもの時の行動をジェスチャーゲームにしたり、災害に備えることや助け合うことの大切さを学ぶ紙芝居など、小さな子どもでもわかりやすく、楽しみながら身につく防災訓練を実施。
「小さな子どもは言葉で伝えるより、体の動きで覚えるのが一番。『地震だ』と言ったらどう動くのか、を遊び感覚で身につけてもらうのが狙い」と、同園の伊東慶理事長。
訓練では
◇地震では手を当てて頭を守る
◇津波が来たら高いところに逃げる
◇火災では煙を吸わないように手を口に当てる

といった3つの基本動作を習得できるようにと、園児たちは入園してからの毎月の避難訓練を通して練習を積んできたという。
その成果を見るため、この日は授業参観の形で保護者47人も参加した。

授業参観として子どもの防災訓練を見て保護者も意識を高める

慶和幼稚園理事長・伊東慶氏(28)。「慌てたり時間がかかったりしていた年少クラスの園児でも、年中クラスになると落ち着いて避難行動がとれるようになっているんです。反復練習と子どもならではの素直さで、災害時に役立つ動作が身についてきていると思います」慶和幼稚園理事長・伊東慶氏(28)。「慌てたり時間がかかったりしていた年少クラスの園児でも、年中クラスになると落ち着いて避難行動がとれるようになっているんです。反復練習と子どもならではの素直さで、災害時に役立つ動作が身についてきていると思います」

「園児の親世代は、仕事も忙しく地域の防災訓練にも参加できない方が多くいます。そこで、授業参観という形で子どもたちが取り組んでいる訓練の様子を見ていただき、園の防災教育を知ってもらいたい(伊東氏)」と、2014年からは一年に一度、園児の防災訓練を保護者の参観形式に。
さらに、子どもたちの訓練を参観した後は、保護者向けのプログラムとしてワークショップを実施。災害時の避難所に指定されている同園では、港区環境局の防災担当を招いて、仮設トイレの設置を組み立てから体験したり、家庭から非常持ち出し袋を持ち寄り、中身を披露するなどの試みも行われた。

伊東氏は「幼稚園というのは、子どもが育っていく場でもありますが、保護者も親として成長していく場所でもあると思います。園児が楽しみながらも真剣に防災訓練に取り組む姿を見て、親も防災についての意識を新たにしてもらう仕組みとして、今後も訓練を発展させていきたい」と話していた。

まちの外の人からのアイデアを取り入れるDEP

慶和幼稚園での園児防災訓練の背景には、まち協だけでなく多くの人が関わっている。
まず、非常食の宅配を中心に防災事業を進めているyamory(株式会社R-pro)だ。
代表取締役の岡本ナオト氏を中心に、防災教育プログラム「DEP(Disaster Education Program) minato」を立ち上げたyamory。
まちの人が抱える防災の課題を、まちの外の人が聞いて・考えて・防災プログラムを作るというこの企画は1/30、31に開催され、教育に興味があるという30代女性や、有給休暇をとって参加したという会社員など、2日間で総勢50人の男女が参加し、「まちの人からの防災の課題提供」 + 「まちの外の人のアイデア」で、その土地ならではの防災教育プログラムを作り上げる内容となった。

このなかから、先に書いた慶和幼稚園での園児・保護者を巻き込んだ防災プログラムが実施されることとなった。園児の保護者向けのプログラムのなかでは、岡本氏が東日本大震災でのボランティアで見聞きした内容を語り、防災リスクについての講習も行ったという。
ジェスチャーや絵本を使った園児向けのプログラムには、防災イベントなどを企画運営する神戸のNPO法人プラス・アーツから、アイデアを直接伝授。前出の伊東氏は「自分たちだけで防災訓練を行っていても、知識や経験がない分マンネリになりがち。そこを外部のアイデアを取り入れることで、本当に必要なことを園児や保護者に伝えることができるようになってきました」と語っていた。

1/30、31に行われた「DEP minato」最終プレゼンの模様。防災やまちづくりなどに興味がある人らが集まり、活発な論議が交わされた。今後は別のエリアでも展開していきたいと、yamory代表の岡本氏1/30、31に行われた「DEP minato」最終プレゼンの模様。防災やまちづくりなどに興味がある人らが集まり、活発な論議が交わされた。今後は別のエリアでも展開していきたいと、yamory代表の岡本氏

非常時の行動を体で覚える。小学校で行われた防災キャンプで実体験

親子で楽しみながら、津波避難や避難所開設を体験するプログラム「MINATO CAMP」。「思っていた以上にわが子は頼りになる」といった声も聞かれたそう。写真は、親子でダンボールでパーテーション作りをする様子親子で楽しみながら、津波避難や避難所開設を体験するプログラム「MINATO CAMP」。「思っていた以上にわが子は頼りになる」といった声も聞かれたそう。写真は、親子でダンボールでパーテーション作りをする様子

慶和幼稚園+まち協+yamoryが協働で防災訓練を行うのは今年で3回目。
yamoryの代表岡本氏が第一回目から幼稚園の保護者に聞いているというのが、家庭での非常食の備蓄についてだという。
初年度の2013年は約半数、2014年には約1、2割に減り、今年は約90人いる中でたった一人しか備蓄をしていなかった。
「災害の記憶は時がたつと薄れてしまうもの。防災を特別なものとしてではなく、日常にいかに溶け込ませるかということが課題だと思います」と岡本氏。日常の食事に気軽に取り入れられるアレンジメニュー「非常食を食べきるちょい足しレシピ」を紹介するなど、いざという時の賞味期限切れを防ぐため、定期的に非常食を食卓に出す提案もしている。

また、非常時の行動を日常的に体験しておくことも大切なこと。
まち協では昨年夏、防災キャンプ「MINATO CAMP」を実施。7組の親子が参加した。
受付で指令書をもらった子どもたちが、アイマスクや体におもりを付けた親を屋上まで誘導するところからキャンプはスタート。避難所として想定した教室では、ダンボールでパーテーションを作ってみたり、新聞紙を使った紙食器作りを体験。食事は、カレーうどん作りにチャレンジ。ペットボトルにいれた水に乾麺を漬け置きし、ゆで時間を短縮した省エネうどんにレトルトカレーをかけて食べ、一日の最後はランタンの灯りの中で一日を振り返った。

港まちづくり協議会次長・古橋敬一氏は「防災キャンプについては、大きな手応えと可能性を感じています。誰もが積極的に参加したくなるような内容を考え、今年の夏も開催したいと考えています」と話していた。

自分のまちの防災について考えよう

慶和幼稚園での防災訓練の様子を紹介する動画や、「MINATO  CAMP」のパネル展など、目をひくデザインで展開された「みなとまちBOSAIプロジェクトアーカイブ展」。「2014年からの港まちの防災活動を紹介しましたが、これを見た人が防災を考えるきっかけになってくれたらいいなと思います」と、まち協の古橋氏慶和幼稚園での防災訓練の様子を紹介する動画や、「MINATO CAMP」のパネル展など、目をひくデザインで展開された「みなとまちBOSAIプロジェクトアーカイブ展」。「2014年からの港まちの防災活動を紹介しましたが、これを見た人が防災を考えるきっかけになってくれたらいいなと思います」と、まち協の古橋氏

「防災教育×まちづくり×クリエイティブ」をキーワードに防災に取り組むまち協、防災を日常に取り入れる仕組みを考えるyamoryなど、防災のアイデアを持つ人たちがまちの人と協働して成果をあげてきた「みなとまちBOSAIプロジェクト」。3月末には、まち協の活動拠点であるポットラックビルにおいて、防災活動の成果の一部を紹介する企画展も開催した。
「自分たちがやってきたことを振り返るだけでなく、より多くの方と一緒に防災を考えるきっかけとなってくれたらいいなと思います」と古橋氏。

東日本大震災以降、防災はまちづくりの大きなテーマとして再認識されるようになった。しかし、まだこうした取り組みを行っている地域は多くはないだろう。
今後30年以内に巨大地震が起こるとされる日本。小さなまちで行われている防災アイデアがほかの地域にも飛び火して、災害に強い地域社会を作り上げていくことが望まれる。
あなたも、いま一度自分のまちの防災について考えてみてはいかがだろう。

2016年 04月12日 11時04分