世界の家具業界をデザインで惹きつける石巻工房の家具

あまり好きではなかったという鮨の世界から、好きなことをやって生活できる暮らしへ。震災を機に人生が変わったあまり好きではなかったという鮨の世界から、好きなことをやって生活できる暮らしへ。震災を機に人生が変わった

日本で石巻と聞けば大半の人が2011年の東日本大震災の被災地とまず思うだろう。だが、海外で石巻工房の家具に触れる人たちにはそうした知識はない。だから、どこの製品かを聞く以前にデザインが気に入って注文、その後に被災地であることを知るという。被災地のモノだからではなく、デザインに惹かれるから欲しいとなるのだ。

世界最大級の家具見本市であるミラノサローネを始め、名だたる世界の家具展示会を総なめにしてきた石巻工房の家具の魅力はシンプルで単純な点にある。当然といえば、当然かもしれない。石巻工房は被災地の、何もかもが無くなった場所からスタートしているのである。

元々は地域に住む人たちがDIYできる場所があれば復興が早まるのではないかと、首都圏に住む建築家などが道具などを集めて立ち上げた工房である。そこにたまたま出入りしていたのが現在、石巻工房の代表取締役であり、工場長でもある千葉隆博氏。被災当日までは20年に渡り、父親の経営する店で鮨職人をしていた千葉氏だが、子どもの頃からモノ作りが好きで、高校卒業時はログビルダーになろうと思っていたそうだ。ただ、当時は高校の進路指導の先生ですら、ログビルダーという職種を知らなかった時代。結局は父の店を手伝っていたわけだが、その間も改良、改造癖は抜けなかった。

無いものは作れば良いという子ども時代

最初の商品がこの石巻ベンチ。上映会後は街のあちこちに置かれ、今も活用されている最初の商品がこの石巻ベンチ。上映会後は街のあちこちに置かれ、今も活用されている

「世の中の人は不便に慣れる。閉まりにくいドアがあっても、こうやると上手に開くと自分なりのコツを生み出し、それでおしまいにする。でも、閉まりにくいんだったら改造すればいいし、そのほうが使いやすくなる。鮨屋時代にもよく店内の蛇口やコンセントの位置などを見様見真似で動かして、使いやすくしていました」。

子どもの頃から道具を改良する父の姿を見ており、希望するサイズの棚がないなら自分で作ればいいじゃないかと思ったという千葉氏。部屋の中の改造に留まらず、ラジカセや洗濯機、自転車などを分解しては組み立て直すのが大好きだったそうだ。

「一度ばらして組み立てれば、そのものの動く仕組みが分かるでしょう、それが面白くていろいろなモノを分解しました。道具も大好きで、ホームセンターに行ってはこの道具があるから、あれを作ろうなどとよく考えました。変な工具もたくさん持っていて、中にはプロ仕様のものも。変わったものでは自転車のクランクという部品を付けたり、外したりする時に使うコッタレス抜きがありましたね。これで自転車をフレームだけにして色を塗って組み立て直すと自分仕様になる。各種の工事現場を見ているのも好きで、その経験があるので、鮨職人時代にも電気工事ができたわけです」。

長々と千葉氏の子ども時代を紹介したのは石巻工房の家具は彼に似ていると思うからだ。無かったら作れば良い。真似して作ってもらいたい、自分が使いやすいように改造してもらっていい。石巻工房の家具にはそういう特徴があるのだ。

丈夫で長持ち、改造もできる日本初の家具

中心部から少し離れた場所にある工房。東京にもショールームがある(予約制)中心部から少し離れた場所にある工房。東京にもショールームがある(予約制)

具体的に家具を見ていこう。基本的な素材はカナダのレッド・シダー。最初に復興支援イベントとして野外上映会を行う際、観客が座るベンチを作ることになり、そのための材料の提供をあちこちに呼びかけたところ、寄付してくれたのがカナダのレッド・シダー協会だったからで、この材は柔らかく、傷つきやすく、狂いやすい。そのため、家具には向かないとされ、主要な用途はウッドデッキや外壁材。アウトドアで長年風雨にさらされても腐らない丈夫さがあるのだ。

でも、それなら野外で使い倒せるではないか。上映会にはぴったりの材だったし、その後の商品化で「スモールアウトドア」を提唱、ベランダなどに置いて都会でも自然を味わおうという提案をする際にも強みになった。それまでの日本には外に置いて使い倒せる丈夫な家具はなかったのだ。「ホームセンターの品は半年も経てばダメになるし、ブランド物の家具は高くて外には置けない。でも、この材なら外に置いてがんがん使っても長持ちします」。

作るものはレッド・シダーのツーバイ材と工房にある道具だけでできるものとしているため、自然、シンプルで単純なデザインの家具になる。曲線の入ったデザインや特殊な材料は使わない。塗装もしない。ビスも見せたままである。これまでの家具業界では住宅同様、ビスを見せるのはタブー視されていたそうだが、そんなことは気にしない。だから、やる気になれば真似して作ることもできる。

「裏返して見るなどすれば作り方は全部分かる。だから真似して作ってもらってもいいし、改造してもらってもいい。塗装していないので、自分で好きな色を塗ることもできるし、傷ついてきたら削ることも。子どもがいて角が気になるなら丸くしてもいい。これまでの日本には購入後に自分で手を入れられる家具は少なかったけれど、石巻工房の家具はそれができます」。

無垢の木の自然な現象にクレームを付ける人も

木の味わいを生かし、シンプルで丈夫。使い込むに従って味のでる家具木の味わいを生かし、シンプルで丈夫。使い込むに従って味のでる家具

面白いのはそういう家具と相性が悪い人たちが少なからずいるということだ。傷になるのが許せない神経質な人に向かないのは誰でも考えつくだろうが、世の中には店で見た品と届いた品の、木目や節の位置が違うと文句を言う人もいるという。

「無垢の木ですから、一本ずつ全部違う。同じのがあったら逆におかしいと思いますが、違うと言って文句を言う人がいる。縁側に置いていたら色が変わったという文句もありました。また、床に傷がついたら困るから、脚の下にフェルトを貼りたい、それを付けて売ってくれという話も。その時、4枚に切るのが手間だったので、4脚分をまとめた大きな1枚を入れたら、1枚しか入っていないとクレームの電話が来た。自分で切ればいいだけなのに、そこまでやってもらわないとできない、考えられない人もいるわけです」。

こうしたクレームへの対応には2種類ある。クレームが出ないような製品にするか、クレームを言わない、理解してもらえる人に売るようにするか。前者は不動産、住宅業界の多くが取ってきた手だ。無垢の木は湿度などによって反ったり、暴れたりする。自然の産物なのだから当然だが、そこにクレームが発生するのが嫌だからと、メーカーは無垢の木を使いたがらない。

だが、石巻工房の対応は後者。前述のフェルト要望には以降応えないこととし、自分たちが良しとする商品を作り続けている。ネット販売のページにはいろいろな注釈があり、自社の製品に理解を求めようとする姿勢が見て取れる。「パックにワサビも醤油も入っていて、開けたらすぐに食べられる刺身がいいか、自分で魚を料理して好きなように食べるのがいいか。人それぞれでしょうが、私たちは後者です」。刺身派の人は他の家具を買ったほうが良いというわけだ。

無垢材の安全性も忘れてはならないポイント

最後にデザインについて。一般の製品作りではメーカーが企画、デザイナーがデザインをして作るという工程になるだろうが、石巻工房ではデザイナーのほうからこういうモノを作りたいと言ってくるという。それは材料、道具が限られているという制約が創造意欲をかきたてるからだ。一般の人は制約がなく、自由に作れることを良しと思うかもしれないが、モノを作る人たちは実は意外にマゾ(!)で、制約があるほどに燃える。素材、工具が限られるシンプルなものほどデザイン力が試されるのだ。そのため、業界内では高名なデザイナーのデザインも含め、アイテム数は当初のベンチ、スツール、縁台の3点から50点ほどに大幅アップ。ネットや国内外の家具店などで販売されている。

千葉氏自身は最初、デザインの力をあまり考えていなかったという。「田舎ではデザイン料、なんだ、それは?と言われる。だから、当初ベンチを1万円で売り出した時には地元の人からは高すぎると言われた。せいぜい、3000円だろうと。一方、東京の人からは材料なども含めて考えると、安すぎる、2~3万円が妥当だという。でも、海外ではデザインとヒストリーで売れていることも含めて考えると、デザインの力は国も、言葉も超える。大事にすべきですね」。

価格に関して言うと、安ければ良いのかという意識もあるという。「住宅はシックハウス対策が施されているにも関わらず、症状が出る場合がある。何が原因かを調べると家具だったということはしばしば。安いからと出所不明のパーティクルボードで作られた家具を買うと、どんな化学薬品が入っているか分からない。その点、石巻工房の家具は無垢の木。塗装もしておらず、商品によってはビスのみで接着剤すら使っていないものもある。その安全性を考えるとコストパフォーマンスとしてはそんなに高くないとも思います」。

箱を開けた時に木の匂いがする、改造可能で丈夫な家具。スツールを並べて台にして使う、お盆のような使い方もできる子ども用のスツールなど可変性もあり、長く使うつもりなら選択肢のひとつになるのではないかと思う。


石巻工房
http://ishinomaki-lab.org/

左上/スツールとして使う以外に天板を乗せればテーブルにもなるAAスツール。積み重ねてオブジェにするなどの使い方も<br>右上/足を掛けて座る姿から名付けてフラミンゴというスツール<br>下/子ども用のスツールにも、モノを運ぶトレイにもなるキャリースツール。オーダーメイドも可能。レンタルも行っている左上/スツールとして使う以外に天板を乗せればテーブルにもなるAAスツール。積み重ねてオブジェにするなどの使い方も
右上/足を掛けて座る姿から名付けてフラミンゴというスツール
下/子ども用のスツールにも、モノを運ぶトレイにもなるキャリースツール。オーダーメイドも可能。レンタルも行っている

2016年 03月09日 11時07分