水素によって発電する燃料電池

ここ最近、エコなクルマといえばハイブリッド車が代名詞になっている。しかし、様々なメディアに目を通すと、その多くが近い将来の大本命は燃料電池自動車だという。今のところトヨタが2014年末に発売し、2016年はホンダも売り出す予定だ。

燃料電池とは、水素によって発電する仕組みのこと。電気によって動くものはクルマに限らない。私たちの身の回りには家電をはじめ、電気で稼働するものばかりだ。ならばこの燃料電池で家庭の電気も発電できれば、エコな暮らしが実現できるのではないだろうか。

実は住宅で使用する電気として、燃料電池の実用化は目の前まできている。その状況と未来像を紹介しよう。

ほとんどエネルギーロスがなく、排出するのは水だけ

まずは、燃料電池の仕組みから説明する。水に電気を流すと水素と酸素に分解される。燃料電池はその逆の仕組みで、水素と酸素を反応させて電気を発生させる。電池と名がついているものの、電気を貯めておくのではなく、化学反応によって電気を生じさせる発電装置だ。

この燃料電池による発電は、従来の方法に比べ様々なメリットがある。

1.高効率
たとえば火力発電は、燃料を燃やした熱で水を沸騰させ、その蒸気でタービンを回して発電する。この間に化学エネルギーから熱エネルギー、運動エネルギー、電気エネルギーというように形を変えることによってエネルギーの損失が生じる。
一方で燃料電池は、水素の化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換できるため、損失が非常に少ない。火力発電の場合は、自宅に電気が届くまでのエネルギー利用効率は4割程度だが、燃料電池の場合は9割弱。つまり、ほとんどエネルギーロスがない。

2.クリーン
発電時に排出されるのは水だけ。二酸化炭素や窒素酸化物など地球温暖化や大気汚染の原因物質をほとんど出さない。

3.排熱を利用できる
水素と酸素が反応する時に出る熱でお湯を沸かすことも可能。

4.静か
エンジンやタービンを利用するほかの発電装置に比べ、非常に低騒音で低振動。

火力発電は化学エネルギーから熱エネルギー、運動エネルギー、電気エネルギーというように複数回形を変えることによってエネルギーの損失が生じる。
一方で燃料電池は、水素の化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換できるため、損失が非常に少ない。(出典:一般社団法人 日本ガス協会HP)火力発電は化学エネルギーから熱エネルギー、運動エネルギー、電気エネルギーというように複数回形を変えることによってエネルギーの損失が生じる。 一方で燃料電池は、水素の化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換できるため、損失が非常に少ない。(出典:一般社団法人 日本ガス協会HP)

すでに実用化されている燃料電池「エネファーム」

このように燃料電池は、いいことばかりのまさに夢の発電装置だが、実はすでに身近な商品として販売されているものがある。2009年に販売が開始されたエネファームだ。

エネファームとは、家庭用燃料電池コージェネレーションシステムの愛称。ガスを水素の原料として、水素と酸素で電気をつくり出す。
そのシステムは、発電ユニットと貯湯ユニットに分けられ、前者で発電し、その時に出る熱を利用してお湯を沸かす。

ガスを利用するので、停電時でも発電が可能(一部例外あり)。しかも一般的な住宅なら年間数万円のエネルギー代が削減できる。そのほかにも上記のメリットなどで普及が進んでいる。エネファーム普及推進協議体「エネファーム パートナーズ」によると、2014年9月時点で累計販売台数10 万台を超えた。また、2014年4月に閣議決定された「エネルギー基本計画」では、2020年に140万台、2030年に530万台の普及を目指す目標が掲げられている。

しかし、まだまだ発展途上ともいえることも事実。現状のおもな課題には次のようなものがある。

・太陽光発電と異なり発電した電力を売電することができない。

・水素の原料となるガスは海外からの輸入に頼っているため、ランニングコストが高騰する可能性がある。

・システムの価格は工事費込で200万円前後(2015年12月現在)。国からの補助金(2015年度は上限40万円)などがあるものの、イニシャルコストが高い。

エネファームの仕組み。ガス(LP、都市いずれでも可能)から水素を取り出し、空気を化学反応させて発電する(出典:日本LPガス協会HP)エネファームの仕組み。ガス(LP、都市いずれでも可能)から水素を取り出し、空気を化学反応させて発電する(出典:日本LPガス協会HP)

2030年には自宅で水素を製造できる?

そもそも水素は、日本ではどこででも手に入る水に含まれているもの。わざわざガスを利用しなくてもよさそうな気もする。そこで大手電機メーカーなどでは太陽光で水を分解して水素をつくる仕組みの開発を進めている。
水素はガスや電気で分解した場合、環境負担ゼロにはならない。そのためこの仕組みでは、住宅の屋根に設置した触媒に太陽光を当てて水を水素と酸素に分解する方法を用いる。つまり自宅で水素をつくるのだ。しかし、そこには製造した水素をどう安全に保管するかなど数々の課題がある。これらを解決するため、実用化は2030年ごろになるという。

以上のように燃料電池による発電は、誰もが満足できるレベルになるまでしばらく時間がかかりそうだ。とはいえ、夢の発電装置の可能性は多分にあるので注目していきたい。

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