中古物件の流通活性化を目指して

リノベーション・オブ・ザ・イヤー2014 部門別最優秀賞「無差別級」受賞。ダイニングテーブルが、ルーフバルコニーまで突き抜けたリビング。テーブルに誘導された視線は屋外へ向き、空間を広く感じさせる。リノベーション・オブ・ザ・イヤー2014 部門別最優秀賞「無差別級」受賞。ダイニングテーブルが、ルーフバルコニーまで突き抜けたリビング。テーブルに誘導された視線は屋外へ向き、空間を広く感じさせる。

住宅のリノベーションをはじめ店舗設計など多岐にわたるデザインを手掛ける9(ナイン)株式会社というデザイン事務所が大阪にある。ファッションの世界から建築業界へと転向した異色な経歴をもつ代表取締役の久田氏。自らの大工仕事やリノベーション経験を基に、事業へと発展させた会社だ。
2014年11月、同社は「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2014」で、部門別最優秀賞「無差別級」と「インパクト賞」の2つを受賞している。

「リノベーション・オブ・ザ・イヤー」の選考委員は、主に住宅メディア関係者で構成されており、一般社団法人リノベーション住宅推進協議会が主催している。この協議会は、リノベーションの品質基準を定め、優良なリノベーション住宅の理解、普及浸透を推進することや消費者が安心して既存住宅を選べる市場をつくること、既存住宅の流通を活性化することなどに寄与することが概要となっている。

2つの受賞作品の特長とこだわりについて、久田氏に話しを聞いてみた。

DIYリノベーションで「空き家」の数だけ、おしゃれな家が増える!

現代の住宅事情において、度々話題にあがる空き家問題。「古い建物がそのまま残り、あふれている状態ですが見方を変えると、DIYリノベーションが出来る人が増えれば、その物件の数だけおしゃれな家が増えるということなんです」と久田氏は嬉しそうに語る。

実際に、「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2014」で、部門別最優秀賞「無差別級」を受賞したリノベーション物件は、10年間も空き家状態だったという。といってもこの物件は、住宅ではなくオフィスビルなのだが、それが今回の受賞の決めてだったのではないかと久田氏は推測する。このリノベーションについて「オフィスビルを住宅にコンバージョンするという試みが、街中での新しい住み方の提案としてポイントになった」というのだ。築48年、ワンフロア20坪の4階建てのオフィスビルには、生活に必要な浴室やキッチンといった水廻りの設備が整っていないうえ、床は土足仕様。一番工夫したのは採光の取り込みだと言い、建物の周囲はビルに囲まれているため、室内にはほとんど光が入らず暗かったという。そこで、建物の中心にある内階段の踊り場と階段室にガラスをはめこみ、室内に光を取り込む工夫を施したのだ。

床については、床材を剥いだままの状態にするなど室内は、あまり造り込みをせずシンプルにまとめている。久田氏いわく「今回のように剥いだ状態をそのまま見せるのは、リノベーションだからできることであって、新築ではできないことなんです。それらは永い年月使い込んだ味・風合いなので、その物件の良さは何なのかを見極めた上で、それをいかに引き立てるかがリノベーションにおけるデザインなんです」と、そのこだわりについても熱く語ってくれた。

街中で使われずに空いたままのビルは、住宅の空き家と同じくらい存在している。例えば今回のように、都心部のオフィスビルを購入・リノベーションし、上階を住まいに、1〜2階を賃貸やテナント・ギャラリーなどに活用すれば、その収入で住宅ローンがカバーできるかもしれない。都心部での空き家問題に、新しい住まい方として一筋の光が差す出来事ではないだろうか。

リノベーション・オブ・ザ・イヤー2014 部門別最優秀賞「無差別級」受賞。大きな窓とスプーンとフォークで造ったシャンデリアが印象的。リノベーション・オブ・ザ・イヤー2014 部門別最優秀賞「無差別級」受賞。大きな窓とスプーンとフォークで造ったシャンデリアが印象的。

スペードのエースで「インパクト賞」を受賞!

リノベーション・オブ・ザ・イヤー2014 部門別最優秀賞「インパクト賞」を受賞した「スペードの部屋」。住む人の個性が反映されやすいデザインで、DIYでのメンテナンスが可能。リノベーション・オブ・ザ・イヤー2014 部門別最優秀賞「インパクト賞」を受賞した「スペードの部屋」。住む人の個性が反映されやすいデザインで、DIYでのメンテナンスが可能。

部屋の床をトランプに見立てて、スペードのエースをデザインした物件。文字通りインパクトのあるリノベーションだ。

物件は築45年・30m2、賃貸マンションの一室。新築当時から今日まで一度も改装をしたことがなかったという。賃貸の過剰供給や老朽化などで、空き家率が高くなりつつある昨今、表面上のリフォームだけでは家賃を下げても借り手を見つけるのは困難な場合もある。物件がもつ時代感を活かしながら、270万円という最小コストでリノベーションに挑んだ事例だという。

こだわったのは、天井のペンキ塗りだ。天井を剥がしてみると、木のバラ板でコンクリートを打っていたことがわかり、本来は数回ペンキの重ね塗りをするのだが、木目の風合いを活かすため1回の塗装だけに留めた。「リノベーションにおいては、施工主様の意向を踏まえつつも、その時の状況をみながら臨機応変に対応することが大切なんです」と語っていた。

でも、なぜスペードのエースなのか?
聞いてみると「男性が住むことをイメージしたから」との回答。スペードは「ヤリ」であり、男性の象徴でもある、そしてそこには歴史的意味が含まれていると久田氏は言う。そこで、いじわるにも女性だったらどんなデザインにしたのか?と聞くと「ハートのエースです!」と子供のような屈託のない笑顔で返された。しかし、このデザインだと家具やラグなどを敷くと、せっかくの模様が隠れてしまうのでは?と質問すると「それがいいんです。隅の方で隠れたAの先が少し見えていて、めくったらスペードのエースがでてきた!って楽しいじゃないですか」と、住んだあと宝探しをするような遊び心をくすぐる仕掛けにも余念がなかった。

このデザインは、ファッション的な発想であり、建築的なものではないと久田氏は言う。建築的なデザインでは、床にアールや段差を付けたりする造形的なデザインが多いのだとか。これは、ジャンルを超えた経験の豊かさと建築における固定概念のなさ、そして柔軟な視点・発想が生み出したデザインなのかもしれない。

リノベーション費用はどのくらい?

リノベーション事例「滋賀県東近江市H邸」リノベーション事例「滋賀県東近江市H邸」

リノベーションにかかる費用は高いイメージがあるが、そこはどうなのだろうか。率直にその費用について質問してみると、「パッケージ型のリノベーションをしている工務店だと、m2単価は約10万円ぐらいだと思います」と言うから、70m2のマンションなら700万円程だろうか。他社でオーダーするとだいたい800万円前後の費用を見ておく必要があるようだ。ただ、新しいリノベーションブランドを立ち上げようとしている同社では、こういった費用を500万円程度で提供できるように構想中だという。

元ファッション業界にいた久田氏らしく、コストが上がってしまう仕組みを洋服に例えて教えてくれた。「今までの建築は『スーツ』を作っていたので、リノベーションという『デニム』の依頼をしても、スーツと同じ作り方でデニムを縫製してしまう。リノベーションを手掛けている工務店もありますが、生地も、糸も、縫い方も、違うのにスーツと同じやり方でデニムを縫製(リノベーション)しようとするから、無駄な費用がかかってコストダウンができない」と久田氏は言う。「僕の会社でも、初めてリノベーション工事を工務店に依頼したとき、なかなか上手くいかなったんです。根本的に、作業のやり方に違いがあるのに対応できていないし、コストも高かった」と声のトーンが下がり少し残念そうだ。「今は、いつもお願いしている所でないと駄目な状態です」とも、おしゃっていた。また久田氏は、デニム専用の縫製工場を作ろうと思うと、デニム(リノベーション)向きの職人の養成も必要になるため、プロ予備軍としての育成体制づくりにも意欲を示している。

久田氏は、最後に「そもそも、リノベーションをプロに依頼するから高くなるんです。人件費、建材費、図面の設計費などの各種費用を押さえようと思うなら、海外のようにDIY(セルフ)でリノベーションするのが一番だと思う」と語ってくれた。

※リノベーション時の注意一例
室内の壁については、建物の耐震強度維持のため撤去できないことがあります。また、電気配線や水廻り、ガスなどの設備関係は専門会社への依頼が必要です。

取材協力:9株式会社
http://www.ninedesign.jp/

2015年 02月10日 11時14分