「ハウスクエア横浜」でガーデンセミナーを開催
2014年10月24日・25日の2日間、総合住宅展示場「ハウスクエア横浜」(横浜市都筑区)の敷地内にある「住まいの情報館」で、『第13回 イギリスの庭に学ぶガーデンデザイン&イギリスの庭巡り』が開催された。
これは2008年にスタートし、過去6年間で延べ1500人以上の受講者が参加した人気講座。イギリスでディプロマを取得したガーデンデザイナー・麻生恵さんが、イギリスの庭作りのポイントや、日本での庭作りへの応用方法などをレクチャーする貴重なセミナーだ。
この日(24日)、定員60名のセミナーは満員御礼状態。会場は参加者の静かな熱気に包まれていた。
「日本では混同されていますが、ガーデンデザイナーは園芸家とは違います。英国では、ガーデンデザイナーとは、植物を材料の一つとして扱う“外の建築家”であり、立体空間を創るデザイナーだと考えられています。日本ではイギリス庭園というと、花にばかり目を奪われがちですが、実は、花の後ろにある立体空間や構造にこそ価値がある。そのことを、今回のレクチャーで解説していきたいと思います」(麻生さん)
イギリスの庭の本質は冬のウインターガーデンにある
セミナー前半では、コッツウォルズ地方の『ヒドコート・マナー・ガーデン』など代表的な庭園を紹介。美しい写真でイギリス庭園の魅力を紹介しながら、そのポイントと見所を解説した。日本ではイギリス庭園といえば、花が咲き乱れる夏のイメージが強いが、「イギリス庭園の真髄は花のない季節にある」と麻生さん。その理由をこう語った。
「イギリスの庭が一番美しいのは6~8月の3ヶ月間。しかし、冬場の6ヶ月は陽も射さず、窖の中で暮らしているような状態です。だからこそ、イギリスでは“冬の庭をどう楽しむか”が大切で、夏場の花の世界はオマケにすぎないのです。イギリスの庭の本質は冬のウインターガーデンにある。なぜなら、花がないこの季節にこそ、庭の構造を見ることができるからです」
さらに、庭のデザインを詳細に検討しながら、日本で庭作りをする際の留意点についても解説。イギリスと日本の庭作りに対する考え方の違い、気候風土による植生の違い、時間的な変化を計算した庭の作り方、ガーデンセンターで苗を買うときの注意点など、話は多方面に及んだ。
「『隣の家の青いポリバケツが見えてしまうから、うちの庭は素敵に見えない』とこぼす方が多いのですが、英国の庭にも古い彫刻や壁、ベンチなど、壊してはいけないものが数多くあります。庭作りに制約があって大変なのは、イギリスも日本も変わらない。それを逆手にとって、どうしたら素敵な庭が作れるかを考えるのがガーデンデザインだといえます」
「その土地の精霊の声を聞く」ことが、美しい庭を作るコツ
セミナー後半では、日本での庭作りの事例についても紹介。実際の図面と施工例を紹介しながら、ガーデンデザインのプロセスを紹介した。
まずは、図面を引いて庭の現状を詳細に把握。太陽や風の向きなどを科学的に分析し、駐車場の位置や道路へのアクセスなども考慮しながら、庭に求められる機能を洗い出していく。さらに、庭から見える隣家のバケツや自転車、汚い壁などのマイナス要因もすべて図面に書き込みながら、その土地の条件に合った最適なデザインを検討していく。
隣家の物置やポリタンクなど、視界に入れたくないものを目隠しする方法とは。動かすことができない隣家の壁や、無骨なコンクリートの車庫を庭作りにどう活かすか……実際の庭作りでは、笑うに笑えないさまざまな課題が次々に降りかかる。その解決法がロジカルに語られ、日本の住宅地の狭い庭でも、プロの手にかかれば美しく変身させることは十分に可能だと実感させられた。
麻生さんの魔法の杖のひと振りによって、ゴミゴミした狭い庭が、緑に囲まれた美しいイギリス庭園に生まれ変わってゆく。その秘訣について、麻生さんはこう語る。
「ある英国のガーデンデザイナーの言葉に、『その土地の精霊の声を聞きなさい』というものがあります。英国では多くのデザイナーが、『この庭は私に何をして欲しいと言っているのか』と考え、土地の声を聞くことから始めるのです。自然に対して謙虚な姿勢を保ち、土地の声に耳を傾ければ、デザインは自然に浮かんでくる。そうすれば、その家に合った、とても心地よいガーデンデザインを生み出すことができます」
絶賛のうちに終了した人気ツアー「イギリス庭巡りの旅」
セミナーの最後に、本講座からのスピンアウト企画として2014年6月に行われたイギリス庭園巡りツアー、『ハウスクエア横浜のレクチャーから生まれたイギリス庭巡りの旅~デザイナーやクリエイターの個性を映し出す庭園を巡る』(JALPAK企画・HIS主催)の様子が紹介された。
このツアーは、麻生さんが自らの人脈をフルに活用し、綿密にプロデュースしたもの。ツアーは2014年6月14日~21日、6泊8日の旅程で行われたが、定員25名を超える申し込みが殺到し、キャンセル待ちも出るほどの人気だったという。
ツアーのコンセプトは、世界的に有名なガーデンデザイナーや園芸家の個人邸を訪ね、本人に庭を案内してもらうという贅沢な内容。一般観光客が立ち入ることのできない庭を中心に巡る、希少性の高いツアーとなったようだ。現在、ハウスクエア横浜では、大好評に答えて2回目のツアーを検討中しているという。
なお、本欄では2回にわたり、イギリスの庭作りについて集中連載。次回は、麻生恵さんの庭作りにかける思いについてインタビューする。
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