「ワニの口」が広がる中古マンション市場、購入検討者はどう動いているか
首都圏の中古マンション価格の高騰が続いている。2026年9月にLIFULL HOME'Sが発表した「LIFULL HOME'Sマーケットレポート(2026年8月版)」によれば、東京23区のファミリータイプの中古マンション掲載価格は1億2,018万円(前月比101.4%、前年同月比121.9%)、東京都下の掲載価格は4,192万円(前月比103.0%、前年同月比123.0%)と、いずれも2020年の集計開始以来の最高値を更新した。
一方、東京23区の反響価格(実際にユーザーが問い合わせを行った物件価格)は、7,481万円(前月比102.0%、前年同月比117.5%)、東京都下の反響価格は2,984万円(前月比104.4%、前年同月比108.9%)と、掲載価格と反響価格の乖離は大きく、いわゆる「ワニの口」と呼ばれる状態が続いている。
価格高騰に加え、日銀が6月に続き9月にも利上げし、政策金利が約31年ぶりの1.25%となったことで、購入検討者の57.4%が「やや慎重になった」と回答するなど(6月調査)、様子見ムードが強まっている。
こうした中で、難しい選択を迫られる購入検討者は住まい選びにおいて何を優先し、何を許容しているのか。ユーザーの動向をLIFULL HOME'Sの掲載・反響データをもとに解説する。
※本レポートでは、間取り区分『ファミリータイプ』の掲載・反響データをもとに、主に子育て世帯を含む複数人世帯の傾向として分析することとする。
ファミリー層が譲れない「広さ」と「立地」
首都圏や東京都、東京23区におけるファミリー向け中古マンションの掲載値と、実際にユーザーが問合せた反響値の差を、「徒歩分数」「専有面積」「築年数」別に比較した。その結果をまとめると以下の傾向が見られる。
【需要と供給のギャップ】
掲載値と反響値の差は、「徒歩分数」はほとんどない。「専有面積」と「築年数」で近年拡大傾向にあり、需要と供給のギャップが広がっている。
【価格に対する条件ごとの「許容されやすさ」】
平均掲載価格と各指標との相関を見ると、「専有面積」はほぼ相関がなく、「徒歩分数」はやや相関あり。価格上昇局面であっても、広さと立地は優先順位が高い傾向がある。一方で、「築年数」は価格との相関があり、予算内で検討するために「築年数」を最も許容しているといえる。
それぞれの結果を見ていこう。
【徒歩分数】需給ギャップは小さく、立地の利便性は譲れない傾向
まずは「徒歩分数」(図2)だ。掲載物件と反響物件の徒歩分数の差は、首都圏全域で、2020年〜2022年平均で-0.07分、2025年〜2026年平均で-0.15分と、全期間を通してほぼゼロに近い値で安定している。共働き世帯が一般的となる中、日々の通勤時間や保育園、学童の送迎負担を軽減する「駅近立地」は生活の基盤となっていること、また近年の住宅高騰の中で、資産性を重視した立地選びの傾向があると考えられる。
【専有面積】「広さ」の需給ギャップは拡大傾向
次に「専有面積」だ(図3)。専有面積の掲載値と反響値の差は一貫してマイナスで推移しており、近年その乖離はさらに拡大している。
特に東京都、東京23区は顕著で、2026年2月のデータでは、掲載専有面積と反響専有面積との差は東京都で-6.3m2、東京23区で-7.3m2と、4.5畳の居室分程度、掲載値と反響値の乖離が発生している。
最も許容されやすいのは「築年数」
【築年数】価格高騰の中で、妥協・許容されやすい条件
注目したいのが「築年数」(図4)だ。2024年以降、掲載築年数と反響築年数の乖離は徐々に拡大し、直近では首都圏で約5年、東京都で約7年、反響築年数の値が大きくなっている。
広さや立地は購入後に変えられない要素である一方、築年数は、内装・外装の刷新や設備・断熱などの性能向上をリノベーションで一定カバーできる。このため、購入条件のなかで築年数は許容されやすく、予算に応じて調整されやすい項目であると考えられる。
平均掲載価格と反響築年数の相関を見ても、掲載価格の月次平均が高かった集計年月ほど、反響築年数の月次平均も高くなっており、一定の相関が見られる(図5)。
一方で、専有面積と徒歩分数の掲載値と反響値の間には、築年数ほどの相関は見られない(図6・7)。
特に、ファミリー層にとって「広さ」は譲れぬ条件と考えられる。平均掲載価格と反響専有面積の相関を見ると、相関はほぼ見られない。掲載専有面積は市場に出る物件により幅があるが、価格上昇局面であっても、反響専有面積は65m2台~67m2台と一定の水準を保っている。価格が高騰したからといって、子ども部屋や収納を削って40〜50m2台の物件で暮らすのは厳しいと捉える人が多いのであろう。ファミリー層にとって専有面積は優先度の高い条件であることがうかがえる。
予算、広さ、駅近立地という3つの条件を満たすために、ファミリー層は「築年数の条件を緩和する」という選択を取っている傾向が見られる。
二極化する築古評価。都心はブランド化、郊外は懸念材料に
首都圏のマンションのうち約15%が旧耐震基準で建てられた建物である。建築確認時期が1981年5月以前のもので、おおむね築45年以上だ。今後は新築の供給もさらに絞られる見込みだから、市場全体の高経年化とともに掲載築年数も当然緩やかに上昇していくが、それ以上に反響築年数が上がっている状態といえる。
また、内訳を見ると、都心ほど築古物件への反響が伸びる傾向にある。都心6区では、掲載築年数と反響築年数の差が10年を超えている月もある。都心の方が築古物件が多いことも理由の一つだが、都心部は築年数が経過してもその価値が落ちにくく、ヴィンテージマンションとも呼ばれ、ブランド化する傾向がある。都心での反響築年数の上昇は、経済的価値が長持ちする、と市場が評価していることの現れともいえる。
都心の物件は将来的な資産価値が毀損しにくいため、反響築年数が上がってもさほど懸念はないが、郊外でも築古物件に需要が移っていくのは、将来の売却や資産価値の維持という点でやや不安を感じる傾向だ。
築古マンションに子育て世帯が住むリスク
予算、立地、広さといった希望条件を満たすために子育て世帯が築古マンションを選択することは、QOL(生活の質)を高める意味で合理的な選択といえる。しかし、その選択の影にあるリスクも見過ごせない。
子どもが巣立った後の負動産化リスク
築30年のマンションを購入し、子どもが独立するまでの約20年間居住した場合、築50年を迎える。この時期は適切な修繕積立金の確保が困難になったり、空室率の上昇や管理不全が表面化しやすく、将来的に資産価値が下がり、売却も賃貸も難しい負動産化するリスクを抱えている。
子育て期における住み替えの困難さ
築30年というと、多くのマンションで2回目の大規模修繕が行われるか、実施が検討されている時期だろう。修繕履歴や長期修繕計画を十分にチェックせずに購入してしまうと、後になって管理状態や将来性に不安を感じるケースも少なくない。にもかかわらず、子育て期間中は学校や地域コミュニティへの定着により転校を伴う引越しが難しく、容易に住み替えを行えない現実もある。
合意形成と資金の壁。「建て替え」の高いハードル
築古マンションでは建て替えも選択肢になるが、現実的には合意形成の難しさや多額の自己負担金の発生により、実際にできる物件はごくわずかと想定される。適切な修繕や管理が行われないまま建物が老朽化し、住環境も悪化し、売りたくても売れないまま放置されるという危険な状態に陥りかねない。
管理良好な物件をいかに評価・可視化するか
評価軸の変化。築年数からコンディション重視の「経済耐用年数」へ
こうした課題に対し、不動産市場では従来の築年数だけで物件価値を測るのではなく、建物のコンディションや適切な管理状況も含め、総合的に物件価値を考える方向へと変化しつつある。特に金融機関においては「経済耐用年数」の概念が出始めており、築年数が経過していても、管理が良好な物件に対しては融資期間や担保評価を柔軟に認める動きが広がっている。
管理状態を「見える化」する評価・認定制度の登場
また、自治体や業界団体による「管理計画認定制度」や「マンション管理適正評価制度」など、マンションの管理状態を見える化・評価するための制度が少しずつ活用され始めている。
国土交通省が主導し、地方自治体が一定の管理基準を満たしたマンションを認定する「管理計画認定制度」では、認定件数は累計2,904件(2025年9月末時点)となっている。一般社団法人 マンション管理業協会が運用する「マンション管理適正評価制度」では、累計登録件数は1万1,089件を超え、利用が広がっている。
適切に管理された物件が選ばれやすくなる市場へ
マンションの管理状態への第三者評価は、現時点では制度として存在するものの、十分に活用されているとは言い難い側面がある。また、購入検討者側の認知度も依然として低いのが現状だ。制度を形骸化させず、実効性のある仕組みとして浸透させていくには何が必要か。
ポータルサイト等に求められる役割
購入検討者が事前に物件の管理情報を把握し、主体的に物件を選べる環境を整えることが大切だ。中古マンションは品質や管理状況がわかりにくいことに加え、物件購入前に得られる情報が限定的であったが、LIFULL HOME'Sでは2021年から日本で初めて日本マンション管理士会連合会の「マンション管理適正化診断サービス」の診断結果を物件ページに掲載している。
同様の取り組みが、各不動産住宅ポータルサイトや各社の物件掲載ページ等においても推進されていくことに期待したい。
住宅リテラシーを高め、適切に管理された物件が選ばれる市場へ
事業者の取り組みに加え、ユーザー側も長期修繕計画や管理上のリスクを長期的な視点で捉え、将来の生活や資産を守るための意識を高めていくことが望ましい。日本のマンションストックを健全に次世代へ引き継げるよう、立地や価格だけでなく、適切に管理された物件が正しく評価され、選ばれる市場を形づくっていくことが重要だ。
「マンションは管理を買え」とは昔から言われてきた格言だが、築年数の進んだ物件が増えるこれからは、この言葉の重みがさらに増していくだろう。
【参照】
・【中古価格動向】東京23区の中古マンションの掲載価格はファミリータイプが1.2億円、シングルタイプが7,292万円と過去最高値を更新(LIFULL HOME'Sマーケットレポート2026年8月)
・【26年6月】日銀利上げ発表後、住宅購入検討者の『住宅ローンに関する定期意識調査』をLIFULL HOME'Sが実施
・マンションの管理適正化に向けた自治体・民間団体の役割
・管理適正評価制度、登録数が1万1,089件に
・「LIFULL HOME'S」国内不動産ポータルサイト初!プロが評価したマンションの管理状況がわかる『マンション管理評価』を提供開始
執筆:LIFULL HOME'S総研 楢崎 美香(ならさき みか)
リノベ会社を経て、2018年より株式会社LIFULLにて不動産メディア「LIFULL HOME'S PRESS」「住まいのお役立ち情報」の編集を担当。保有資格は宅地建物取引士、二級建築士、2級FP技能士。早稲田大学第二文学部卒。LIFULL HOME'S総研 研究員として、また二児の母として、マイホーム購入や子育て世帯の住み替えなど「少子化と住宅市場」をテーマに発信する。
















