ファンダメンタルズ:地価は堅調推移しているが株価は軟調

2012年に第二次安倍政権が誕生してから7年目に突入した2018年。

雇用環境の改善や業況判断指数のプラス維持など、専ら企業業績においてアベノミクスの効果がようやく顕在化してきたと言われる中で2度先送りされた消費税の増税。その後、軽減税率の導入方針の公表などによってほぼ確実視され、2015年の相続税率の改定(実質的な引き上げ)から派生したタワーマンションにおける評価額算定方法の変更などとも相俟って、不動産および住宅を取り巻く経済的環境は一見堅調に思えるが、短期間に大きく変わってしまう可能性も秘めている。

経済的環境のファンダメンタルズはといえば、地価(公示地価ベース)は住宅地が10年ぶりに全国平均が上昇に転じ、商業地は3年連続の上昇と堅調な推移を示して流動化政策が効を奏したのに対し、為替相場は特にドル円が膠着状態で、株価(日経平均ベース)はやや軟調に推移している。

唯一堅調に推移する地価については、2019年のラグビーW杯、2020年の東京オリンピック・パラリンピックという巨大スポーツイベントの開催を控え、東京を始め各都市圏中心部およびイベント開催地での再開発の進捗が地価推移に好影響を与えているほか、依然として続く住宅ローンの超低金利誘導策が潜在的な需要を喚起し続けている状況にある。

不動産事業は、特に政策や税制によって大きくその動向が変わる性格を有しており、2019年10月に消費税が想定通り引き上げられれば需要の冷え込みは避けられず(それも政策次第という側面はあるが)、経過措置で半強制的に盛り上げられることになる需要増の反動をどのように抑えるかが焦点となるだろう。

本稿では、2018年に発生した不動産&住宅に関連する経済イベントや法制度の変化などをいくつかピックアップして解説し、2019年の環境変化の可能性についても考察する。

宅建業法が改正されインスペクションが「半義務化」 

2019年以降、宅建業者にインスペクションの啓蒙・普及と体制が求められる2019年以降、宅建業者にインスペクションの啓蒙・普及と体制が求められる

2018年は中古住宅(国は数年前から表現を「既存住宅」に統一している)流通において、画期的ともいえる法改正が実施され、4月1日からインスペクション(建物状況調査)について調査事業者を斡旋できるかできないかについての告知義務、重要事項説明時でのインスペクション結果説明義務、売買契約時における建物状況に関する書面交付義務、の3点が宅建業者に新たに課せられることになった。

インスペクション自体はこれまで中古住宅を購入する際に専門家の目線での調査を依頼するもので、専ら買主が自らのコストで実施すべきものとの意識が強かったが、宅建業法改正以降は不動産仲介大手を中心に相次いでインスペクション対策に乗り出し、「取引の安心・安全」をアピールするようになったことは一定の評価ができるだろう。

ただし、一般消費者である売主および買主はインスペクションについての関連業務が義務化されたことを知る機会は少なく、またインスペクション自体一般に広く知られているものではないことから、残念ながら法改正を機に関心がにわかに高まっているという状況にはない。

一部の宅建業者からは、手間がかかるのにコストが回収しにくい(成約した場合には仲介手数料に含め、買い手がつかなかった場合のみ検査書面交付料として買主に請求すればよい)、検査によって何らかの瑕疵が発見されれば売主の希望価格で売れなくなる(補修して瑕疵のないものとして売買すれば価格が維持され仲介手数料も増えるし瑕疵保険にも加入できて買主のサポートにもなる)、インスペクションを実施している期間に競合に物件を取られる(インスペクションの安心メリットを説明し価格にも反映できることを示せば理解を得られる可能性が高まる)、などとインスペクションをできるだけ回避したいとの言い訳や思惑を聞くことがある。

だが、中古住宅の基本性能を維持・向上しストックを有効活用して少子化・高齢化による住宅需要の減少に対応するとの国の方針が明確に打ち出されているのであるから、2019年以降は宅建業者にインスペクションの啓蒙・普及と共に業績に連動できる体制を早急に整えていくことが求められる。

「所有者不明土地特措法」の成立

2018年6月に成立した「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」はどのように利用されるのか
2018年6月に成立した「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」はどのように利用されるのか

4月に改正宅建業法が施行された後、次いで所有者不明土地特措法(正式名称「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」)が6月に成立した。
これは、「所有者不明土地」=不動産登記簿等の公簿情報等により調査してもなお所有者が判明しない、または判明しても連絡がつかない土地、が全国的に増加している状況を鑑みて、該当する土地の活用円滑化を図る目的で作られた法律である。実際に、公共事業を推進する際に対象範囲に「所有者不明土地」が存すると、所有者の特定に多くのコストが発生し、また用地確保の妨げともなり、事業全体の遅れを招くことになる。

その対策として、この法律は公共事業における収用手続の合理化・円滑化(所有権の取得)、地域福利増進事業の創設(利用権の設定)の2つの手法によって活用を促進するという特例的な措置を認める内容となっている。
これによって、必要な公的情報について行政機関が利用できる制度、相続登記等がされていない土地については登記官が長期相続登記等未了土地である旨等を登記簿に記録することができる制度、などを新設して所有者の探索を合理化する方策も取られていることから、インスペクションの「半義務化」と同じく、今目の前にあるストックを如何に有効に活用するかについて国が腐心するという「不動産の活用効率化モデル」とみることができるだろう。

ただし、この法律に該当する土地の面積は九州よりも広いとの推計(2016年時点で410万ha)が公表されている通り、公共事業での利用だけでは追いつかない状況に至っている。公共事業だけでなく、民間開発にも利用拡大を進める施策などが別途必要なのは明らかだ。

根本的な解決方法としては、土地の相続人が所有権移転したことを土地の登記簿に記載するよう義務付けるべきだが(現状は任意)、土地基本法の改正によって義務付けることも視野に入れているというから、今後土地の相続が発生した場合に備え、権利を主張し義務を果たすためだけでなく、土地の利用効率を高め有効活用を阻害しないという大局的な観点からも、登記は当然という姿勢が必要になる。

「かぼちゃの馬車」問題の拡大で住宅投資市場に混乱

サブリースに大きな課題を残したかぼちゃの馬車問題サブリースに大きな課題を残したかぼちゃの馬車問題

2018年4月上旬に民事再生手続きに入った(4月中旬棄却、5月中旬破産手続開始)スマートデイズ社が運営していた女性向けサブリース物件「かぼちゃの馬車」は、負債総額60億円超、うち20億円超がこのサブリース物件のオーナー契約者への負債となっている。

経緯などは11月に公開した筆者のオピニオン記事「『かぼちゃの馬車』を端緒とした不動産投資と不動産融資の今後」に解説したのでここでは多くを触れないが、この「事件」によって投資物件に対する融資全般が引き締められる方向に動いたことは否定できない。

もともと住宅ローン融資とは性質が異なるため厳しい融資基準を設けている金融機関もあったが、アベノミクスによるゼロ金利政策、マイナス金利への誘導策によって国債運用ほかでの安定的な金利収入を失った一部の金融機関は、投資物件に対する融資基準を運用の範囲で事実上緩和していたため(業務停止命令を受けたスルガ銀行は加えて不正行為の黙認、意図的見逃し、改竄に関わる行為ほかをしていたと認定されている)、今後同様の金融庁による立ち入り検査などを通じて修正が図られるものと考えられる。

この件について融資を実行したスルガ銀行は「必要に応じて金融ADRや民事調停等の手続きを利用し、元本債権を一部放棄するなど、当社においても相応の負担に応じることとしている」と発表し、これが投資家救済につながるものとして唯一評価できるものとなった。

経済の血流たる金融を担う組織での不正行為および過剰融資によって、住宅投資において担保されるべき信頼が損なわれ、結果的に多くの個人投資家に損害を与えたことは、住宅投資市場全体の信頼性にも影響を及ぼしている。当面は各金融機関の投資基準の厳格化によって住宅投資、不動産投資により慎重な姿勢を示す個人投資家が増えるものと考えられ、貸付残高も市場での流通件数も軟調に推移する可能性がある。

住宅投資の仕組みの瓦解および企業の倒産などはこれまで多数あったが、金融機関の住宅融資に対する姿勢が公的機関によって指弾されたのは例がなく、現状の膠着状態から脱するには相応の時間が必要と考えられる。

2019年の展望:懸念材料は消費増税と緩和措置のバランス

宅建業法の改正、所有者不明土地特措法の成立、「かぼちゃの馬車」問題の拡大など、2018年は住宅に関わる制度の変更や事件が注目されるべきものだけでも多数にのぼった。
他にも安心R住宅制度の開始(登録団体が少なく低調な登録状況が続いている)、民泊新法の施行(届出事業者は依然として少ない)や新築マンションの新規供給戸数の激減(消費増税を睨んだ供給調整とも言われているが価格高騰が大きな要因である)など、2018年の住宅を取り巻く環境はいくつもの制度変更などによって強制的に変化していると言って良い。

ただし、地価、為替相場、株価などのファンダメンタルズについては、2018年の状況と推移を分析すると傾向に大きな変化が起きにくいと考えている。足元で軟調に推移している株価は、安倍政権の長期化による弊害、企業業績の軟調推移などの悲観的な見方が修正されるにつれて、円安と歩調を合わせて持ち直す可能性も指摘されているが、噂される衆参同時選挙で敗北することがあれば再び政争を引き起こすこととなり、経済環境も不安定さを増すことも考えられる。

残念なことに世界経済が加速する材料には乏しく、現状の推移から円安・株高を見込むシナリオは想定しにくい。また、アメリカの保護主義は政権が変わらない限り継続するため、株安・リスク回避の円買い圧力が強まる局面も考えられる。

このような状況を想定する限り、2019年に日本経済が飛躍的に拡大することは考えにくいため、経済環境に大きな変化がないとの前提で住宅市場に最も大きな影響を与えるのは言うまでもなく2019年10月に予定される消費税率の改定=10%への引き上げである。

現状では消費税引き上げを2度見送ってきた最大の懸念材料である「日本経済の腰折れ」を未然に防ぐべく総額2兆円規模ともそれ以上とも言われる超大型の財政出動、具体的には食料品への軽減税率の適用、住宅ローン減税の期間延長、自動車保有税の減税などの「目玉政策」が実施される。

これら財政出動の是非は別として、住宅ローン減税期間の延長(当初は15年との声が大きかったが本原稿執筆時点では13年になる公算が高い)については、対象物件が2019年10月以降2020年末までに購入・入居する住宅となっており、消費増税後を想定した2019年10月が起点となっていることから、9月末までは経過措置による引渡し時税率8%物件への誘導、10月以降は減税期間延長による減税総額の増大で住宅ニーズを牽引する明確な目論見がある。

経過措置による消費税2%分と、期間延長による3年分のどちらが得かという分析コンテンツなどが数多く世に出ることは今から大いに予測され得るが、これによってニーズを喚起できる期間は2020年末までであり、その後は新たなカンフル剤となる政策が実施されない限り住宅需要喚起策は一応のピリオドを打つことになる。

これまで幾度も繰り返されてきたように政策によって一時的に住宅需要を喚起することは可能だが、本来、住宅は購入時に損得だけを斟酌するべき買物ではなく、購入後の居住性や快適性、住宅に対する価値観や考え方、ライフステージの変化に伴う出口戦略を重視した買物であるべきで、このような「小手先の対応」によって自らの購入基準を安易に変える必要はない。「自分と家族がそこに住んで幸せに暮らせるか」という基本的な考え方を変えずに購入に臨みたいものだ。

どうやら2019年の住宅市場は消費増税に踊らされ、経過措置に幻惑され、住宅ローン減税に唆される一年になりそうだ。住宅の経済合理性を考えることは大切なことだが、それだけにフォーカスして損得だけに目を向けてしまうと、自分と家族の「幸福度」を下げてしまうことも考えられる。

たかが2%されど2%と考えるか、2%という数値以上に居住性や購入する意味を自らに求めるのか、住宅購入に対する考え方、基本スタンスが試される一年がまもなく始まる。

さて、不動産業界にとって2019年はどんな年になるのだろうか?さて、不動産業界にとって2019年はどんな年になるのだろうか?

2018年 12月30日 11時00分