住宅セーフティネット制度の大きな特徴

前回は住生活基本計画で提案された、新しいセーフティネット住宅制度の特徴である空家、空き室を利用する点について議論した。今回はそれに引き続いて、誰がサービスを提供するのかという点に焦点を当てて議論する。
まずは前回の公営住宅が持っている機能の復習をしたい。

公営住宅は、
・公的主体が、低所得者をはじめとする入居希望者と住宅のマッチングを行って、その後の管理も実施する
という機能を備えていた。
低所得者や高齢者などの再分配の対象となる方にとって、このような業務を実施する主体として、公的な主体が最適な主体であったろうか?

公的主体は、不動産業者のように、入居者と物件のマッチングを行う訓練をされた人材を集めた集団でもなければ、賃貸住宅管理業者のように、住宅の管理を行う専門的な人材を集めた集団でもない。

また、低所得者、高齢者、障害者、外国人などの方にとっては、単に住宅を提供し、物理的に良好な状態に管理するだけでは、好ましい生活を享受することはできないであろう。高齢者や障害者にとっては、一定の見守りを含むサポートが、必要な場合が多いだろう。また、低所得の方や外国人などについては、職業訓練や生活習慣の相違の克服など、社会に参加し、融合するための教育が必要かもしれない。地方公共団体とは、総合行政主体であるものの、このようなサービスを直接供給することに長けた主体ではない。また、住宅部局が管理する公営住宅においては、縦割りの弊害から、様々な分野を所管する他の部局との連携が、必ずしも進まなかった可能性も高いであろう。

一方、マッチングを行う主体としての不動産業者は、既に業として確立している。賃貸住宅管理、家賃債務保証などのサービスも大きく成長している。一方、高齢者や障害者のケアを行うサービスも、社会福祉法人だけでなく、NPOなど様々な主体によって提供されている。
 
対象者の入居後の、クオリティオブライフを確保するためのサービス提供を行う主体が、地方公共団体以外に大きく育っているのであれば、中途半端な形で全てを抱え込んでいた地方公共団体による「居住支援サービス」をバラバラにして、民間等に委ねた方が、効率的で高い水準のサービスを行うことが可能になる。このように、住宅セーフティネット制度は、空家・空き室を活用するだけでなく、入居後の居住支援サービスを、アンバンドル化して、アウトソースしたところにもう一つの大きな特徴がある。

北海道の公営住宅北海道の公営住宅

留意すべき点①調整機能

しかし、ここで留意すべき点が二つある。一つは、地方公共団体が全部抱えていたサービスをアンバンドル化したため、異なる複数の主体がそれを分担することになり、その調整が必要になったことであろう。

つまり、私が大家であり、相手がその地域で生活支援、トラブル、身体状況悪化の際の支援サービスを展開しているとしよう。表1)にあるように、私が自分の賃貸住宅に「居住に関して様々な配慮が必要な方を入居させておらず(=裏切り)」、相手も私の賃貸住宅に関して「見守りなどの特別なサービスを提供する体制をとってない(=裏切り)」状態を、出発点とする。

(私の利得、相手の利得)=(0,0)
である。

どちらも協力した場合、私が要配慮者を入居させて、相手も一定の生活サービスを私の賃貸住宅に提供した場合には、二人の利得はb-cになる。

しかし、一方が協力しないで裏切った場合、あなたが「特別なサービスを、私の賃貸住宅が含まれる地区に提供する体制を作ってくれた」のに、私がさっぱり要配慮者を入居させない場合、私はコストcを負担することなく、いざという場合に一定のサービスを受けることのできる環境にただ乗りして、便益bのみを得ることができる。逆に私が協力しても、相手が裏切った場合は、相手が大きな得を得ることになる。

このため、なんの調整の仕組みがない場合には、大家さん、不動産業者と生活サービス等を提供する主体は、常に裏切るインセンティブを持つことになる。
 
居住支援サービスをアンバンドル化したため、このセーフティネット住宅サービスの可否は、各地域に設けられる居住支援協議会がどの程度調整機能を発揮できるかが、非常に重要になる。

表1) 囚人のジレンマ構造のゲーム表1) 囚人のジレンマ構造のゲーム

留意すべき点②受け入れ義務の問題

また、もう一つの課題は、小委員会でも質疑が出ていたが、大家さんは入居者を全て受け入れる義務を負うのかという問題である。

それに対する国土交通省側の答えは、「例えば、高齢者であることを理由とした入居拒否は許されない」というものであった。高齢者であることを理由とした入居拒否とは、家賃の不払いリスクや、孤独死のリスクなどであるから、それを家賃保証サービスや見守りサービスなどによって対応する。このため、原則的に入居拒否は発生しにくいというのが、制度の目論見であろう。

しかし、「経済合理的な判断」を全てしらみつぶしにして措置するのは、非常に困難な作業であろう。どこまでが経済合理的な判断で、どこからが差別なのかを判定することは非常に難しい作業である。これは、米国などのFair Housing Act(フェア ハウジング アクト)の運用などが非常に参考になる。
このFair Housing Actの解説はまた後日に譲りたい。

2016年 09月30日 11時05分