「ぶどうの家」がブームだった

ぶどうの一房を一軒の家に見立てると、粒が個室、細い枝が廊下。戦後日本は欧米化のなかで「ぶどうの家」を目指したぶどうの一房を一軒の家に見立てると、粒が個室、細い枝が廊下。戦後日本は欧米化のなかで「ぶどうの家」を目指した

住宅ジャーナリストとして20年弱、たくさんの家と暮らしを観察してきたが、その大半が「ぶどうの家」だった。
「ぶどうの家」を見るたびに、「もったいないなあ」「日本の家は貧しいなあ」といった残念な気持ちが沸き起こる。いまこそ脱「ぶどうの家」が必要だ、と思う。

ぶどうの1房を1軒の家に見立ててみる。ぶどうは小さな粒が細い枝で結ばれて実るが、小さな粒が部屋で、細い枝が廊下である。

ぶどうの家をつくるのは簡単だ。
家族の数に合わせて個室の数を決め、キッチンやリビングやダイニング、書斎といったひとつの用途のために使われる部屋を足す。あとは風呂、トイレ、洗面などの機能を持つ水まわりを。これらの場所と広さを家族で「分捕り合戦」し、廊下で結んで、おしまいだ。
 
「分捕り合戦」は個人の欲望の戦いのため、強い者が勝つ。父親が強かった一昔前は家に書斎が見られたが、最近の勝者は当然奥さまなので、取材に行ってもアイランドキッチンや家事室、奥さまの個室をよく見る。
また、「分捕り合戦」をすると庭が小さくなる。法律の制限いっぱいまで個人の欲望を拡張するからだ。 当然、縁側もなくなってしまう。

「ぶどうの家」は、個人の欲望を満たすためにひた走った戦後50年が生んだひとつのブームだった。

「ぶどうの家」はなぜ残念なのか

日本一気持ちのいい場所「縁側」は失われてしまった。現代の新しい縁側が必要だ日本一気持ちのいい場所「縁側」は失われてしまった。現代の新しい縁側が必要だ

まず個室化の問題(とくに子供部屋の)があるが、すでにいろいろ言われているので、ここで改める必要はないだろう。
 
また、個室を人数分取ろうとすると、一つひとつの部屋は狭くなる。狭い空間にこもるひとときも乙(おつ)なものだけど、狭い個室でずっと過ごすのはしんどい。その空間もそこで過ごす時間も貧しく感じる。
 
さらに、ひとつの用途のためだけの部屋を設けるのは、もったいないことだ。田舎の広い家ならまだしも、普通の家では広い空間を多目的に使い回すほうが合理的だ。

そして庭と縁側。最近の夏は暑いけれど、それでも日本の気候は世界でも穏やかで、自然を、光や風を室内に取り込まないのはもったいない。
庭は小さな自然で、自然と家とのゆるやかな境界である縁側は、日本の家で一番気持ちのいい場所だった。
庭や縁側がないのは貧しいし、もったいないと思う。

脱「ぶどうの家」でいこう

これから一戸建てを建てる皆さんには、「ぶどうの家」の真逆をお勧めしたい。

小さな敷地であっても庭を確保する。都心では中庭や坪庭もいい。できるだけ軒下空間に縁側を。外からやってくる豊かなものを楽しむ場所、また家族や客人とつながる場所になる。

個室や単用途の部屋、そして廊下は極力取らず、ゆるやかにつながる大きな一室空間とする。その中にきもちのいい居場所、いろいろな目的に使える居場所をつくり、そこを結び回遊できるよう動線をデザインする。
そうすれば「ばらばらでもいっしょ」「いっしょでもばらばら」というほどよい距離感を実現できる。間取りは「間を取る」ことでもある。ほどよい距離感・間は家族の風通しを良くする。平たく言えば家族が仲良くなるはずだ。

ぶどうの家は、住まい手自身でも簡単にプランできたが、こうした設計は簡単ではない。だから、設計上手なところに家づくりを依頼するのが正解だ。

幸せな家、豊かな暮らしのために

一昔前の住まいと住まいの暮らし方に豊かに気持ちよく住むヒントがある一昔前の住まいと住まいの暮らし方に豊かに気持ちよく住むヒントがある

最後に2つのトレンドと「ぶどうの家」を重ねたい。

脱「ぶどうの家」は、空間や居場所、時間をゆるやかに共有することでつながりと豊かさを生むシェア発想の家と言える。
若い世代でシェアが言われ実践されているが、それはもう欲望を追求する時代ではないこと、また分捕るのではなく分け合ったほうが豊かになれることが、戦後50年の結果を冷静に見ている若い世代ほどイメージできるからだろう。

リノベーション(暮らしを豊かにする大型改修)が注目を集めているが、その基本はぶどうの実(=個室)を壊して一室空間(スケルトン状態)にし居場所を再構築することだ。
リノベーションは文字どおり脱「ぶどうの家」であり、50年間続いた「ぶどうの家」ブームの「終わりの始まり」なのだ。

シェアやリノベ―ションの広がりの背景にあるのは、幸せや豊かさの本質の見つめ直しだろう。
本質のヒントは、よく言われるように一昔前の日本にあり、それは住まいでも同じ。一昔前にそのままは戻れないけれど、「ぶどうの家」発想を捨てて、一昔前の日本の住まいと住まい方に学ぶことが幸せな家、豊かな暮らしを実現できるというのが、観察者としての実感だ。

2013年 09月12日 11時30分